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奪命金 ★★★

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香港ノワールの名手として人気のジョニー・トー監督が、マネーゲームに翻弄(ほんろう)される人々の欲望を描く群像サスペンス
ギリシャ債務危機をきっかけに世界中に広がった金融危機をバックに、ある事件に巻き込まれた3人の男女の運命が交差する。ジョニー・トー監督作品常連のラウ・チンワンやリッチー・レンに加え、人気歌手デニス・ホーが出演。時間軸を複雑に交錯させた巧みな演出が光るドラマは、第68回ベネチア国際映画祭をはじめ世界中で高く評価された。
<感想>ジョニー・トー監督、待望の新作です。しかし今回は「エグザイル/絆」(06)や「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」(09)のような、ガンアクションによるフィルム・ノワールとは違い、市井の人々が錯綜する群像劇。それも株や投資信託などの金融を巡るお話ですが、しょっぱなから小汚いアパートで老人同士が殴り合っているようなチンケな展開で始まります。貯金と縁がない私でも信託にはリスクがつきものなんだな〜、くらいの理解で話についていけたので、安心してください。香港は日本より株の売買が一般に根付いたお国柄。香港映画人は金融とアクションを絡めて描ける素質があるようです。

本作品はジョニー・トーがノワールだけじゃなくて、あらゆる出来事があやをなし、自分も知らずに他人への影響を与えて、それがまた別の人の運命へ及んでいく、複雑な群像劇の操り師としても優秀であることを証明する映画でもあります。
物語は、チョン刑事の妻が、新しいマンションを購入しようと手付金を払うために株を売るのだが、そこで例の金融危機に直面する。はたまた一向に営業成績が上がらない銀行員のテレサが、顧客のおばさんにリスクの高いファンドを売りつける。この投資信託のネーミングは「一獲千金」。結果、金融資金は暴落。とはいえ、ケアなどする術はない。そもそも銀行は何かと手数料を取り契約交渉のやり口にも品がなく、その描き方の一つ一つにジョニー・トーのシニカルな目線を感じ取ることが出来る。
主要な登場人物3人は、妻からマンション購入をせっつかれているチョン警部補(リッチー・レン)。素のリッチーは最近、ステージに真っ赤なラメスーツで登場したりと美川憲一化が著しいですが、ここでは渋く正義感の強い刑事役。

そして銀行で金融セールスを扱いながら、販売成績が最下位でクビになりそうなテレサ(デニス・ホー)。そしてジョニー・トー映画の顔であるラウ・チンワンは、一応マフィアながら、単純でちょっと山下清的なパンサー役です。ラウさんが着ているチンピラ・ガラシャツと相変わらずの丈の半端に短いズボン、そしてグラディエーターサンダルが可愛いです。
もちろん彼が車や駆け足で移動する、香港の美しく雑然とした街並みも主人公のひとつです。パンサーは親分の還暦誕生日パーティを切り盛りし、集まった大金を一銭もちょろまかしたりしない性格の良さで、仲間から人望も厚い男。彼が逮捕された兄貴分の保釈金を集めるため、仲間のドラゴン(パトリック・クン)を訪ねたところ、思いがけない事件に遭遇し、棚からボタモチな大金(500万ウオン)が転がり込みます。
しかし、そこでギリシャ債務危機が勃発。ドラゴンが損失した大陸マフィアのスン(テレンス・イン)の資金を巡って、パンサーはもっと高額の金を用意しなければいけない羽目になるのです。

もっとも顔面破壊力を誇るラウさんの瞬き多めなキャラ作りは、何気ないけれど素晴らしい器用さです。劇中で重要な役割を果たすスダレハゲの高利貸しロー・ホイパン、テレサの銀行に1000万ウオン金を引き出しに来て、ケータイ電話でドラゴンと話をして、権利書一通につき500万ウオンを貸し付けるといい、後の500万ウオンをテレサに戻しておけと言い残し、この時急いでいたと見えて500万ウオンの入金証書を受け取らずに帰った。ケータイ電話を置き忘れて追いかけるテレサ、駐車場ではスダレハゲの高利貸しが暴漢に襲われ頭から血を流し、それでもその暴漢を後ろからメッタ殴りつけて殺してしまう。自分は車に戻るも、暴漢の頭の一撃が堪えたと見え倒れ死んでしまう。それを見たテレサは、急いで銀行に帰りあの500万ウオンを引出に入れていたことを思いだし、そのまま着服しようと考えるわけ。
それにラウさんは、兄貴の保釈金集めや、ドラゴンの金の工面にそのスダレハゲに借金を頼もうと車の後部座席で、一部始終を見てびっくりし、スダレハゲが暴漢を殺して戻ってきた車の後部座席でブルブルと震えて、倒れ込む高利貸しの黒い鞄を持って逃げるわけ。

物語のフックとなるのは、2010年に表面化した“ギリシャ債務危機”です。「広くあまねく使用できる」と信託しあった貨幣価値が揺らいで、国際的に契約関係がもつれ、挙句の果てこれに、香港の市井の人たちも巻き込まれてしまうという展開。
従来のノワールでハードボイルドな作風からは離れた題材だが、実にジョニー・トー的な「契約」に関する映画になっている。そう、契約とは固い約束によって強い結びつきが生まれることだが、一種の賭けでもあり、裏切りと紙一重。貨幣にも似て、下手をすれば単なる鋳造物や紙切れと化す、そんな非情の世界をジョニー・トーは描いているのである。
この映画の中で、貨幣やら交換についていろいろと考えさせてくれるが映画自体はかように回りくどい印象を与えることのない、実にスキッとした彼らしい作品になっている。今回の時間軸が細やかに前後し交錯する細工は、これまでのジョニー・トーにはなかった話法です。この逸話を繋ぎ、小気味よく進んでいく群像劇になっていて、美しいスキャットの音楽もいいですね。
最後に、ジョニー・トー監督は葉巻愛好家でもある。この映画のラストを飾るラウさんも、奇しくも株で大儲けをして葉巻を吸っているシーンが、あれは彼の分身キャラであることは間違いないと思いますね。
2013年劇場鑑賞作品・・・90  映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング


図書館戦争 ★★★.5

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ベストセラー作家・有川浩の代表作で、コミック化、アニメ化もされた人気シリーズ「図書館戦争」を、岡田准一と榮倉奈々の共演で実写映画化。国家によるメディアの検閲が正当化された日本を舞台に、良書を守るため戦う自衛組織「図書隊」の若者たちの成長や恋を描く。
あらすじ: あらゆるメディアを取り締まる「メディア良化法」が施行され30年が過ぎた正化31年。高校時代に図書隊に救われ、強い憧れを抱いて自身も図書隊に入った笠原郁は、鬼教官・堂上篤の厳しい指導を受け、女性隊員として初めて図書特殊部隊(ライブラリータスクフォース)に配属される。個性的な仲間に囲まれ業務に励む郁は、かつて自分を救ってくれた憧れの隊員とは正反対のはずの堂上にひかれていく。監督は「GANTZ」2部作の佐藤信介。

<感想>有川浩の人気シリーズの第1巻部分を映画化。人々が読書の自由を失い、メディアに対する体制側の検閲や武力行使も当たり前になった“正化”という時代の日本で、良本を守るために活動する図書隊の新米女性隊員、笠原郁の成長と恋愛を綴る。
本を読む自由と言われても、ピンとこないかもしれない。だからこそ本作が描くパラレルワールドの日本では、国家によるメディア検閲が正当化されてしまったのである。失われて初めて知る、読む自由の尊さ、だってそれは知る権利、思想や表現の自由と同義であり、つまり自由そのものなのだから。

そんな時代に自由を守ろうと図書館側から生まれたのが、自衛組織“図書隊”。高校時代に大好きな本と自分を助けてくれた図書隊員を“王子様”と憧れ、榮倉奈々扮する笠原郁が入隊してくる。それを待ち受けるのが、岡田准一扮する鬼教官の堂上。ことあるごとに衝突する、2人の掛け合いも見ものです。ぐうの音もでないほどズケズケと叱りながら、何か起きれば必ず助けに来てくれる堂上は、ちょっと怖いが間違いなく女子の憧れの上司像。笠原郁に対する厳しさも、ある理由があってのこと。そのあたりの胸キュンな展開も堪りませんね。

奈々ちゃんが柔道で堂上に負かされ、悔しくて背後からドロップキックをかますシーンには驚きですから。奈々ちゃんが普通より背が高いからかもしれませんが、岡田くんって背が低いんだよね。そんな自分ばかりをしごく堂上にも、心惹かれるようになるのだが、そんな中、いつも自分をコケにする手塚から「付き合って欲しい」と愛の告白を受ける郁は複雑な心境ですよね。

良化隊に対し、武力行使を認められている図書隊は、不測の事態に備えて、常に厳しい軍隊レベルの過酷なトレーニングを積んでいる。ランニングはもちろん射撃訓練、山中での野営訓練など過酷な訓練が行われ、それは自衛隊そのものに見えた。
図書隊は、図書館内に限定されるという条件つきで、重火器の使用が認められている。図書館に攻め入る良化隊との攻防は、時に死者を出すこともある。それでも本を守りたい彼らの情熱に胸を打たれます。

メディア良化法とは?・・・公序良俗を乱すメディアを取り締まるために国が制定した法律。違反図書には厳しい検閲が行われ、良化隊という組織が執行の権限を持つ。図書隊は、それに図書館法で対抗する。


小田原の情報歴史図書館の閉館が決まり、図書隊はそこに保管されていたメディア良化法成立の裏事情を記した報道資料を巡って、良化隊と戦うことに。
そしてついにメディア良化隊と図書隊との全面戦争の火蓋が落とされる。そんな中、司令長仁科の石坂さんと奈々ちゃんが良化隊に拉致され、人質に捕られるという騒ぎが。2人を助けるためには居場所が分からず、そこに指令長の義足に付けれていたGPSで居場所を突き止め救助に向かうのだが、相手はまるでヤクザのような強面の男たち、指令長の片足を拳銃で撃ちもう少しで奈々ちゃんにも被害が、・・・。

そこへ追跡装置で来た堂上と小牧が助けに来る。堂上とバディを組む小牧には「相棒」の田中圭が扮して、爽やかな雰囲気でいいですね。

銃撃戦や肉弾バトルなど、ド派手な激しいアクションの中ではじける図書隊員らの熱い想い。「SP」シリーズで高い格闘センスを見せた岡田くんが、さらにパワーアップしてスピーディで切れ味鋭い立ち回りを披露します。
自由に本を読み、自由にものを考え表現できる未来を、子供たちに残そうと。武器を手に命懸けで戦う彼らに全身が熱くなり感動します。
2013年劇場鑑賞作品・・・91  映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング

ベラミ愛を弄ぶ男  ★★.5

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『トワイライト』シリーズのロバート・パティンソンを主演に迎え、文豪ギイ・ド・モーパッサンの長編小説「ベラミ」を映画化。19世紀、パリのブルジョア社会を舞台に、恵まれた容姿を武器にのし上がって行く青年のな野心を描く。タイプの違う貴婦人を演じるのはユマ・サーマン、クリスティン・スコット・トーマス、クリスティナ・リッチ。美女たちに愛されながらも満たされない主人公の陰のある表情にぞくりとする。
あらすじ:1890年のパリ、アルジェリア帰還兵のジョルジュ(ロバート・パティンソン)は鉄道会社に職を得たものの薄給で貧乏のどん底にいた。ある日、彼は騎兵隊時代の友人シャルル(フィリップ・グレニスター)と酒場で再会する。ジョルジュは新聞社勤務で金回りが良いシャルルに招かれ夕食に行き、才色兼備なシャルルの妻マドレーヌ(ユマ・サーマン)とかわいらしいド・マレル夫人(クリスティナ・リッチ)に出会う。(作品資料より)

<感想>モーパッサン原作の文芸作品である。十九世紀末パリ・社交界においてその美貌を武器に貴婦人たちを征服し続け、女たちを踏み台にしてのし上がっていく野心的な男をロバート・パティンソンが、セックスの匂いをプンプン臭わせた目つきと表情とで演じていた。彼を巡る女性陣は、ユマ・サーマン、クリスティーナ・リッチ、クリスティン・スコット・トーマスといった美女揃いなのである。いい男というのも辛いものだし、モテるのも結構大変なことだと思う。

なるほど、物語は現代に通じるに違いない。野心家だが無能なイケメン青年が、性的魅力を武器に階層をのし上がる話はいかにもありそうだし、ジャーナリズムと政治の関係も、モラルの低下も今日的である。

タイトルの「ベラミ」とは直訳すると「美貌の友」と言うらしいが、“色男”といってもいいくらい女にもてる。さて物語は、騎兵隊時代の旧友で、ラ・ヴィ・フランセーズ(フランス人の生活)紙の政治部長として羽振りのいい生活を送っていた。友人の家の夜会に招かれたパティンソン君は、夜会服を借りる金まで用立ててもらい出かけていく。夜会服をまとった彼は、見違えるほどの男ぶりで現れ、テーブルマナーさえおぼつかない彼だが、何気なく語ったアフリカでの回想話が一同を魅了することになるわけ。
男は見かけではなく、仕事ができることだとか、気っぷの良さだというが、何だかんだ言っても女性はイケメンが好きだ。パーティなどで女性たちをみていても、目は何となく美青年に寄っているのだから。老人ホームに入っても、やはりいい男はモテるらしい。この映画の主人公ジョルジュにしても、取り立てて何もない男なのだが、ただ一つ実にいい男で、見栄えがいいといった武器を持っている。映画では、人妻たちが次々に彼の虜になっていく。家柄とかで結婚した相手、経済的に恵まれても、夫が妻を満足させていないのだろう。

ジョルジュに扮しているのはロバート・パティンソンで、どこか育ちの悪さをよく出していた。だが、彼の内面の空虚やそこに惹かれる女性たちの心の心理描写が浅く、台詞だけで処理されているようなところが物足りなかった。
一番初めに上手く結婚にこぎつけたのは、ユマ・サーマンで友人シャルルの妻。彼女には年老いた伯爵という恋人がいた。夫が病気で亡くなった後、頻繁にお見舞いをした彼が、彼女と結婚するというのもその伯爵とのことが影にあったことなのかも。結局、伯爵との密会を目撃してしまい離婚ということに。

誰とも真に親密な関係を築けない人生の中で、最も長く続いたクリスティーナ・リッチとの間柄が、やはり一番充実していたと思う。しかし、彼女との逢引きの部屋へ、編集長夫人のスコット・トーマスおばさんを誘い込むのはどうかと思う。彼女は年齢的にも夫にも愛されず、パティンソンの誘いに嬉しそうになびく。でも、彼女の一人娘に色目を使い結婚までこぎつけるとは恐れ入りました。
死に直面した原作者モーパッサンが、痛感していた生の眩しさと、死の暗黒との対比がそこはかとなく漂ってくるが、にしてもこの男の中身の無さは凄いと感じた。作り手はこの才能なき男が、美貌だけをたよりに上流社会を食い散らかしていく様を、現代的と解釈したのか、だが、演出がいまいち冴えなかった。
2013年劇場鑑賞作品・・・92   映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング

ボスその男シヴァージ ★★★

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貧しい人のために無料の病院を建設しようとする実業家と、それを邪魔する悪徳企業家の戦いを描くアクション映画。出演は、「ムトゥ 踊るマハラジャ」のラジニカーント。監督は、「ロボット」のシャンカール。音楽は、「スラムドッグ$ミリオネア」で第81回アカデミー賞作曲賞・歌曲賞を受賞したA・R・ラフマーン。
あらすじ:アメリカで大成功を収めたインド人実業家シヴァージ(ラジニカーント)はインドに帰り、仲の良い親戚の“おじさん”(ヴィヴェク)と一緒に、南インドの故郷チェンナイで貧しい人のために無料の病院や学校を建設しようと計画する。しかし、悪徳企業家アーディセーシャン(スマン)の裏工作により、病院の建設は中止に追い込まれる。裏金がはびこる国内の状況を嘆きつつ、シヴァージも裏取引を繰り返して病院建設に邁進する。病院ビジネスを独占し、市民から法外な診療費を徴収していたアーディセーシャンは、シヴァージに別のビジネスをやるよう提案するが、シヴァージは断る。
一方、シヴァージの両親や“おじさん”は、彼がなかなか結婚しないことを心配し、様々な女性を紹介する。しかし、タミル地方の魂を持った古風な女性しか興味がないと、シヴァージは首を縦に振らない。そんなシヴァージは、ある寺院でタミルセルヴィー(シュリヤー・サラン)という美女に一目ぼれする。彼女の気を引こうとあれこれ試すが、古風なタミルはかえって消極的になっていく。私財をすべて投入し、賄賂も使って病院の建設許可を得るが、アーディセーシャンの策略により新しい州知事が選挙に当選する。そのため、シヴァージの病院建設は白紙になってしまう。タミルは彼の情熱に心を打たれ、結婚を決意する。しかしシヴァージが賄賂を使っていたことが税務署にばれ、彼の手元には1ルピーしか残らなかった。シヴァージは“おじさん”とともにアーディセーシャンの悪事を暴き、賄賂を奪おうとするが失敗する。アーディセーシャンは役人を使ってシヴァージを逮捕させ、護送しながら殺害しようと企むが、間一髪のところで命を救われる。やがて、スキンヘッドにサングラス姿で、狂気を漂わせる男になって現れたシヴァージは、アーディセーシャンたちに復讐を誓う。

<感想>最近では「ロボット」で健在ぶりを示したインドのスーパースター、ラジニカーントの、2007年の主演作。その「ロボット」に記録を破られるまでは、本作品が映画史上最高の興行収入記録を保持していたというのだ。インドは決して貧しいわけではない。ただ富が一極に集中しているために、多くの人々が貧しい生活を余儀なくされているのだと。政治家や事業家が不当に得た金を溜め込んでいる。こうした裏金をすべて表に出し、貧しい国民のために役立てる。それがシヴァージの革命であったのだ。

と書けばずいぶん硬派な社会派ドラマを想像するけれど、実際はいつものように合間合間に、踊りと歌が入りつつ、あとは惚れた女に家族を挙げてストーカー行為を働いたりするので、徐々になんの映画を観ているのか分からなくなってくる。180分を超える映画の前半は、シヴァージの世直しと地道なストーカー活動の映像に費やされる。一家総出で、女の家に勝手に上り込んでおやつを要求し、あるいは自分の家に呼んで無理やりメシを食わせたりする。彼女は二人の相性が悪いという占い師の言葉を信用して、絶対に結婚はしないと言うのだ。

それと、悪徳実業家アーディセーシャンからの度重なる妨害があったりと、中々物事が上手く運ばないのだ。
それでも惚れた女に、あんたは色黒だから嫌だと言われれば、全身を漂白して踊りまくり呆れかえる。そうこうするうちに、本気を出してきた悪徳のアーディセーシャンにより、破産に追い込まれるシヴァージというところで前半は終了。ここまでで実に90分。
で、主人公は1ルピー硬貨を残して破産したのだが、走ってくる電車の前に立ち、覚悟を見せたら好きな彼女は結婚してくれるという、そして御殿みたいなところでダンス、これ衣装もバックの風景、建物もステキでした。決めゼリフは「COOL」なので余り悲壮感はなかった。ともあれ財産から何から奪われた落とし前は、付けなきゃならんと復讐を開始するシヴァージ。政治家や役人をお仕置き部屋に連れ込み、暴力でもって恫喝。あるいは裏切りの証拠を突きつけて脅迫。まさに悪をもって悪を制す。社会正義のためとはいえ野蛮すぎるやり方だが、映画のトーンがバカに明るいのであまり気になりません。
彼女と野外映画「キングコング」を観ていると、悪人に囲まれて車はベコベコに、蹴散らしてスクリーンへダイブするし、朝には警察が来て、不正資金洗浄の罪で捕まってしまう。その刑務所の中でこてんぱんに痛めつけられ、自分で電線引っこ抜いて感電死する。

おもろいのが、生まれ変わったシヴァージが、スキンヘットの頭で若返るしで、猿のような身軽さでバク転するわ足蹴りするわで、悪人たちを次々と鉄パイプ振り回して暴れまくる。それに札びらが桜吹雪のように空を舞うのもいい。

撮影当時、ラジニカーントは60歳前後で、踊りにしても立ち回りにしても、微妙に力を抜いている様子である。しかし映画の全篇にラジニさんの素敵な小ネタが満載で飽きさせないですね。例えば掌のガムをポンと飛ばして口に入れる。どこからか風が吹いてきて前髪のズラがなびく、あるいは大立ち回りの舞台へバイクに寝そべっての登場とか。さらにはスローモーションでこちらに向って歩いて来ること数え切れず。そういったキャラクターの力だけで、3時間もの長丁場を見せ切るのだから大したもんです。今回のダンスシーンで傑作だったのが、ラジニの背後で腹を揺らす100人のメタボ中年オヤジ軍団。最後にはラジニの似顔絵が腹にペイントされてて、激揺れするという痛快さ。
まぁ、歌あり踊りあり、立ち回りの間に執拗に決めポーズを挿入とか、よくよく考えてみれば一世を風靡したマツケンの公演みたいなもんです。
2013年DVD鑑賞作品・・・24  映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ

シージャック ★★.5

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「偽りなき者」の脚本を手がけたデンマークの気鋭トビアス・リンホルムがメガホンを取り、身代金目的の海賊にシージャックされたデンマーク商船の運命をリアルに描いた心理サスペンス。
あらすじ:あと数日で家族に会える――。長い航海が終わりに近づき、下船の日を待ちわびる料理人ミケルを載せた商船が、インド洋沖で突然海賊にジャックされた。ミケルと仲間たちは狭い船内に軟禁され、常に海賊たちから銃口を向けられる状況に陥ってしまう。一方、彼らが所属するデンマークの船舶会社では、「海賊に乗り込まれる」との連絡を最後に、船との通信が途絶えていた。自社の船舶がジャックされたと知った経営者のペーターは、乗組員の命を他人に預けることはできないと、自らが海賊と交渉することを決断するのだが…。極限状態の船内でサバイバルを続けるミケルと、遥か7,000km先のオフィスで決死の交渉に挑むペーター。愛する家族と仲間のため、生死をかけた2人の戦いが始まる!2012年・第25回東京国際映画祭コンペティション部門で上映。
<感想>海賊による貨物船シージャックを描いたデンマーク映画で、佳作ではあるがドキュメンタリーのようなリアルさに満ちた描き方です。監督は、過去に実際にシージャックされた貨物船を撮影に使用し、実際に海賊が頻発するインド洋沖合で撮影を敢行、根性が入っていますよね。
1990年代から急増した現代版海賊とは、停泊中か、あるいは航行中の貨物船やタンカーに乗り込んで、乗組員を日地自治にとって身代金を要求するという、いわば誘拐ビジネスである。なので、イスラム原理主義テロリストのように異教徒というだけで虐殺するとことはないので、まだマシな連中のようだ。まぁ、そういうように思えてしまうんだから、困った時代になったものです。
とにかく、2005年にはマレーシア領海内でのシージャックで、日本人を含む船員3人が拉致されたり、この事件は6日間でスピード解決。海上自衛隊がソマリア沖の多国籍監視任務に派遣されたり、日本国内でソマリア人海賊裁判が行われたりする昨今、日本にとっても他人事ではないテーマと言えますね。

この映画には、政府も軍も警察も登場しません。主だった登場人物は、料理人のミケルに代表される捕らわれた船員6人。そして海賊の交渉人のオマール。対して、海運会社社長ペーターと重役たちだけである。またイスラエルなら「テロリストとは交渉しない」と即決して軍隊を送り込むだろうが、社長のペーターは身代金を払ってなんとしても船員を救出しようとする。最初に提示した金額が1500万ドルで、会社側がとてもそんな高額には応じないと返事する。
だからハリウッド映画のように、特殊部隊が突入して解決という展開もない。これは人質解放交渉に立ち向かう民間企業トップの、そのリーダーシップと責任を描いた作品なのです。
社長ペーターの業務描写で「3.11 大震災」の影響が語られていたり、貨物船が占拠した海賊たちは、まず腹が減っているとみえて、メシを食いたがるといったような、アフリカ系の海賊でミケルがチャーハンのようなものを作る。それに食料も不足してみんなで魚釣りをして大きな魚を釣り上げ、その魚を料理して海賊も船員も仲良くなり歌を歌ったりする。(ハッピーバースディの歌)そんなちょっとしたディテールの積み重ねが素晴らしい。
特に会社側が、船員家族への説明会の最中に、携帯ゲームに熱中している少女の描写が、映画を柔らかくしてお見事。または、清潔なデンマーク本社と汚い汚臭が漂う船内という、船の中ではミケルのランニングが薄汚れ非常に汚い、それが二つの現場を繋ぐ衛星電話の出し方とFAXの使い方も最高にいい効果を出している。
ハードボイルドとすら言える静かな映像、しかし、会社側が海賊に支払う身代金の金額の折り合いが決まらず、127日目に330万ドルでやっと交渉成立。
だが、海賊たちは小舟に乗ってさっさと引き上げるように見えたのだが、胃潰瘍で苦しんでいる船長を機関銃で撃ち殺すとは。長く重い悔いと恨みを背負った、ミケルの慟哭が響いてくるかのようなラストに戦慄がはしります。
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ユニバーサル・ソルジャー 殺戮の黙示録★★

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エクスペンダブルズ2』などのジャン=クロード・ヴァン・ダムが、製作と主演を務めるアクション。法律や警察では対処できないトラブルを解決する元傭兵(ようへい)が、少女誘拐と背後にうごめく人身売買組織に立ち向かう。ヴァン・ダムが、最も得意としてきたマーシャル・アーツを駆使した肉弾ファイトを抑えめにして、重厚なガン・ファイトや流麗なナイフさばきといった従来の作品とはテイストの違うアクションを披露。舞台となる東欧の古い街並みも、ハードボイルドな雰囲気にあふれた物語を織り上げている。12年、米/監督:ジョン・ハイアムズ/出演:ジャン=クロード・ヴァン・ダム、ドルフ・ラングレン、スコット・アドキンス、他。
あらすじ:闇の仕事人として、警察も手を出せない事件を専門に扱ってきた元傭兵(ようへい)のゴール(ジャン=クロード・ヴァン・ダム)。いかなる相手のもとにも単身で乗り込み、その数がどんなに多くとも一人残らず壊滅させ、その名を裏社会にとどろかせていた彼だったが、あるミッションで少女たちを巻き添えにしてしまう。それをきっかけに闇の仕事人から足を洗ったゴールの前に、人身売買組織にまな娘をさらわれたという夫妻が現れる。彼らから娘の救出を請われたゴールは……。
<感想>「ユニバーサル・ソルジャー」シリーズは、そもそも公開当時のヴァン・ダム&ラングレン景気で大ヒットした1作目からして微妙なデキでしたよね。それなのに、新しいユニソルを作らなくちゃ状態でTV版も含めると合計5本作られている。
そして昨年もシリーズ6作目となる新しい「ユニソル」が完成。「エクスペンダブルズ2」の勢いでついでにチェックして観ておくかと思って見たら、これが結構豪快にフライングして衝撃作でした。

それは、1作目から前作まで一貫して正義の味方だったヴァン・ダムが、突如、何の説明もなく悪役に変貌しているんですよ。しかも、頭ツルツルのハゲ頭にして、ジャングルの奥地にユニソルだらけの王国を築いているという、「地獄の黙示録」のカーツ大佐チックな白塗りメイクで、そのままじゃないですかって、・・・どうですか?ある日突然に、暗殺計画に精を出すような狂いっぷりじゃないですか。
だからなのか、映画の前半はこっちの方が気が狂いそうになりましたよ。これは失敗作なのか?・・・いや、作りはイビツかもしれないけれど、筋肉と過激な暴力描写に彩られたハードコア・アクション映画になってますから。

それでも、物語がなにしろ「ユニソル」ですから、頭脳ではなくアスリート級の筋力だけで作られたいつもの映画。「地獄の黙示録」のような、ブヨブヨのマーロン・ブランドや、ゴロゴロしながら悩んでいるマーティン・シーンのようなブったるんだ男たちは一人も出て来ませんから。その代わりに登場するのが、闇の奥にあるユニソル王国に殴り込みをかける主人公、新型ユニソルの[エクスペンダブルズ2]に出ていたスコット・アドキンスだ。
第1作目から、ただひたすら後戻りのできないくらい狂ってしまった大きい人を演じ続けるラングレン。毎回、近所の名物バカなみに安定感溢れる電波ぶりを披露するラングレン。さらには「エクスペンダブルズ2」でも見せてくれた貫録ある悪役演技をアピールしてくれるヴァン・ダム。カーツ大佐のような白塗りハゲ頭で股割キックをするヴァン・ダム。マーロン・ブランドより勝っているのでいいかもよ。
そして画面を埋め尽くすような筋肉と筋肉と筋肉とが、・・・。その筋肉たちが、血しぶきを上げながら、肉魂と化していくR18指定の暴力描写も必見ですね。とにかく火薬と血しぶき満載の蘇民際みたいな映画なんで、興味のある方はどうぞ。
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ラストスタンド ★★★★

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2003〜11年まで米カリフォルニア州知事を務めたアーノルド・シュワルツェネッガーの俳優復帰後初となる主演作。ロサンゼルス市警の敏腕刑事として活躍していたオーウェンズは、今では第一線を退き、メキシコとの国境に近い田舎町で保安官を務めていた。そんなある日、逃走した警官殺しの凶悪犯が町に向かっているとの知らせが入り、警察やFBIの応援も間に合わないと知ったオーウェンズは、戦闘経験のない部下や町の仲間、銃器オタクらでチームを組んで凶悪犯を迎え撃つ。「グッド・バッド・ウィアード」「悪魔を見た」などで知られる韓国のキム・ジウン監督のハリウッド進出作。

<感想>「ターミネーター3」(03)以来、10年ぶりの主演復帰作にシュワちゃんが何のジャンルを選んだのか、彼も不器用そうに見えて、SFからコメディまで意外に出演ジャンルの幅が広い。さて本作では、冒頭で、夜、道端にパトカーをとめて、若い警官が一人夜食のハンバーグを食っているところから始まる。その横の道路を何かがもの凄いスピードで通り過ぎる。スピード違反検挙用のメーターの表示が「197」マイル(約312キロ)の数字を示す。SFなのかと思ってしまったが、次の場面は、アリゾナ州のソマートンという、メキシコとの国境に近い田舎町の朝だ。シュワちゃんは、そこの保安官として登場する。スポーツ試合の応援に、バスを3台連ねて町民たちが他の街へ行ってしまうと、閑散とする。それくらいの人口。

のんびりした朝だったが、事件が起きる。町の食堂で保安官が怪しいと睨んだトレーラーを運ぶ二人の男が、町から離れた農場で、農場主を射殺する。
実はこの農場主役は、ハリー・ディーン・スタントンで、近年見かけないと思っていたら、昨年の「アベンジャーズ」とショーン・ペンの「きっと、ここが帰る場所」に出ていた老俳優さん。何だか嬉しい気持ちがした。

田舎町から一転して、場面は深夜のラスベガスになる。フォレスト・ウィテカーが指揮をとって、FBIが麻薬王コルテス(エドゥアルド・ノリエガ)を護送する。午前3時30分と字幕が出る。これ以降は、しばしば時刻が示される。大掛かりな護送だが、それを上回る大掛かりな手口で、麻薬王は組織に奪回されるのである。ビルの屋上から大きな磁石でコルテスの乗っている護送車を持ち上げて、逃亡したのだ。
ここまででSFぽい謎の走行車?・・・冒頭に出てきたもの凄いスピードの車、1000馬力のシボレー・コルベットZR1を運転していたのは、脱獄した麻薬王だったのですね。新幹線のぞみ号を超えるスピードで逃走されてはFBIもお手上げ状態。麻薬王のコルテスは、ソマートンの町を通ってメキシコへ逃げようとしている。
しかしコルテスには一つ誤算があった。メキシコ国境付近の超田舎町には、保安官アーノルド・シュワルツェネッガーが控えていたのである。

黙って通らせるわけにはいかないと、保安官は決断する。ここからのジャンルは100%西武劇になっているんです。初めは「真昼の決闘」かな、とちょっと思ったが、すぐにひるがえる。これは「リオ・ブラボー」ですね。
二人の保安官助手、ヒスパニック系のおっさん、「カリートの道」や「ブギーナイツ」でお馴染みのルイス・ガスマンと、若い女サラにジェイミー・アレクサンダー。もう一人の青年ジェリーにザック・ギルフォードがいたが殺された。そして飲んだくれて留置所に入れられていた、女保安官の元カレにロドリゴ・サントロ。そして保安官事務所に足りない銃器をふんだんに提供してくれた武器オタクの青年、ジョニー・ノックスヴィル。この戦闘能力的にポンコツの4人が、保安官とチームを組むのである。腕利きの戦争プロフェッショナルを率いていた「プレデター」のころとは大違い。

監督が「グッド・バッド・ウィアード」「悪魔を見た」などで知られる韓国のキム・ジウン。だからなのか、あの「グッド・バッド・ウィアード」で観た荒唐無稽さが再び降りてくる。麻薬王が真っ黒いスーパーカーで田舎町に突っ込んできたその瞬間、ついにかつて愛したシュワちゃんが返り咲くのです。御大が麻薬王の軍団と埃っぽいド田舎の往来で繰り広げるクライマックスの大バトルはどうです、素晴らしいの一言につきます。麻薬王の軍団のボスにピーター・ストーメアが出てました。

シュワちゃんが黄色のスクールバスで現場に登場。後部の扉をドバーンと開けて姿を出したかと思えば、重機関銃を乱射して悪党どもを木端微塵に粉砕する。
リアリティーなんて吹っ飛ばせ、戦いまくることが大事だぜ、といった具合に画面が生き返る。みんなが手に手に珍しい銃を持っている。誰ひとりとして同じ銃を使っていないのではないか。ガトリング・ガンみたいなマシンガンもいいし、悪役が愛用している南北戦争時代のリボルバーのレプリカみたいなのも嬉しい。お遊び気分満点で、その一方で「グッド・バッド・ウィアード」よりもバイオレンス度がややキツメで、いい塩梅になっているようです。
そして、この気分の中で前半ではそれほど輝かなかった、あり得ないほど速いコルベットZR1車や麻薬王のアメリカ脱出計画の壮大さも、とうもろこし畑で繰り広げられるカーチェイスでは、シュワちゃんが乗っていた真っ赤なカマロZL1で対抗。畑のトウモロコシをなぎ倒し暴走する猛チェイスでは、車同士が激しくぶつかり合い、車同士の殴り合いのような迫力に驚かされる。そして、国境の渓谷に架けられた橋のド真ん中での肉弾戦にプロレス技も飛び出し、シュワルツェネッガー健在なりと拍手喝采。
映画全篇に緊張感を途切れさせず、なおかつみんなの観たいシュワちゃんはこれだろうと、・・・極端な残虐なアクションをこれでもかと見せてくれる。かくしてシュワちゃん完全復帰となった記念すべき本作は、全米興行で大コケしたという。それでもシュワちゃんやスタローンを支えてきたのは北米マーケットではなく、日本を含め世界市場なのだから。今後の“俳優人生”第2弾がすごく楽しみですね。
2013年劇場鑑賞作品・・・93 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング
 

偽りなき者 ★★★★

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『セレブレーション』『光のほうへ』などの名匠トマス・ヴィンターベアが、無実の人間の尊厳と誇りを懸けた闘いを重厚に描いた人間ドラマ。子どもの作り話がもとで変質者扱いされてしまい、何もかも失い集団ヒステリーと化した世間から迫害される男の物語は、第65回カンヌ国際映画祭で主演男優賞はじめ3冠を達成した。孤立無援の中で自らの潔白を証明しようとする主人公を、『アフター・ウェディング』のマッツ・ミケルセンが熱演。
あらすじ:親友の娘クララの作り話が原因で、変質者のレッテルを貼られてしまったルーカス(マッツ・ミケルセン)。クララの証言以外に無実を証明できる手段がない彼は、身の潔白を説明しようとするが誰にも話を聞いてもらえず、仕事も信用も失うことになる。周囲から向けられる憎悪と敵意が日ごとに増していく中、ルーカスは自らの無実を訴え続けるが……。(作品資料より)

<感想>舞台は森に囲まれた田舎町で、幼稚園の先生ルーカスと、彼の親友テオの娘である園児のクララの、ささやかな気持ちのすれ違いからすべてが始まる。それはきっとクララがルーカスに恋をしちゃったんですね。で、ルーカスにいきなりキスして、ハート形のオモチャをプレゼントする。ルーカスはやんわりと断るのだが、そのことで傷ついたクララは、彼に悪戯をされたかのような作り話を園長に話してしまう。調査に乗り出した園長は、それを事実と判断し、父兄会で報告し、警察に通報する。変質者の烙印を押されたルーカスは、この田舎町から徹底的に排除されていく。
ここで明らかになるのは、「回復記憶療法」という精神医学療法のこと。この療法は、主に女性に表れるある種の心身の障害が原因で、抑圧によって記憶から抹消されてしまった過去の体験、具体的には性的虐待のことにあるとみなし、その記憶を再生し、真実に直面し克服することで本来の自己を取り戻すという。

しかし、その考え方にも一理あるが、実際にここでは記憶を再生するのではなく、誘導尋問によって嘘の事実を言ってしまう。本作の少女クララも、ささいな兆候から調査員に誘導され、偽の記憶を押し付けられてしまう。クララが嘘をつく時、必ず鼻と口を曲げる、何だか「奥様は魔女」のサマンサのように見えた。それなのに大人たちは「子供は本当のことしか言わない」って思い込みがあるから信じてしまう。そこで、園長先生は児童福祉施設の職員を呼びクララを尋問するんですね。
しかも悪いことに他の園児たちも「ルーカスにやられた」といい始める。しかも一人の園児が「地下でやられた」と言ったら、全員が同じことを言い始める。だが、ルーカスの家には地下室はなかった。そこでルーカスは逮捕されるけど、釈放されるんです。しかし、本当の恐怖はそこから始まってくる。町の人々は彼の無実を信じていないのだから。
ルーカスの家の窓ガラスは投石で割られ、玄関の前には愛犬が殺されている。スーパーに買い物に行けば、「お前に売る物はない」と言われ、そこにいた客や店員にボコボコに殴られる。
だが、この映画の中で注目しなければならないのは、そんな細かいことではない。最初に印象に残るのは町の男たちが属する猟友会の活動である。彼らは鹿を狩り、酒を酌み交わし、肉の処理の分担を決める。これはこの町に残る伝統であり、家父長制的な秩序を表している。そして猟友会と対置されているのが幼稚園なのだ。そこでは、園長も職員もすべて女性で占められている。

ルーカスはもともと小学校の教師で、小学校が閉鎖され失業したために、幼稚園に保育士として職を得ることになったようだ。つまりは、本来ならそこにはいないはずの人間なのだ。さらにもう一つ見逃せないのが、クララの父親テオの子供に対する態度が問題なのだ。明らかに彼は息子を可愛がり、娘は部屋に閉じこもっていればいいと考えている。だからクララは、父親の親友ルーカスをもう一人の父親のように慕い、結果として偽の記憶を引き金に暴走する原因になったのでは?・・・。
それは、映画の中で男たちの裸の付き合いの描写から始まる。幼稚園でもルーカスと子供たちがじゃれあう姿が印象に残るのだが、それは男の子だけのように見える。だから、話し合うために現れたルーカスを見るなり、血相を変えて逃げ出す園長の姿が物語るように、スキンシップは恐れと疑いに変わってしまう。幼稚園の中は、もはや個人の顔が見えず、何を考えているのか分からない不可解な集団に変わる。そして、闇に紛れて陰湿な攻撃を仕掛けて来るようになる。
無実な主人公が幼女に痴漢をした冤罪をかけられ、魔女狩りにあって村八分にされて抹殺されそうになるという話で、観ていて暴徒どもへの怒りでムカムカした。子供の嘘が発端で、愚かな大人が暴徒化する、という展開が酷く生々しい。少女クララも悪魔じみてて恐かったし、虚言に惑わされる凡人たちの心の問題として描いているのだろうが、主人公が幼児に悪戯してそうな顔に見えないこともなく、マッツ・ミケルセンの演技が巧いと感じた。

その中で唯一救われたのが、離婚したけど母親と暮らしている息子のマルクスくん、彼は父親の無実を信じ続けて、一人でクララの家へ乗り込むんですよ。「お前嘘つくなよ」って、その後に、大人たちにぶん殴られるけど、本当にいい息子なんです。
ラストには、ルーカスの冤罪も証明されて、平穏な生活に戻り、村のしきたりで一人前の男に認められた息子のマルクスに、村人たちから鹿狩り用の猟銃をプレゼントされる。しかし、その鹿狩りで未だに村人の中には、ルーカスを許していない者がいることを忘れてはならない出来事が起こる。この結末に、やはりと想像していた通りだった。いつまでも後味の悪い思いが残る。
2013年劇場鑑賞作品・・・94 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング


L.A. ギャング ストーリー ★★★★

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ロサンゼルスで暗躍した実在のギャング、ミッキー・コーエンと、街の平和を取り戻そうと立ち上がった市警との壮絶な抗争を描いたクライム・アクション。ポール・リーバーマンによる実録ルポを基に、『ゾンビランド』のルーベン・フライシャー監督がメガホンを取る。オスカー俳優ショーン・ペンが伝説のギャング王にふんし、彼との戦いに挑む男たちに『ミルク』のジョシュ・ブローリン、『ドライヴ』のライアン・ゴズリングら実力派が顔をそろえる。
あらすじ:1949年ロサンゼルス、汚職まみれの州警察を一掃した市警本部長(ニック・ノルティ)が、次に目標を定めたのは組織犯罪撲滅。しかし、市、郡、町まで深く浸透した汚職の根は深く、汚染されていない警官を捜すのは一苦労。
そんな時、ロサンゼルス・ギャング王ミッキー・コーエン(ショーン・ペン)の賭場を、たった一人で手入れを行ったロサンゼルス市警のジョン・オマラ(ジョシュ・ブローリン)を見初めた市警本部長は、オマラに特別捜査班の結成を委ねる。こうして特別捜査班“ギャングスター・スクワッド”対ミッキー・コーエンの「警察バッジ無用」の激しい戦いが繰り広げられる。(作品資料より)

<感想>このジャンルの金字塔である「L.A.コンフィデンシャル」を筆頭に、アメリカのフィクションの世界では40〜50年代のロサンゼルスを舞台にした犯罪ストーリーというのが、昔も今も、本当に人気が高い。その理由はたぶんそこにアメリカの「光」と「影」が分かりやすい形で凝縮しているからなのだろう。
豪邸で暮らすハリウッド女優に、夢破れて街をうろつく売春婦。賄賂まみれの警官に、優雅な着こなしのギャングスター。ネオンに照らされたナイトクラブに、一晩中スウィングしまくるジャズ・バンド。とにかく、どこをどんなふうに切り取っても「絵」になっちゃう時代なのだ。

この映画は、いわば21世紀の「アンタッチャブル」を目指して制作されたのだろうが、果たして、・・・・。原作は、新聞の連載記事でいわば主人公ジョン・オマラの回顧録。このあたりも「アンタッチャブル」と同じだが、エリオット・ネスと違ってオマラは正直に回顧してるため、原作の前半はL.A.の小悪党クロニクルに体で、映画はこの原作から“ギャングスター・スクワッド”という特捜班があった、という1点を抜き出して派手に脚色している。「アンタッチャブル」が西部劇を目指していたのと同じく、本作も西部劇的で、この手の定番「荒野の七人」を彷彿とさせているようにも見えた。

スクワッドのリーダーとなるオマラ巡査部長に、ジョシュ・ブローリン、唯一の黒人ハリス巡査にアンソニー・マッキー、西部のガンマンの生き残りケナード巡査には、「ターミネーター2」のロバート・パトリックが、彼は渋い演技で儲け役どころ。反逆児のウーターズ巡査部長にはライアン・ゴズリングが、ケナードの弟子メキシコ人巡査ラミレスにマイケル・ペーニャ、これに盗聴の専門家キーラー巡査に、ジョヴァンニ・リビシを加えた6人が“ギャングスター・スクワッド”の面々。

そして、老けメイクとでかい付け鼻でミッキー・コーエンに扮したショーン・ペン。「ディック・トレイシー」のころより格段に特殊メイクの技術は上がっている。ドスの効いた声色で、成りきり演技に挑戦しているのだが、何事もやり過ぎは禁物のようだ。クライマックスでのミッキー・コーエンとオマラの直接対決は“殴り合い”で決着という見せ所も満足の出来。

監督が「ゾンビランド」ルーベン・フライシャーだけに、冒頭から牛裂きの刑ならぬ自動車裂きの刑からはじまる惨たらしさ、過激な描写の多い割には、シリアス過ぎずコミック過ぎずで、アクション・シーンの暴力も笑っちゃうくらいオーバーに誇張されているけど、そういうものと割り切って楽しむ分にはけっこう面白い。
下手をすると21世紀の「ディック・トレイシー」になるところを、微妙なバランスで踏みとどまっているように見えた。そのバランス感覚が良かったと思う。クライム・アクション映画としては、2時間以内で収まっているし及第点ですね。
2013年劇場鑑賞作品・・・95 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング

死霊のはらわた ★★★

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『スパイダーマン』シリーズのサム・ライミ監督が1981年に放ち、スプラッター・ブームの火付け役となった名作ホラー『死霊のはらわた』をリメイク。人里離れた山奥の小屋を訪れた若者たちが、次々と仲間にとりつく邪悪な死霊と壮絶な戦いを繰り広げる。ライミが脚本、『スカイ・ハイ』のブルース・キャンベルが製作と、オリジナル版メンバーがスタッフで参加。監督は、新鋭フェデ・アルバレスを抜てき。よりダーク度を増したビジュアルや凄惨(せいさん)度を増した恐怖描写にも注目。

あらすじ:うっそうとした山奥にたたずむ小屋を訪れた、ミア(ジェーン・レヴィ)をはじめとする5人の若者。小屋で「死者の書」という不気味な書物を見つけた彼らは、はからずも邪悪な死霊をよみがえらせてしまう。解き放たれた死霊はミアにとりつき、若者たちに襲い掛かる。おぞましい姿に変ぼうしたミアと戦いながら山から脱出しようとする若者たちだが、死霊の力によって行く手を阻まれてしまう。助けを呼ぶこともできぬまま、一人、また一人と、彼らは死霊にとりつかれ……。

<感想>このテのジャンルのリメイクは、決して前作を超えられないというジンクスがあるが、オリジナルを見ていなかったのでかなりよく出来ていると思う。地面を這って疾走するカメラや、ヘビのように少女に絡みつく蔦や木の枝など、かつての名シーンがそのままに踏襲され、元ネタを意識して、あえて省いたり改変したりすることなく、エッセンスを巧みに取り入れているというのだ。もっともサム・ライミがプロデューサーなのだから、当然といえば当然だが、それにしても監督がウルグアイ出身とは面白い。これでは、早速帰ったらレンタルして観なくてはなるまい。

お話はドラッグ中毒から立ち直ろうとする兄妹のドラマを物語っており、この兄妹のドラマ作りのシリアスさが、今の時代性にハマっていると思う。またオリジナルへのリスペクトから、現場の特殊メイクにこだわった、作りものを実際に切り刻むスプラッター映像の感触は、CGよりも痛みが伝わってくる。
映像の中で、注射器でブスブスと刺される顔面、電動肉切り包丁での恐怖、くぎ打ち機、チェンソー、カッターで裂き割られる舌といったゴア描写の痛感、それに汚泥、汚水、吐しゃ物など。
赤黒い血にまみれてのたうち回る不快指数は、観ている方が遥に上で、それによって良くも悪くもリメイクであることを薄くさせてしまってはいる。悪魔たちの解放、憑依、封印のプロセスを細かく定義を提示するなど、なにかと丁寧な姿勢も好印象である。
今作では、オリジナルでの男の主人公から、ミアのジェーン・レヴィをはじめとした死霊に憑かれた女たちに重心が移っていること。自傷に中毒していくような感覚と、身体がバラバラになって助けを求めるアンバランスさが恐怖を煽る。

しかし、学者肌の不器用な高校教師のエリックが、地下室で、兄のデヴィッドを助けたのに、汚水に沈めるとはなんたること。だからなのか、ラストで小屋を焼き払おうとすると、死んだはずのエリックが悪魔となって襲ってくる。このクライマックスにかけてのゴア描写の執拗な押しには唖然とする。観客が仰け反りそうになる痛みを、登場人物が自身の手で下さなければ事態を打開できない状況を、次々とこれでもかと用意する徹底した悪趣味ぶり。ですが、刃物が肉を裂く触感を、丹念に伝えようとするホラーを心得た姿勢はよかったです。
2013年劇場鑑賞作品・・・96 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング

ボクたちの交換日記 ★★

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「ウッチャンナンチャン」の内村光良が、「ピーナッツ」(2007)以来7年ぶりにメガホンをとった監督作。売れないお笑いコンビの生活と葛藤を、伊藤淳史と小出恵介のダブル主演で描く。お笑いコンビ「房総スイマーズ」は結成12年目になるが、いまだ鳴かず飛ばず。気がつけば30歳になり、もう後がない2人は、互いの本音をぶつけ合うために交換日記を始める。「オードリー」の若林正恭と俳優・田中圭主演で舞台化もされた、放送作家・鈴木おさむの小説「芸人交換日記 イエローハーツの物語」が原作。

<感想>だいぶ前に鑑賞したが、つまらなかったのでレビューをどうしようか迷ってしまった。一口で言うと、お笑い芸人を描く映画は難しいようだ。同じ漫才映画でも品川ヒロシ監督の『漫才ギャング』を見たが、とても良かった。この作品はお笑いの話だけれども人間ドラマなんですよ。主人公のコンビには、伊藤淳史と小出恵介という、演技派俳優二人なんですが、伊藤さんは真面目で芝居にブレがない。対照的な小出さんは気分次第で、手を抜いているとか集中力が切れているな、とか二人を見ていると演技へのアプローチの仕方が対照的なんですね。それが吉と出たのか凶と出たかは観て見ないと分かりませんから。
前半は軽いノリで、日記の表紙にわざわざ交換日記なんて書くのか?・・・って、ツッコミを入れたくなるが、途中からやっぱりどんどん重くなっていく。舞台上の二人を笑う客席の映像を映画館の客席で観ていると、画面の中の客席との温度差ばかり気になるという経験はないだろうか。主人公コンビが舞台で見せるコントのネタを、映画館の観客にどう見せるのか。舞台の笑いと映画の笑いは違うと思うんですよ。

本職の内村監督による本作でも温度差は感じた。だが、舞台上の芸人の呼吸が流石に笑いを生み出すそれであり、納得させられる。お笑いはシノギを削る熾烈な職業であり、コンビの密接さによる亀裂など非常に息苦しさが感じさせられる。
俳優がお笑い芸人を演じるということは、微妙な感じとはいえリズムが異なる難しさもあるし、花開かないコンビが主人公ゆえにコントがつまらないのも仕方がないのは分かる。だが、せっかくシビアな現実を描いても病気オチにしてしまうのは、今の映画界では平凡すぎる。
人気という不確実な要素に左右され、後輩に追い越されていく芸人の苦労や焦りが切実で、才能の限界を知ることの辛さが伝わってくる。売れないコンビの甲本と田中が廊下に座って弁当を食べるシーンのリアルさなど、お笑いの世界に精通した内村監督ならではの演出だろう。
それでも女性キャラや音楽による場面彩色の紋切型とか、テレビ的ともとれるそれらが、弱さでなく乗れば楽しい魅力となり、一切笑いのない芸人暗黒物語でも割り切れたのだが、原作通りとはいえ泣かせの作為が目立つ最後のエピソードは、必要なかったのではと思った。
2013年劇場鑑賞作品・・・97   映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング

ホーリー・モーターズ ★★★

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フランスの鬼才レオス・カラックス監督が、『ポーラX』以来およそ13年ぶりに単独でメガホンを取った異色作。変装してリッチな銀行家や物乞いの女性、ごく平凡な父親から殺人者まで11人それぞれの人生をリアルに演じる主人公の長い一日を映し出す。主演をカラックス監督の常連ドニ・ラヴァンが怪演し、歌手のカイリー・ミノーグや、『バッド・ルーテナント』などのエヴァ・メンデスらが共演。幻惑的な映像美に彩られた夢と現実の間をたゆたう感覚の物語に驚嘆する。

あらすじ:夜もふけた頃に、ホテルの部屋で目を覚ました男レオス・カラックス(レオス・カラックス)が、隠し扉を発見し下りていくと顔のない観客たちであふれた映画館へと続いていた。一方、オスカー(ドニ・ラヴァン)は豪邸から子どもたちに見送られて真っ白なストレッチリムジンに揺られて出勤。美しい女性ドライバーのセリーヌ(エディット・スコブ)が車のそばで彼を待っており……。

<感想>『ポーラX』もレンタルビデオで観たのでレオス・カラックスという監督にはあまり思入れがない。だが予告で観た、何かの建物に入っていく、リンカーン・コンチネンタルが何台も。それこそ映画でしかみないような、面白いくらい長い高級車だけが、集まって入っていく。そのワンカットで心を射抜かれて、なんだこの集まりは、その前や、その後を見たいとこの映画を観るきっかけになった。
パリを舞台に、カメラはリンカーンに乗った男の謎の一日を追う。様々な場所に出向いて演技をしては、また車に戻る。何やってんだか分からない。分からないけど、大変さが車に戻ることの繰り返しで表される。不可思議な場面の連続だけど、労働として大変そうだなぁ、と思わせる。

この作品の主人公であるドニ・ラヴァンが、次々にかつらを付け替えて、ゴムマスクを取り換えて、金満銀行家から女乞食へと、モーションキャプチャーのモデル役から怪人糞男へと変身を繰り返し、その場かぎりの一幕を手当たり次第演じていくという、本当にバカバカしいほど単純な趣向である。

CG自体よりも、その制作現場で身体芸を繰り広げるモーションアクターの方にカメラを向ける監督は、デジタルとの境界線でこそ輝きでる「生身」の魅惑に賭けているのだろう。もちろんそれができるのは、主人公のドニ・ラヴァンがいてくれるからなのだ。
本作でのドニ・ラヴァンの風貌は、さすがに年齢を感じさせる。

だが、それが彼の佇まいに魅力を加えているのだろう。類人猿的な顔立ち、少年のように小柄なのに強靭な筋肉の張りつめた体。そしてざらりとした渋い声、グロテスクなものと美との合体は、ロマンティストのカラックスの世界観なのでしょう。

舞台となるセーヌ川岸の老舗百貨店、サマリテーヌでの夜間ロケの素晴らしさに言葉を失う。屋上から捉えられたポンヌフの眩い情景、一世紀半近くに及ぶ歴史を閉じたサマリテーヌは、現在高級ホテルに生まれ変わるべく全面改装中とのことだが、そのほとんど廃墟のような内部から、昔の女との二十年ぶりの再会を演じる一場面。その思わず胸を突くエモーションの驚きが詩的と言っていいのか戸惑いを感じる。

「ゴジラ」のテーマ曲を背に、ドニ・ラヴァンが墓地で暴れまわる一幕などは、どう解釈していいのやら。しかし、誘拐してきた妖艶なエヴァ・メンデスと二人きりになると、子どもに帰ったような怪人糞男が、意外に清純で可愛らしく見えた。これはひょっとして「美女と野獣」を表しているのか?・・・。

主人公ラヴァンが次々と相手に迎える様々な年齢の女優たち、その中でも巨大リムジンの運転手役を演じたエディト・スコプの存在感である。白いパンツスーツ姿が見事に決まるエレガンスさが、作品に高貴な風格を加えて魅力的でした。

場面場面を楽しみ、映像の綺麗さにみとれて、筋書の展開に驚いているうちにラストは、真の主役(リムジン)たちの漫画のごとき会話のシーンにも心うたれる。
レオス・カラックス監督が、「いろんな人物に成りきる主人公はまるでSF世界の人物のようだが、一人の人間が『今日を精一杯生きる』とはどういうことなのかを描きたかった」と強調しているのだが、この作品ほど観る人に感銘を得るか、どうかが問われるでしょう。
2013年劇場鑑賞作品・・・98  映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング

ザ・マスター ★★★.5

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『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のポール・トーマス・アンダーソンがメガホンを取り、新興宗教サイエントロジー創始者をモデルに人間の深層心理に鋭く迫る問題作。第2次世界大戦後、精神に傷を負った元兵士が宗教団体の教祖と出会い、関係を深めていく様子をスリリングかつドラマチックに描く。教祖役には『カポーティ』のフィリップ・シーモア・ホフマン、元兵士役に『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』のホアキン・フェニックス、教祖の妻役に『ザ・ファイター』のエイミー・アダムスという実力派俳優が集結。息が詰まるような白熱した演技合戦に圧倒される。

あらすじ:第2次世界大戦後のアメリカ。アルコール依存の元海軍兵士のフレディ(ホアキン・フェニックス)は、「ザ・コーズ」という宗教団体の教祖ドッド(フィリップ・シーモア・ホフマン)に出会う。やがてフレディはドッドを信頼し、ドッドもフレディに一目置くように。そんな中、ドッドの妻・ペギー(エイミー・アダムス)は暴力的なフレディを追放するよう夫に進言し……。

<感想>冒頭での、ビーチでホアキンの奇行にまず驚かされる。砂浜に女体を盛りつつ戯れるホアキンの姿。狂える魂をさらなるハイテンションで演じ上げる彼に、このままどうなってしまうのか、と心配してしまう。だが、シーモア・ホフマンの不敵な顔がドーンと登場だ。
本作には二人の主人公がいる。一人は帰還兵のホアキン・フェニックス演じるフレディ。戦場で精神を損傷し、アルコール依存症となり奇妙な酒を造り続ける。無学で寡黙、言葉による想像力を欠き、肉体つまり暴力とセックスに訴えることが自分の存在証明となっている。
もう一人の主人公は、ベストセラー作家にして宗教家の「マスター」ことランカスター教祖ドッドを演じるフィリップ・シーモア・ホフマン。彼は、言葉に溢れていて、精神医学的な療法を独特の輪廻の理論に置き換えた、疑似科学を雄弁に語り、巧妙な心理療法で教団を拡大させていた。

しかし、彼らは本当に二人なのだろうか。確かにフレディ役とランカスター役の演技が迫真的なので、二人の個性が際立って見える。しかし、観れば観るほど、この二人は戦争のトラウマを抱えた同じ人物の葛藤する二つの面に思えてくる。
そのことを誰よりもマスターが直観したからこそ、彼はフレディが教団にとって危険な存在なのを承知の上で身内に引き入れたのである。フレディもやがてマスターが、自分がその分身でもある存在だと実感し、まさに分身として、非難する者に暴力をふるうのである。フレディの暴力性は、ランカスター・ドッドの無意識でもあろう。
これは戦争映画なのだと思う。戦場での狂気は内面化され、二人の対照的な人物により生きられる。マスターが提案する脱出法は、過去を置き換えること。それは、彼の船に乗り込み、教団の一員として生きることを意味する。しかし、フレディには戻るべき故郷があったが、彼は彼を待つ少女のもとに戻ることができなかった。
帰還兵はどこへ向かうのか。彼が調合した酒で、農場の老人が死んだとき、農夫たちから逃れるために、彼は大地を疾走する。マスターとの余興で、荒野をオートバイで疾走し、そのまま教団から離れてしまう。
面白いのが、映画の中でもっとも奇妙な映像で、マスターの取り巻きたちが裸で踊るシーンがある。まるでバッカスの酒宴のようなこの情景は、フレディとランカスターに対するイメージと、彼自身の性的鬱屈がもたらす幻影だろう。
もちろん監督がここで描きたかったのは、宗教そのものでも、教祖と信者の関係でもない。人間性の謎、そしてそんなわけのわからぬ者同士が出会ったときにもたらされる、劇映画の醍醐味ではないだろうか。
延々と広がる海原、農場、荒野を遠くへと逃れ続けるフレディ、このご時勢に50年代の質感を出すために、65ミリのフィルムにこだわりながらも、リアルというよりは幻想的な趣きの本作で、監督は何を訴えたかったのか。その答えは見る者の心のあり方で変わると思う。
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フッテージ   ★★★.5

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落ち目の作家が引っ越してきたとある殺人事件の現場となった一軒家を舞台に、のろいにまつわる恐怖体験を描いたホラー。『ビフォア・サンセット』『クロッシング』などのイーサン・ホーク演じる作家が、8ミリフィルムに殺人現場と共に記録されていた仮面の男と血の記号の謎にとらわれていくさまを映し出す。『エミリー・ローズ』『地球が静止する日』のスコット・デリクソンがメガホンを取る。凄惨(せいさん)で不気味な殺人事件の映像や、ストーリーを追うごとに深まる謎に背筋が凍る。

あらすじ:作家のエリソン(イーサン・ホーク)は、妻と子どもの一家4人で郊外の家に転居してくる。そこは一家が首をつるという残酷な事件の現場となった家で、エリソンは事件に関する新作を書くために越してきたのだった。その夜、エリソンは屋根裏部屋で映写機と8ミリフィルムを見つける。フィルムには楽しそうな家族が、一転して首をつられていく様子が記録されていた。

<感想>もしもこの映画についてどんなホラーなのか、と聞かれたら、「シャイニング」と「リング」と「呪怨」を混ぜこぜしたような感じかなぁ、と答えるだろう。こんなふうに過去の作品を引用しておおまかなイメージを伝えられるのが、ホラー映画というジャンルの便利なところだと思う。
しかしながら、用意周到かつ濃密に撮られた本作品の魅力は、それだけではとうてい表現しきれず、さらなる見どころや優れたディテールを吹聴したくなるのが本音だろう。
まず興味深いのは、実録犯罪ミステリーのテイストが取り入れられていることである。猟奇事件専門のクライム・ライターである主人公エリソンは、捜査本部に仕立てた書斎の壁一面に、写真や地図などの資料を貼り付け、ある未解決事件の真相究明に乗り出す。
しかも、エリソンの新たな引っ越し先は、“一家4人が首吊り殺人事件“の犯行現場となった一軒家なのだ。また題名の「フッテージ」とは、この家の屋根裏から発見されるコダックのスーパー8フィルムを指している。
迷宮入りした一家惨殺事件、失踪した少年少女たち、殺人現場を記録した年代の異なる、5つの殺人事件が記録されたそれらは、不幸を招くスナッフ・フィルムである。
悪魔を崇拝する異教、・・・と米国に流布する都市伝説が巧みに散りばめられ、不気味なリアリティを醸し出している。
これはエリソンの息子が癲癇の発作を起こして箱の中から出てきたところである。これにはびっくりさせられました。息子や娘にはこの屋敷の庭の木で首吊りされていた家族の亡霊が見えるのだ。
それからこの映画の恐怖をそそるのが、家の中の暗さですね。それと主人公がフィルムを映写機にセットする際に生じる機械音や、摩擦音、映写中のリールの回転音、デジタル時代の現代にあえて手触り感のあるアナログ素材ゆえの恐怖に、思わず目を背けたくなる。
それに、音響効果を強調し、前世紀の遺物たる8ミリをモチーフにしたこの映画は、世界をパニックに陥れたJホラーの最高傑作「リング」をヒントにしたものだが、米国各地で起きた未解決事件と結びつき、神経を逆なでする怖さがある。夜、一人で映画が観られなくなりそうですね。

かくして「リング」さながらの呪いのフッテージに取り憑つかれた主人公は、「シャイニング」のジャック・ニコルソンばりに狂気をみなぎらせていくわけだが、・・・身の毛がよだつホラーサスペンスに仕上がっている。
本作をクライムスリラーならぬ純然たるホラー映画にしている重要な要素は、画面の異様な暗さである。とりわけ初めの主人公一家が夕食を囲むシーンから始まり、昼間でも太陽の日差しが差し込まないのか暗い。それは綿密に練られた光と闇とのコントラストにゾクリとさせられるのだが、とにかく暗闇が多くてホラーの様式へとこだわりぬいているのだ。

その一方で、主人公がパソコンに取り込んだフッテージを解析するうちに、殺人の記録フィルムが、“心霊動画”へと変換されていくところなど、当然ながら事件の全貌を知り尽くしている主人公の身も安泰ではない。

ラスト近くで、暗がりの中「呪怨」の男の子そっくりの子が出て来るのにニヤリとした。日本のオカルトホラーも捨てたもんじゃないと思った。とにかく、中盤からこの屋敷で起こる怪奇な出来事が、人間の仕業ではないことを主人公がまだ信じていないことだ。だから、この家から脱出して元の家へ引っ越ししても、悪霊は憑いてくる。それも娘に取り憑いているのだから。そんな理不尽なラストシーンは、もはや感動的でもあります。
2013年劇場鑑賞作品・・・100  映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング

探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点 ★★★★

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作家・東直己の「ススキノ探偵シリーズ」を大泉洋と松田龍平主演で映画化し、ヒットを記録した『探偵はBARにいる』の続編。大泉演じる探偵と松田ふんするマイペースな相棒・高田の凸凹コンビが、友人が殺害された真相を探るため奔走する。前作に続き監督は橋本一、脚本を古沢良太と須藤泰司が担当。前作よりもハードなアクションが盛り込まれた展開や、難事件解明に挑む探偵と高田の息の合ったコンビぶりに胸が躍る。

あらすじ:探偵(大泉洋)がよく行くショーパブの従業員で、友達でもあるオカマのマサコちゃんが殺害される。捜査が進まない中、「マサコちゃんは政界の闇に触れて殺された」といううわさを耳にした探偵のもとに、彼を尾行してきた女から事件究明の依頼が舞い込む。友達の死の真相を探るため、探偵と相棒の高田(松田龍平)は、再び札幌ススキノを駆け巡る。
<感想>ずっこけ探偵に恋の予感が?・・・夜の街を愛する探偵、付かず離れずの相棒、お色気&アクション、美女とのロマンス。ハードボイルな世界を現代的にアレンジした『探偵はBARにいる』待望のシリーズ第2弾。

今回も大泉洋と松田龍平の迷コンビが札幌で起きた難事件に挑む。今回のヒロイン尾野真千子が、探偵に仕事を依頼する人気ヴァイオリン奏者の弓子役で登場。ヴァイオリン奏者は表の顔で、普段は関西弁のおばちゃんキャラ。北海道日報の記者で、田口トモロヲも常連で登場し、弓子の過去を調べて殺されたマサコとの関係を知ることになる。
クライマックスのラスト近くの重要なシーンで、探偵が体を張って「依頼人を守るのが探偵の仕事だ」と決めゼリフを言う大泉洋。そこで彼女の涙を効果的に使っているんですね。かなりのロングショットでもかかわらず、涙の粒がきらめきながら落ちていくのが見えて、どんな言葉よりも深い感動を覚えました。

この涙に到達するまでに、観客は様々な感情が湧き起る場所から場所へと猛スピードで連れまわされる。今回、探偵が引き受けた仕事は、オカマバーのマサコ(ゴリ)が惨殺されてゴミ集積場に捨てられていた事件の真犯人を見つける事。尾野が演じるバイオリニストの依頼である。殺されたマサコは彼女の大ファンだったという。
いざ、ススキノから室蘭へと、ロードムービー風な展開もあり。高田が運転する高田号(光岡ビュート)は廃車されずに今回も無事に登場です。しかし、オンボロ車なのに、よく車検通ったもんだ。そのオンボロ車で高田、探偵、弓子の3人で、事件の鍵が隠された室蘭へと向かう。北海道ならではの広大な風景が旅情を盛り上げ、名物のジャガイモを天ぷらにした芋揚げ串刺しを食べつつ、それに前作で探偵に鼻をへし折られた右翼団体が、探偵への増悪から執念深く追い掛け回す。カーチェイスで拳銃発砲シーンもある。
探偵が酷い目に遭う展開は、もはやお約束になっている。前回は雪穴へ生き埋めだったが、今回はスキージャンプ台での宙ズリ。スタントなしで洋ちゃんが跳ぶシーンにハラハラさせられたわ。
アヴァンタイトルの約15分で、殺人事件の概要を説明しつつ、探偵や助手の高田(松田龍平)らのキャラクターも簡単に紹介する。その語り口が実に手早い。映像はマジックの全国大会に出場したマサコを映し、探偵のナレーションが入る。「マサコちゃんは見事に優勝し、2日後に殺された」得意の絶頂から奈落の底へと。ナレーションと映像のバランスが鮮やかである。
そこから観客は笑わされ、ハラハラさせられ、縮み上がらされ、驚かされる。そうするうちに、映画が始まった時には、予想もつかないところへと連れて行かれる。そして最後には、ヒロインの尾野真千子の涙で爽やかに泣かされるのである。

この映画の最大の魅力は、探偵と助手の高田との掛け合いである。前作からバディものとしてすでに高い完成度があった。今回は前作がヒットしたという作り手の自信も影響しているのだろう。2人のキャラクターがよりパワーアップしていると感じた。
もちろん多様性があるのは主役たちだけではない。中でも最も複雑なのは渡部篤郎が演じる革新政治家である。彼は脱原発政策のリーダー的存在なのだが、清廉潔白とはいえない裏面を持っている。事務所に乗り込んできた探偵に向かって彼はこう言い放つ。「有権者が求めているのは善良なお人好しじゃない。あらゆる手段を使って目的を遂げる強さだ。でなければ時代は変えられない」と。これほど今の日本の政治家に突き刺さる言葉がほかにあるだろうか。
若頭の松重豊さんも登場しますよ。それと、いつも行く喫茶モンテのセクシー娘、パンツ丸見えのミニスカ姿で、探偵に迫るところも一緒です。ここのケチャップ大盛りナポリタン、マズそうに見えました。
そして、探偵大泉洋ちゃんのお初のベッドシーンも、麻美ゆまの美乳が揺れて、濡れ場もバッチシ見られますからね。この為に洋ちゃん体鍛えたそうです。いい体してたわ。今回も静かなる男、高田くんの殺人キックが炸裂!、探偵が絶対絶命のピンチに陥ると現れる空手の達人高田くん。ハイキックに回し蹴りで、暴漢どもを一網打尽。できればボコボコにされる前に現れて欲しいと探偵は願っているが、高田君はバイトなので無理強い出来ないのよね。
今回の白マスク集団に襲われるシーン、路面電車の中ですし詰め状態でのバトルでは、恐怖さえ感じました。119分と言う時間の中に、よくこれまでのことを盛り込めたものだ。しかもどの要素もほぼ過不足がない。どのエピソードも密接に絡まり合って、浮き上がったところがない。どの登場人物にもリアリティがあり、生き生きと呼吸する場が与えられている。ここにエンタテインメント映画のあらゆる要素が詰まっていると観た。面白かったです。
2013年劇場鑑賞作品・・・101 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング

県庁おもてなし課 ★★★

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「図書館戦争」などで人気の有川浩の小説を、『阪急電車 片道15分の奇跡』の三宅喜重監督と脚本家・岡田惠和の再タッグで映画化。高知県庁に実在する「おもてなし課」を舞台に、職員たちが高知の観光振興のためひた走る姿を描く。主演は関ジャニ∞の錦戸亮、彼と一緒に数々の難題に立ち向かうヒロインにはNHK連続テレビ小説「梅ちゃん先生」の堀北真希。共演には高良健吾、関めぐみに加えて、ベテラン船越英一郎らがそろう。
あらすじ:観光の促進を円滑にするために高知県庁は「おもてなし課」を設立。若手職員・掛水(錦戸亮)を中心としたメンバーたちが何をすべきかわからず困惑していると、地元出身の作家・吉門(高良健吾)から役所気質と民間感覚のズレを痛烈に批判される。発奮した掛水は柔軟な発想力を持つアルバイトの多紀(堀北真希)と共に、本当のおもてなしを見つけ出すべく奔走する。

<感想>作家・有川浩が高知県庁に実在する「おもてなし課」をモデルにしたというが、地元出身の有川が高知県親善大使に選ばれたことからアイデアが生まれたという。フィクションと現実が融合したユニークな内容です。空気の読めない県庁の若手職員の掛水を演じる錦戸亮くん、「ちょんまげぷりん」以来ですよね。イケメンで爽やかで関ジャニ∞メンバーの中でもダントツにいい男です。それに多紀を演じる堀北真希ちゃんとの淡い恋愛劇もいい感じで、そこへもう一組のカップル高良健吾と関めぐみの恋愛模様も含めて、高知県の魅力を満喫させてくれる。中盤で二人の高知県をガイドするアニメが投入されてます。

高知県とくればやっぱ私には「坂本竜馬」ですし、観光名所は「はりまや橋」と海岸の竜馬像にともっとたくさんあったと思うんですが、20年前に四国観光で行っただけなので、高知県限定で旅行したことはないです。それでも、この映画の中では、高知県をみんなに知ってもらいたいという「おもてなし課」のみんなが一生懸命にPRする。他にもたくさん高知のいいところがあるんだと、頑張っている。

やっぱり主人公の錦戸くんに一番目がいってしまうのは仕方がないことで、高知の女は気が強いと聞いていたが、なんと清遠の娘、佐和に玄関前でバケツの水を掛けられ、挙句に平手打ちをくらうとは、実に草食系男子の見本。それと、堀北真希ちゃん演じる多紀が、自転車で通勤するのにその速さといったら、それにも負けている掛水。クリーニングの代金で佐和とやりとりするシーンや、吉門喬介演じる高良健吾が実は佐和とは義理の兄妹だったということも。

何年ぶりかで育った家を訪ねてきた高良健吾に、本当は一番会いたい人で恋もしているという感じを、空気の読めない掛水が佐和を追い掛けて慰めるのに、平手打ちをお見舞いする気丈さに、高知の女は気が強いし酒も強いと見た。
その帰りの車の中で喧嘩をする掛水と多紀。これも男ってどうして女の子の心が分からないのかと観ていてそう思った。でも、途中で降りて電車で帰ると強がり言っていた多紀も、思い直して迎えに来た掛水を許してあげるのも男と女のラブストーリーですよね。語尾にニャア、ニャア付ける高知弁も何だか愛嬌があっていいです。

かつて県庁職員だった清遠の船越さん、独創的なプランで「パンダ誘致論」を強く主張し、上層部と対立し県庁から追い出されてしまった。現在は民宿経営と観光コンサルタントを務めているのだが、清遠から提案されたのは、自然に恵まれた「県全体のレジャーランド化」という斬新な構想だった。そのアイディ料として500万円出せとは。掛水は清遠の勧めで候補地に足を運び、パラグライダーで空の上から、高知の自然美を満喫。それに四万十川の川下りに、高知城といった観光ガイドとしても楽しめる作品ですよ。また、野菜、鮮魚、雑貨などゴッタ煮感覚で売られている高知市の日曜市がお祭りみたいでいい。それと掛水と多紀が食べるアイスクリンに芋揚げとか、大自然とおもしろ名物高知のウマみがぎっしり詰まっていて、行ってみたい高知県ですよね。
その「レジャーランド計画」なるものには、道路の整備や、トイレの整備とか難題が山積で、資金の問題が浮上してさらには上層部の命令で清遠が身を引くことになるのだが。アイデアはいいのですが、別に清遠さんがいないとダメなわけでもなく、高知県事態たくさん観光するところあるし、うまいもんもあるし、問題ないのじゃないかしらね。
2013年劇場鑑賞作品・・・102   映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング

聖☆おにいさん ★★★

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『荒川アンダー ザ ブリッジ』でも知られる人気ギャグ漫画家・中村光が、東京の立川でなぜか2人一緒にバカンスを過ごす“聖人”コンビ、イエスとブッダを主人公に、彼らが下界で繰り広げる生活感あふれる日常の日々を究極のカルチャー・ギャップとそれぞれの宗教や逸話にまつわる小ネタギャグを織り交ぜ、ほのぼのとしたタッチで綴った同名大ヒット・コミックスをアニメ映画化。声の出演はイエス役に「モテキ」の森山未來、ブッダ役にミュージシャンとしても活躍する星野源。監督はTVアニメ「THE IDOLM@STER アイドルマスター」でシリーズ演出を務めた高雄統子。

あらすじ:お笑い好きで無計画な浪費家のイエスとお金に厳しく慎重派のブッダ。世紀末を無事に超えた2人は、立川のアパートをシェアして下界のバカンスを満喫中。地元商店街の人々との交流を通じて様々な風習や文化に触れ、庶民の生活と日本の四季を堪能していた。しかし、お忍びで下界に来ている2人は、大家の松田さんにニート疑惑を持たれたり、油断しているとすぐに奇跡を起こしてしまったりと、そのほのぼのライフにはスリルとワンダーが詰まっていた。

<感想>漫画家・中村光の人気コミックをアニメ映画化したもの。イエスとブッダの聖人コンビが庶民的な生活を送りながら、日本の文化や四季を堪能するようすをコミカルに綴っている。イエス役には森山未來、ブッダ役に星野源といったボイス・キャストの配役も魅力的でよかった。
イエスとブッダは、風呂なし&ペット禁止の格安アパートに暮らしている。天界にいたときから、旅行雑誌で地上の下調べは万全のイエス&ブッダ。有給休暇をとり、地上でバカンスを過ごすことになるのだが、戒律により飲酒できないブッダは、ニンアルコール飲料を堪能。
特売品を求めてスーパーへ。だが、イエスの寄り道のせいで買い逃すありさま。銭湯を初体験。あまりの心地よさに復活以来の“生き返り”を実感する。2人は神のパワーで起こしてしまう奇跡を隠しながら、日本の生活に馴染んでいくのである。
背景の東京立川周辺の四季折々の景色が、のどかでシンプルだけど温かい町並みを感じるのがいい。
2013年劇場鑑賞作品・・・103  映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング


魔女と呼ばれた少女  ★★★

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アフリカの少年兵問題をテーマにしたドラマ。紛争が泥沼化する一方のコンゴ民主共和国を舞台に、拉致されて反政府軍の兵士となった上に亡霊が見える力に目覚めた少女がたどる波乱の運命と恋の行方を見つめていく。メガホンを取るのは、カナダのキム・グエン。ヒロインのコモナには、監督が自ら選んだ新星ラシェル・ムワンザ。機関銃を構える兵士と恋に胸を弾ませる少女、二つの顔を見事に演じ切り、ベルリン国際映画祭とトライベッカ映画祭で主演女優賞を受賞している。幻惑的な映像も見どころだ。

あらすじ:紛争終結の兆しがまったく見えない、コンゴ民主共和国。水辺の村でのどかに暮らしていた14歳の少女コモナ(ラシェル・ムワンザ)は、突如として反政府軍に拉致されてしまう。反政府軍の兵士としてゲリラ戦に駆り出される彼女だったが、亡くなった人々に導かれて戦いを勝利に導いていく。そんな亡霊が見える力に目覚めたことから、周囲から魔女として崇拝されるコモナ。
敵を撃つその銃はどこから来たのか、山から集める黒い石はどこへ行くのか、彼女は何も知らない。しかし、ふとしたきっかけで自分がいずれ殺害されることを悟ってしまった彼女は、恋仲になった少年と逃避行を繰り広げることに。

<感想>世界中の映画祭で高い評価を受けた、アフリカサハラ砂漠の南にある小さな村から、連れ去られた少女の運命をたどる衝撃作である。映画というよりドキュメンタリーに近い。現場そのものを撮影したのではないかと思えるリアリティー溢れる感じがした。
両親のもとから拉致され、脅迫と洗脳により反政府軍の少年兵にさせられた「ジョノー・マッド・ドッグ」(10)や、他にも両親が殺され少年たちが連れ去られ、銃をもたされて兵士になり人を平気で殺す映画「シティ・オブ・ゴッド」などを、たくさん観てきました。
しかもこちらはなんと少女。同様にか細い腕に銃を持たされ、麻薬で思考を封じ込められ殺人兵器に変えられた、無垢な子供たちのとてつもない悲劇を、ときにリアルに、ときには自らの手で殺すことになった両親の幽霊に導かれるような、メルヘンチックに描くなど、詩的な映像表現も見事です。

両親の射殺を強要された12歳の少女が、反政府組織のゲリラとして生きる物語はすこぶる魅力的だし、街頭で見つけたという少女コモナ・ヒロイン役のラシェル・ムワンザの力強い眼差しが凛々しく映っていました。だが、子共による残虐なシーンやセックスにカメラを背ける品行方正ぶりは、子供に見せても安心であるかと思うのだが、反政府軍の男たちが少女を女として性の処理に使っているのは許せないと思う。

物語の展開として、組織リーダーから囲われて、男を惹きつける魔女として生きる主人公の妖艶さが、モノローグ以上には伝わってこないのも残念です。ヌボ〜と佇む亡霊たち、ヒロインと恋に落ちるアルビノ少年など、ムードもビジュアルも寓話的なものにしている。だからなのか「小さな恋のメロディ」ともいうべきボーイ・ミーツ・ガールな展開にも微笑ましく感じられ、殺伐とした戦場で、いじらしい恋物語まで描く細やかさにも心が震えます。
だが、麻薬やレイプでがんじがらめにされて、幼い手に銃を持ち殺し合い、兵士としての証として、親にさえ銃口を向けさせられる非情さ。児童兵の描写には一気にガツンときます。血と汗と喧騒が渦巻く映画を期待すると、肩透かしをくらいますよ。この映画では、立派な大人が理不尽な行いで幼い子供たちを兵士に仕立て上げ、戦争の道具として小さな命を犠牲にする。戦争の愚かさに気付かない大人たち、自分の国をこれからの世代を担う子供たちに対して、こんな愚かな行為をするとは本当に情けなくて涙が出ます。「犠牲者はいつも子供たちであること」、というメッセージが込められていると思いますね。
2013年劇場鑑賞作品・・・104  映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング

チレラマ CHILLERAMA  −★

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原題「Chillerama」2011年アメリカ、4人の監督が作った低予算、低レベルのくだらないB級、いやC級短編映画4本です。なんでも、タランティーノとロドリゲスが大金をかけて「グラインドハウス」を制作したって、だったら俺たちが真の「グラインドハウス根性」を見せてやろうじゃないか、と思ったかどうかはわかりませんが、絶対に思ったに決まってますよ。この「チレラマ」はB級魂があふれるオムニバス映画である。
全4話の監督を務めるの面々は、「フローズン」のアダム・グリーン、「クライモリ デッド・エンド」のジョー・リンチ、「スモール・ソルジャー」脚本のアダム・リフキン、「2001人の狂宴」監督のティム・サリヴァンです。いずれも血と内臓が乱れ飛ぶエクスプロイテーション映画に魂を売り渡した強者ぞろいです。アダム・グリーン監督作の「フローズン」は見ましたが、他は見てません。
ホラー・オムニバスの金字塔「クリープショー」と同様、「チレラマ」では「ゾンBムービー」という物語が本編をサンドイッチするという形式。この「ゾンBムービー」からして、最後のドライブイン・シアターが最終興行を打つという、内容なのだから。
そう、この作品は、一見お遊び感覚で、「グラインドハウス」ごっこを楽しむ映画に見えるが、根っこの部分ではB級エクスプロイテーション映画人の心意気がメラメラと燃え盛っているという。

問題を抱えた場末のドライブイン・シアターを舞台に物語は進みます。いよいよ今晩でシアターが閉館となり、上映する映画は1本目がこれ。
巨大な精子が街を襲う!「精子怪獣ワジラ」監督:アダム・リフキン
ある男の精子がよれよれの?匹で、博士がその精子を元気にしてやろうと薬を開発します。その薬を飲んだ男は、薬の副作用で巨大化した精子が大暴れ!・・・その精子が女性の股間に飛び込むし、どうやら濡れた場所を好むらしいのだ。そして、どうなったのかというと、その巨大な精子が自由の女神像をレイプするって、どういうこと。軍隊が出動して大砲をドカーンと。そうそう将軍役にエリック・ロバーツが、こんなに落ち目にになっているなんてね、妹なんとかしなさいよ。こんな映画金払って見るもんじゃないよ。でも後3本あるんだからさ。

次は、「ヤングクマ男の絶叫」監督:ティム・サリヴァン
主人公は、自分を助けてくれた不良に夢中になります。ところが、その不良は、まるで狼男のように熊に変身してしまう『熊男』だったのです。彼におしりを噛まれた主人公の運命は…。おしりを噛まれて目覚めちゃった!
唐突にはじまるハイスクール・ミュージカル的展開に爆笑必至。ゲイのミュージカルですな。主人公には彼女がいたのですが、脳みそが飛び出しバカになってしまい、母親には「実はお前はガチホモなんだよ」と宣告されるしで。クールでカッコいい男たちにおしり噛まれるて、ゲイになってしまうという落ち。
で3番目は、「アンネ・フランケンシュタインの日記」監督:アダム・グリーン
フランク家に隠されていた日記は、禁断の蘇生実験記録だった〜という。ヒトラーが人造人間を造る話です。
隠れ家に見を寄せ合っているアンネ・フランクとその家族のところへ、ナチスがやってくる。アンネたちはその場で殺されてしまいます。実は、ヒトラーは、ある1冊の日記を探していて、それが、『アンネ・フランケンシュタインの日記』だったのです。そこには、ユダヤ人フランク家に代々伝わる人造人間の作り方が書かれていたのである。フランケンシュタインを短くしてフランクなのか?・・・そしてちょっと可愛い怪人ゴーレムが生まれた。
最後が最悪、うんこゾンビです。今までの映画が上映されているシアターで最後がうんこ映画なんて、あほですから。今からサプリミナル効果で便意を催す映画をですね、・・・これは本当に嫌な予感がした。そんなバカな映画を観ている間にゾンビウイルスが蔓延して、売店のポップコーンの中にあの1番目の精子強壮剤が原因なんですよ。だから、ポップコーンを食べた観客が一斉にゾンビ化して、襲うというよりもゾンビが欲情してセックスの乱交パーティだ。血というよりも蛍光色のゲロや血か?・・・よく分からんこんな映画。
ストーリーもそれぞれサイテーで、巨大化した精子はかつてのアトミック・モンスターのように人類に襲い掛かる。「心霊移植人間」ならぬ「ティーンエイジ熊人間」は、ホモと化して男の尻を求めて、夜道を徘徊する。ヒトラーは、アンネ・フランクの隠れやから発見した文書に基づいて、人造人間を作り上げる。と思ったら、ゴーレムだった。そしてうんこゾンビが映画館に溢れかえる。本作は安っぽくて下品で、劣情に訴え、観ている人たちに怒りと憤慨を起こさせる、B級映画、低俗映画、観終わって何もなし。
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バッド・アス ★★

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世界中で話題騒然の激ヤバYouTube動画を映画化した、一触即発のガチンコ・アクション! このジジイ、スゲぇ!
フランク・ベガ…ダニー・トレホ(廣田行生)
ウィリアムズ市長…ロン・パールマン(手塚秀彰)パンサー…チャールズ・S・ダットン(立木文彦)
監督:クレイグ・モス製作:アッシュ・R・シャー

ベトナム戦争で受けた心の傷が癒えず、初老になった今でもひとり孤独な日々を送る帰還兵フランク。ある日、バスでチンピラが老人に絡んでいるところに遭遇。見かねた彼はチンピラを殴り飛ばして撃退するが、その時の映像がYouTubeにアップされて、一躍町の有名人に。町のヒーロー“バッド・アス"と呼ばれるようになった彼は、その後も悪党を倒して住民を助けていくが、いつの間にかマフィアとの壮絶な全面戦争に突入してしまう……。
<感想>劇場未公開作品、悪人役ばかりだったダニー・トレホが、あの「マチェーテ」で一躍有名になった。本作では、悪人オッサンや若者が世の中の悪党に逆襲する「自称ヒーロー」映画というのは、いつの世にもそれなりに需要があるというもの。そんなジャンル映画に、ここ数年は1か月に1本ペースで出演作がリリースされる、ダニー・トレホが髭オヤジで登場する物語。
さて内容はいかに、ベトナム戦争で負傷したフランク、面接へ行けば大学卒じゃないとダメとか、何か資格を持っているのかとか言われ、就職も出来ずホットドッグを売り続ける毎日。それでも、傷病手当が出るのもどん底人生。そして、母親も亡くなり、戦争で自分を助けてくれた友人と生活するようになる。
ある日のこと、バスの中で老人に絡むチンピラを叩きのめして、バスに乗っていた若者がYouTubeにアップして、たちまち町のヒーローになってしまう。
だが、その友人がタバコを買いに行くといい、その後悪いヤツラに絡まれて死んでしまう。その時友人からメモリーカードを預かるが、その日から正体不明の男たちの襲撃を受けるようになる。そして、彼は独自に捜査を開始するが、・・・。
本作は2010年にカリフォルニア州オークランドで実際に起こった、バスの中で67歳の爺さんが若者をブッ飛ばす動画が、YouTubeにアップされて、膨大な再生回数を記録した事件をベースにしているという。
かなりご都合主義的な展開ではあるものの、虐げられてきた弱者が、ある事件をきっかけに人生を取り戻していくストーリーは悪くないと思う。年老いても正義のために、若者にもの申すと言わんばかりに立ち向かっていく姿。でも、拳銃で撃ってこられるのは勘弁して欲しい。それでも、友情あり、恋もあり(水色のスーツ姿で)ユーモア満載のアクション篇。
ところがですよ、一か所だけ悪党に襲われてメモリーカードの実態を知るため、その男の手首を台所のデスポーザーの中へと、グロイシーンもあります。
それから、本作のウリであるクライマックスのバスチェイスが、シュワちゃんの「レッドブル」のフィルムをそのまま流用しているようなのでびっくり。悪党がバスを乗っ取り、すかさずダニー・トレホもバスを借りて運転し追いかける。だが、トレホのバスが横転してしまう。悪党のバスも突っ込んでしまい怪我をする。
しかしだ、実際に見比べてみると、バスの破損場所から、街の破壊箇所まで完全に一致しているのだ。バスの行先はCGで書き換えてはいるが、バスのナンバープレートの番号が同じなので、これはもう言い訳のしょうがないでしょう。
映画の内容の出来はあまりパットしませんが、いくら低予算でもここまでするとはヒドイですよね。「マチェーテ」で人気復活したダニー・トレホ主演の映画なので観たのに、残念です。それにあご髭いらなかったのに。
2013年DVD鑑賞作品・・・28 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ

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