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舟を編む ★★★★

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2012年本屋大賞で大賞を獲得し、2012年文芸・小説部門で最も販売された三浦しをんの『舟を編む』(光文社・刊)。

言葉の海を渡る舟ともいうべき存在の辞書を編集する人々の、言葉と人に対する愛情や挑戦を描いた感動作を、「剥き出しにっぽん」で第29回ぴあフィルムフェスティバルグランプリを受賞、「川の底からこんにちは」が第60回ベルリン国際映画祭フォーラム部門に招待されるなど国内外から評価される石井裕也監督が映画化。言葉に対する抜群のセンスを持ちながら好きな人へ思いを告げる言葉が見つからない若き編集者を「まほろ駅前多田便利軒」の松田龍平が、若き編集者が一目惚れする女性を「ツレがうつになりまして。」の宮崎あおいが演じる。(作品資料より)

<感想>一冊の辞書を完成させるのに、どれだけの時間を要するのか?・・・直木賞作家三浦しをんの本作に登場する中型辞書、今を生きる辞書を目指している『大渡海(だいとかい)』は見出し語が24万語という大規模なもの。それは企画から出版までに何と15年の歳月が流れる。
出版社の中で“変人”として持て余される存在だった主人公の馬締光也が、言葉を独自の視点でとらえるその才能が買われて辞書編集部に起用され、言葉集め、語釈執筆、組版、校正に次ぐ校正、・・・と気が遠くなるような作業を地道に進めていく姿が描かれる。口下手な主人公が編集作業の傍ら、下宿先の大家の孫・香具矢に惚れて、「恋」という言葉の語釈に悶々としながら取り組む様子が笑いを誘う。「川の底からこんにちは」で注目を集めた新鋭・石井裕也監督が、派手さのない物語の中に仕事に打ち込む人々の熱い想いを織り込み、手堅いドラマにまとめ上げている。
辞書編集部の面々には、編集主任の荒木に小林薫、地味な作業を苦手とするチャラ男・西岡にはオダギリジョーが、パートのおばさんに伊佐山ひろ子、監修の松本には加藤剛という大御所が演じて盛り上げる。それに、女性誌から異動してきた黒木華演じるみどりに、荒木が原稿の間違いを指摘するシーン。後もう少しというところだったのに、また初めの「あ」行から校正のやり直しチェックなのだ。

辞書作りの大半は、机に向かう座業。それを動く絵にするのは難しかったと思う。面白さの一つは、辞書作りの過程を丁寧に見せてゆくプロジェクトX的な展開だろう。「右」という言葉の語釈をスタッフが検討してゆくところなど、なるほどここまで考えるのかと驚く。普通の人間が考えるのは「多くの日本人が箸を持つほう」だと思うのだが、編集部監修の先生(加藤剛)が言うには「10という数字の0の方」と語釈して見せる。なるほどと思えるのだが、それでは「10」の語釈はどうなるのかと心配になる。
中でも新米の馬締が恋をして、その「恋」をどう説明するか議論している。しかし、「10」や「恋」を辞書で引いてみる人間がどれだけいるかは疑問だが、現代の辞書はあらゆる言葉を載せようとする。この作品でも、編集方針は流行語まで拾おうとするから大変な作業になり、完成まで15年かかっている。だから、旧社屋の倉庫だと思われる狭い部屋で、黙々とたくさんの資料を前に新しい辞書を作るのに精を出しているうちに、熟練編集者は退職し、新米編集者はベテランになっていくのだ。
それと辞書編集部ならではの、「国語辞典」「英和・和英辞典」はもちろん「草原昆虫百科事典」とか「源氏物語事典」「ファッション事典」に「調味料事典」などあらゆる辞書・辞典が書棚にあるのが面白い。物語が進むにつれ、編集部のセットもパソコンの導入などで様変わりはするのだが、これら紙の山はいつの時代も変わらないのだろう。ラスト近くになると、撮影はそのセット内に5名の編集者と、エキストラを含めた校正作業のアルバイト役10名ほどが入り、すし詰め状態で本当にごった返しで大変なのだ。
お堅い難しい映画だと思ってしまうが、松田龍平演じる主人公の風変わりぶりが結構笑える。本の虫で、下宿家の1階は本棚に本がびっしりと並べられ、まるで古本屋さん。人と付き合うのは得意でない。大家の孫娘に恋をして、ラブレターを古文書のような巻紙に毛筆で、それも達筆なので読めない。だから「こんなの読めない」と返されてしまう。実際に、松田龍平もこの映画の中では物静かで、あまり自己主張を感じさせない風体で演じている。
中でも監修の松本を演じた加藤剛さん、若い人たちの俗語や略語、“マジ、ダサイ”とかもっとたくさんあるが出てこない。その若者ことばも羅列した今を生きる辞書を目指し、若者の合コンにも参加したり、居酒屋へ行き隣や後ろの座席で若者が話ている言葉を熱心にメモする姿勢に感服する馬締くん。

主人公の名前も馬締光也と、まさに名は体を表す名前の付け方は、現代の小説では珍しい。それと宮崎あおい演じる妻の名前も林薫具矢という、かぐや姫に例えたのかと思った。仕事は板前でいつも煮物の味見をさせられるが、ただ美味しいとしか言わない。
しかし、この映画を見ていると、馬締は浮世離れした変人どころか、自分の欲望に対して極めてストレートであり、その裏付けとなる信念を武器に周囲の人を巻き込んで、夢を形にしていく。かなりタフな精神力としたたかさを持った男なのである。
せっかく辞書作りが軌道にのってきたのに、上層部の判断で「大渡海」が発行中止の危機に。それを西岡が異動ということで、やっと来年の3月に発売が決定と、馬締がみんなに報告をするが、12月の31日、お正月も返上して徹夜作業で校正を仕上げる大変さ。みんなで力を合わせて成し遂げるというチームワークの力。言葉というものに取り付かれ、それに人生をかけて取り組んだ人々の苦悩やドラマが描かれている。最近はケータイやPCで調べてしまい辞書離れしているようだが、この映画を見て改めて辞書の有難さを痛感した。
2013年劇場鑑賞作品・・・73   映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ

ライジング・ドラゴン ★★★★

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ジャッキー・チェンが世界を駆け巡るトレジャー・ハンターに扮し、目もくらむ体当たりアクションの数々を見せる大型アクション・アドベンチャー。

ジャッキー自身が制作・監督・脚本も手掛け、共演には韓国の人気スター、クォン・サンウの他、ヤオ・シントン、ジャン・ランシン、リャオ・ファン、オリヴァー・ブラッドらが顔を揃える。
あらすじ:清朝時代、贅の限りを尽くして建てられた円明園。だが欧州列強の侵攻により邸は破壊され、美術品はことごとく略奪されてしまった。そして現在、円明園の遺物で国宝級とされる“十二生肖”は、その一つ一つがオークションで巨額で取引されていた。十二体すべてが揃ったらどれほどの値がつくのか?・・・。美術品ディーラー大手の社長ローレンスは、世界中のコレクターの元に散らばっているすべての像を手に入れるべく、伝説のトレジャー・ハンターJC(ジャッキー・チェン)に仕事を依頼する。注意:全篇ネタバレで書いています。ご了承ください。

<感想>ノースタントの本格アクションはこれが最後だと公言した58歳のジャッキー。本作は一片の悔いも残すまじという彼の気合が伺えるジャッキー・アクションの集大成を見せてくれます。まず度肝を抜くのが、冒頭のJC率いるチームが外国の軍事施設に潜入するシーン。まずはチームの紅一点でテコンドーの達人ボニー(ジャン・ランシン)がお色気で守衛を騙して潜入するんですが、サングラスで死角を見る。そして守衛室にある車の鍵を盗む時、わざわざ手ではなく足を使うんですが、ああ彼女は足技キャラなんだといっぺんで分かる。こんなのもジャッキー映画ぽいです。

でも手間暇かけて盗んだ鍵を使うシーンは一切描かれていない。次のカットでは、すでに潜入したジャッキーが、施設を警備する軍人たちに追い掛けられているシーンですから。何の目的で施設に潜入したのか分からないところがジャッキー映画っぽい。ここは、ジャッキーが全身に特殊ローラー・ブレード・スーツを装着して繰り広げる逃走アクションを堪能してくれってことなんですね。
ジャッキーがガラス窓を突き破って施設から脱出するところなんて「シティハンター」(93)のスケボーに乗ったジャッキーが、ガラス窓を破壊するシーンを思い出します。

人間ロケット状態で坂道を疾走。自分の身体スレスレに通り過ぎる車に手をバタバタ添えるアクション。これも「ナイスガイ」(98)でやっていた。カーブではバンクに膨らみ、爆走するトラックの下をすり抜ける。これは「五福星」ですよ。ほんの数センチのコントロールミスが命の危険に繋がるフルスピード・スタント。ジャッキーは意識していないと思うんですけど、こういう過去作を踏襲しつつもグレードアップしているところが凄い。

次のアクション・シーンの舞台はフランス。ジャッキーが上流階級の屋敷が所有する十二支の一体を盗み出すミッション。ここで、ジャッキーは宙に放り投げたガムを口でキャッチ、屋敷に忍び込むシーンとこれは「サンダーアーム」からのお約束ですね。そして巨大な書庫に入り、灯りをつけるわけにはいかないから、懐中電灯を使うのですが、そこへメイドが入ってくる。すかさず口の中へ懐中電灯を隠す。「ダブル・ミッション」でもやっている、頬っぺた越しに薄らと灯りが見えるのが素敵!彼には懐中電灯をポケットに隠すという選択技はないんですね。

財宝の場所なんですが、書庫にはからくりが仕掛けてあったのです。本棚のある部分に、隠し部屋に通じるスイッチがあって、ジャッキーはこういう仕掛けが大好き。ジャッキー・アクションで人気が高いのが、するするっと壁を登ったり窓から窓へと飛び移ったりする軽業スタント。ほんのわずかな突起や飾りだけを利用してあっという間に上階まで登ってしまう。それに屋敷の庭に作られた迷路で、番犬のドーベルマン軍団との追いかけっこ。

3番目に忍び込んだ邸宅の令嬢キャサリンがJCチームに加わり、南太平洋にある無人島へ。海賊相手のアクションはコミカル度満点。悪党の海賊の衣装がヒドイ。ジャック・スパロウのパロディがいたり、彼らが持っている武器もマシンガン、ロケットランチャーもチープで、暴力的にしたくないというジャッキーの意向かもしれませんね。海賊たちの顔が蜂に刺されて腫れ上がるメイクも笑える。深い穴に落ちたり、不発弾が落ちてきてハラハラしたり、崖から落ちそうになったジャッキー、ココ、キャサリン、の3人が足を掴んで数珠つなぎにシーンなんて、完全に「プロジェクトA2」で、マギー・チャンとロザムンド・クワンとやったことと同じ。せっかくお宝をゲットしても、海の中へと消えてゆく残念なシーンも。往年のハリウッドのドタバタ・アクションを彷彿とさせる楽しさ溢れる見せ場が続きます。

一転して、贋作工場でのクンフー・アクションは、これぞジャッキーの真骨頂ともいうべき迫力。ライバルのトレジャー・ハンター、ハゲタカに扮する「アルティメット」のアラー・サフィと、本格クンフー対決。ここでの戦いは二人がソファに座ったまま戦いが始まるんですよ。「ソファから離れたヤツが負け」というルールで。ソファからソファへぴょぴょんと移動していく、戦っていくうちにルールがユルクなる展開は本当にジャッキーぽい。

さらには次々と襲い来る敵を、ロールペーパーやストロボスタンドなど、様々な小道具を利用して撃退。目にも止らぬ技の応酬に思わず息を飲み、そのアイディアに感嘆してしまう。またこのシーンでは、ボニー役のジャン・ランシンの華麗なアクションの見せ場にも注目。実は彼女は中国テコンドー選手権のチャンピオンだそうです。工場内での戦いの最後は、巨大な機械にスイッチが入って爆発する展開もジャッキー映画ならでは。

そしてクライマックスは、地上数千メートルの上空で繰り広げられるスカイダイビングをしながらのバトル。火山口の上空でジャッキーとハゲタカ軍団が十二支の竜生肖を奪い合うシーン。以前はスカイダイビングだけだったのが、空中での格闘もやっている。凄い進化を遂げています。最後は、ジャッキーが火山の頂上から傾斜を転げ落ちてくる、デスウィッシュ・スタント。さすがに特殊効果も加わっているようだが、新たなアクションにも果敢に挑んで見せるチャレンジ精神こそが、ジャッキーの魅力の神髄なのだろう。

そして、本作にはあっと驚く人気スターたちがほんの小さな役で友情カメオ出演してます。ココの弟で敵に捕らわれてしまう青年には台湾のイケメン、チェン・ポーリン、ラストで産まれるって〜病院へ運ばれるデビッドの妻には、香港映画界の女優スー・チー。映画の中でジャッキーが電話で口喧嘩している相手、誰なのかなぁ〜と顔見せないんだと思っていたら、ラストに1カットだけ映るJCの妻役には、ジャッキーの実際の奥様であり、30年ぶりに映画出演となる女優ジョアン・リンが扮しているのも素敵。
本当に面白かった!どこを切ってもジャッキー映画の魅力が詰まっている金太郎飴みたいな映画でした。だから最初に観たときは、あえてセルフ・パロディをやっているのかな、って思ってたくらい。でもジャッキーはセルフ・パロディ的な部分もあるとは思うんですが、彼はこういう映画しか作れないんだと。つまり体に染みついたリズムで映画を作っているのだと、ゴキゲンなまでにワンパターンをやり続けるジャッキーが大好きです。
2013年劇場鑑賞作品・・・74   映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ

世界にひとつのプレイブック ★★★.5

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それぞれに愛する人を失い心に傷を負った男女が再生していく姿を、涙と笑いでつづるヒューマン・コメディー。オスカーで6部門にノミネートされた『ザ・ファイター』のデヴィッド・O・ラッセル監督が、人生の再起に懸ける男女をハートフルに描く。

主演は、『ハングオーバー!』シリーズのブラッドリー・クーパーと『ウィンターズ・ボーン』のジェニファー・ローレンス。さらにロバート・デ・ニーロ、ジャッキー・ウィーヴァーらベテランが脇を固める。
あらすじ:妻が浮気したことで心のバランスを保てなくなり、仕事も家庭も全て失ってしまったパット(ブラッドリー・クーパー)は、近くに住んでいるティファニー(ジェニファー・ローレンス)と出会う。その型破りな行動と発言に戸惑うパットだったが、彼女も事故によって夫を亡くしており、その傷を癒やせないでいた。人生の希望を取り戻すためダンスコンテストに出ることを決めたティファニーは、半ば強制的にパットをパートナーに指名する。(作品資料より)

<感想>ヒロイン役のジェニファー・ローレンスがアカデミー賞主演女優賞を受賞し、さらに彼女がステージに向かうときにつまずいて転んだこともあって、がぜん注目度が上がったのがこの作品。と言うわけでもないが、前から観たいと思っていたので、ミニシアターだけかと思っていたら、シネコンでも6日から上映してくれてよかった。実は今回のアカデミー賞では、主要部門すべてでノミネートされていたというのだ。
そうならどんなにすごい作品なのかと、期待してしまったのだが、内容はある意味、他愛もないどこにでもありそうなお話なのだ。最愛の人を失うことで、心が壊れてしまった男女が主人公で、家族や友人との交流やダンスを通じて、少しずつ希望の光を掴んでいく。

物語そのものは特に目新しいものではないが、とにかく面白い。正直いって、深く考えさせられるとか、人間の深層心理の複雑さを感じさせるといった要素はない。何だ、心に傷を負った二人が出会い、癒されるお話なんて他にもあるじゃないの、と思った。そう、どこにでもありそうな話がこの映画なのである。
「ダンス大会の成績は?」「パットと妻は元にもどるの?」とそれなりにハラハラもさせられ、結末の意外性もあるが、それでも結局は「やっぱりそうだよね」ダンス大会に向けて、二人が一生懸命練習するのを見て、息が合わないと上手く踊れないもの。それにしても二人の会話の早口な台詞にうんざり気味。その他の役者さんもそれに合わせて早口言葉で喧々囂々と台詞の応酬。母親だけゆっくりと話して貫録あり。
しかしながら、これは平凡な映画なのに何故アカデミー賞のすべての部門にノミネートされたのか?・・・実はここがもっとも興味深い点なのですね。それは楽しく面白くそれなりにジーンとなる場面が散りばめられてあるから。

主人公二人はもし自分の隣にいたら、けっこう迷惑なタイプなのだ。パットはキレやすく、ちょっとしたことが原因で喧嘩をしてしまうのだ。特にトラウマとなっているのが、スティーヴィー・ワンダーの曲の「マイ・シェリー・アモール」で、自分と妻の結婚式で流れていた曲でありながら、妻と別の男性との不倫を目撃した時にこの曲がかかっていたこともあり、曲が流れてくるだけで頭の血が逆流してしまう。

一方の、ティファニーは毒舌家で、相手の気持ちなどおかまいなしに、考えたことを相手にすべてぶっつけてしまう。さらにロバート・デ・ニーロが演じるパットの父親も面倒くさい性格で、彼はレストランの開業資金を稼ぐためアメフトのノミ屋をしている。地元のアメフトチーム、イーグルスの熱狂的ファンなのだが、イーグルスの勝敗に一喜一憂している。ちょっと変な主人公ばかりだが、みんな家族や友人たちと一緒にいると元気になれるし、観客としても欠点を抱えた彼らのことが好きになっていく。この世に完璧な人間などいるはずもなく、必死に今のダメな自分と折り合いをつけながら生きる姿を応援したくなるからだろう。
パットにしても、兄貴にコンプレックスを抱いているという設定だが、二人の壁はイーグルスの試合を見に行くことでわだかまりも消え、最後のダンス・コンテストでは、家族がパットに声援を送る絆が最高。

挫折を経験した息子がダンスで立ち直ろうとするのを応援する父だが、「息子が試合を見ないとイーグルスが負ける」という根拠のないジンクスを信じていて、パットと思わず言い争いになるのも何ともおかしな話である。
そして、イーグルスの試合の日にダンス・コンテストがあるのを、そのコンテストでの点数が5点を取れば勝ちという賭けまで友達としてしまう父親。確かにダンスが上手いとは決して言えないが、主人公の二人はコンテストの日、ティファニーが白いコスチュームで踊る姿が綺麗で、過去のトラウマから乗り越えようとする彼らの決意が感じられた。
ちなみにパットは最初っからダンスがやりたかったのではなく、ティファニーから「接近禁止令を出されている妻に、手紙を渡してあげる」という条件を提示されたのがきっかけだったのだ。その手紙の返事も、ダンスの練習を嫌々ながらするパットに、ティファニーが元気づけるように楽しい曲を選曲する。やっぱり手紙の返事はティファニーが書いたものだと、観客にも分かっていた。
最初は心の通わなかった男女が、ダンス大会という共通の目的のために練習を重ねるうち、次第に距離が近づいてくる感じも自然でよかった。その男女ふたりも、さえない面、歪んだ面もダンスの中では輝く瞬間もあり、とても魅力的。そして、テファニーが見せる切ない思い、後半のロマンチックな展開もステキで、とってもいい気分で席を立つことができた。
2013年劇場鑑賞作品・・・75  映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ

先祖になる ★★★★

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岩手県陸前高田市で農林業を営む77歳の佐藤直志さんが、東日本大震災からの復興に孤軍奮闘する姿を追ったドキュメンタリー。

2011年3月11日、佐藤さんは津波で家を流され、息子を亡くす。しかし、被災からわずか3日後にその年の米作りを決意し、5月には知人の田んぼを借りて田植えを始めていた。自活へ向けていち早く立ち上がった佐藤さんは、続けて山に分け入って大木を切り、元あった場所に自ら家を建てようと奮闘。
そんな佐藤さんの強い信念が、周囲にも変化を与えていく。震災から1年半にわたり佐藤さんに密着し、困難に屈しないひとりの老人の力を情感豊かに描き出していく。
監督は、中国残留日本兵の悲劇を描いてロングランヒットを記録したドキュメンタリー「蟻の兵隊」(2005)の池谷薫。

<感想>被災地に住む陸前高田市に住む老人の佐藤直志さんが、消防団員として老婆を背負って逃げる途中、津波の犠牲者となった息子と先祖の霊を守る、そのために絶対にここを動かないと、立ち退き要請も避難所も、仮設住宅も拒んで浸水した自宅に住み続け、同じ場所に自身で伐採した木で建て直すと宣言する。夫や舅にしたらちょっとやっかいだろうと思わせる筋金入りの頑固爺である。
妻も嫁も仮設住宅へ移り、ひとり残って天井からの雪の舞う納屋に暮らす老人が、布団に包まる姿を映す。眠れない時には、テレビの洋画劇場を見るというが、それがヘップバーンの「ローマの休日」とは。もう一度見たいと振り返る言葉に、老人の青春を取り戻したかのような表情が良かった。

震災をテーマにしたドキュメンタリーやドラマは珍しくはないが、この作品は「水があれば生きていける」という頑固な佐藤さんがチャーミングで、人間その土地で先祖代々生きることの普遍性に説得力があると思う。79年前に生まれ岩手県できこりと農業をし続けてきた一人の男性の姿と、言葉から発見するものはたくさんあり過ぎる。
時に荒れ狂う自然と共に、先祖からの土地に生きることを選んで家を再建する。

驚くべきは、息子が津波で亡くなった直後から、被災した家を新築すると決め、大木を切り倒していく有言実行な態度。その佐藤さんの力強い姿、生命力、揺るぎない信念、懐の大きな男ぶり、個人をみつめるという行為が、震災映画を超えたスケールの記録を生み出すとは。

農作業の四季の繰り返しが感慨深く、震災直後から一年経ち祭りが催され、その勇壮さを着実にカメラが捉える。山に入って木を伐採する時、家の棟上げの時、佐藤さんがなす身に沁みついた所作が、何度も映される。二礼二拍手一礼。酒を大地にふりかけ自らも一口いただく。
普通、初詣でなどでは二拍手と一礼の間であれやらこれやらと願い事かけたりするものだが、佐藤さんの場合は黙々と所作を遂行してみせるだけ。所作そのものが、長年繰り返されてきた動作そのものが、人の願いを飲み込んだ祈りとなっているようだ。
確かに、何かを願ったり望んだりしないと言ったら嘘になるだろう。先祖の地から動かないと決めた老人も、夢だと言って家を建て直すことを望む。だが、それ以上に、何かを祈願することのない動作そのものとしての祈り。茶を飲む姿を延々と見せられるのは辛いが、その積み重ねゆえに出来上がる家の気高い美しさは、格別なものである。
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人生、ブラボー! ★★.5

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過去に行った693回の精子提供を通して、ある日突然、533人の子どもの父親であることが発覚した男が巻き込まれる事態を、笑いと涙を交えて描くハートフルドラマ。

過去に「スターバック」という仮名で693回の精子提供を行い、その結果として生まれた533人の父親であることがわかった42歳の独身男ダビッド。ある日、弁護士を通じて533人のうち142人が、遺伝子上の父親の身元開示を求める訴訟を起こす予定だと知らされる。身元を明かすつもりは毛頭ないダビッドだったが、子どものうちの1人が、自分が応援するサッカーチームのスター選手であることを知ると、他の子どもたちにも興味がわきはじめ……。
多くの映画祭で高評価を得て、米国でのリメイクも進行中のヒューマン・ドラマ。監督はケン・スコット。出演:パトリック・ユアール、ジュエリー・ル・ブルトン、アントワーヌ・ベルトラン他。2011年、カナダの作品。

<感想>遺伝子上の子供が500人以上いるといっても、マスをかいて精子を700回近くも売った結果というのが、なんともおぞましい感じで、イマイチ素直に感動できなかった。甲斐性ゼロ、借金まみれ、それに恋人が妊娠しているという主人公だが、根はすんごくいいやつ。

脚本書いた人が保守的なのか、カナダって国が開けっぴろげな国なのかは分かりませんが、そんなふうにして勝手に子孫を増殖していいものなのか?・・・。提供した精子から生まれた142人の子供から、認知を求められる設定は面白いが、コメディならともかく、主人公が無造作に選んだ数人の子供に、ささやかな善行を施す天使気取りの物語。それを人生賛歌のごとく描いているのが不愉快です。

リストの中から抜き取った一人目が、イケメン青年でプロサッカー選手。我が息子でかしたと言わんばかりに、観戦にいき応援する束の間の父親気取り。次は俳優志望のこれもイケメン青年、アルバイトをしているバーに行き、オーディションの時間に遅れるというので留守番を引き受けるお人好し。その中にも、身体障害者の男の子の施設へ行き、食事の世話をする優しさも。
全員に均等の愛情を注げるわけもなく、自己満足の行動に過ぎない。精子を求めた母親たちの存在が不可欠のはずなのに、影もなく映さないし、子供たちの外見や仕草にも遺伝がほとんど感じられないのが不自然です。
それでも、誰も彼もが善人で、どこもかしこも慈愛満点なのだが、主人公の彼女の出産騒ぎに子供たちが駆け付けて、弟が出来たと喜ぶ顔が素敵です。
全人類的な問題を、一人の男に集約させた巧妙な作劇を、綺麗ごとで終わらせてしまったのも残念な気がしました。
2013年劇場鑑賞作品・・・77  映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ


ヘンリー・アンド・ザ・ファミリー★★★

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ジョーン・アーヴィングの小説を、ジャン=ピエール・ジュネが映画化したような新人デニス・リー監督の作風は、将来が期待できそう。

物語:シカゴ、母親と祖父と一緒に暮らす10歳のヘンリーは、写真記憶を持つIQ310の超天才児童だった。ある日、彼は祖父から秘密を打ち明けられる。母親パトリシアは、精子バンクを利用した人口受精によって彼を産んでいたのだ。しかも精子ドナーである生物学上の父親は近くに住んでおり、娘、つまり腹違いの姉がいるという。早速ふたりに会いにいくヘンリー。父親であるスラヴキン博士は、高名な心理学者だったが、彼が書いた本の影響で姉のオードリーは、レズビアンだと周囲に誤解されて、学校でイジメにあっていて、家庭崩壊の危機にあった。そんな中、ヘンリーは、パトリシアを交えて“家族”を一堂に会させるのだが、・・・。
<感想>だいぶ前に借りてきたのだが、レビューすることもないとそのままにしていた。ところが先日ミニシアターで「人生、ブラボー!」という映画を見て、そういえば精子バンクのお話って前にも観たと思いだしたわけ。
2011年、アメリカ制作。監督・脚本デニス・リー。アカデミー賞学生短編賞を受賞したものを、長編に拡大したもの。プロデュースはジュリア・ロバーツで撮影監督がジュリアの夫である、ダニー・モダーが担当と、ジュリア・ロバーツが、デニス・リーの才能に相当惚れこんでいることが伺える。
確かに、ジョン・アーヴィングの小説をジャン=ピエール・ジュネが映画化したような彼の作風は個性的で、将来が期待できそうですね。リー監督が韓国系なのにオリエンタリズムを全く感じさせないところも面白いです。
物語は、超天才児のヘンリーが1歳になる前に言葉を話し、写真記憶(目にしたものをすべて記憶できる能力)があるIQ310の超天才小年であり、10歳で大学生となってしまう。そのヘンリーが精子バンクへ行き、父親探しを始めるわけですが、やはり母親にしてみれば父親は必要ないと思って育ててきたわけで。しかし、ヘンリーは父親よりも自分と同じDNAを持つ姉がいることを喜んでいて、是非会いたいと願うんです。
ところが、その姉12歳のオードリーは父親と住んでいるのですが、性格が躁鬱状態で、機嫌が良いときは普通の女の子で、時には狂ったように奇声を上げて別人のようにも見える。その性格は、心理学者ある父親のスラヴキン博士の著書「同性愛は先天性か、後天性か」の表紙に、娘のオードリーの写真を使ったせいで、周囲にレズビアンと誤解され、学校でイジメにあっているわけ。だから父親との関係も悪化しているのです。
そんなリーの演出が、上滑りしていないのは、俳優陣の演技がしっかりとしているからだろう。パトリシア役のトニ・コレットは、「シックスセンス」の母親役の印象が強いが、この作品では神経質なフェミニストの母親を好演している。それに、スラヴキン博士のマイケル・シーンは「トワイライト・サーガ」のヴァンパイア貴族と同一人物とはとても思えない、鬱々としたキャラに成りきっており、英国舞台俳優恐るべしと思わせる演技が小気味いいです。祖父役のフランク・ムーアは、あまり知られてないがテレビ出演が多いそうです。それと、精子ドナーの受付の白人の男性が、自分は黒人だと信じているし、パトリシアの双子の兄たちのおかしな死に方もあるしで、コメディ作品なんだけど、少しシリアス感もある。
そして何よりも主人公ヘンリーを演じるジェイソン・スペヴァック君である。ファレリー兄弟の「2番目のキス」でジミー・ファロンの子供時代を演じてた子役なのだけど、もの凄く演技は巧いのにクセがないのが最高。彼の透明な存在感があるからこそ、クセだらけの登場人物たちが、疑似家族として結びついていく姿を、イヤミなく観る事ができるのですね。でも、残念なことに18歳のなったヘンリー役の、青年の顔も似てませんし、演技も何だかなぁ〜という感じでした。
2013年DVDレンタル作品・・・20   映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ

天使の分け前 ★★★★

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『大地と自由』『麦の穂をゆらす風』などのイギリスの名匠、ケン・ローチ監督によるヒューマン・コメディー。

スコッチ・ウイスキーの故郷スコットランドを舞台に、もめ事ばかり起こしてきた若者がウイスキー作りを通じて師や仲間と出会い、自らの手で人生を再生していくさまを描く。社会奉仕活動で出会った行き場のない者たちが繰り広げる痛快な人生賛歌は、第65回カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した。
あらすじ:いつもケンカばかりしている青年ロビー(ポール・ブラニガン)は、トラブルを起こして警察ざたに。しかし、恋人との間にできた子どもがそろそろ出産時期を迎えることに免じ、刑務所送りの代わりに社会奉仕活動をすることになる。まともな生活を送ろうと改心した過程で指導者のハリー(ジョン・ヘンショウ)に出会い、ウイスキーの奥深さを教えてもらったロビーはその魅力に目覚めていき……。

<感想>ケン・ローチ監督と言えば、自他ともに認める筋金入りの社会主義者。もともと、社会の底辺で生きる弱者を優しい眼差しと温かなユーモアで描く監督として敬愛されている人。だから、この映画はとても、ケン・ローチらしい作品なのである。
この作品の主人公ロビーは、ろくでなしの父親と兄を持ち、父の代からの宿敵一家といさかいが絶えない。少年刑務所から出たばかりで、仕事も家もない。真っ当な生活を送りたいと思っているが、暴力的な環境と社会がそれを許してくれない。環境に失業、暴力、刑務所・・・、いくつものキーワードが、ローチの最も好むキャラクターであることを示している。

いつもなら不幸な結末を迎えるのに、今回のロビーは幸運にも、彼を愛してくれる恋人と赤ん坊がいて、“尊敬できる大人”ハリーと出会う。そして人生大逆転のチャンスを掴むのだ。ハリーは、宿敵に絡まれて喧嘩沙汰を起こしたロビーが、裁判所から命じられた社会奉仕活動を行っている現場の指導者である。
仕事は壁にペンキ塗りとか、ゴミ拾いとか、お金にはならない。ウィスキーが大好きなハリーは、規則違反を犯して、休日にロビーや3人の作業仲間を蒸留所見学に連れて行く。それがきっかけで、ロビーはテイスティングの才能に目覚める。もちろん勉強もした。そして蒸留所で聞いた「天使の分け前」=樽で熟成中のウイスキーは、1年で2%ほど蒸発して失われるーーという言葉から、ある計画を思いつくんです。
実はこの計画、100万ポンドの高値で落札される樽入りの最高級ウィスキーを、樽の中から数本分だけ盗んで“コレクター”に売るという、れっきとした犯罪なんですから。しかし、その犯罪がコメディと言っても差支えのない面白さ。

仲間の3人とは、酩酊しておバカな迷惑行為で捕まったオトボケ男2人と、つい目の前にある者を失敬する万引き女。3人ともやはり失業中の身なので、彼らのズレたやりとりは、ローチにしては珍しい類のおかしさなんです。
4人はオークションが行われる蒸留所に入るために、架空のモルトクラブを作って申し込み、怪しい者だと思われないようにキルトを着て、つまりタータンチェックのスカート。ハイランドへとヒッチハイクを続ける。その道のりは、美しい風景と軽やかに流れる音楽、まるで明るい青春ロードムービーのよう。
やがて蒸留所に着くと、ロビーは「孫に自慢できるから」と言って、オーナー夫婦を感動させ、オークションに立ち会うことを許してもらう。
ところが、その夜、大きな錠前と監視カメラが1台だけ取り付けられ「バイキング襲来以降、窃盗は皆無」という倉庫から、実にシンプルな方法でウイスキーを盗みだそうとする。それは、オークションに立ち会う前の日に、ロビーがウイスキーの蒸留樽の影に隠れて夜まで潜んでいたんですね。夜中にロビーが、最高級ウィスキーの樽を木槌でたたいて開け、初めは小さなウイスキー瓶に詰め、次はビニールホースでジュース瓶に1本詰めて、3人の友達が蒸留所の外にスタンバイしており、穴からビニールホースを伸ばして、彼らにも1本づつ最高級ウイスキーを詰めさせる。

その後、もっとたくさん瓶詰しようとするも、密かにコレクターに売るには少量の方が高値が付くと考える。
ロビーたちの犯罪には、罪悪感など微塵も感じられない。誰も傷つかないし、気付かない。金を払う“コレクター”は、マフィアと関係している胡散臭いヤツだし、ロビーはハリーにも恩返しをするのだから。
それと、ウイスキーを4本分せっかく搾取したのに、次の日コレクターに売る前に警察に怪しい者だと見つかり、でもキルト着ているし、スカートをめくれと言われ素直に「はい」と見せる3人。手荷物検査もすんなりとOK!・・・これに気をよくしたおバカな男が瓶を女の瓶にぶっつけて壊してしまう。

ジュース瓶に詰めたウイスキーは、1本10万ポンドはする品物なのに。なんてことだ。でも、ロビーはコレクターに1本だけ10万ポンドで売りつける。そして残りの1本は、恩人のハリーにプレゼントしたわけ。
4人で2万五千ポンドづつ分けて、再出発するロビーの嬉しそうな顔がいい。
貧しさや悲しみ、絶望は、時として人の良心さえ奪ってしまう。悲惨な状況にいる労働者は、ある程度の犯罪行為をしなければ生きていけない。だからというわけではないが、彼らを安易に裁こうとはせず、犯罪の背景にあるものを提示する。ロビーたちのしたことは確かに犯罪だが、可愛いものだと思う。愛すべき悪党と、愛すべき犯罪、そんなケン・ローチの映画を愛さずにはいられない。
2013年劇場鑑賞作品・・・78    映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ

シャドー・ダンサー ★★★

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記録映画でオスカーに輝くジェームズ・マーシュ監督の政治サスペンス。原作がヨーロッパで大絶賛された「シャドー・ダンサー」=悲しみの密告者、著者はトム・ブラッドビー。

主演は「ウォリスとエドワード」のアンドレア・ライズバロー。ほかに「キラー・エリート」のクライヴ・オーウェン、「ジョニー・イングリッシュ/気休めの報酬」のジリアン・アンダースンらの共演。
あらすじ:70年代に自分のせいで弟がIRAと警察の銃撃戦に巻き込まれて死亡したコレット(アンドレア)は、90年代の今、シングルマザーとなり、兄弟たちと共にIRAの忠実な構成員となっていた。だが、ロンドンでの爆弾テロの容疑者となってMI5のマック(クライヴ)に尋問され、服役するかどうかの選択に迫られてやむなくスパイとしての活動を始める。
刑事暗殺の情報をマックに伝えたコレットだが、そのために実行犯の仲間が狙撃されて犠牲になった。IRAの上官ケビンはコレットを疑い始める。その頃マックは、自分に知らされずに組織の活動が行われていることに気づき、上司のケイト(ジリアン)が他にもスパイを使っており、もう一人のスパイ、シャドー・ダンサーの隠れ蓑に、コレットが使われているのではとの疑惑を持つ。マックはコレットを救うためシャドー・ダンサーの情報を追うが、・・・。

<感想>かつてIRA=アイルランド共和軍とMI5=英国情報局保安部の戦いは熾烈を極めていた。それは双方の和解が成立した今となっては、語り草となったのかもしれないが、人々の記憶から消え去ったわけではないのだ。そんな過酷な時代をさかのぼり、もう一度双方の争いを検証しようとする作品なのですが、細部の詰めの甘さが目立って重要な部分が描かれていないのが残念。

冒頭で女性が地下鉄に乗っているところを写し、とある駅で降り階段を足早に登り、階段の途中に爆弾の入ったバックを置いて、地下鉄の地下へと抜けて通りに出て逮捕されてしまう。これが主人公のコレットで、地下鉄の監視カメラに彼女が映っており、爆発は起きなかったがIRAの仲間だと分かる。
MI5情報局のマイクからMI5のスパイとなって情報を流すか、刑務所へ入るかの決断を迫られ、息子のためにもスパイになることを誓う。家に帰ったコレットは、兄弟もIRAの仲間であり、上官のケビンはどうやら息子の父親のようだ。これは一言でいえば二重スパイの悲劇なのだが、そこには双方の様々な思惑が入り乱れて一筋縄ではいかない。

さらに、シングルマザーであるコレットと、捜査官マックとの間に恋が芽生え、加えてもう一つの二重スパイ事件が絡んで、物語は複雑な展開を見せる。ただ、背景となる時代が1990年代とはいえ、どこか牧歌的なのんびりとした進み方で、細部の詰めが甘く、サスペンス劇というにはいささか締まりがないのにがっかりでした。肝心要の双方の暴力の応酬の真相がいまひとつ見えてこない。もう少し、IRAと英国警察との過激な襲撃戦とか、ロンドンでの爆発とか見せて欲しかった。

コレットがマイクとアイルランドの埠頭で密会して、二人がキスを交わし「君を守ってやる」なんて都合のいいことを。そんなことが出来るわけないのに、どうやら女の方が頭が切れる。ラストで、もう一人のスパイ“シャドー・ダンサー”が、自分の母親だとは、これも弟が銃弾で死んだ時、母親が付いていった後ろ姿が映る。これはもしかしてと感じたのだが、伏線だったのですね。

コレットがマイクの指示で息子を連れて逃げることになるが、それは弟に何もかも話ており、弟がマイクの車に爆弾を仕掛けていたのだ。意外な結末なのだが、これも初めから観ていた観客には分かっていたことなので驚かない。女のしたたかさに愛は芽生えるはずもないからだ。
MI5のクライヴ・オーウェンも久しぶりに観たが、上司のジリアン・アンダースンは「X―ファイル」のスカイリーで活躍した綺麗な女優さん、さすがに本作でも綺麗でしたね。
2013年劇場鑑賞作品・・・79   映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ


千年の愉楽 ★★★★

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『軽蔑』『十九歳の地図』など紀州を舞台にした名著を多く遺した中上健次の同名短編小説(河出書房新社・刊)を「キャタピラー」「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」の若松孝二監督が映画化。

三重県尾鷲市を舞台に、産婆の目を通して、路地に生まれた男たちが命の火を燃やす様を描く命の讃歌。若松監督の「キャタピラー」に出演し第60回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞した寺島しのぶが男たちの生き様を見つめ続ける産婆を演じる他、「マイウェイ 12,000キロの真実」の佐野史郎、「軽蔑」の高良健吾、「さんかく」の高岡蒼佑、「ヒミズ」の染谷将太らが出演。第69回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門正式招待作品。若松監督の遺作となった。
あらすじ:紀州のとある路地。ここで産婆をしてきたオリュウノオバ(寺島しのぶ)は最期の時を迎えている。オバの脳裏には、オバが誕生から死まで見つめ続けた男たちの姿が浮かんでいた。美貌を持ちながらもその美貌を呪うかのように女たちに身を沈めていった半蔵(高良健吾)。刹那に生き、自らの命を焼き尽くした三好(高岡蒼佑)。路地を離れ北の大地で一旗揚げようとするも夢破れた達男(染谷将太)。オバは自らの手で取り上げた彼らを見つめながら、あるがままに生きよと切に祈り続けた。オバの祈りは時空を超え、路地を流れていく……。

<感想>映画は霧が立ち昇る花の窟を見上げる象徴的なオープニングから、山に貼りつくように走る坂道を下駄を鳴らして女が駆け上がる路地へと舞台を移す。このちょっとだけの出演に故、原田芳雄の娘、麻由が演じている。中本彦之助の女房が産気づいたとの知らせを受け、飛び出していく寺島しのぶ演じるオリュウノオバは確かに若い。その肌も、つましい暮らしの中で海風にさらされた女のものとは違い、白く美しい。それも中本の血を恐れ、苦しむ女房トミを「しっかりせい」と叱咤して、その血にまみれてこの世に生まれこようとする赤ん坊に向かって、「お前が何を背負うていようと、私がこの世にとりあげちゃる。何も恐ろしいことはない」と広げた股の間を見て、瞳の奥に炎を燃やす女こそオリュウノオバだと確信する。この世に産まれ出てくる命を無条件に抱き留め、祈る路地の産婆だと。

この時のオリュウが取り上げた中本彦之助の息子、半蔵は高貴でけがれた血のもと、水も滴る色男に成長する。それが高良健吾演じる半蔵なのだが、オリュウに素行をとがめられ度、性的な戯れ言をいって彼女をからかう。しかし、彼がいう言葉はイケメン青年なので卑猥には聞こえないのだ。オリュウは一人息子を3歳で病で死なせた後、三十になるかならぬかで神仏に没頭するようになった礼如を夫に持つ。夫の役は佐野史郎。
半蔵は間男がバレて大阪へ奉公に出され、「オバはずっとここにおるさかい、いつでも戻ってこい」と見送ったその半蔵が、半年ぶりで路地に帰ってくるシーンでも、寺島は肝のすわった母性とともに、男っぷりを一層上げて帰ってきた半蔵を、溢れんばかりの笑顔で迎えながら女としての喜びを表す。だが、腹の出た嫁が一緒だと分かると上気した表情がふと消えるのだ。
ところが次の瞬間、中本の血に怯える半蔵に向かって「女の腹に宿った命は、仏様が下さったんじゃ、何が悪いことがある」と、また力強い産婆の顔に戻る。土着的な神話性に彩られた中上健次の原作は、オリュウノオバの回想を軸にした連作形式なので、脚本化は難しい。だが、中本一統の血を引く男たちを半蔵、三好、達男の三人に絞り込むことで、自滅する若者のキラメキが際立つ作品になったと思う。

本作は優れた原作を忠実に映像化することで、魅力的な面白さを湛えている。撮影場所もいまや路地にふさわしい土地は難しい中で、三重県尾鷲市という趣きのあるロケ地だし、高良健吾の妖しいほどの美貌や、三好役の高岡蒼佑の哀れな男前ぶりはふさわしかった。しかし、半蔵が間男した亭主に斬り付けられあっけなく死んでしまう。三好も泥棒稼業をして、悪さをしながら生きているが女には困らない。それでも、飯場へ仕事へいくも路地へ帰ってきて港で首をくくって死んでしまう。
短いやり取りの中にオリュウの女心を繊細に滲ませるシーンでは、半蔵、三好、そして達男と相手を変えながら、やがて達男(染谷将太)との性行為によって自らを解放していくシーンへと繋いでいく。寺島しのぶと言えば全裸でのセックスシーンが印象に残っているが、私的には半蔵と結ばれるとばかり思っていたのに、まさか年を取って若い染谷将太とそんな関係を持つとは意外でした。

若い身そらで産婆となったオリュウの生身の生と性を、鮮やかにスクリーンに焼き付けて見せる。「どんなことが待ち受けようと、命が湧いて溢れるように、子は、この世に産まれ来る。生きて、死んで、生きて、死んで・・・」寺島しのぶの声がいつまでも耳に残る。その優しい歌は、霧の立ち込める山に棲む、あの世とこの世を行き来するホトトギスの声ともなって「生きよ」と観る者に囁いているようである。
それでも、物語がオリュウの死によって、中途半端なところで終幕となり、中本の血筋の宿命が描き出し切れず惜しいですね。ここ数年の若松監督作品は、過激な思想に殉じて若死にをした男たちへのレクイエムだったような気がする。自分の死期を予感していたかのように、すべてを許し受け入れる死生観を、寺島しのぶ演じるオリュウノオバに託しているようにもとれた。
2013年劇場鑑賞作品・・・80  映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ

ブライズメイズ史上最悪のウェディングプラン★★

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「40歳の童貞男」「無ケーカクの命中男/ノックトアップ」のジャド・アパトー製作、「サタデー・ナイト・ライブ」などで活躍するコメディエンヌ、クリステン・ウィグの脚本・主演で贈る痛快ドタバタ・コメディ。
結婚する親友の花嫁介添人(ブライズメイド)を頼まれたヒロインたちが、その準備に悪戦苦闘する中で繰り広げる女の本音と熱き友情を下ネタお下劣ギャグもふんだんにコミカルに描く。アカデミー賞ではみごと脚本賞(アニー・マモロー&クリステン・ウィグ)と助演女優賞(メリッサ・マッカーシー)の2部門にノミネートされた。
あらすじ:ケーキ屋の経営に失敗した上に恋人に捨てられ、人生どん底のアニー(クリステン・ウィグ)。幼なじみの親友リリアン(マーヤ・ルドルフ)を心のよりどころにしていたが、彼女から婚約したと告げられ、花嫁介添人をまとめるメイド・オブ・オナーを頼まれる。喜びと寂しさを抱えながらまとめ役を務めるアニーだが、介添人の一人であるヘレン(ローズ・バーン)と事あるごとに衝突、さらには一行をブラジル料理で食中毒にさせてしまったり、パーティーへと向かう飛行機で泥酔して搭乗を拒否されたりと、トラブルばかりを引き起こしてしまう。(シネマトゥデイより)

<感想>幼馴染みの親友が結婚することになる、“プライズメイズ”花嫁の付き添い人達をまとめる「メイド・オブ・オナー」を託された30代独身女性のドタバタ劇である。サタデー・ナイト・ライヴ出身のクリステン・ウィグが、脚本を手掛け自ら出演している。
この映画は、アメリカではサプライズヒットし、アカデミー賞の脚本賞と助演女優賞にノミネートされていながらも、一部の評論家に「作品賞にノミネートしないからアカデミー賞はダメなんだ」とまで言わしめるほど。その人気もその評価も極めて高いコメディ作品になっている。
しかも、かなり強烈な下ネタ満載のため女版「ハングオーバー」と紹介されることも多いが、本作の勝因は、お下劣なコメディだけではなく、独身女性の痛々しいリアリティを、容赦なくえぐり取っているからである。これは日本の女性にはちょっとキツイかもです。あまり友達と、こんな性に対するキワドイ猥談なんてしないので、引いてしまった。

何しろ主人公のアニー、クリステン・ウィグは結婚という天敵に親友を奪われ、路頭に迷ったあげくに、自分に好意を持った男性にすら素直になれない、30代独身女なのであるから。しかも無職で、これは痛いよね。
でも、ウディ・アレンなどが、長年描いていることだが、痛い男こそ笑える男。その逆もちゃんと成立することを証明しているのが、「ブライズメイズ」。例えば「セックス・アンド・ザ・シティ」より、よっぽどリアルに男女平等を追求していると思う。
まぁ、日本の結婚式では花嫁の付添人という設定はほとんど無いと言っていい。それに結婚をする女性が、式の前に友達と独身最後のバチェラーパーティも、あまりしている人って無いでしょう。友達が集まってお茶くらいはするかもしれませんがね。
だからなのか、“プライズメイズ”に選ばれたアニーが、嫉妬や対抗心を燃やすなんてことも理解できないし、ただ女性版「ハングオーバー」として楽しむのには面白いかもしれませんね。
2013年DVD鑑賞作品・・・21  映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ

バチェロレッテ あの子が結婚するなんて!★★

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突然訪れた、高校時代の同級生の結婚というニュースに動揺する独身3人組の暴走を描く、コミカルなガールズムービー。

キルスティン・ダンストのほかに、テレビなどで活躍するリジー・キャプラン、サシャ・バロン・コーエンの妻として知られるアイラ・フィッシャーが、様々な悩みを抱える微妙な年頃の女性をリアルに演じる。
あらすじ:高校時代の同級生ベッキーから結婚が決まったことを聞かされたレーガン(キルステン・ダンスト)は、すぐに親友のジェナ(リジー・キャプラン)とケイティ(アイラ・フィッシャー)にその旨を報告。バチェロレッテ(独身女性)の3人は、お世辞にも美人とは言えないベッキーが自分たちより先に結婚することにショックを受ける。結婚式に出席するため、3人はニューヨークに集結。
結婚前夜パーティではしゃぎすぎて新婦のドレスを破ってしまう。結婚式まであと12時間。ドレスをなんとかするのに奔走する一方、結婚の気配がない彼氏との関係、昔との恋人の再会、行きずりの恋などそれぞれが抱える問題も絡んできて、彼女たちの大暴走はさらに加速する……。(作品資料より)

<感想>ウィル・フェレルとアダム・マッケイの「俺たち」コンビが発掘した劇作家、レスリー・ヘッドランド作のオフ・ブロードウェイ劇を映画化した作品で、監督も映画畑じゃない女流劇作家。それだけに女性版「ハングオーバー!」とまではいかない。セックス、ドラッグ、ゲロと何でもアリのギャグセンスと、軽いノリのウェディング・コメディに仕上がっている。

同窓会もののバリエーションだが、三人の女友達がデブでブサイクな花嫁への嫉妬で、前夜祭の日に花嫁のウェディングドレスを二人で着て破ってしまい、式までに修復可能はどうかという危機的状況に陥っても、女子同士のエゴや見栄で物語が進展しない前半がつまらない。後半では、3人の友達が一夜のトラブル(ドラッグや性行為)を通して自己を見つめ直す作品だと捉えて観たとしても、下品さもおバカぶりも呆れてしまって、お笑い度も印象度もまあまあと言った程度で残念。
それにしても、イケメン青年が出演していないのにはガッカリでした。

それでもそれぞれの女性が個性的で、活き活きとしているので、最後まで楽しく観られる。こいいう結婚式前夜のどんちゃか騒ぎは、日本女性にはないので冷めた目線で観てしまい、アメリカ女性がまだこんなに結婚に憧れを持っていることに驚きます。個人主義で自立好きの国民のはずなのにね。

中でも学園女王のレーガンとジェナ、ケイティを演じているのは、キルステン・ダンストに、リジー・キャプラン、そしてアイラ・フィッシャー。コメディセンス自体は、サシャ・バロン・コーエン夫人であるアイラが一番目立っているようだけど。つまりドラッグ吸い過ぎ中毒でハチャメチャな彼女。むしろ重要なのは他の二人の方。というのもキルステンがかつて学園映画の女王だったし、リジー・キャプランの出世作は、リンジー・ローハンの友人役を演じた学園映画「ミーン・ガールズ」だから。

そうなんです、本作はハッピーな学園映画のヒロインたちの“その夜”を描いたビターなコメディなのですから。キルステンが若くして成功した反動で、鬱病にかかっていた経験をフィードした「メランコリア」に続いて、本作のような暴走演技の汚れっぷりも見れたということは実に感慨深いですね。ちなみに、花嫁のデブ、ベッキーを演じているのは「ブライズメイズ」にも顔を出していたレベル・ウィルソン。彼女の好演にも注目ですよ。
2013年劇場鑑賞作品・・・81  映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ

リンカーン ★★★★★

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スティーブン・スピルバーグ監督が、名優ダニエル・デイ=ルイスを主演に迎え、アメリカ合衆国第16代大統領エイブラハム・リンカーンの人生を描いた伝記ドラマ。

貧しい家に生まれ育ち、ほとんど学校にも通えない少年時代を送ったリンカーンだが、努力と独学で身を立て大統領の座にまでのぼりつめる。しかし権力の座に安住することなく奴隷解放運動を推し進めたリンカーンは、一方でその運動が引き起こた南北戦争で国が2つに割れるという未曾有の危機にも直面していく。奴隷制度廃止を訴えた共和党議員タデウス・スティーブンスにトミー・リー・ジョーンズ、リンカーンの妻メアリー・トッドにサリー・フィールド、息子のロバート・トッドにジョセフ・ゴードン=レビット。脚本はスピルバーグ監督作「ミュンヘン」のトニー・クシュナー。第85回アカデミー賞では同年度最多12部門にノミネートされ、デイ=ルイスが史上初となる3度目の主演男優賞受賞となった。(作品資料より)

<感想>本年度のアカデミー賞で最多12部門にノミネートされながら、受賞は2部門のみ(主演男優賞と美術賞)という結果に終わったのは、このストイックな作風が原因だったのではないか?・・・だが、普通の伝記ものとは異なり、リンカーンの最晩年の4か月間に話を絞ったのが巧いと感じた。それを奴隷制廃止法案通過のための、議会工作に強い照明を当てていたのが心憎い。

これは奴隷制廃止のためにあらゆる策略を用い、自己犠牲を払った人物の脅威に迫る。大半の人は、第一印象でリンカーンの目に深い悲しみが浮かんでいることに気付いたはず。そこで十年は老け込み、その身を削り切ったリンカーン、ゆったりと描いていく余裕の演出で、夫として父としての人間性にも触れ、戦争の愚劣をうたう。
第16代大統領エイブラハム・リンカーンという、アメリカ合衆国最大のネタの一つに取り組みつつも、「たたき上げの達人」的な定型の伝記映画にすることを避けて、例の「人民が」が3回連呼される有名な演説すら出てこない。もったいない、・・・という声が聞こえてきそうだ。

映画が始まって間もなく、ダニエル・デイ=ルイス扮する大統領は、自分が猛烈な速さで進む小舟に乗っている夢を見る。いったいこれは何なのか、彼は妻に判断を仰ぐ。サリー・フィールド扮する妻のメアリーは、あなたが乗っている船は憲法修正第13条なのだといい、早くもこの作品の争点を明らかにするのである。
私は未見ですが、かのジョン・フォード監督の「若き日のリンカーン」(38年)が青年期のリンカーン、主に弁護士時代を描いている。それとは逆に、スピルバーグ版は、南北戦争が大詰めを迎えた1865年、晩年の最期の数か月で、メインとなるのは、憲法第13条の修正案を議会で可決させるための、パワーゲームである。ここでのリンカーンは、目的のためなら手段を選ばない、現実のグレーゾーンに生きる“戦略の達人”の顔が強調されている。

そして、雨夜の中駐留地で兵士たちを迎えるリンカーンが描かれるが、彼に向かって一人の白人兵士がやはりこの演説を暗唱する。だが、名高い最後の一節を思い出す前に、彼は出立を余儀なくされる。彼の言葉を引き継ぐのは黒人の兵士である。彼はそれを述べた当人を前にして、これが自分の演説であるかのように自信に満ちた口調で口ずさむと静かに闇の中へと消えていく。
ダニエル・デイ=ルイスの甲高い声は、この大統領が人前で話をする資格を欠いていると言っているかのようでもある。むしろ彼自身は、他者の言葉を口にする時にこそ溌剌として見えるのだ。会議室で弁護士時代の挿話を述べ、聖書からシェイクスピアまで自在に引用し、電信技師の若者に向かって、ユークリッド幾何学の原理を講釈する。これは徹底して言葉と声をめぐる映画なのだと思った。

奴隷解放を実現するためにの憲法改正を成立させるには、あと20票足りない。そこでリンカーンは国務長官らに「敵対する民主党議員を必要な人数分、こちらに寝返らせよう」と提示し、強引な議会工作を開始する。そもそも共和党から初の大統領となったリンカーン、つまり当時は民主党が保守だった。だが、再選の際には、党派を超えて支持をまとめるため、「全国統一党」として出馬していたのだ。
確かに投票前夜には、独裁者といわれても仕方のないような癇癪を爆発させもするのだが、ここで重要なのは彼が自らのエゴのためではなく、修正第13条という言葉のために逆上しているということだ。
有能な政治家は、理想主義者かつ現実主義者であれ、・・・というテーマは、クリント・イーストウッド監督が、ネルソン・マンデラを描いた「インビクタス/負けざる者たち」(09)と重なるが、本作のリンカーンを見つめる目はさらに冷静である。おそらくスピルバーグ監督は、実際には綺麗ごとばかりではないリンカーン、(ネイティブ・アメリカンへの徹底的な弾圧は有名)ゆえに美化することは避けたかったのだろう。
まずその風貌が異様だ。オールバックの広い額から、髭が突き出した顎までのライン、シルクハットをかぶるとさらに面長な顔が際立。正面よりも横顔をとらえたショットが目につく。リンカーンは歴代大統領の中でも、最も背が高く、デイ=ルイスも190?近い長身で、そのいでたちはもはや恐怖に近いものがある。成りきり演技というよりも、リンカーンの実物を知らない私には、ダニエル・デイ=ルイスが演じるリンカーンにその人物像を見たようで、彼のオスカー受賞にも納得がいった。

そして息子役のジョセフ・ゴードン=レビット、出番が少ないがいい勉強になったのでは。それにも増して、惜しくも助演男優賞を逃したトミ・リー・ジョーンズの鬘を取ったスキンへットもまたカツラのようで、それも渋いぐっとくる泣きの演技で素晴らしかった。
2013年劇場鑑賞作品・・・83 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ

アルマジロ  ★★★★

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アフガニスタンの最前線アルマジロ基地に派遣された若きデンマーク兵たちの7カ月に密着し、若者たちが体験する恐ろしい戦争の現実を映し出していくドキュメンタリー。

2009年、アフガニスタン南部ヘルマンド州のアルマジロ基地に、デンマーク人の青年メス、ダニエル、ラスムス、キムらが派兵される。アフガニスタン駐留の国際治安支援部隊支援国として、デンマークはイギリスとともに最も危険なエリアを担当。タリバンの拠点までわずか1キロという死と隣り合わせの戦場で、若者たちは数回の戦闘で極度の興奮状態を経験し、敵味方の区別もつきにくい戦争中毒に陥っていく。2010年・第62回カンヌ国際映画祭批評家週間グランプリ受賞。(作品資料より)

<感想>国際治安支援部隊という名のもとに、アフガン紛争へと派遣されたデンマーク軍の行軍を、特に数人に絞り生々しく記録していく。タイトルの「アルマジロ」とはアウガンの基地のこと。監督のヤヌス・メッツとカメラは銃撃戦の最前線にも飛び込んでいき、兵士のヘルメットに搭載されたカメラの映像は銃弾が横をかすめるのをとらえている。常時4台のカメラで撮影された圧倒的な映像。あまりに臨場感あふれる衝撃映像は、まるで「戦争映画」というエンターテイメントを体験しているようで、フィクションなのか現実なのかの区別もつかない。

なぜそんな危険なところへ行くの?・・・という家族からの問に、若い兵士はこう答える。「たくさんのことを学べるから、大きなチャレンジだし、冒険でもある」と。彼らはキャンプ内でいつもと変わらない日常を送る。食事をし、冗談を言い合い、バイクで遊び、川で泳ぎ、PCでポルノを見たり、戦争ゲームをする。
フィクションではない実際の戦場に身が凍りつく。兵士のヘルメットに装着されたカメラが、激しく揺れるばかりで何も映してないのがかえって恐ろしく感じた。戦闘の後の、兵士たちの気の高ぶりには狂気にさえ見える。そして何よりも恐ろしいのは、彼らが、かのフィクション映画「ハート・ロッカー」のように、実戦という麻薬を知って戦争中毒に陥る現実だろう。

やはり現実はフィクションほどドラマチックではない。脚本や伏線や物語の文脈に沿ってドラマを盛り上げるのではなく、いきなりぶっきらぼうに事実が挿入される。タリバンと住民の区別がつかないとあせる兵士たち。
戦場での兵士たちの、誤解を恐れずに言うなら、やや退屈な日常会話に慣れたころ、いかにも何気ない感じで彼らの“片付け”の模様が映される。思わず目をそむけたくなるが、観たものを認識した後で感情が時間差でやってくるのだ。この目をそむけたくなるような光景として映ってしまった、タリバン殺害と死体処理の映像、その後の隊員たちの昂奮や高揚感にも迫る。

この行為を隊員の誰かしらが家に帰って家族に話し、軍内部で問題になっていると、小隊長の困惑にまで迫る。これが、国際治安支援部隊として派遣された平和の国、デンマークの兵士たちの話であることを、日本にいて映画を見ているだけではいかないと思う。日本でも憲法9条の歯止めがなくなれば、この映画のような大切な人を戦地へと送り出すことになるのかもしれない。戦争とは人を殺すこととは、正義とは?・・・ゲームでもフィクションでもない「戦争」を突きつけるドキュメンタリー。
このような事実を知るということだけでも、私たちは深く肝に銘じておかなければ戦争はなくならないのだから。
2013年劇場鑑賞作品・・・84 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ

キャビン ★★★

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若者たちが人里離れた山小屋で戦慄の恐怖に見舞われるという従来のホラー映画のお約束を踏まえた、巧妙かつ予測不能のストーリー展開が映画ファンから絶賛された異色のホラー・サスペンス。

「クローバーフィールド/HAKAISHA」やTV「LOST」の脚本で知られる新鋭ドリュー・ゴダードが、TV「バフィー〜恋する十字架〜」などでタッグを組んだ「アベンジャーズ」のジョス・ウェドンと共同で脚本を執筆、自ら初メガフォンをとり映画化。出演は恐ろしい目に遭う若者たちに「マイティ・ソー」のクリス・ヘムズワースのほか、アンナ・ハッチソン、クリステン・コノリー、フラン・クランツ、ジェシー・ウィリアムズ、そしてベテランのリチャード・ジェンキンス、ブラッドリー・ウィットフォードが脇を固める。(作品資料より)

<感想>前から観たいと思っていた作品が、やっと地方でも上映されました。これはパターンを覆すホラーと人類滅亡の世界観を融合させた物語。内容は確かに「死霊のはらわた」そっくりの山小屋は出てくる。そこへ、バカンスを楽しみにバカそうな若者グループがやってくるところも同じである。山小屋に向かう途中、立ち寄ったガソリンスタンドには謎のジジイがいて、なにやら不吉なことをほのめかす。
「死霊のはらわた」ふうの山小屋についた若者たちは、とりあえず近くの湖で水遊び。ひとしきり楽しんで戻ってきた彼らは、小屋の中に、長年使われていなかった地下室を発見する。そこには不気味な日記やアルバム、蓄音機やオルゴール、フィルムにテープレコーダーがごろごろしていた。ここまでで観て、これはやりすぎだろうって、いくらホラーファンが定番ネタを好むからといって、ここまで何もかもいつも通りにしなくてもいいじゃないの、と思った。ところがですよ、ここからが違っていたんです。

実は若者たちの行動はすべて謎の組織に監視されており、“組織”で働く連中は、あの手この手を使って若者グループの行動を「いかにもありがちなホラー展開」にするべく奮闘していたのです。地下室に気付いているのか、よし、突然ガタンと地下室の扉が開くようにしろ!、・・・森の中でカップルがイイムードになったのに女が脱がない?、「森の中の気温を上げるんだ」ついでに地面からフェロモン霧を噴射しろ」なんて軽口を叩きあいながら、とある施設で働く男たち。なんとこの二人は、リチャード・ジェンキンスとブラッドリー・ウィットフォードではないか。

謎の組織はかなり大掛かりで、働いている人たちはみなスーツを着た公務員ふうで、地下の巨大な施設でせわしく働いている。随所に設置されたモニターには、山小屋の若者たちだけでなく、各国の映像も映し出されている。おかしなことに、それらの映像はすべて各国版の「ありがちなホラー映画」。例えば日本では「リング」の貞子のような女の子が登場します。
山小屋の若者たちが悲惨な目に遭うのを、観客は映像の中の“組織”の人間の視点からみることになるのだが、それだけだとドッキリカメラ番組と同じで「画面の中の人」の恐怖はこっち側とは関係のないものになってしまう。世界同時のホラー・ゲームを仕掛ける組織の描写があってのこと。これは誰のためのスペクタルか?、その組織の顧客が誰かという伏線がじわじわと効いてくる。

しかし、あらゆるものをごちゃ混ぜにしてしまい、映画を見ている間は観客を離すまいとする馬鹿力はたいしたものだ。生き残った若者の闘いがもう一つなのは、地下の構造とスケール感を描くことが困難なせいだからなのか。こんな作品でも、ヒーロー的な活躍を見せるはずの大学生のカートに扮した、クリス・ヘムズワースが、バイクでジャンプしたところそこには壁、つまりバリアが張られてありあっけなく最期を迎える。

だが、最後の最後まで引っ張るコミック・テイストなホラーの展開。意外に心地よい緊迫感はあるが、神経をすり減らすような恐怖は感じられない。学生たちや、組織の人間たちに襲い掛かるのは、心霊、ゾンビ、クリーチャーなど、まさに怪物のオンパレードに相応しいクライマックスで一気にヒートアップする。
とにかく最後に出てきた「エイリアン」のシガニーおばさんは何なの?・・・しかも、地下組織の人たちも自分たちが仕掛けた箱入りの怪物たちの餌食となり、怪物たちの上に君臨する巨大な存在を目撃した時は、もう笑うしかない。決して苦笑ではなく、あまりに痛快な快感を覚えた。オタッキー映画ながら、実に考えられた作風に知性さえ感じさせる。
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藁の盾 わらのたて ★★★★

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『ビー・バップ・ハイスクール』シリーズで知られる漫画家の木内一裕の小説家としてのデビュー作品を、三池崇史監督が映画化したサスペンス・アクション。

凶悪な殺人犯に10億円の懸賞金がかかり、犯人を移送することになった刑事たちの緊迫した道程をスリリングに描く。正義とは何かと揺れる思いを抱きながら、命懸けで犯人を移送する警視庁警備部SPを演じるのは大沢たかおと松嶋菜々子。少女を惨殺した殺人犯には藤原竜也がふんする。常に油断できない展開であっといわせる三池監督の演出が、サスペンスで生かされることが期待できる。

あらすじ:政財界を牛耳る大物・蜷川の孫娘が惨殺された。容疑者は8年前にも少女への暴行殺人事件を起こし逮捕され、出所したばかりの清丸国秀だった。全国に指名手配され、警察による捜査が続くが、行方はわからない。事件の3ヶ月後、大手新聞3紙に「この男を殺してください。清丸国秀。御礼として10億円お支払いします。蜷川隆興」という前代未聞の全面広告が掲載された。「人間の屑を殺せば、10億円が手に入る…」日本中が俄かに殺気立つ。新聞広告が掲載された直後、身の危険を感じた清丸は福岡県警に自首してきた。彼の身柄を警視庁まで移送する為に、警察組織の威信を賭け、精鋭5人が派遣された。“人を殺して金を得る”そんな常軌を逸した行動を取る人間が出てこないことを祈るも、相次ぐリストラ、倒産により生活に困った人達が保険金を残すために首をつる世の中…。追い詰められた人間、そして全ての国民の殺意が清丸の命を狙い、執拗に追いかけてくる。いつ?誰が?何処から襲い掛かってくるか分からない緊張状態の中、5人の精鋭は清丸を警視庁まで移送出来るのか…?(作品資料より)

<感想>久々に無責任に楽しめる娯楽サスペンスである。主人公のSPたちが護らなくてはならないのは、極悪の犯罪者である。逮捕起訴されれば死刑は免れないだろう。言わば「死すべき者」なのだが、その犯罪者の暗殺を指示して、10億円の懸賞金をかけたのは、可愛い孫娘をその男に惨殺された余命いくばくもない大富豪。つまりこの暗殺ゲームは「死にゆく者」の遺言でもあるのだ。万死に値する死すべき者を生かし、同情の余地ある死にゆく者を裁かざるをえないという、司法の大義名分の下で物語は展開し、主人公たちは困惑し、憤慨し怒り、何度も何度も正義について自問自答を強いられていく。

目的地が近づくにつれて彼らが護っている者に、その価値がないことが加速度をつけて明らかになっていく、その過程がギリギリと歯を噛みしめるような焦燥感を見る者に与えていく。なぜなら大富豪によって彼の暗殺を扇動されたのは、1億5千万の全日本国民であり、この1億5千万の中には、もちろん私や観客も含まれているからなのだ。
同情の余地もない悪の化身を演じた藤原竜也の憎たらしい怪演のせいもあるだろうが、
主人公たちが傷つき追い詰められていく様を見ている者たちは、みな「いつしか、死ねばいいのに」と呟く自分に気づき、はっとするはず。必死に使命を全うしようともがく大沢たかおや、松嶋菜々子の姿は、見る者の希望であり理性なのだが、同時に不愉快で後ろめたく、どす黒い衝動の矛先でもあるのだから。

要人護送というのは犯罪小説の重要なジャンル。ありそうもない設定が、走り出したらもう止まらない。更に危険度が加速され、まったく目が離せないのだ。護送車で福岡を出発するときの、大量の警察官や機動隊員、マスコミ、野次馬などに囲まれたものものしい映像など、こちらまで現場にいる気分になってしまう。SPたち5人が一人ずつ、しっかり見せ場をもらって命を落としていくのもいいですね。裏切り者はその動作で察しはついたが、タイムリミット映画としても最高の面白さで良かった。
ラストには一つの結論が下されるわけだが、その結論は満場一致の正義には成りえない。最期の最期まで焦り、痺れきって終わる。
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ジャッキー・コーガン ★★

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ブラッド・ピットがクールな殺し屋ジャッキー・コーガンを演じるサスペンスドラマ。

監督は「ジェシー・ジェームズの暗殺」(2007)でもピットとタッグを組んだアンドリュー・ドミニク。「優しく、殺す」をモットーにする殺し屋ジャッキーは、「ドライバー」と呼ばれるエージェントから、賭博場強盗の黒幕を捜索する依頼を受ける。ジャッキーは前科のあるマーキーを探し出すが、実際に強盗を仕組んだのは別の悪党3人組であることが発覚。さまざまな思惑が交錯するなか、ジャッキーは事件にかかわった人間を皆殺しにすることを決める。共演にリチャード・ジェンキンス、ジェームズ・ガンドルフィーニ、レイ・リオッタ、サム・シェパードら。(作品資料より)

<感想>ブラット・ピットが自らプロデューサーとして名乗りを上げ、最も冷酷かつセクシーな殺し屋を演じている本作。だが、そんなキャッチコピーからは想像されるド派手な抗争劇とは一味違います。何故殺し屋のブラピの役名を邦題にしたのか、原題は「キリング・ゼム・ソフトリー」・・・直訳で「優しく殺せ」って、それってどうすんのよ。ブラピの殺し屋が言うには、「人を殺したことあるか?泣き叫んで、命乞いをして、小便漏らして大変な騒ぎだ。俺はそれが嫌だから優しく殺すことにしている」と、のた申すわけ。ブラピが久々の悪党役を演じているのだが、とにかく話の展開がダラダラして退屈極まりない。
殺し屋と言うと、ジェイソン・ステイサムのようなスカッと爽快なアクション立ち回りを思い浮かべるが、この映画ではそんなのない。
まずは、ヤクザが遊ぶための闇ポーカー場があって、レイ・リオッタが経営している。そこへある男がチンピラ二人を雇ってその店を強盗させる。そのチンピラの一人はベン・メンデルスゾーンで、「アニマル・キングダム」で法王と言うサイコキラーを演じていた俳優。今回は薬ちゅうの大ボケで、散弾銃の銃身を切り詰めろって言われて、短く切り過ぎて先っぽからショットガンの弾の頭が出ている。もうこれって銃じゃない。

二人は賭場を襲って、ポーカーをしていたマフィアたちの有り金をまき上げる。怒ったマフィアたちが雇ったのが、プロのブラピ扮するジャッキー・コーガンなのだ。なんか「アウトレイジ」系みたいですね。原作がジョージ・V・ヒギンズが70年代に書いた小説。「エディ・コイルの友人たち」という小説が、昔映画になっている。この小説は裏業界の人々の殺伐とした日常を描いているのだけど、まるで収集日にゴミを出すような感じで淡々と人を殺す。善人は一人も出てきません。
監督はアンドリュー・ドミニク。「ジェシー・ジェームズの暗殺」のあのもの凄く静かで長く、つまらなかった映画。退屈でしかたがなかったと言われて反省したのか、今回は少しは見せ場があることはある。ブラピがレオ・リオッタを殺すシーン。超ウルトラ・スローモーションで弾丸が拳銃から飛び出し、車の窓ガラスを割ってリオッタの顔にめりこんで反対側から出ていくのをじっくりと見せつける。そのシーンで流れる歌は、62年にキティ・レスターが歌った甘いラブバラードの「ラブ・レター」。まさに優しく殺せってことなのか。

リオッタは強盗された被害者なのに、彼を信じてギャンブルをしていたヤクザたちが、彼を許さない。この映画はブッシュとオバマが火花を散らす米国大統領選が白熱する2008年の、ニューオリンズが作品の舞台になっていて、映像の中で、テレビでブッシュ大統領が「リーマン・ショックで破綻した投資銀行を税金で救済する」と説明している。ここがドミニク監督のテーマともいえるのだろう。あのころ、アメリカ人は投資や不動産というギャンブルをしていた。その胴元である銀行も客の金をバブルに注ぎこんでパアにした。マフィアはギャンブルの胴元であるリオッタを許さなかったわけ。ブッシュは国民の金をパアにした銀行を国民の金で救った。それを比較して見せている。ギャング映画を通してアメリカ経済を風刺するというわけ。

話の展開でブラピは強盗たちを殺すのに、ミッキーという殺し屋に依頼するわけ。そのミッキーを演じているのが、「ザ・ソプラノス」の中年デブのジェームズ・ガントルフィーニ。ところがミッキーがもらった金を酒と女に使って、全然仕事をしない。これもブッシュ政権の財務官僚たちが金ばかり使ってまったくの役立たずだったのと似ている。

ブラピも殺し屋のくせに、アメリカ独立宣言を書いたトーマス・ジェファーソンを批判したりして、最後は大統領選挙に勝ったオバマの演説を聞いたブラピが、「テメェ、甘っちょろいこといってんじぇねえ」って、啖呵を切りながら「アメリカってのは、国じゃねえんだ、ビジネスなんだよ」って。これはブラピが大好きファンには不向きな映画ですよ。
その他にも連絡員のドライバーに、リチャード・ジェンキンスが演じて、冷静沈着な見た目とは違う切れ者を演じている。演技派なのにもったいない。
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HK 変態仮面 ★★.3

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1992〜93年にかけて「週刊少年ジャンプ」で連載された伝説的な人気漫画「究極!!変態仮面」を実写映画化。

ドMの刑事とSM女王を両親に持つ紅游高校拳法部員の色丞狂介(しきじょうきょうすけ)は、転校生の姫野愛子に一目ぼれしてしまう。そんなある日、愛子が銀行強盗に巻き込まれ、人質にとられる事件が発生。覆面を被って変装し、強盗を倒そうとした狂介は、間違って女性用パンティを被ってしまう。
しかしその瞬間、狂介の奥底に眠っていた変態の血が覚醒。人間の潜在能力を極限まで引き出した超人「変態仮面」に変身する。監督は「勇者ヨシヒコ」シリーズや「コドモ警察」など異色コメディを多数手がける福田雄一。原作の大ファンを公言する俳優の小栗旬が脚本協力として参加。主演は、小栗監督作の「シュアリー・サムデイ」などで知られる若手俳優の鈴木亮平。(作品資料より)

<感想>実写化不可能と言われていた漫画が、映画になってしまった。白いパンツを肩にかけたパンティ・マスクの高校生ヒーローが、「コドモ警察」の福田雄一監督と原作ファンを公言する小栗旬によって実写映画化された。主演は実写版「ガッチャマン」(8月24日公開)でみみずくの竜を演じる注目株、鈴木亮平。
186?の長身と1年間鍛えた肉体で、主人公色丞狂介に成りきる。原作と同じシーンや、「それは私のおいなりさんだ」なんて、お約束の決めゼリフが満載。敵の顔に股間を押し付ける必殺の“変態の奥義”にも注目ですよ。

物語は、学園の乗っ取りを画策する空手部の主将や、風紀を厳格に取り締まる真面目隊、さらには、ある目的を秘めて姫野愛子に接近する新任教師など、そんな敵に向かって姿こそパンツ一丁で、頭に女子のパンティを被って奮闘する色丞狂介に応援したくなる。それが、パンティを被らないと全然弱い男になってしまうのが惜しい。
初めは変態男が、女子のパンティかぶって黒い網タイツはいてと、卑猥で如何わしく考えていました。ところが、そんな変態ぶりも意外と清潔感(わき毛剃っている)があって、他の変態仮面(わき毛があるし、髭も)が出て来るんですが、そいつらは女の子のスカートめくったり、身体をさわったりと私らが考えている変態男そのもので、ヒーローの変態仮面はそういうやつらを懲らしめるいいやつなんです。普通だったら警察が取り締まるのに、警官は出て来ません。変だと思えばそれまでで、あまり細かく考えないで楽しんだ方が勝ちですね。

鈴木くんの従来のイメージを覆す強烈なビジュアルと、バカバカしい展開に衝撃をうけ、呆気にとられこれは笑うしかないですな。いやこれほどまでに真面目にふざけ倒すことができるのは、日本映画界こそだし、何よりも監督福田雄一という唯一無二の存在があったからこそです。
そして監督の熱量に、それを上回る熱気さで応え、文字通り体を張って役に挑んだ鈴木亮平くんを初めとしたキャスト陣の本気度。それに原作ファンという小栗旬も脚本協力という形で参加して、極めて特殊なヒーローを大マジに撮った本作。
これってお子様向きじゃないかもと、お思いの親御さんたち、もはや説明不要ですから。とにかく観て下さい。そのバカバカしいほど真面目なド変態で、ちょっとエロっぽい場面もありますが、ハリウッドのエロ・コメディより断然日本の方が健康的です。
まぁ、少しふざけたところが多いですが、演じている役者さんが真面目にやっているので、観ている方としてはその熱意に大いに笑わせられ、すごくかっこよく見えました。
2013年劇場鑑賞作品・・・88  映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ

狼たちの激闘 ★★

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スパイダーマンシリーズ、「猿の惑星: 創世記」、「127時間」のジェームズ・フランコ主演・監督作品!。原題は「GOOD TIME MAX」2007年

米/監督・脚本・主演:ジェームズ・フランコ/脚本:メリウェザー・ウィリアムズ
出演:マット・ベル、ウィルマー・カルデロン、トリップ・ホープ、ロビン・コーエン。
ストーリー:医師を目指す勤勉で真面目な兄アダムと、兄よりも高いIQを持ちながら刹那的な生き方しかできず、ドラッグに手を出すマックス。ある日、麻薬がらみのトラブルに巻き込まれたマックスは、研修医としてカリフォルニアに行くアダムに同行して、ニューヨークを後にする。
西海岸に着いた兄弟は、それぞれの道を歩もうとするのだが・・・。
<感想>何やら「スパイダーマン」のジェームズ・フランコ監督・主演によるアクション映画のように売られているが、「狼」も「激闘」もない上に、アクションでもミステリーでもサスペンスでもない。これは売る方便として仕方がないのは分かるが、本作はハリウッドスターでありながら、「ラビットバンディーニ」という自身のプロダクションを持ち、自主映画を作り続けてている“映画人”フランコが、今から6年前に作り上げた作品。
ドラッグによって壊れていく兄弟の絆と、そこからの再生をスピーディに生き生きと描いている。マックスはドラッグをやめて真面目な人生を歩もうとするのですが、やはりドラッグの誘惑に負け罠にはまり、会社の同僚をクスリ仲間にしたり、ケンカの末に部屋に糞をしたりと、大事な約束すら兵器ですっぽかす主人公の変人ぷりは相当なもんで、到底感情移入できるものではない。
それでも、演じる“役者”のフランコの魅力で、愛すべき人物になっている辺りが不思議な気がする。その才能は、音楽の使い方をはじめ、脚本や演出にも発揮されており、若きクリエイターに興味があるのなら観ても損はないと思います。
ニューヨークからロスへ向かう2人旅を、マックスが撮影したビデオ映像が時折インサートされ、現実との対比を見せるのが切なく効果的に使われているのが印象的です。
2013年DVD鑑賞作品・・・22   映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ

ゾンビ革命―フアン・オブ・ザ・デッドー★★★

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キューバ革命に続く、新たなる革命は…ゾンビ映画だ!・・・アレハンドロ・ブルゲス監督作。異色のヒーローとゾンビの闘いを描いた、キューバ初のゾンビムービー。

ストーリー:40代のフアンは、人生の大半をキューバという国で文字通り何もせずに過ごしてきた。そんなフアンが唯一、気にかけている存在が美しく成長した娘のカミーラ。しかし当のカミーラは、父親とはできる限り距離を置きたい様子。突如として町に奇妙な出来事が起こり 始める。人々が凶暴になり互いを襲い出したのだ。当初、フアンは新たな革命が起こったのだと考える。しかし、やがてフアンとその仲間たちは、犯人が普通の人間ではなく、簡単に殺せるような相手ではないことに気づいていく。その正体は、吸血鬼でもなければ悪霊でもない。この状況を乗り切るため、フアンが考20え出した最善策は金儲けだった。キャッチコピーは“愛する人、殺します。フアン殺人代行社"。
<感想>タイトルから伺える通り、「ショーン・オブ・ザ・デッド」を参考にしてはいるが、舞台をハバナに変えただけの劣化コピーとは違います。老人や障害者にも情け容赦ないどぎついギャグと、キューバならではの社会風刺をたっぷり効かせたコメディ・ゾンビ映画の快作なのだ。

まず驚かされるのは、主人公フアンと相棒のラサロがちっとも良い人じゃないこと。フアンは染みつきランニングシャツに短パンの汚らしい格好で、妙に目つきが悪くて過去に何人か殺してても不思議じゃない。一方のラサロは、美人を見るとその場でパンツを下してオナニーするロクデナシ。近所にいたら絶対に目を合わせたくないタイプ。
ゾンビが発生するや、彼らは混乱に乗じてムカツクやつを殺したり、盗品を運ぶために老人の車いすを奪い取ったりもする。ラテン系の陽気さがある反面、生き残るためにはエゲツナイことも平気でやるどうしようもないやつらなのだ。

キューバのゾンビ映画とくれば、チープなものを想像しがちだが、そのネガティヴなイメージは早々と打ち砕かれてしまう。CGバレバレのシーンもあるにはあるものの、ワイヤーアクションっぽいものや国家の象徴と言える建物の爆破など、ゾンビのメイクも手間暇かけて作ってるので結構バカにできない。
主人公のフアンがブルース・リーのような構えで立ち向かうところなんて笑ってしまう。モブや荒廃とした街の様子がちゃんと見せ場になっているのがいい。少なくとも欧米のインディー・ゾンビ映画や、和製ゾンビには太刀打ち出来ないクオリティがある。あなどるなかれ、キューバ初のゾンビ映画は、すでに世界レベルに到達しているようですね。
2013年DVD鑑賞作品・・・23   映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ

アイアンマン3 ★★★★★

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マーベル・コミックの代表作を実写化した、人気アクション・シリーズの第3弾。アメリカ政府から危険分子と見なされた上に、正体不明の敵の襲撃を受ける正義のヒーロー、アイアンマン(トニー・スターク)の姿を描く。

前2作と『アベンジャーズ』に続いて主演を務めるロバート・ダウニー・Jrが、シリーズ最大級の危機に見舞われたスタークの苦悩を見事に体現。『ガンジー』『砂と霧の家』などのベン・キングズレー、『ロックアウト』のガイ・ピアースら、実力派が脇を固める。新たに開発される各種アイアンマンにも注目。

あらすじ:スーパーヒーローで編成された部隊アベンジャーズの一員として戦い、地球と人類を滅亡の危機から救ったアイアンマンことトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)。だが、アメリカ政府はスーパーヒーローが国の防衛を担うことを危険視するようになり、それを契機に彼はアイアンマンの新型スーツを開発することに没頭していく。そんな中、正体不明の敵によってスターク邸が破壊され、これまでのアイアンマンが全て爆破されてしまう。何もかも失ったスタークだが、人並み外れた頭脳を武器に孤独な戦いに挑む。(作品資料より)

<感想>3年前に公開された「アイアンマン2」は、正直ストーリー的にはまとまりを欠いた続編だったけど、今回の「3」ではそのへん問題点をしっかりと修正している。今作のヒーローたちは、スタークとペッパーとローディたちの物語。2015年の5月に全米公開が決定している「アベンジャーズ2」へ向けて、最初の土台作りとなる意味でも見逃せない映画ですね。

主人公のトニー・スタークは過去の2作では、国際的な軍事企業の社長で、スーパーリッチな大富豪で、モテモテのプレイボーイという、煌びやかなセレブ人生を送っていた。多くのスーパーヒーローは自分の本当の姿を世間から隠し、その矛盾に葛藤したりもするものだけど、根っからの目立ちたがり屋であるスタークには、そんなややこしい悩みもない。その圧倒的なチャラさこそが、他のスーパーヒーロー映画にはない、トニー・スタークの最大の魅力であったと思う。

しかし、今回のスタークはちょっと様子が違う。「アベンジャーズ」のラストで起こった事件からの流れを受け、本作のストーリーは、スタークの魂が深く傷つき精神的にも憔悴しきった地点から始まる。予告編の中でちらっと出ていた不眠症もその兆候の一つ。また、彼のそんな不安定な精神状態は、当然のことながら恋人のペッパーとの関係にも次第に影を落として行くわけ。

さらに、追い討ちをかけるように、スタークの豪邸の喪失。予告編でもがっつりと描かれている通り、丘の上にそびえたつスタークの自宅が、ヘリコプターの大群に一斉攻撃され、木端微塵に破壊されてしまうという波乱の展開が待ち受けている。その自宅は重要な研究室であり、アイアンマン・アーマーの保管場所でもあるだけに、彼にとってはアイアンマンの装備を取り上げら、彼が本当の自分自身を見つけるまでの旅と思ってもいいだろう。魂の傷ついたヒーロー、そしてすべてを失った「ゼロ地点」からのリベンジ・ストーリー、今回の「アイアンマン3」では、これまでとは違う、本気モードのスタークと出会えることでしょう。

さて、今回メインの悪役を務めるのは中国人の「マンダリン」が登場。舞台も中国となる。原作マンガではこのマンダリンは中国人だったが、映画では英国のベテラン俳優、ベン・キングズレー。東洋髭の顔はビンラディンに似てもいるような、ちなみに1作目の悪役「テン・リングズ」は、小さな敵タリバンだったし。
「マンダリン」がマーベルコミックに初めて登場したのは、遡ること1964年。キャラクターの考案者はもちろんスタン・リー。当時の原作では中国で生まれ育った天才的な、科学者にしてマーシャルアーツの達人、という設定で、両手の指にはめた10個のリングから発する超人的パワーを最大の武器としていた。だが、今回の作品に登場するマンダリンは、そういった中華的なバックグラウンドは採用せず、アメリカ合衆国に異常な憎しみを抱いている極悪な「テロリスト」というオリジナルな解釈で描かれている。

この「マンダリン」なんですが、これが実は、という替え玉役の舞台俳優という設定で、本当の悪役は過去にペッパーと関わり合った新キャラクターのガイ・ピアースが演じる、ウィルス開発者のアルドリッチが登場する。
やっぱり見どころは、まったく造形の異なるパワードスーツが40体以上も登場して、一斉に空を舞うシーンだろう。道具もそろわぬ田舎でトニーはリベンジのためのパワードスーツ開発に専念する。テネシーの田舎でトニーに力を貸す少年ハリー役には「インシディアス」のタイ・シンプキンス君。

そして監督を降坂したファブローだが、トニーの運転手ホーガン役で引き続き出演。ペッパーとキリアンを監視してトニーに報告したり、キリアンの手下を単独で偵察して戦いに臨んだりと、大活躍を見せている。アイアン・パトリオットは、星条旗のカラーリングを施した光沢のあるアーマーは、勇壮さに溢れている。もちろん、トニーの友人で空軍中佐ローディ、ドン・チードルが、アーマーを身に付けて活躍。それが拉致された米大統領まで、このアーマーを着るハメになるとは。
パワードスーツが敵に捕られ、アイアンマンに装備する前のトニーが飛びかかるなど、
生身の闘いが用意されていて、肉体の限界に挑むトニーには、あり得ない過酷な試練が待ち受けています。
出来上がったトニーのスーツは、各パーツが個別に飛んできて、まるで金属が磁石に吸い付くように装着されるという驚きの進化を遂げている。クライマックスではトニーが目まぐるしい速さで、何体ものスーツを自在に着脱し、敵をなぎ倒していく。その上、ペッパーがピンチに陥った時にスーツを着るシーンもあるのだが、悪役キリアンの手で“エクストリミス”という人体強化の薬を投与され、トニーの窮地を救う強い逞しいペッパーも見れます。

そして、陸、海、空でバトルが展開されるシーンでは、穴が開いた飛行機からの落下に、アイアンマン軍団の空中戦、さらに海中に沈みながらの攻防など、過去2作にはなかった場所でのスケール感満点のバトルアクションが展開される。もちろん地上での肉弾戦もド派手さが倍増で大満足でした。
エンディングでも過去作の映像や、「マイティ・ソー/ダーク・ワールド」の予告や、トニーの心臓近くにある鉄の破片を摘出する手術も見せてくれます。お見逃しのなきよう最後までご覧ください。
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