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グローリー/明日への行進 ★★★★

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アメリカ公民権運動が盛り上がりを見せる中、アラバマ州セルマで起きた血の日曜日事件を題材に描く感動作。ノーベル平和賞を受賞したマーティン・ルーサー・キング・Jr.のリーダーシップでデモに集まった人々が警官の投入によって鎮圧されたのをきっかけに、世論が大きく動いていくさまを描く。俳優のブラッド・ピットや人気トーク番組で有名なオプラ・ウィンフリーらが製作を担当。史実を基に描かれる、激動の近代史に心動かされる。
あらすじ:1965年3月7日、マーティン・ルーサー・キング・Jr.の呼び掛けにより集まった、黒人の有権者登録妨害に抗議するおよそ600名がアラバマ州セルマを出発。だが、デモ行進がいくらも進まないうちに、白人知事は警官隊を動員して彼らを暴力で制圧する。その映像が「血の日曜日」としてアメリカ中に流れたことにより抗議デモはさらに激しさを増し、やがて世界を動かすことになる。

<感想>キング牧師を主人公にした長編映画がこれまでなかったのだとすれば、それだけでもこの映画の誕生はすごいことかもしれない。非暴力を掲げるキング牧師の戦い方は、本当に地味で映画の進み方も始終淡々としている。
キング牧師の生涯を追うのではなく、セルマでの行進にフォーカスを定めた作劇も見事であった。ここで描かれるのはキング牧師とその家族と仲間たちの行動なのだが、その根拠となっているのがなんとFBIによる盗聴や追跡などの監視記録というから驚く。それでも、非暴力、無抵抗主義のキング牧師の巧みな演説とリーダーとしての苦悩をくっきりと浮かび上がらせているのもいい。

何よりも、主演のキング牧師を演じたデヴィッド・オイェロウォのスピーチが本物のように聞こえるほどの迫力で、キングの演説にある生気と気品を確かに今に伝えてくれていると感じましたね。カリスマ性溢れる演技力によるところ極めて大きく、権利の関係で、一文一文を類語に置き換えたと聞きますが、それでも噛みしめたい名文だと思います。
そして、圧巻が終幕で描かれる「セルマの大行進」なのだ。歴史の一コマの再現だけに、都合3度にわたる25,000人の行進は圧倒的な迫力で、観客もそのデモ行進の一員として参加しているかのような気持ちになる。

アラバマ州のセルマから州都モンゴメリーまでの約80キロに及ぶ抗議のデモ大行進で、これを指揮したのがキング牧師である。特に、初めのセルマのエドマンド・ベタス橋でのアラバマ州警察と民兵隊が、彼らに暴力を持って抑え込もうとする、こん棒による殴る蹴るの暴行と拳銃の乱射には本当に驚いた。それでも、2度目のキング牧師が先頭にたち行進するも、一時撤退の勇気の描写はお見事でした。その中には、白人たちも行進に参加して来て、白人の参加者が同じ白人に襲われて死亡するという悲惨なことにも。

この1965年のキング牧師の行進を軸に、彼の成し遂げたことを再現する映画には、当時の白黒ニュース映像も使われています。不幸にも後に暗殺される彼を中心に、1963年のバーミングハムの教会爆破事件から、少女たちの死をスペクタルのように見せる冒頭のあとでの場面には、強い抵抗を覚えましたが、それで評価が下がることはなかった。
状況を説明していく過程に演出として少しぎこちなさを感じるけれど、クライマックスの行進に向かってじわじわと思り上がる感動は圧巻でした。

製作総指揮も務めた黒人女性監督エヴァ・デュヴァネイの、信念と姿勢は、キング牧師の改革の静かな迫力と重なるところがあると思います。
そして、ジョンソン大統領とアラバマ州知事のウォレスにとっても、大勢の黒人たちの行進は、たとえそれが非暴力、沈黙のなかでおこなわれたとしても、そのやりとりなどを見ていると、対立を含むあらゆることに明白さが要求されるアメリカという国の仕組みが良く分かります。

中でも、アラバマ州知事のウォレスを演じたティム・ロス。本当に嫌味なヤツなのだ。黒人を差別するのはもちろんのこと、どこまで史実なのかは知りませんが、彼の大事な選挙民であるはずの白人の人たちにさえも「白いゴミ」と言い捨てるくらい嫌なヤツなのだ。というか、演技が上手いんですね。

ジョンソン大統領を演じるのはトム・ウィルキンソン。ケネディ大統領の後釜的なイメージが少しいい方にとれた。ウォレスを抑え込もうとするも、キング牧師と話し合いを続け、結果的にジョンソン時代に人権問題は大きく変化し展開していくのだから。
アメリカの黒人への差別と偏見については、ここへ来てまた表面化してきた感じがある昨今、誠に時と宣言を得た企画といっていいでしょう。アメリカの奴隷制度はリンカーンの奴隷解放宣言で終わったわけだはないことは、重々に周知の事実だが、それから約100年後の1964年にようやく公民権法が成立し、翌年の1965年に黒人の投票権法を認めさせた事実を忘れるわけにはいかない。しかも、その権利を手にするのにどれだけの犠牲が払われたのかも。
ラストに、橋での大行進が映し出され、コモン&ジョン・レジェンドによる主題歌「Glory」が流れる演出には、感動のあまり涙まで流れ落ちてしようがなかった。
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