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福福荘の福ちゃん ★★★.5

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女性お笑いトリオ「森三中」の大島美幸が、頭を丸刈りにし、体重を10キロ増量して、人のよい塗装職人の中年男性に扮し、映画初主演を務めたコメディドラマ。監督・脚本は「全然大丈夫」の藤田容介。共演に水川あさみ、荒川良々。はみだし者たちが集まるおんぼろアパート「福福荘」に暮らす塗装職人の福ちゃんこと福田辰男は、面倒見もよく、住人たちにも慕われている。しかし、恋愛には奥手で女性恐怖症のため、親友のシマッチがセッティングしてくれたお見合いもうまくいかない。そんなある日、福ちゃんの初恋相手で、女性恐怖症になってしまった原因でもある女性・千穂が、福ちゃんを訪ねて福福荘にやってくる。最初は千穂を突き放した福ちゃんだったが、次第に打ち解け、恋心が芽生えていく。
<感想>「森三中」の大島美幸さん、大好きです。TVの「イッテQ」を見て身体張っているなぁと思いながら、今回は頭を丸刈りにして塗装職人の中年男性に扮しての、コメディドラマということで観ました。いやぁ、期待どおりのキャスティングでした。なんてったて、目の付け所がすごい。女性が男性を演じるわけだから、そこにリアリティはないはずなのに、男が演じたらああはならないと思う。

冒頭で、下ネタのような男のあそこがでかい云々と言っているシーンでも、何の違和感もない。つまりは大島さん演じる福ちゃんは、オナベじゃなくて付くものが付いている男ですよという、観ている人に訴えているわけ。

ですから、この作品は、非常に巧みな人物配置によって全体が骨太の作品に仕上がっているのだ。中心は福ちゃんだが、その周りには荒川良々演じる友人と、水川あさみ演じる福ちゃんの初恋の人が配置されている。この二人は、他の登場人物に比べると比較的まともな人で、世間の常識も代弁している。
さらに、その外側には、北見敏之が演じる名カメラマン沼倉とか、古舘寛治など演じるちょっと変わったというか、あきらかにおかしい人々が登場する。さらには、外枠に位置するあきらかにおかしい人々の、台詞と描写が抜群に上手いのだ。
たとえば、北見敏之が演じる大物写真家の風貌や台詞まわしは、ストライクゾーンのギリギリからボールになる田中将大のスライダーのように、リアリティの限界がうまくついてくるのだ。

福ちゃんの部屋には、所狭しと自作の凧が飾られている。こういう味のある生活描写が本作のキモでもあります。働きもので仲間から福ちゃんと呼ばれている主人公。彼にはこどくな人間を幸せにする才能があった。それは福ちゃん自身が痛切な孤独を体験しているからなおだ。最初から美しい魂を持って生まれた人間などはいない。人の優しさは痛みや悲しみを経験して磨かれていくものなのだ。

福ちゃんに強烈なトラウマを与えた初恋の人・千穂(水川あさみ)も、一度はカメラを捨てた人生最大の挫折を経験することで、再会した福ちゃんの笑顔に美しさを見出す力を得るのだ。
昭和的ニュアンスで面白かったのは「どっきりカメラ」のシーンでは、中学生時代の福ちゃんが引っかかる。看板を持って出てくるシーンで、バックに叙情的な音楽が流れ、その後にダメおしの落ちもつく。福ちゃんの悲惨な想い出だ。その悪質な「どっきりカメラ」がトラウマになって、福ちゃんは女性が苦手なるけれど、あまり陰惨な印象はない。
それに、福ちゃんが柔道の達人になっている描写があって、その後の人生が間接的に描かれている。

やっぱり映画にはアクションがないとね。特にインパクトがあるのは、カレー屋のシークエンスで、死ぬほど辛いカレーを出すのに、水は絶対に出さないという不条理なエピソードのシーン。その店で、水を出す出さないのやり取りで、殺気に満ちた取っ組み合いした挙句、サーベルを持った店主の古舘寛治に追いかけられる。白昼の路上でサーベル振り回してのアクションへと傾れ込むシーンも、これが怖い。
大島さんは、焼き芋やアンパンの似合う小太りの三十男になりきり、人類の宝ともいうべき福ちゃん役を見事に演じて見せている。親友のシマッチを演じる藤田容介作品の顔ともいうべき荒川良々との相性の良さにも惚れ惚れするばかり。

ひたすら優しく、とびきりウェルメイドな人情喜劇でありながら、さらりと狂気を描く鋭さもあります。お遍路中もナイフを手放せない野々下君。だんだんと壊れていく隣人の野々下(飯田あさと)の人物造形は藤田容介の真骨頂でもある。

だが、そこにすら人間だから、おかしくなることもあるよ。という優しさが漂うのだ。キレもあり、毒もある最高に気分よく笑わせてくれて、なおかつ心温まるコメディ映画とは。
狂気を描くための丁寧な仕事の積み重ねが、最終盤の小さな傷害事件について、観客にまったく違和感を感じさせないほどのきれいな伏線となっている。
特に、冒頭から十分ほどの徳永ゆうきちゃんの使い方が素晴らしいと思う。それに、この映画は「寅さん」を彷彿とさせるかもしれませんね。「男はつらいよ」に代表される醜い男もののジャンルが日本映画にあるとするならば、この作品はその血筋をもっともにまっとうしていると感じた。
大島さんの演技を渥美清さんのそれと比較すると、いかにも褒めすぎたようだが、それだけ称賛に値する芝居を見せてくれていると思った。これは、シルバー世代にもアピールできる映画だと思いますね。
2015年劇場鑑賞作品・・・28映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング


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