『ヒストリー・オブ・バイオレンス』などで知られる鬼才デヴィッド・クローネンバーグ監督が、ハリウッドセレブの実態をシニカルに描いた人間ドラマ。ハリウッドでリムジン運転手をしていた脚本家ブルース・ワグナーが実際に体験した話を基に、富も名声も得た完璧なセレブ一家が抱える秘密を暴き出す。本作の演技で第67回カンヌ国際映画祭女優賞を受賞したジュリアン・ムーアをはじめ、ミア・ワシコウスカ、ジョン・キューザック、ロバート・パティンソンら豪華キャストの競演も見どころ。
あらすじ:セレブを相手にしているセラピストの父ワイス(ジョン・キューザック)、ステージママの母クリスティーナ(オリヴィア・ウィリアムズ)、人気子役の息子ベンジー(エヴァン・バード)から成るワイス家は、誰もがうらやむ典型的なハリウッドのセレブ一家。しかし、ワイスの患者で落ち目の女優ハバナ(ジュリアン・ムーア)が、ある問題を起こして施設に入所していたワイス家の長女アガサ(ミア・ワシコウスカ)を個人秘書として雇ったことで、一家が秘密にしてきたことが白日の下にさらされ……。
<感想>冒頭ではフロリダから18歳のアガサがハリウッドにやってきたところから始まる。一見天真爛漫に見えるが、よくよく見ると顔や手にヤケドの痕がある。そこへ、リムジン運転手のロバート・パティンソンがいて、彼の運転でハリウッド観光を始めるアガサ。彼女が先にリムジンを行かせたのは、かつて自分が住んでいた家の荒れ果てた跡地だった。
このリムジン運転手のロバート・パティンソンの役が、ブルース・ワグナーであり、実際に運転手時代の自分の体験したエピソードを織り込んで書き上げたのが本作なのだ。
アガサが次に行ったのが、落ち目のベテラン女優ハバナの邸宅へ。そこで個人秘書として雇われる。ハバナは70年代に謎の焼死を遂げた人気女優クラリスの娘で、幽霊のように出没する母親の幻影に悩まされていた。
セレブファミリーのワイス(ジョン・キューザック)一家は自己啓発メソッド本を売りまくっているセラピスト。で、母親は息子を子役としてブレイクさせたモーレツママ。でも、息子はドラッグ依存症。ワイスの顧客の一人に落ち目の大物女優ハバナ(ジュリアン・ムーア)がいて、若くして死んだ母親の幻影を消し去るためのセラピーを受けているわけ。
在りし日の母は、ハバナと同じく女優で、妖精のように美しい絶頂期に謎の焼死をしている。キャリア喪失の危機にある今、母への劣等感に苦しむ彼女の前に、手ごろな「奴隷」がやってくる。それが、ハバナの個人秘書志望の少女アガサなのだ。彼女は顔に火傷の痕があり身体にも長袖の服で覆っているが、腕にも火傷の痕が見える。
ハバナは焼死した母親の連想もあって、運命を感じたハバナはアガサを雇うことに。アガサもまた深い闇を抱えているのだが、そんなことには興味もないハバナは、言いなりになる道具として、また密かな増悪をぶつけるものとして扱うようになる。
トイレのシーンは、その主従関係が分かりやすいと思う。ドアを開け放したまま用をたしているハバナは、便秘のようでまだ使用中にもかかわらず、アガサを呼びつけて用事を言いつける。目を逸らそうとする彼女に、ハバナはアガサを犬と見ているようで、犬に排泄を見られたところで何にも感じない女である。
恐ろしいほどの下劣さを躊躇なく演じるジュリアン・ムーアに、残酷な女神の姿が重なって見えた。
アガサの家族とハバナとの関係は、「火」というモチーフで連結される。ハバナの母親は18970年代のカルト映画「盗んだ水」に出演し、若くして謎の焼死を遂げている。ハバナは、母親の演じていた「盗んだ水」のリメイク企画に、是非自分がヒロイン役を射止めようとやっきとなるのだが、実力不足や年齢的なものもあり、難しい状況なのだ。ハバナは、しばし母親の幻覚を目にして、その亡霊てきな母親から「あんた才能ない、あるのは中年太りの醜い身体だけ」とボロクソに罵倒されるほど、つまりは被害妄想で母親の呪縛霊から逃れられない。
そして、ワイス一家では、一人娘のアガサが、7年前に家に放火して、自らも全身やけどを負う。その時両親は旅行中で、弟のベンジーも被害者である。それで、キチガイの烙印を押されたアガサは、精神病院へ入れられていた。そして、18歳になり、両親の元へと帰ってきたのだ。
しかし、アガサは昔、弟と「結婚ごっこ遊び」で家に放火したわけ。それが、再び戻ってきたことで、「結婚ごっこ遊び」を繰り返して、神聖なる儀式の再開へと至る。どうやら、母親と父親は兄と妹で近親相姦の末に、子供たちが生まれたようだ。その因果が、姉のアガサを狂気に走らせてしまう。そして、アガサの精神状態が爆発すると、ハバナはその餌食になってしまう。アガサの母親クリスティーナも、自宅のプールサイドで火だるまとなって死んでしまう。
タイトルが、ハリウッドスターの住所を示した地図の話かと思ったら、身勝手な子役スターを巡るグロテスクな人間模様を描く内容だと分かってくる。
いやはや、開巻から早速いかにもな固有名詞が、台詞のなかで飛び交い始めるので、まさか本当にクローネンバーグ監督が、セレブ諷刺群像劇を撮ったのかと唖然としそうになってしまった。
ですが、妙に突き放した描き方にやがて背筋がゾクゾクし始めて来て、いよいよ突発的に暴力が発生するに至り、やっぱりこれはクローネンバーグ節だと納得した。
しかも、どいつもこいつもがいけ好かないと思っていたのに、病んだ登場人物たちの孤独と絶望が何時の間にやら沁みてくるのだ。スキャンダラスな外見を装った哀しくも切ないほどの神話でもある。
何かと異形にこだわるクローネンバーグ監督だが、ロバート・パティンソン演じた「コズモポリス」と本作を比べると、異形なシステムとそこに生きる人々を描くことに最近は執心まっさかりなのだと感じた。
とりあえず、虚栄、慢心、エゴが渦巻くハリウッドを舞台にした悲喜劇としては楽しめました。近親相姦メロドラマな展開や、CG感むきだしな焼死描写なども、ハリウッド的な俗っぽさ、または安っぽさを際立たせるようで悪くはない。
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あらすじ:セレブを相手にしているセラピストの父ワイス(ジョン・キューザック)、ステージママの母クリスティーナ(オリヴィア・ウィリアムズ)、人気子役の息子ベンジー(エヴァン・バード)から成るワイス家は、誰もがうらやむ典型的なハリウッドのセレブ一家。しかし、ワイスの患者で落ち目の女優ハバナ(ジュリアン・ムーア)が、ある問題を起こして施設に入所していたワイス家の長女アガサ(ミア・ワシコウスカ)を個人秘書として雇ったことで、一家が秘密にしてきたことが白日の下にさらされ……。
<感想>冒頭ではフロリダから18歳のアガサがハリウッドにやってきたところから始まる。一見天真爛漫に見えるが、よくよく見ると顔や手にヤケドの痕がある。そこへ、リムジン運転手のロバート・パティンソンがいて、彼の運転でハリウッド観光を始めるアガサ。彼女が先にリムジンを行かせたのは、かつて自分が住んでいた家の荒れ果てた跡地だった。
このリムジン運転手のロバート・パティンソンの役が、ブルース・ワグナーであり、実際に運転手時代の自分の体験したエピソードを織り込んで書き上げたのが本作なのだ。
アガサが次に行ったのが、落ち目のベテラン女優ハバナの邸宅へ。そこで個人秘書として雇われる。ハバナは70年代に謎の焼死を遂げた人気女優クラリスの娘で、幽霊のように出没する母親の幻影に悩まされていた。
セレブファミリーのワイス(ジョン・キューザック)一家は自己啓発メソッド本を売りまくっているセラピスト。で、母親は息子を子役としてブレイクさせたモーレツママ。でも、息子はドラッグ依存症。ワイスの顧客の一人に落ち目の大物女優ハバナ(ジュリアン・ムーア)がいて、若くして死んだ母親の幻影を消し去るためのセラピーを受けているわけ。
在りし日の母は、ハバナと同じく女優で、妖精のように美しい絶頂期に謎の焼死をしている。キャリア喪失の危機にある今、母への劣等感に苦しむ彼女の前に、手ごろな「奴隷」がやってくる。それが、ハバナの個人秘書志望の少女アガサなのだ。彼女は顔に火傷の痕があり身体にも長袖の服で覆っているが、腕にも火傷の痕が見える。
ハバナは焼死した母親の連想もあって、運命を感じたハバナはアガサを雇うことに。アガサもまた深い闇を抱えているのだが、そんなことには興味もないハバナは、言いなりになる道具として、また密かな増悪をぶつけるものとして扱うようになる。
トイレのシーンは、その主従関係が分かりやすいと思う。ドアを開け放したまま用をたしているハバナは、便秘のようでまだ使用中にもかかわらず、アガサを呼びつけて用事を言いつける。目を逸らそうとする彼女に、ハバナはアガサを犬と見ているようで、犬に排泄を見られたところで何にも感じない女である。
恐ろしいほどの下劣さを躊躇なく演じるジュリアン・ムーアに、残酷な女神の姿が重なって見えた。
アガサの家族とハバナとの関係は、「火」というモチーフで連結される。ハバナの母親は18970年代のカルト映画「盗んだ水」に出演し、若くして謎の焼死を遂げている。ハバナは、母親の演じていた「盗んだ水」のリメイク企画に、是非自分がヒロイン役を射止めようとやっきとなるのだが、実力不足や年齢的なものもあり、難しい状況なのだ。ハバナは、しばし母親の幻覚を目にして、その亡霊てきな母親から「あんた才能ない、あるのは中年太りの醜い身体だけ」とボロクソに罵倒されるほど、つまりは被害妄想で母親の呪縛霊から逃れられない。
そして、ワイス一家では、一人娘のアガサが、7年前に家に放火して、自らも全身やけどを負う。その時両親は旅行中で、弟のベンジーも被害者である。それで、キチガイの烙印を押されたアガサは、精神病院へ入れられていた。そして、18歳になり、両親の元へと帰ってきたのだ。
しかし、アガサは昔、弟と「結婚ごっこ遊び」で家に放火したわけ。それが、再び戻ってきたことで、「結婚ごっこ遊び」を繰り返して、神聖なる儀式の再開へと至る。どうやら、母親と父親は兄と妹で近親相姦の末に、子供たちが生まれたようだ。その因果が、姉のアガサを狂気に走らせてしまう。そして、アガサの精神状態が爆発すると、ハバナはその餌食になってしまう。アガサの母親クリスティーナも、自宅のプールサイドで火だるまとなって死んでしまう。
タイトルが、ハリウッドスターの住所を示した地図の話かと思ったら、身勝手な子役スターを巡るグロテスクな人間模様を描く内容だと分かってくる。
いやはや、開巻から早速いかにもな固有名詞が、台詞のなかで飛び交い始めるので、まさか本当にクローネンバーグ監督が、セレブ諷刺群像劇を撮ったのかと唖然としそうになってしまった。
ですが、妙に突き放した描き方にやがて背筋がゾクゾクし始めて来て、いよいよ突発的に暴力が発生するに至り、やっぱりこれはクローネンバーグ節だと納得した。
しかも、どいつもこいつもがいけ好かないと思っていたのに、病んだ登場人物たちの孤独と絶望が何時の間にやら沁みてくるのだ。スキャンダラスな外見を装った哀しくも切ないほどの神話でもある。
何かと異形にこだわるクローネンバーグ監督だが、ロバート・パティンソン演じた「コズモポリス」と本作を比べると、異形なシステムとそこに生きる人々を描くことに最近は執心まっさかりなのだと感じた。
とりあえず、虚栄、慢心、エゴが渦巻くハリウッドを舞台にした悲喜劇としては楽しめました。近親相姦メロドラマな展開や、CG感むきだしな焼死描写なども、ハリウッド的な俗っぽさ、または安っぽさを際立たせるようで悪くはない。
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