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レッド・ファミリー ★★★★

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アリラン』『嘆きのピエタ』などの鬼才キム・ギドクが、脚本、編集、エグゼクティブプロデューサーを務めた異色のドラマ。家族を装って韓国に潜入する北朝鮮の工作員たちが、次第に階級の壁を乗り越えて奇妙な絆で結ばれていくさまを追う。監督を務めるのは、本作が初の長編作となるイ・ジュヒョン。『人形霊』などのキム・ユミ、『大韓民国1%』などのソン・ビョンホら実力派俳優が共演。ハートウオーミングかつスリリングな物語の中に、南北分断の現状も垣間見える作品。

あらすじ:誰もがうらやむ理想の家族を絵に描いたような一家。だがその正体は、母国からの密命を遂行するために韓国に潜入している北朝鮮の工作員チーム、サザンカ班だった。表では仲むつまじい4人家族だが、玄関のドアを閉めると階級を重んじ、母国の命令を順守するスパイ集団となる。何かと押し掛けてくる隣人一家を資本主義の隷属者と見下しながらも彼らに憧れを抱き、互いの階級を忘れて家族的な絆を育むようになる4人。そんな中、メンバーの一人が母国に残した妻子が脱北に失敗したとわかり……。

<感想>韓国の軍事施設の近くにあるレストランで、家族がウナギを食べるシーンから始まる。その店の下では、その家族が国境をバックに写真を撮っているのだ。どんなウナギ料理を食べているのか気になったのだが、これが北の工作員たちの偽装家族で、それに後ろ隣の(南)一般市民の一家などが絡み、早口台詞の多種家族間ドラマが展開するのだから、これはモトネタが舞台劇かと思った。
キム・ギドク脚本の「プンサンケ」でも南北を高跳びで行き来する男が登場したが、あえて、朝鮮半島の北と南を、お隣さんの家族に集約させ。小鳥が行き来する垣根越しはまるで38度線のようだ。一見、理想的な家族は、家の中へ入った途端に、規律と階級が絶対とされるスパイへと戻り、全ての会話は盗聴されている。

そして喧嘩の絶えないダメな一家は、退廃した資本主義そのもの。互いの家族も役割が明確で、祖父と祖母、娘と息子は自然と惹かれあう。それぞれに足りないものを持っているからだろう。そんなフィクションとしての敷居の低さに油断をしていると、涙を搾り取られることになる。
この映画の中では、可笑しいことと哀しいことが同時に描かれる。限りなく家族に近い生活をさせられながら、偽の家族であり続けることを強要されているのだから、自然と対立と葛藤が生まれてくるのだ。その描き方が実に面白かった。例えば南のダメ妻が、闇金融の取り立てに困っているところへ、北の一家にかかれば暴利な利息も交渉可能だし、急所を押えられたヤクザたちは慌てて逃げ出してしまう。
南の家への垣根を越えてしまった彼らは、監視をしている仲間にとっては、資本主義に毒された証拠である。北で鍛えられた能力を無駄使いしてしまった代償は大きい。だから、北に住んでいる家族の安否を餌に、残酷な選択を突きつけるのだ。偽の家族に一切の自由はないのだから。

つまりは、隣の南の家族を皆殺しにしてしまえという命令が下される。次の日、お隣さんと島へ遊びに行き、夜になり寝ているところを襲えと命令されるも、北の家族にとっては、監視している工作員たちを襲い縛ってしまう。
南の家族の口げんかさえも「理想的な」、一緒に「アリラン」を歌い涙ぐむ北の一家にとっては、そんな家族のささいな喧嘩さえもが理想へと変わるのだ。ちょっとくだらないケンカの内容なのだが、北の国が目指すモノが一体何なのか?・・・問われます。普通の暮らしがしたい。しかし答えはない。

結局は裏切りは処刑されるのがオチで、助かった娘が最後に出てくる。まだ、北の工作員として働いているのだろう。
雑な2時間ドラマみたいに棒立ちのまま台詞をやり取りしているだけの画面がやたらに多いのも、自分たちの正体に関わる会話を周りに聞こえるような状況で交わしていることも、好意的に解釈すれば徹底的にステレオタイプからなるコメディを目指しているからなのだろう。

そして民族の苦しみ、哀しみを芳醇に製作できる韓国映画界に羨ましくもある。それにしても、南の一家の喧嘩する声が筒抜けなのだから、北の一家の叱責する声やビンタの打音も聞かれていそうな気もするのだが、それは無く、北の家族を監視している諜報部員たちの様子がうかがえるのだ。
お隣の南の家族の喧嘩ばかりしている人間味溢れる一家。キチっとしているが人間味の薄い北の一家。彼らが実際の韓国・北朝鮮同様に隣り合って暮らす構図からして巧いですよね。国境・国家・思想という大義名分も、愛や情けには適わないことを笑いと涙とスリルで綴るキム・ギドク脚本のストーリー・テラーぶりに脱帽してしまった。
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