前作「イット・フォローズ」で世界的に注目を集めた俊英デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督が「沈黙 -サイレンス-」「ハクソー・リッジ」のアンドリュー・ガーフィールドを主演に迎えて贈るネオノワール・ミステリー。セレブやアーティストが暮らすロサンジェルスの“シルバーレイク”を舞台に、突然消えた美女の行方を追うオタク青年が、次々と現われる謎に挑んでいく中で、次第に街の背後にうごめく得体の知れない陰謀が浮かび上がってくるさまを、スタイリッシュかつ幻想的な筆致で描き出す。共演にライリー・キーオ、トファー・グレイス。
あらすじ:夢を抱いてシルバーレイクへとやって来たはずのオタク青年サム。仕事もなく、ついには家賃の滞納でアパートを追い出されようとしていた。そんな時、隣に越してきた美女サラに一目惚れするサム。どうにかデートの約束を取り付けるが、翌日訪ねてみるとサラの姿はなく、部屋はもぬけの殻。壁に奇妙な記号が書かれていることに気づいたサムは、彼女の失踪と関係あるに違いないと確信し、自らサラを探し出すべく謎の解明に乗り出すのだったが…。
<感想>この街は、何かに操られている。ロサンジェルスの北側に連なるビル、ヴァレーの一つである。元はネイティヴ・アメリカンの居留地で、ロスの郊外の荒涼なる土地であった。特に21世紀に入ってからは、若者のファッション・タウンとして知られるようになった。ミッチェル監督はそのようなニュー・タウン・シーンを捉えている。
米ハリウッド近くの“芸術の街”シルバーレイクを舞台に、オタク青年が美女の失踪事件を追う物語だ。本作は、セレブやアーティストたちが暮らすシルバーレイクを舞台に、消えた美女を探すうちに、街の裏側に潜む陰謀を解明することになるオタク青年サム(ガーフィールド)の暴走と迷走を描いた物語。
全編を通して最も明確に映し出されているのが、名匠アルフレッド・ヒッチコック作品へのオマージュ。サムが自分の前から姿を消した美女を追い求める姿は「めまい」を彷彿とさせ、アパートの別の部屋を双眼鏡で覗くサムの姿は「裏窓」を想起させる。劇中には印象的なシーンでヒッチコックの墓までもが登場し、ミッチェル監督のヒッチコックへの畏怖の念を強く感じさせる。
また、サムが思いを寄せる謎の美女サラ(ライリー・キーオ)がアパートのプールで泳ぐ場面は「Something's Got to Give(原題)」でのマリリン・モンローのシーンが再現されており、サラの部屋には「百万長者と結婚する方法」に出演したモンロー、ローレン・バコール、ベティー・グレイブルらのフィギュアが立ち並ぶ。
この映画の主人公が見ている「LAウィークリー」誌には、<イエスとドラキュラの花嫁>というバンドが紹介され、またLA東部復活、滅んでなかった?、と言う見出しがある。
ロサンジェルスはダウンタウンのある東部から西のハリウッドの方へと伸びて行くが、東部は寂れだしていた。シルバーレイクは東部であり、西のビバリーヒルズなどに比べて沈んでいたが、このところ東部復活が見られるらしい。
主人公サムは同人誌的コミックスの「アンダー・ザ・シルバーレイク」を見る。そこには、1978年に見つかった古い映画フィルムの話が出て来る。そして<フクロウのキス>というカルト集団が出て来る。フクロウのマスクをした魔女が夜に忍び込み、眠っている人を殺すのだ。
マンソン・ファミリーの娘たちは、知らない家に忍び込み、何かを動かして去り、まるで見えない妖精がうごめいているかのようにする、遊びをやっていたと言うのだ。その見えない妖精遊びは殺人にまで至ってしまう。この映画の<フクロウのキス>というカルト集団も、娘たちによる妖精ごっこなのだ。
この映画に散りばめられているカルトごっこ、陰謀論、パラノイア、マインド・コントロールなどが、1970年代のリバイバルであることも注目しなければならない。
主人公サムが暗号解読に引き込まれ、消えた美女を追って、死の教団の秘密に巻き込まれてゆく。古いものと新しいもの、東と西、極端な両極がいきなり接触している。幻想と現実の境界がなくなったカリフォルニア文化ではすべてがあり得るように見える。
彼はホームレスの王に救出されて、地下の穴からロスの街に出て来る。そしてけろりとして、日常に戻るラストは、あまりにもあっけなく思えるのだが、カリフォルニアのお伽噺、LAのアラビアンナイトを語ろうとするロバート・ミッチェル監督の仕掛けを楽しむことにしょう。
ひ弱さと闇を抱えたオタク的な主人公のサムを演じたのは、アンドリュー・ガーフィールド。「アメイジング・スパイダーマン」シリーズで脚光を浴び、その後も戦争映画の「ハクソー・リッジ」、長崎県にやって来た宣教師を演じた「沈黙―サイレンスー」など、チャレンジングな役柄に取り組み続けている。
本作では、夢を諦め切れない青年に扮して、繊細なニュアンスを伝える演技力を生かしながら、これまでとはまた違うダークな一面も見せている。
そして、お相手には「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のライリー・キーオが、姿を消すサラを演じている。サムと共に異世界への扉を一つ一つ開けて行くような、妖しき悪夢的なムードに浸れるサスペンス。人世の停滞を誰かの策略のせいにするのは、もうお終い。そんな青春の終わりも感じさせる作品でもあります。
ニルヴァーナなどの音楽シーンのスターたち、ヒッチコック映画のポスター、映画ファンにはお馴染みのロケーション等々。画面を隙間なく埋め尽くすそれから多くの作品や、人物が思い浮かび、謎解きと一緒に楽しめる反面、過食症気味にもなるようだ。
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