独裁者スターリンの急死を受け、側近たちが最高権力の座を巡って繰り広げる権謀術数渦巻く暗闘の行方を描いたフランスのグラフィック・ノベルを、実力派キャスト陣の共演で映画化したドタバタ政治ブラック・コメディ。出演はスティーヴ・ブシェミ、サイモン・ラッセル・ビール、オルガ・キュリレンコ、アンドレア・ライズブロー、ジェフリー・タンバー。監督は英国のTVを中心に活躍し長編映画は2作目となるアーマンド・イアヌッチ。
あらすじ:1953年、政敵を次々と粛清し、長年にわたって権力をほしいままにしてきたソビエト連邦連邦共産党書記長スターリンが、一人で自室にいるときに発作を起こす。やがて意識不明で倒れているところを発見されるが、集められた側近たちは責任が及ぶことを恐れて右往左往するばかり。そうこうするうちスターリンは後継者を指名することなく息を引き取ってしまう。すると側近たちは国葬の準備もそっちのけで、スターリンの後釜を狙って卑劣で姑息な権力闘争を繰り広げていくのだったが…。
<感想>スターリンが死んだ!厳かなはずの国葬の裏で、絶対権力者の座を巡り、狂気のイス奪りゲームが始まる。物語の始まりは、『The Death of Stalin(スターリンの死)』という原題通りである。原作はフランスのグラフィック・ノベルだから、テンポも快調であり、そっくりさんというわけでもないが、達者な俳優たちは英語で喋り、予想通りロシアでは上映禁止だというから、どうしても見たくなるよね。
ソ連を20年間支配した独裁者スターリンが1953年3月に死去した後、国葬の裏側で側近たちが繰り広げた後継者争いを描くブラックコメディで、基本的には史実に基づいている。
監督がイギリスのアーマンド・イアヌッチなので、イギリス的なユーモアでは定評があるので、全篇を通してドタバタ喜劇に仕上がっていた。セリフはすべてロシア語ではなく、見事に英語化されていたのが、もちろんやたら早口でまくし立てる英語なので、この映画の最大の成功だと思う。
映画の出だしは、ラジオモスクワで女性ピアニストがモーツアルトの曲を弾く。終わるとスターリンから電話があり、「演奏のレコードが欲しい」と言うのだ。生放送だから録音なんてやっていない。仕方なしに再演装をする騒ぎとなり大混乱だ。客はほとんど帰ってしまって客席がガラ空き状態。しょうがなく、道にいるルンペンたちを客席に座らせて取り直す。ピアノ演奏者のオルガ・キュリレンコは、始めは嫌がっていたがしぶしぶ承知して弾き直すのだ。出来上がったレコード届けたが、スターリンは急死。
慌てて駆けつける後継者予備軍たち。スティーヴ・ブシェミのフルシチョフに、サイモン・ラッセル・ビールのベリヤと、不安そうなジェフリー・タンバーのマレンコフ。
スターリンの腹心だったマレンコフがまず書記長代理として名乗りを上げ、秘密警察最高責任者のベリアが彼と手を組む。マレンコフが次期書記長になり、ベリアを第一副議長に任命したのだ。ベリアはさらに軍隊に替えて配下の警備隊をモスクワの警備にあたらせるわけ。
葬儀委員長を押し付けられた中央委員会第一書記のフルシチョフも反撃を開始するも、そして、さっそうと登場するベリアとは犬猿の仲の軍事司令官、ジェイソン・アイザックスのジューコフ元師に相談を持ち掛ける。多数の豪華な芸達者たちによる演技合戦が実に楽しいのだ。
そしていよいよ国葬の日に、スターリンの息子のワシーリーには、ルパート・フレンドが、周囲からは厄介者扱いされているが自意識だけは強いときてる。スターリンの娘のスヴェトラーナに、アンドレア・ライズブローが気丈な女で父親の死後もベリアを利用し影響力を保とうとしているのだ。この二人が出席する中で、フルシチョフの仕掛けた陰謀の幕が切って落とされるのですね。
スターリンが映画の中で脳出血で倒れ、自分の小便にまみれているが、これは歴史的事実だったらしい。警護の兵士が彼を恐れていたために室内に入ろうとしなかったからだとも言われている。
彼らの足の引っ張り合いなど、すべて英語でまくし立てられるのだ。葬儀のため遺体に化粧をしていると「クラーク・ゲイブルみたいにしなくていい」と言う、フルシチョフのセリフについ笑いが。
全編にわたり、やたらと口が悪い役人ばかり揃っている。次の後継者は「俺だ」と言わんばかりの官僚たち。それに息子がいるが、薬中でバカ者なので、みんなはそれとなく蚊帳の外に置いてしまう。娘は結構美人であり、みんな後釜たちが揃ってゴマをすり近寄ってゆくのも面白かった。
そんなやりとりで笑わせながら、劇中ではスターリンの国葬から日を置かずにベリアが処刑されているのだが、実際はもう少し経ってから執行されたのでは、などと思いつつも、史実と想像をごちゃまぜにして、冷やかな笑いをまぶした語り口に乗っかってしまえば占めたものだ。それは「邪魔者は排除せよ」って言うことかも。
原作漫画をいかに映画として視覚的に、セリフ的にふくらませるか、というイヌアッチ監督の工夫が、贅沢極まる笑いと冷酷さをめぐる映画体験を与えてくれるのである。期待通りの仕上がりで、フルシチョフやマレンコフの立ち位置とか、スターリンの子供たちの話も面白かった。
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