日本を代表する名キャメラマン木村大作が「劔岳 点の記」「春を背負って」に続いて3度目の監督を務め、直木賞作家・葉室麟の同名小説を映画化した本格時代劇。藩の不正を訴えたばかりに、逆に藩を追われた主人公が、亡くなった妻から託された最期の願いを胸に、再び過去の因縁に愚直に立ち向かっていく凛とした姿を、激しい殺陣を織り交ぜつつ美しい映像で描き出す。主演は「海賊とよばれた男」「関ヶ原」の岡田准一。共演に西島秀俊、黒木華、池松壮亮、麻生久美子、奥田瑛二。
<感想>映画の冒頭で、雪の降りしきる中で、三人の男たちに襲われた新兵衛は、鮮やかな太刀さばきで相手を振り払った。未だに彼を脅威に思っている誰かがいて、追いかけてきたらしい。凄腕の新兵衛は、ズバズバと剣を抜き片をつけるが、後に残るのは虚しさばかり。救いを求めるかのように天を仰ぐが、冷たく雪が降るばかりであった。このシーンを始めとして、岡田准一が付けた殺陣を通して新兵衛が豪傑な人間であることが見て取れる。
病に倒れて死期の迫る妻、篠からのたのみ、「故郷の藩に戻って采女様を助けてほしい」。それを聞いた新兵衛の胸の内に、嫉妬が走らなかったとしたら嘘になるだろう。彼は新兵衛の妻になる前の篠の婚約者であった。
「頼みを果たせたら、褒めてくれるか」と抱きしめた妻に問う。すると「お褒めいたしますとも」と、篠は答えてかすかに微笑んだ。はっと胸が突かれるほどに新鮮な会話。死が間近に迫る妻の眼差しが語る必死の思いを、そこに新兵衛は気づかないわけがありそうだった。
そのわけを知りたいと見ていると私は思うのだが。このシーンを観ただけで、原作は読んでいませんが、妻の死に際の願いを叶えて上げたいと言う、夫・新兵衛の苦しい胸の内を知る由もない。何のために生きるのか、また虚しい逃亡生活が続くのか。その時、妻が願いを託してくるのは、その願いが何を意味するのか。妻の真意を掴み切れないまま、新兵衛は当面、生きることになる。
かつては、同じ道場で剣の腕を競う友だった采女には、篠との縁談を母に壊された過去があり、篠は采女からの文を大切に持っていた。篠を妻にした新兵衛は、上役の不正を告発したが耳を貸すものはおらず、藩を追放されることになって、妻と共に故郷を捨てたのだった。
亡き妻、篠の約束を胸に秘めて故郷へ戻ったのはいいが、藩内では改革の時を迎えていて、勢力争いで揺れており、今も独り身の采女は争いの渦中にいるらしい。新兵衛を迎える篠の妹・坂下里美の表情は、柔らかいが弟の藤吾の心情は複雑であった。それは、新兵衛は自分の出世の邪魔になるからだ。
坂下の父親を斬ったのは、もしや新兵衛ではという疑いを持っていた皆が、本当の犯人を知り、命を落とす間際にそのことを話す緒形直人扮する篠原三右衛門。家老が若殿を暗殺しようと企み、鉄砲隊で襲撃するも、軽傷で助かった良かった。若殿も自分の身の安全を知り、新兵衛に護衛を頼むのだが、奥田瑛二扮する家老の石田玄蕃家老のことを若殿に告発して、藩の不正を正すように頼むのであった。
藩内の権力闘争や、豪商、田中屋の絡む不正、賄賂の問題を背景にしながら進むドラマは、采女と新兵衛に逃げられない運命をもたらすのであった。
散り椿の前での采女との対峙は、相手にとって不足はないほど両人とも剣がたつ御両人。雪がチラつき、真っ赤な椿の花が地面に散っている。そこでの二人の決闘みたいなシーンでは、お互いの心の中の探り合いみたいな、どちらかが負けて怪我をしてもつまらないことで、仲の良かった友との対峙は、本当は避けたいと思っていたのに。
雪の降る庭で、坂下の義理の弟との剣術の稽古は、二人共揃っていて見応えがあった。それに、刀を文字通りひらめかせるクライマックスの戦い。いずれにしても、岡田准一の太刀捌きといい、低く腰を落としての動きといい、いずれも凄まじい密度で見せてくれる。
そこで迫りくる死を前に篠が夫にした頼みごと、「采女様を助けてほしい」に想いを巡らせば、あれは采女の名前を借りて、新兵衛に自分の気持ちを伝えたい篠の知恵ではなかったのではないかと。長年連れ添い、愛した新兵衛への深い想いに、改めて気づかされ胸が締め付けられるようでした。
篠の妹の里美は、去って行く新兵衛を送りながら「待っている」と心の中で叫ぶのです。それは新兵衛にも内心は、わかっていることで、でも、いつの日か。と言い残して立ち去る新兵衛の心は、晴れやかでもあったに違いない。
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