Quantcast
Channel: パピとママ映画のblog
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2328

寝ても覚めても★★★・5

$
0
0

前作「ハッピーアワー」で大いに注目を集めた濱口竜介監督が、芥川賞作家・柴崎友香の同名小説を主演に東出昌大と唐田えりを起用して映画化した恋愛ドラマ。同じ顔を持つ対照的な2人の男を愛した女性の揺れる心の軌跡を通して、人が人を好きになることの不思議を丁寧かつスリリングな筆致で描き出す。

あらすじ:地元の大阪を離れて東京で暮らしていた泉谷朝子。カフェで働く彼女は、コーヒーを届けに行った先である男を見て息をのむ。丸子亮平と名乗ったその男は、2年前、朝子のもとから突然姿を消した恋人・鳥居麦とそっくりな顔をしていた。5年後、朝子は亮平と共に暮らし、満ち足りた穏やかな日々を送っていた。そんなある日、麦がモデルとして売れっ子となっていることを知ってしまう朝子だったが…。

<感想>愛に逆らえない。違う名前、違うぬくもり、でも同じ顔。運命の人は二人いた。新人の唐田えりかが演じている朝子、始めは大阪時代に知り合った麦と言う若者と、次に東京へ出て来て知り合った亮平という2人の若者を愛するようになる。東出昌大が2人の男を演じ分けている。

麦は放浪癖が強くて、散歩中にいい風呂を見つけたといってそこへ入っていく。そして、ある日突然、靴を買いに出たまま姿を消してしまうのだ。

それに対して、亮平は堅実な会社員であり、日本酒のメーカーで働いている。まさに麦がちゃらんぽらんな性格とすれば、亮平は地に足が着いている真面目なタイプ。

麦に捨てられた形となった朝子は、実直な亮平と会って一緒に暮らすようになる。確かに心がときめく様なことは起きないが、平穏な安心感がある。2人は東北大震災の後、被災地にボランティア活動に行くが、恐らくは亮平が誘っての事だろう。その活動も朝市の手伝いなので、特別なことではなく日常の延長になっている。

亮平との平穏な暮らしが続くかと思われた時、姿を消していた麦が現れ、朝子は麦の突然の帰還に動揺する。もともと亮平は麦と瓜二つだったから。朝子は亮平と暮らしながらも、「この人はひょっとして、麦ではないか」と不安といくらかの期待を持っていたはずなのだ。

そして、朝子は麦と再会した後、思いもかけない行動をとる。これは、朝子が我儘であるとか、自分の気持ちに素直であるとかではないと思う。寝ていてた麦への愛が呼び起こされ、そのまま亮平のもとを去って、麦と一緒に逃避行をしてしまうのだ。

誰がどう考えても朝子のとった行動は許されるものではない。若いカップルが付き合い幸せに同棲をしていたところへ、女の方がまだ昔の彼のことを忘れられなくて、そこへ昔の彼が「迎えに来たよ」なんて言われたら、つい動揺してそのまま付いて行くだろうか。あり得ないと誰もが思うだろう。絶対に女の方が卑怯だ、大人のすることか、子供ではないのだからと、怒るだろう。

亮平と一緒に住んでいるところは、川が目の前に流れていて、土手の傍に建っている。雨で増水した川を見て亮平が「水かさが増している」と言うところでは、2人の暮らしの先行きの不安を感じさせるのだ。

一度は朝子を捨てた男、麦に再び夢中になるヒロインの朝子の、理性では割り切れない愛の姿に感情を揺さぶられる。しかし、麦と亮平は双子ではない。確かに顔は似ているが性格も体つきも違うのだから。

北海道へ行こうと言う麦の言葉に、つい衝動的に惹かれて付いて行った朝子は、途中の東北大震災の後地、仙台で目が覚めてふと気が付くのだ。自分は何をしているのだろうと、そして、麦に別れを言い車から降りる。

防波堤の高いガードレールがある東北道、そこで降りて海を見ると、曇り空で波が荒く押し寄せている。つまりは、もしもこのまま麦に付いて行ったら、この海のように荒々しい、波に飲まれて行くかもしれないことを考えたのだろうか。そのまま、無一文の朝子は、震災のボランティアをしていたおじさん(仲本工事)の家へ行き、旅費を貸して貰い東京から大阪へ転勤した亮平の元へと帰るのだ。

しかし、亮平は怒り、決して許さないといい、朝子の飼っていた猫を捨てたと言うのだ。それから、猫を必死に探しに行く朝子。雨が降って来てびしょぬれになりながら、愛猫を探す朝子を見て、亮平は自分のところへ戻って来てくれたことを素直に喜べないも、心の中では赦しているのだ。

多くの恋愛映画が描くのに、ライバルを始め、家族や会社のしがらみや病気といった障害を設定することで、ドラマを盛り上げようとするのに対して、ここでは、それらを一切排除して、ヒロインの感情の動きのみに沿って描いている、理不尽とも思える言動をヒロインがやってのけるが、それを演出と俳優の力で成立させてしまう、ごく稀な恋愛映画なのだ。

それに、川から海へ、また川へと全篇を繋ぐ水のイメージと共に、観客はその流れに心地よく身を任せていればいい。朝子の取った態度に、賛否両論があれど、こんな女性がいてもいいのじゃないかと、自分にはない女の一面を見た感じがした。

2018年劇場鑑賞作品・・・182  アクション・アドベンチャーランキング

 

 「映画に夢中

 トラックバック専用ブログとして、エキサイトブログ版へ

 

 


Viewing all articles
Browse latest Browse all 2328

Trending Articles