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菊とギロチン★★★・5

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 「ヘヴンズ ストーリー」「64-ロクヨン-」の瀬々敬久監督が、“女相撲興行”とアナキスト集団“ギロチン社”という大正末期の史実をモチーフに、時代に翻弄されながらも自由を求めて闘った若者たちの熱き生き様を描いた青春群像劇。主演は東出昌大とオーディションで選ばれた木竜麻生、共演に寛一郎、韓英恵。

あらすじ:大正末期、関東大震災直後の日本。世の中には不穏な空気が漂い、台頭する軍部の影響で自由が徐々に失われ、閉塞感ばかりが増していた。そんな中、東京近郊に女相撲一座“玉岩興行”がやって来る。女力士たちは、元遊女の十勝川をはじめワケありの娘ばかり。新人力士の花菊もまた、夫の暴力に耐えかねて家出した貧しい農家の嫁だった。花菊は自分の力で生きるために強くなりたいと、必死に稽古に打ち込んでいく。そんな彼女たちの興行を観戦に来ていたのが、“ギロチン社”の中濱鐵や古田大次郎たち。平等な社会を目指し、革命の必要性を訴えるアナキストの彼らは、女力士たちの自由を追い求める姿に共鳴し、行動を共にするようになるのだったが…。

<感想>「64-ロクヨン-」で今やヒットメーカーとなった瀬々敬久監督の新作。タイトルこそ挑発的だが、昨年の大林監督の「花筐」とは、根っこの部分で共通する青春群像劇であります。物語の軸となっているのは、革命団“ギロチン社”のアナーキスト達を中心に、自由を求める若者たちの活力がみなぎる快作であります。関東大震災直後という時代の空気の中での両者のすれ違いを、半端ではない登場人物の、半端ではないエピソードで繋げ、ガツンと来る作品。

物語は、後の昭和天皇暗殺を企てた集団の話でもあり、さらには原子力とテレビの父こと正力松太郎も登場するだけにちょっと危ない企画なのである。ですが、アナーキスト集団を描いただけの映画だけではなく、当時の日本の厳しい家父長制度から逃げ出してきたり、世間一般から白い目で見られている浮き草稼業の、流れ者の集まりの女性たち。様々な過去を持つ女力士たちを強引に混ぜることで、これまでにない作品に出来上がっていた。

これまでのアナーキスト映画では女性は脇役でしかなかったが、本作では遊女やDV夫から逃げた女たちも加わった、女相撲の一座とアナーキストたちが交わることで、自由に生きる女たちの姿を生き生きと映し出している。

特に良かったのが、砂浜で女相撲の力士たちが延々と踊るシーンでは、自由を体現した若い男女たちの大らかさが見える名場面でもあります。

序盤の女相撲興業の場面で女力士=女優たちがその肉体の力感を画面にあふれさせたあとは、一気にノレて見れたのだが、それが鍵だろうか。私もまたこの映画の中の女たちと同じく、血を吐くように強くなりたい。

世の不寛容さを伴った大正から昭和へと向かう時代。その時代性が現在とシンクロする点に、本作を“今観る”意義があると思いますね。キャスティングとしては、中濱鐵の東出昌大さんは、自由奔放な青年役で良かった。それに、これが映画初出演となった古田大次郎役の寛一郎の瑞々しさが目をひくが、佐藤浩市の息子が演じていた。

朝鮮から爆弾を買って来て、浜辺で爆発の威力を確かめる古田。花菊の夫が彼女を連れ戻しに来た時も、その爆弾を使って夫を殺そうとするも、怪我をしただけで、それでも、花菊を逃がすのには役に立ったのだ。

 

女相撲を通して、人間としての強さと生命力を身に着けてゆく花菊の成長をまなざしと佇まいで表現した木竜麻生、その対となる十勝川の、朝鮮人の韓英恵の演技アプローチが何よりも素晴らしかった。

それも女子プロレスの興行に模すことで、彼女たちの土俵上での真剣な取り組み、稽古、争いなどを躍動感で描き、若きアナーキストたちに欠ける肉体性を女性たちによって補充するのである。

この辺りの脚本と演出も見事であり、字幕やナレーションを使って情報を補足しており、いささか駆け足気味ですが納得の出来栄えであります。ところで、タイトルの「菊とギロチン」とは、皇室とギロチン社の意だが、劇中で再び赤文字で表示される瞬間がある。

画面の隅々まで自由があふれている、3時間強に渡っての上映時間に端折れる部分もあったのに、ひたすら続く反乱狂騒曲には、観客も心地よく翻弄されたはずだと思います。

2018年劇場鑑賞作品・・・150アクション・アドベンチャーランキング

 

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女相撲:18世紀中ごろに始まった見世物興行。明治時代、山形に本拠を持つ女相撲一座が隆盛を誇るが、西洋化を推し進める民衆教化の流れの中で、醜悪な見世物だとして官憲から厳しい取り締まりを受けるようになる。1890年に、東京両国の回向院境内で行われた高玉女相撲の興行が盛況となったが、官憲から興行停止を命じられる。風俗を乱すものと見られる一方で、その後も女相撲の人気は続き、国内・海外を巡業。戦後も東北や北海道での巡業はあったが、1963年、最後まで残った平井女相撲が廃業し、終焉した。

 ギロチン社:日露戦争中、軍隊でビラを撒き投獄された中濱鐵(本名は富岡誓)が、1920年、除隊後の放浪中に出会った古田大次郎と、権力者や世界の象徴を、また自らもぶち壊そうと意気投合。大正天皇の息子ヒロヒト暗殺を目論み集まった仲間で、ギロチン社を名乗る。しかし資金集めした金は酒と女郎屋で散財し、東京では官憲に目を付けられ大阪に拠点を移した後も放蕩三昧のあり様。憲兵隊の襲撃や銀行強盗など失敗し続ける内にほとんどのメンバーが逮捕される。中濱と古田は朝鮮へ逃亡。帰国後二人とも逮捕される。中濱鐵は、29歳で死刑。


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