『ラストエンペラー』『魅せられて』などのイタリアが誇る巨匠ベルナルド・ベルトルッチ監督の、初メガホン作から50周年の青春作。ニコロ・アンマニーティの小説を基に、扱いにくい少年と腹違いの姉の地下室での短い共同生活がもたらす魂のぶつかり合いを映し出す。主演の姉弟を演じるのは、共に新人のテア・ファルコとヤコポ・オルモ・アンティノーリ。最初は反目し合いながらも、次第に心を通わせていく彼らの再生の物語が感動を呼ぶ。
あらすじ:孤独を愛する14歳のロレンツォ(ヤコポ・オルモ・アンティノーリ)は、家でも学校でも煙たがられていた。そんな彼が、学内恒例のスキー合宿に参加すると言い出し、母親のアリアンナ(ソニア・ベルガマスコ)は大喜びする。だが、ロレンツォは最初からアパートの地下室に隠れ、羽を伸ばして思い切り好きなことをするつもりだった。
<感想>ベルトリッチ監督が10年近い闘病を克服して、再び映画の最前線に復帰した新作。この映画に見られる孤独で人間嫌いの14歳の少年ロレンツォは、学校で集団で出かけるスキー旅行を勝手に取り止め、その期間を自宅のアパートの地下室に籠って過ごそうと決意する。この計画が順調に進みだしたとき、父親の先妻の娘、オリヴィアが突然出現し、内気な少年を混乱させる。二人が地下室に閉じこもったのは、他に何処にも行く場所を見つけることが出来なかったからだ。だがそこは、家族の過去の記憶の収蔵庫でもあり、それがオリヴィアを呼び寄せたのだろう。
気ままに心おきなく過ごすことの出来る避難場所に出現した珍入者を巡って、どう折り合いをつけていくのか。困難な状況から非難してきた乱入者に対して寛大に歩み寄り、互いに理解しあうことで、自分も同じ困難な状況から解放されることができるとすれば、・・・。
これは青春の物語なのだろうか、学校のスキー合宿をサボって地下室に引きこもった少年と、突然そこに侵入してきた麻薬中毒の義理の姉の間に育まれる密かな愛。その愛の中で、二人だけの晩餐の幸福があり、義姉、弟はそれぞれの朝を迎える。
だが、少年は14歳というより大人びて見えるし、義姉も世の荒波をくぐりぬけてきたせいか疲れ切って見えた。地下室は暖房が効いているようで温かいのか、義姉が下着姿で薬断ちの苦しむ姿を見て、自分が何もしてやれないまだ子供といういらただしさを覚える場面もある。睡眠薬を飲み眠りで薬断ちをするオリヴィア、睡眠薬を取りに病院へ、入院しているお婆さんのところへ忍び込み取りにいく少年。
地下室に籠った少年に社会は携帯電話を通して侵入する。母親は少年にメールをし、電話を掛けてくる。電話口で彼がスキー教室に参加していることを確かめようとして、教師の声を装ったオリヴィアにまんまと騙される。少年もまた電話口で母親を巧妙な作り話で騙している。
それとアルマジロと蟻が少年の分身として登場する。義姉の方はカメレオンだろう。アルマジロは硬い甲羅で覆われおのれを守る。蟻は地下に穴を掘り、カメレオンは周囲の色に完全に同化することでおのれを守る。しかし、地下室で引きこもる弟は、硬い甲羅を変化させ、カメレオンの義姉は薬物中毒を絶ちたいと苦しむ。その中で、地下室にある古びた衣装を着て男まで連れ込むオリヴィア。そして、少年の蟻のガラス箱を壊し、蟻が床に散らばる。
少年は、寂しさからなのか、それとも少年の性への芽生えなのか、義姉の寝ているソファに自分のベットを近づけて眠る。この濃密さの中で少年の義姉への愛は育まれるのだが、少年はその床に散らばった蟻を地上の路上へと解放するのだ。
カメラは街の風景の中で、地下室のある場所を外からも映すのだが、それは殺風景で寒々としている。ところが映画では地下室内の豊かさが際立たせられているではないか。色の濃淡、変化、奥行と真っ赤なベルベットのソファーから帽子まで、そこに置き去られたモノたちの重厚さは、地上の殺風景さに対して圧倒している。
映画の冒頭で少年が精神科医と話しているところから始まるのだが、その精神科医がベルトルッチ監督であり、少年も彼の分身なのだろう。最後の場面でオリヴィアが麻薬を断ち切ることが出来ないことも、少年が簡単に社会に順応していかないだろうと思われることも、暗示されて終わる。ということは、ここでは二人の成長が語られているわけではないのだ。早朝の人気のない街角での抱擁のあと、ロレンツォと別れたオリヴィアについては、不吉な暗示を示して終わっている。この作品を見て後に残るのは、この微妙な苦みと気掛かり、そして暗さである。
2013年劇場鑑賞作品・・・116 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング
あらすじ:孤独を愛する14歳のロレンツォ(ヤコポ・オルモ・アンティノーリ)は、家でも学校でも煙たがられていた。そんな彼が、学内恒例のスキー合宿に参加すると言い出し、母親のアリアンナ(ソニア・ベルガマスコ)は大喜びする。だが、ロレンツォは最初からアパートの地下室に隠れ、羽を伸ばして思い切り好きなことをするつもりだった。
<感想>ベルトリッチ監督が10年近い闘病を克服して、再び映画の最前線に復帰した新作。この映画に見られる孤独で人間嫌いの14歳の少年ロレンツォは、学校で集団で出かけるスキー旅行を勝手に取り止め、その期間を自宅のアパートの地下室に籠って過ごそうと決意する。この計画が順調に進みだしたとき、父親の先妻の娘、オリヴィアが突然出現し、内気な少年を混乱させる。二人が地下室に閉じこもったのは、他に何処にも行く場所を見つけることが出来なかったからだ。だがそこは、家族の過去の記憶の収蔵庫でもあり、それがオリヴィアを呼び寄せたのだろう。
気ままに心おきなく過ごすことの出来る避難場所に出現した珍入者を巡って、どう折り合いをつけていくのか。困難な状況から非難してきた乱入者に対して寛大に歩み寄り、互いに理解しあうことで、自分も同じ困難な状況から解放されることができるとすれば、・・・。
これは青春の物語なのだろうか、学校のスキー合宿をサボって地下室に引きこもった少年と、突然そこに侵入してきた麻薬中毒の義理の姉の間に育まれる密かな愛。その愛の中で、二人だけの晩餐の幸福があり、義姉、弟はそれぞれの朝を迎える。
だが、少年は14歳というより大人びて見えるし、義姉も世の荒波をくぐりぬけてきたせいか疲れ切って見えた。地下室は暖房が効いているようで温かいのか、義姉が下着姿で薬断ちの苦しむ姿を見て、自分が何もしてやれないまだ子供といういらただしさを覚える場面もある。睡眠薬を飲み眠りで薬断ちをするオリヴィア、睡眠薬を取りに病院へ、入院しているお婆さんのところへ忍び込み取りにいく少年。
地下室に籠った少年に社会は携帯電話を通して侵入する。母親は少年にメールをし、電話を掛けてくる。電話口で彼がスキー教室に参加していることを確かめようとして、教師の声を装ったオリヴィアにまんまと騙される。少年もまた電話口で母親を巧妙な作り話で騙している。
それとアルマジロと蟻が少年の分身として登場する。義姉の方はカメレオンだろう。アルマジロは硬い甲羅で覆われおのれを守る。蟻は地下に穴を掘り、カメレオンは周囲の色に完全に同化することでおのれを守る。しかし、地下室で引きこもる弟は、硬い甲羅を変化させ、カメレオンの義姉は薬物中毒を絶ちたいと苦しむ。その中で、地下室にある古びた衣装を着て男まで連れ込むオリヴィア。そして、少年の蟻のガラス箱を壊し、蟻が床に散らばる。
少年は、寂しさからなのか、それとも少年の性への芽生えなのか、義姉の寝ているソファに自分のベットを近づけて眠る。この濃密さの中で少年の義姉への愛は育まれるのだが、少年はその床に散らばった蟻を地上の路上へと解放するのだ。
カメラは街の風景の中で、地下室のある場所を外からも映すのだが、それは殺風景で寒々としている。ところが映画では地下室内の豊かさが際立たせられているではないか。色の濃淡、変化、奥行と真っ赤なベルベットのソファーから帽子まで、そこに置き去られたモノたちの重厚さは、地上の殺風景さに対して圧倒している。
映画の冒頭で少年が精神科医と話しているところから始まるのだが、その精神科医がベルトルッチ監督であり、少年も彼の分身なのだろう。最後の場面でオリヴィアが麻薬を断ち切ることが出来ないことも、少年が簡単に社会に順応していかないだろうと思われることも、暗示されて終わる。ということは、ここでは二人の成長が語られているわけではないのだ。早朝の人気のない街角での抱擁のあと、ロレンツォと別れたオリヴィアについては、不吉な暗示を示して終わっている。この作品を見て後に残るのは、この微妙な苦みと気掛かり、そして暗さである。
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