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グランド・マスター ★★★★.5

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ウォン・ガーワイ監督が、ブルース・リーの唯一の師として知られる伝説の武術家、葉問(イップ・マン)の生涯を描く。演じるのはトニー・レオン。他にチャン・ツィイー、チャン・チェンらのスター俳優を中国武術の様々な流派の宗師=グランド・マスターをめぐる対立と抗争劇に絡めて、後継者争いと復讐劇、愛と憎しみのドラマが展開する。

トニー・レオン演じるイップ・マンは、1893年、中国広東省生まれの武術家で、戦後に香港に渡りそこで武館を開いて詠春拳を広めた。「イップ・マン序章」と「イップ・マン葉問」でドニー・イェンが演じた実在の人物と同じである。少年時代のブルース・リーに拳法を教えたことで現在まで名前が残り、この映画の幕切れに少年リーが顔を出し、師匠の横で記念写真に収まったりしているシーンも感慨深いものですね。

舞台は1930〜40年代の戦争と混乱の時代。ガーワイは大陸の「南」の雄の葉問だけでなく、「北」の宗師の後継者争いから話を進め、南北統一と言う観点から中国武術をとらえ直す。オープニングから、主人公イップ・マンの雨の中での大格闘が展開する。まずはここが見もので、スローモーション映像を駆使した美しく、また幻想的な集団格闘シーン。道路は、故タルコフスキー監督の所作のごとく水浸しで、鉛色の雨粒を切り裂くように伊達男イップ・マンの蹴りが炸裂する。
スケールの大きな歴史絵巻を見ているような錯覚に陥るが、見せ場はなんといっても迫力満点のカンフーでしょう。このあたりのアクションシーンを、スローモーションで再現するのは、時に心地良すぎて眠気をさそうのだが。特に冒頭の雨の降りしきる中での決闘シーンでは、ジェット・リーとドニー・イェンとの「HERO」(2002年、チャン・イーモウ監督)の冒頭での決闘シーンと似ている。

香港映画はブルース・リーを初めとし、ジャッキー・チェンやサモ・ハン・キンポー、ジェット・リーやドニー・イェンのように実際にクンフー(マーシャルアーツ)を会得した俳優が超人的なアクションを披露することで世界をリードしてきたわけだが、もちろん一般の男女俳優たちも過酷な体技に挑戦する。ジェット・リーたちのようにワンカットを長めに撮って、超絶の動きを一気に見せるというわけにはいかないが、本作でのトニー・レオンもチャン・ツィイーも、中国国民党の諜報員を演じるチャン・チェンも大特訓のすえに各種の格闘シーンに挑んでいるのである。

娼館の階段を利用した空中戦、BGMに流れる音楽は華麗なるオペラ曲。椅子が空中に飛び、ガラスが散乱する壮絶なシーンの連続なのだが、撮影前の数年間に渡る特訓の甲斐もあってか、レオンやツィイーの改造された肉体には惚れ惚れとする。もう一つの粉雪舞う駅のホームで、父親の仇である武術家マーサンとの最後の闘いに挑むルオメイの秘技など、工夫の凝らされたアクションシーンが全編を飾っている。本当に駅舎で背後から客車が爆音をあげて走ってくる場面では、簡単には決着がつかないのでこの蒸気機関車は何両編成なのかと不安になり、チャン・ツィイーが勝ちますようにと祈るばかり。
体の線の美しさを捉えた油絵のような光と影の濃厚な質感の映像は、この監督ならではでしょう。そこには紛れもないガーワイ、タッチが溢れだしている。
日本軍に邸宅を没収され、生活のために自分の金品や妻に与えた毛皮のコートを売り、娼館に食べ物を貰いにいく惨めさ。

裕福だったイップ・マン一家が困窮するシーンなど、お話は史実に添っているけれど、日本軍の侵攻も水たまりに日の丸が映し出されるという描写で、ガーワイ監督はあくまでヴジュアル主義を貫いているようだ。というよりも恐らく反日描写には興味がないのでしょう。
茶房に「愛の夢」という唄が流れ終盤のシーンで、真っ赤な口紅をひいた女武術家のルオメイが、思いを寄せていたグランド・マスターであるイップ・マンに「愛はもともと夢なのに」と呟く情感溢れるシーンでは、トニー・レオンとマギー・チャン共演の悲恋ドラマ「花様年華」の優美なまでの艶やかさというムードの名場面が再現されたように感じた。

終幕のツィイーとレオンの芝居場も、見世物に徹して最期まで緊張感が途切れることがない。登場人物のモノローグで繋ぐ手法のもろさ、儚さが大きな魅力に転じているのは、ガーワイ監督の演出力と言っていいだろう。幕切れには、ルイメイが父親から学んだものは「技ではない。心だ」ととも。動乱の時代に主人公たちは、それぞれに揺れ、人生を選択してゆく。古いアルバムの中の写真が突然動きだしような錯覚を覚えた。
エンドロールで席を立たないように、この後でトニー・レオンによる拳法の優麗な所作が観られます。
2013年劇場鑑賞作品・・・115  映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング

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