Quantcast
Channel: パピとママ映画のblog
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2328

サーミの血 ★★★★

$
0
0

北欧スウェーデンを舞台に、少数民族であるサーミ人の知られざる迫害の歴史と、差別に抗い自由を求めて必死に生き抜こうとする一人のサーミ人少女の成長物語を、北欧の美しい自然をバックに綴るヒューマン・ドラマ。主演は実際にノルウェーでトナカイを飼い暮らしているサーミ人のレーネ・セシリア・スパルロク。監督は自身もサーミ人の血を引くアマンダ・シェーネル。本作が記念すべき長編デビュー作となる。

あらすじ:1930年代、スウェーデン北部のラップランド地方。ここに暮らす先住民族のサーミ人は、他の人種より劣った民族と見なされ、理不尽な差別や偏見にさらされてきた。そんなサーミ人の少女エレ・マリャは、寄宿学校では優秀な成績で進学を希望するが、教師からはサーミ人はスウェーデン社会ではやっていけないと冷たくあしらわれる。そんなある日、洋服に身を包みスウェーデン人のふりをして夏祭りに忍び込むエレ。そこで都会的な少年ニクラスと出会い恋に落ちる。そして彼を頼って街に出るエレだったが…。

<感想>サーミ人とは北欧の先住民族であり、1930年代、彼らを分離政策の対象とし、人種として劣っていると見なしていたスウェーデンで、人生を頑な意志で切り開いたサーミ人少女の生きざまを描いている。

家族、故郷を捨ててでも少女が願ったのは、自由に生きること。スウェーデンに住む少数民族サーミ人の物語。主人公の少女を演じたのが、サーミ人のレーネ・セシリア・スパルロク。小柄な体と鋭い眼光から放たれる生命力が素晴らしく、おののきさえ覚えるのだ。

本作が単なる民族差別を告発するだけでも、民族の独自性を謳いあげるだけではないのが、繊細な感情のゆらぎによる少女の表情の変化を、何と見事に捉えていることか、映像によるものだが感心してしまった。この役を演じる女優のドキュメントかと見間違うほど生々しくて、同時に彼女の演技者としての確かさが、映画の真髄を支えているのもいい。

さらには、老いた彼女を演じたM・D・リンビの険しい表情による顔貌によって、一、女性の頑なまでの生涯が老若の双方から伺い取れると思う。これは、日本で言えば、北海道で暮らすアイヌ民族と同じようなものだと思ったから。

ラップランドのサーミ人、その民族の存在を意識しただけでも、この映画を観た甲斐があったと感じました。差別への抵抗、というよりこの物語。

どこか女性の自立譚の趣があって、窮屈な田舎で、学校へ通い、それに加えてのスウェーデン人からの侮辱的な扱い。これが虐めとかいうよりも、息が詰まってしまい、少女の心のモガキ苦しみを感じとりました。

そして、少女の初恋の喜びと、知性の欲求を織り込んでいて、この監督は繊細であり構成も良い。主役の少女の不適な面構えが良くて、そうなると彼女の旅立ち、その後がもっと見たくなり、エレ・マリャは民族を恥じて、偽名のクリスティーナ(憧れの教師の名前)を名乗り、差別する側のスウェーデン人に同化しようとするのですね。彼女は慎重に、時に大胆にウソを重ねていくわけ。差別される側から差別する側に向かおうとする人間の心理は、例えばいじめられっ子が、いじめる側に回るのと同じだ。

年老いたクリスティーナ(エレ・マリャ)は、サーミ人として生きた妹の葬儀に参列するために棄てた故郷に帰る。家族も、民族も、過去も棄てた彼女は、顔を隠すしかない。それは過去の差別によって大き過ぎる代償を負った姉は、そんな彼女が見た、故郷の風景とはどのようなものだったのだろうか。結局、エレ・マリャは年老いてから、故郷のラップランド地方へと帰り先住民のサーミ人として暮らすことを望むのだろう。

 

サーミ人とスウェーデン人の両親を持つ若い女性監督の、自身のルーツを問う鮮烈なる映画になっています。

 2017年劇場鑑賞作品・・・246アクション・アドベンチャーランキング


Viewing all articles
Browse latest Browse all 2328

Trending Articles