「悪人」の李相日監督が再び吉田修一の小説を原作に、実力派俳優陣の豪華共演で贈るヒューマン・ミステリー・サスペンス。残忍な殺人事件が発生し、犯人が逃亡して1年後、千葉・東京・沖縄に現われた前歴不詳の若い男3人が、やがてその土地で新たな愛を育んでいく中、真犯人を巡る謎と犯人ではとの疑念が思わぬ波紋を周囲に広げることで生じるそれぞれの葛藤のドラマを描き出す。出演は渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、広瀬すず、宮崎あおい、妻夫木聡。
<感想>「悪人」で多くの賞を総なめした李相日監督が、再び吉田修一の小説を、更に力を込めた作品であります。殺人現場には被害者の血で殴り書かれた“怒り”の文字が、凶々しい夫婦惨殺の未解決事件の真相が、東京、千葉、沖縄の3地点の“身元不明の”男たちとの恋、人間模様を通じて明らかになってゆく物語。
まずは、千葉から家出をして東京で風俗店で働いている娘の愛子、人生を放棄してただ、毎日男にいいようにされてだらしなく生きている娘。父親が迎えに来るも、愛らしい顔の愛子を演じた宮崎あおい。どんな役にでも徹して、こなしていく上手い女優さん。
どこか頭が弱い女を演じていて、父親のところで働いている身元不明の男、松山ケンイチを好きになり一緒にアパートで同棲することに。心配する父親、東京で自堕落な生活をしていても、顔を叩くわけでもなく怒鳴るわけでもなく、ただ娘のことが心配で怒らないだけ。
この父親も娘のことを溺愛するばかりに、警察の指名手配写真を見て愛子が好きになった男,田代がその殺人犯だと思い込み、娘もじっとその写真を見て警察に通報するのだ。ですが、その田代は、殺人犯ではなく、その写真の男によく似た別人だったということ。失ってから信じてやれなかったことを悔やみ、しかし、娘が彼を探し出して迎えに行くと言うのを、許してあげ父親として暖かく迎えてあげようと思う親心。父親の渡辺謙さんは、現実でも実際に子供を叱れない優しい父親なのでしょう。
そして、東京の会社員のゲイの優馬に妻夫木聡が演じていて、相手はどこか女性らしい身元不明の直人役の綾野剛。優馬の母親が死の床につき、見舞いについていく直人に、母親は自分の息子のことを何処まで知っているのか、連れてきた直人が親切にも最後を見届け、母親のお墓のことで「お前も一緒に墓に入るか」という優馬の言葉に嬉しそうに頷く。
だが、悲しいのは愛してたのに最後まで信じきれなかった妻夫木聡と綾野剛の関係。TVの指名手配写真を見て、直人と似ているような、そんなことから彼を信じられなくなり辛く当たり散らす。そのために、直人は家を出てゆく、その後に聞いたのが直人は重い病気だったということ。その後、公園で亡くなっていたという。今更悔やんでも悔やみきれない同性愛の恋人同士。
そして、沖縄では離島に引っ越してきた東京の高校生の泉は、無人島に1人で住みついている謎めいたバックパッカーの田中に心惹かれていくが…。その沖縄の無人島の空を爆音を立てながら戦闘機が飛んでいるシーンと、青い海の色に白い砂浜の美しさ。泉役の広瀬すずのアメリカ兵のレイプシーンは、観ていて余りにも酷い衝撃を受け、今まで高校生の純真な役どころばっかりだったけれど、今回の役は汚れ役で女優さんには嫌な役だと思う。
しかし、その汚れ役を必死で演じていた広瀬すずが、海辺で叫ぶ“怒り“の魂の叫びには感動しつつ、今後の作品で女優として大いに役立ったと思う。
そして、犯人の動機という意味ではあやふやな描き方で、夏の暑い日に仕事先に出向いて行った犯人が、そこには誰もいないし電話をすれば全然違う場所であって、結局は仕事はもらえなかったという。イライラする話であり、若者がキレる状態、つまり太陽が照り付ける熱い夏で、休んでいた家の奥さんが親切に麦茶を出してくれた。
それなのに、その男は何を思ったのか、その家にそのまま強盗に入って、奥さんを殺して冷蔵庫の中の物を食べ、そこへ旦那が帰ってきて殺して、朝方までそこにのんびりと居たという。そして、壁に被害者の血で“怒り”と殴り書きする。朝になりそこの自転車で平然とした顔で帰るという、その犯人の神経は尋常じゃない。
冒頭から、3人の男が別々のパターンで描かれており、3つの場所で生まれる人々の疑心暗鬼。人間の奥底に潜むこの感情はいったいどこへ向かうのか。そのうちの誰が犯人なのかと想像をしてしまう。指名手配の写真は整形もしており、3人とも良く似ているのだ。だから、疑うのも無理はない。
しかし、沖縄の田中だけは異常に違って見えた。それは世田谷一家殺人事件や、市橋達也の事件を思い出し、沖縄の無人島に逃げた市橋達也のことを。そこへいた男は、森山未來が演じており、民宿を手伝ったりして温厚そうな性格だが、何かがキレ始めると壊れだして暴れ始める。
この作品では、誰かを信じることの難しさ、あるいは人を疑ってしまうことの闇。誰かを、何かを永遠に信じ続けることは不可能かもしれません。他人を信じないことと、信じてしまった理由を積み重ねていくと、結局は自分自身を信じ切れるのかということに繋がっていくような気がする。この映画は、深遠にして鮮やかであり、過酷にして堂々たる第一級の人間ドラマとなっていた。
2016年劇場鑑賞作品・・・194映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング
<感想>「悪人」で多くの賞を総なめした李相日監督が、再び吉田修一の小説を、更に力を込めた作品であります。殺人現場には被害者の血で殴り書かれた“怒り”の文字が、凶々しい夫婦惨殺の未解決事件の真相が、東京、千葉、沖縄の3地点の“身元不明の”男たちとの恋、人間模様を通じて明らかになってゆく物語。
まずは、千葉から家出をして東京で風俗店で働いている娘の愛子、人生を放棄してただ、毎日男にいいようにされてだらしなく生きている娘。父親が迎えに来るも、愛らしい顔の愛子を演じた宮崎あおい。どんな役にでも徹して、こなしていく上手い女優さん。
どこか頭が弱い女を演じていて、父親のところで働いている身元不明の男、松山ケンイチを好きになり一緒にアパートで同棲することに。心配する父親、東京で自堕落な生活をしていても、顔を叩くわけでもなく怒鳴るわけでもなく、ただ娘のことが心配で怒らないだけ。
この父親も娘のことを溺愛するばかりに、警察の指名手配写真を見て愛子が好きになった男,田代がその殺人犯だと思い込み、娘もじっとその写真を見て警察に通報するのだ。ですが、その田代は、殺人犯ではなく、その写真の男によく似た別人だったということ。失ってから信じてやれなかったことを悔やみ、しかし、娘が彼を探し出して迎えに行くと言うのを、許してあげ父親として暖かく迎えてあげようと思う親心。父親の渡辺謙さんは、現実でも実際に子供を叱れない優しい父親なのでしょう。
そして、東京の会社員のゲイの優馬に妻夫木聡が演じていて、相手はどこか女性らしい身元不明の直人役の綾野剛。優馬の母親が死の床につき、見舞いについていく直人に、母親は自分の息子のことを何処まで知っているのか、連れてきた直人が親切にも最後を見届け、母親のお墓のことで「お前も一緒に墓に入るか」という優馬の言葉に嬉しそうに頷く。
だが、悲しいのは愛してたのに最後まで信じきれなかった妻夫木聡と綾野剛の関係。TVの指名手配写真を見て、直人と似ているような、そんなことから彼を信じられなくなり辛く当たり散らす。そのために、直人は家を出てゆく、その後に聞いたのが直人は重い病気だったということ。その後、公園で亡くなっていたという。今更悔やんでも悔やみきれない同性愛の恋人同士。
そして、沖縄では離島に引っ越してきた東京の高校生の泉は、無人島に1人で住みついている謎めいたバックパッカーの田中に心惹かれていくが…。その沖縄の無人島の空を爆音を立てながら戦闘機が飛んでいるシーンと、青い海の色に白い砂浜の美しさ。泉役の広瀬すずのアメリカ兵のレイプシーンは、観ていて余りにも酷い衝撃を受け、今まで高校生の純真な役どころばっかりだったけれど、今回の役は汚れ役で女優さんには嫌な役だと思う。
しかし、その汚れ役を必死で演じていた広瀬すずが、海辺で叫ぶ“怒り“の魂の叫びには感動しつつ、今後の作品で女優として大いに役立ったと思う。
そして、犯人の動機という意味ではあやふやな描き方で、夏の暑い日に仕事先に出向いて行った犯人が、そこには誰もいないし電話をすれば全然違う場所であって、結局は仕事はもらえなかったという。イライラする話であり、若者がキレる状態、つまり太陽が照り付ける熱い夏で、休んでいた家の奥さんが親切に麦茶を出してくれた。
それなのに、その男は何を思ったのか、その家にそのまま強盗に入って、奥さんを殺して冷蔵庫の中の物を食べ、そこへ旦那が帰ってきて殺して、朝方までそこにのんびりと居たという。そして、壁に被害者の血で“怒り”と殴り書きする。朝になりそこの自転車で平然とした顔で帰るという、その犯人の神経は尋常じゃない。
冒頭から、3人の男が別々のパターンで描かれており、3つの場所で生まれる人々の疑心暗鬼。人間の奥底に潜むこの感情はいったいどこへ向かうのか。そのうちの誰が犯人なのかと想像をしてしまう。指名手配の写真は整形もしており、3人とも良く似ているのだ。だから、疑うのも無理はない。
しかし、沖縄の田中だけは異常に違って見えた。それは世田谷一家殺人事件や、市橋達也の事件を思い出し、沖縄の無人島に逃げた市橋達也のことを。そこへいた男は、森山未來が演じており、民宿を手伝ったりして温厚そうな性格だが、何かがキレ始めると壊れだして暴れ始める。
この作品では、誰かを信じることの難しさ、あるいは人を疑ってしまうことの闇。誰かを、何かを永遠に信じ続けることは不可能かもしれません。他人を信じないことと、信じてしまった理由を積み重ねていくと、結局は自分自身を信じ切れるのかということに繋がっていくような気がする。この映画は、深遠にして鮮やかであり、過酷にして堂々たる第一級の人間ドラマとなっていた。
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