岩手県陸前高田市で農林業を営む77歳の佐藤直志さんが、東日本大震災からの復興に孤軍奮闘する姿を追ったドキュメンタリー。
2011年3月11日、佐藤さんは津波で家を流され、息子を亡くす。しかし、被災からわずか3日後にその年の米作りを決意し、5月には知人の田んぼを借りて田植えを始めていた。自活へ向けていち早く立ち上がった佐藤さんは、続けて山に分け入って大木を切り、元あった場所に自ら家を建てようと奮闘。
そんな佐藤さんの強い信念が、周囲にも変化を与えていく。震災から1年半にわたり佐藤さんに密着し、困難に屈しないひとりの老人の力を情感豊かに描き出していく。
監督は、中国残留日本兵の悲劇を描いてロングランヒットを記録したドキュメンタリー「蟻の兵隊」(2005)の池谷薫。
<感想>被災地に住む陸前高田市に住む老人の佐藤直志さんが、消防団員として老婆を背負って逃げる途中、津波の犠牲者となった息子と先祖の霊を守る、そのために絶対にここを動かないと、立ち退き要請も避難所も、仮設住宅も拒んで浸水した自宅に住み続け、同じ場所に自身で伐採した木で建て直すと宣言する。夫や舅にしたらちょっとやっかいだろうと思わせる筋金入りの頑固爺である。
妻も嫁も仮設住宅へ移り、ひとり残って天井からの雪の舞う納屋に暮らす老人が、布団に包まる姿を映す。眠れない時には、テレビの洋画劇場を見るというが、それがヘップバーンの「ローマの休日」とは。もう一度見たいと振り返る言葉に、老人の青春を取り戻したかのような表情が良かった。
震災をテーマにしたドキュメンタリーやドラマは珍しくはないが、この作品は「水があれば生きていける」という頑固な佐藤さんがチャーミングで、人間その土地で先祖代々生きることの普遍性に説得力があると思う。79年前に生まれ岩手県できこりと農業をし続けてきた一人の男性の姿と、言葉から発見するものはたくさんあり過ぎる。
時に荒れ狂う自然と共に、先祖からの土地に生きることを選んで家を再建する。
驚くべきは、息子が津波で亡くなった直後から、被災した家を新築すると決め、大木を切り倒していく有言実行な態度。その佐藤さんの力強い姿、生命力、揺るぎない信念、懐の大きな男ぶり、個人をみつめるという行為が、震災映画を超えたスケールの記録を生み出すとは。
農作業の四季の繰り返しが感慨深く、震災直後から一年経ち祭りが催され、その勇壮さを着実にカメラが捉える。山に入って木を伐採する時、家の棟上げの時、佐藤さんがなす身に沁みついた所作が、何度も映される。二礼二拍手一礼。酒を大地にふりかけ自らも一口いただく。
普通、初詣でなどでは二拍手と一礼の間であれやらこれやらと願い事かけたりするものだが、佐藤さんの場合は黙々と所作を遂行してみせるだけ。所作そのものが、長年繰り返されてきた動作そのものが、人の願いを飲み込んだ祈りとなっているようだ。
確かに、何かを願ったり望んだりしないと言ったら嘘になるだろう。先祖の地から動かないと決めた老人も、夢だと言って家を建て直すことを望む。だが、それ以上に、何かを祈願することのない動作そのものとしての祈り。茶を飲む姿を延々と見せられるのは辛いが、その積み重ねゆえに出来上がる家の気高い美しさは、格別なものである。
2013年劇場鑑賞作品・・・76 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ
2011年3月11日、佐藤さんは津波で家を流され、息子を亡くす。しかし、被災からわずか3日後にその年の米作りを決意し、5月には知人の田んぼを借りて田植えを始めていた。自活へ向けていち早く立ち上がった佐藤さんは、続けて山に分け入って大木を切り、元あった場所に自ら家を建てようと奮闘。
そんな佐藤さんの強い信念が、周囲にも変化を与えていく。震災から1年半にわたり佐藤さんに密着し、困難に屈しないひとりの老人の力を情感豊かに描き出していく。
監督は、中国残留日本兵の悲劇を描いてロングランヒットを記録したドキュメンタリー「蟻の兵隊」(2005)の池谷薫。
<感想>被災地に住む陸前高田市に住む老人の佐藤直志さんが、消防団員として老婆を背負って逃げる途中、津波の犠牲者となった息子と先祖の霊を守る、そのために絶対にここを動かないと、立ち退き要請も避難所も、仮設住宅も拒んで浸水した自宅に住み続け、同じ場所に自身で伐採した木で建て直すと宣言する。夫や舅にしたらちょっとやっかいだろうと思わせる筋金入りの頑固爺である。
妻も嫁も仮設住宅へ移り、ひとり残って天井からの雪の舞う納屋に暮らす老人が、布団に包まる姿を映す。眠れない時には、テレビの洋画劇場を見るというが、それがヘップバーンの「ローマの休日」とは。もう一度見たいと振り返る言葉に、老人の青春を取り戻したかのような表情が良かった。
震災をテーマにしたドキュメンタリーやドラマは珍しくはないが、この作品は「水があれば生きていける」という頑固な佐藤さんがチャーミングで、人間その土地で先祖代々生きることの普遍性に説得力があると思う。79年前に生まれ岩手県できこりと農業をし続けてきた一人の男性の姿と、言葉から発見するものはたくさんあり過ぎる。
時に荒れ狂う自然と共に、先祖からの土地に生きることを選んで家を再建する。
驚くべきは、息子が津波で亡くなった直後から、被災した家を新築すると決め、大木を切り倒していく有言実行な態度。その佐藤さんの力強い姿、生命力、揺るぎない信念、懐の大きな男ぶり、個人をみつめるという行為が、震災映画を超えたスケールの記録を生み出すとは。
農作業の四季の繰り返しが感慨深く、震災直後から一年経ち祭りが催され、その勇壮さを着実にカメラが捉える。山に入って木を伐採する時、家の棟上げの時、佐藤さんがなす身に沁みついた所作が、何度も映される。二礼二拍手一礼。酒を大地にふりかけ自らも一口いただく。
普通、初詣でなどでは二拍手と一礼の間であれやらこれやらと願い事かけたりするものだが、佐藤さんの場合は黙々と所作を遂行してみせるだけ。所作そのものが、長年繰り返されてきた動作そのものが、人の願いを飲み込んだ祈りとなっているようだ。
確かに、何かを願ったり望んだりしないと言ったら嘘になるだろう。先祖の地から動かないと決めた老人も、夢だと言って家を建て直すことを望む。だが、それ以上に、何かを祈願することのない動作そのものとしての祈り。茶を飲む姿を延々と見せられるのは辛いが、その積み重ねゆえに出来上がる家の気高い美しさは、格別なものである。
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