一触即発の緊張状態にあった米ソ冷戦時代に、実際に行われたスパイ交換をめぐる驚愕の実話をコーエン兄弟の脚本、スティーヴン・スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演で映画化した緊迫と感動のサスペンス・ドラマ。共演は本作の演技で数々の映画賞に輝いた英国の実力派舞台俳優、マーク・ライランス。
<感想>平凡な弁護士が敵国のスパイを弁護することになり、さらには国際的な秘密交渉、(捕虜交換交渉)にも関わることになる主人公の弁護士ジェームズ・ドノヴァンを、トム・ハンクスがあくまでも自然に名演技で魅せてくれます。東西冷戦時代の、にわかには信じがたい実話を基にした作品であり、主人公のドノヴァンは実在した男であり、第二次世界大戦の戦後処理であるニュールンベルグ裁判では、検察官として活躍し、事件の起こった1957年当時は法律事務所の共同経営者として保険法を専門にしていた。
1957年、米国に潜入していたソ連のスパイ、アベルが逮捕された。その国選弁護人に選ばれたドノヴァンは、アベルにも正当な裁判を受ける権利があることを主張し、世間の逆風に立ち向かうが、しかし、彼の尽力によってアベルは死刑を免れた。彼に弁護されるアベルに敵国に捕まっても決して祖国を売らない、スパイの鑑というべき男なのだ。英国の実力派舞台俳優のマーク・ライランスがアベルを演じており、極めて高いプロ意識を持つ彼らが、国を超えて共鳴し合うのは、必然的だったのかもしれない。絵を描く彼が、最後にドノヴァンに自画像を描いていたのを渡すのも感慨深い。
これによってドノヴァンは、5年後さらに危険な仕事を任されることになる。実直に仕事をこなし家族を大切にする、ごく普通の男が冷戦の最前線に立たされるのだ。そんな実話の凄みにまず驚かされる。法廷劇を軸にした前半から諜報サスペンスへと発展する後半へと、緊張に満ちた物語が展開する。
「
自分の仕事をしろ」とは劇中のドノヴァンの台詞で、ある意味、この言葉に本作のテーマが集約されていると思う。ドノヴァンは法の下の平等という弁護士の倫理に則って行動し、いかなる逆風にも立ち向かうのだ。米国の人たちから、敵国のソ連のスパイの弁護を引き受けた時も、マスコミに叩かれて、民間人たちにも石を投げられる。
家族を大切にして、東ベルリンへ行く時も、妻にはイギリスへ釣りに行くと嘘を付いて、妻はお土産に「ママーレードを買ってきて」なんて、最後まで夫の命がけの行動を知らなかったのだ。
諜報の素人であるドノヴァンが国際交渉の場に駆り出されたのだ。飛行機で西ドイツに到着し、その足で東ベルリンのソ連大使館へと行くのだが、すでに東西の壁が建設されているわけで、検問では長打の列の中、大使館が閉館してしまう時間なので、何とか交渉をして先に通してもらうも、その先には東側の若者がドノヴァンを囲み、着ているコートと金とパスポートを出せと脅してくる。
スリリングな展開に目を奪われるが、東ベルリンのソ連大使館へと行くも、交渉相手は東欧のKGBのトップ。弁護士としてのノウハウと交渉術を駆使してドノヴァンは相手にあたる。ソ連側もドノヴァンの出した条件を認め、交換交渉は上手くいくようにみえた。東独へ渡る途中で風邪をひいてしまったドノヴァンが、雪降る寒空にコートを奪われ鼻水をすすりながら、片言のドイツ語を話すトム・ハンクスの演技も堂に言っているのだ。
だが、そこで問題が発生する。ソ連とは別に東独にスパイ容疑で捕まった学生プライヤーがいたのだ。ドノヴァンとしては、どうしてもこの学生を交渉の対象にしたい。しかし、東独では交換するならアベルと学生のプライヤーの一対一だとにべもない。ですが、CIAが求めるのはパイロットのパワーズであり、交渉の話にはもう一人の若い学生の救出も加わっていたとは、信じられません。パイロットのパワーズは、CIAの諜報員であり確かにソ連上空で撮影をしていたのを追撃されて逮捕された男。もう一人は、東ドイツで壁が出来る時にうろちょろしていてスパイと間違われて捕まったアメリカ人の学生なのだ。この二人の男と、ソ連のスパイ・アベルの交換なのだが、どうみてもアメリカ側の交渉には、歩が合わないとソ連と東ドイツが言ってくる。このことで、ドノヴァンが素晴らしく頭が切れて必ず2人を連れて帰ることを約束する。東独とソ連の国境の、橋の真ん中での引き渡しのスリル感がたまりませんね。
一方で、それぞれのプロ意識を持つ弁護士とスパイの生き方や、彼らの間に芽生える絆に胸を打つのだ。サスペンスとヒューマニズムに溢れたドラマを紡ぎだしている。スピルバーグ作品ならではの緻密な人間ドラマは歯ごたえがあります。
4度目のタッグとなるスティーヴン・スピルバーグ監督とトム・ハンクス。どちらも人間味を作品に投影することに長けた映画人だけに、今回も相性は抜群であります。正しいことをしようとする男の信念のドラマを、スピルバーグは丁寧に撮っている。
注:アベルの弁護とパワーズとの交換交渉で政府と繋がりのできたドノヴァンは、1963年には当時の大統領ジョン・F・ケネディーぼ要請で、キューバで囚われの身となっていた1113人もの囚人の釈放をキューバ政府と交渉するため全権公使として送り込まれ、釈放に尽力した男でもある。
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<感想>平凡な弁護士が敵国のスパイを弁護することになり、さらには国際的な秘密交渉、(捕虜交換交渉)にも関わることになる主人公の弁護士ジェームズ・ドノヴァンを、トム・ハンクスがあくまでも自然に名演技で魅せてくれます。東西冷戦時代の、にわかには信じがたい実話を基にした作品であり、主人公のドノヴァンは実在した男であり、第二次世界大戦の戦後処理であるニュールンベルグ裁判では、検察官として活躍し、事件の起こった1957年当時は法律事務所の共同経営者として保険法を専門にしていた。
1957年、米国に潜入していたソ連のスパイ、アベルが逮捕された。その国選弁護人に選ばれたドノヴァンは、アベルにも正当な裁判を受ける権利があることを主張し、世間の逆風に立ち向かうが、しかし、彼の尽力によってアベルは死刑を免れた。彼に弁護されるアベルに敵国に捕まっても決して祖国を売らない、スパイの鑑というべき男なのだ。英国の実力派舞台俳優のマーク・ライランスがアベルを演じており、極めて高いプロ意識を持つ彼らが、国を超えて共鳴し合うのは、必然的だったのかもしれない。絵を描く彼が、最後にドノヴァンに自画像を描いていたのを渡すのも感慨深い。
これによってドノヴァンは、5年後さらに危険な仕事を任されることになる。実直に仕事をこなし家族を大切にする、ごく普通の男が冷戦の最前線に立たされるのだ。そんな実話の凄みにまず驚かされる。法廷劇を軸にした前半から諜報サスペンスへと発展する後半へと、緊張に満ちた物語が展開する。
「
自分の仕事をしろ」とは劇中のドノヴァンの台詞で、ある意味、この言葉に本作のテーマが集約されていると思う。ドノヴァンは法の下の平等という弁護士の倫理に則って行動し、いかなる逆風にも立ち向かうのだ。米国の人たちから、敵国のソ連のスパイの弁護を引き受けた時も、マスコミに叩かれて、民間人たちにも石を投げられる。
家族を大切にして、東ベルリンへ行く時も、妻にはイギリスへ釣りに行くと嘘を付いて、妻はお土産に「ママーレードを買ってきて」なんて、最後まで夫の命がけの行動を知らなかったのだ。
諜報の素人であるドノヴァンが国際交渉の場に駆り出されたのだ。飛行機で西ドイツに到着し、その足で東ベルリンのソ連大使館へと行くのだが、すでに東西の壁が建設されているわけで、検問では長打の列の中、大使館が閉館してしまう時間なので、何とか交渉をして先に通してもらうも、その先には東側の若者がドノヴァンを囲み、着ているコートと金とパスポートを出せと脅してくる。
スリリングな展開に目を奪われるが、東ベルリンのソ連大使館へと行くも、交渉相手は東欧のKGBのトップ。弁護士としてのノウハウと交渉術を駆使してドノヴァンは相手にあたる。ソ連側もドノヴァンの出した条件を認め、交換交渉は上手くいくようにみえた。東独へ渡る途中で風邪をひいてしまったドノヴァンが、雪降る寒空にコートを奪われ鼻水をすすりながら、片言のドイツ語を話すトム・ハンクスの演技も堂に言っているのだ。
だが、そこで問題が発生する。ソ連とは別に東独にスパイ容疑で捕まった学生プライヤーがいたのだ。ドノヴァンとしては、どうしてもこの学生を交渉の対象にしたい。しかし、東独では交換するならアベルと学生のプライヤーの一対一だとにべもない。ですが、CIAが求めるのはパイロットのパワーズであり、交渉の話にはもう一人の若い学生の救出も加わっていたとは、信じられません。パイロットのパワーズは、CIAの諜報員であり確かにソ連上空で撮影をしていたのを追撃されて逮捕された男。もう一人は、東ドイツで壁が出来る時にうろちょろしていてスパイと間違われて捕まったアメリカ人の学生なのだ。この二人の男と、ソ連のスパイ・アベルの交換なのだが、どうみてもアメリカ側の交渉には、歩が合わないとソ連と東ドイツが言ってくる。このことで、ドノヴァンが素晴らしく頭が切れて必ず2人を連れて帰ることを約束する。東独とソ連の国境の、橋の真ん中での引き渡しのスリル感がたまりませんね。
一方で、それぞれのプロ意識を持つ弁護士とスパイの生き方や、彼らの間に芽生える絆に胸を打つのだ。サスペンスとヒューマニズムに溢れたドラマを紡ぎだしている。スピルバーグ作品ならではの緻密な人間ドラマは歯ごたえがあります。
4度目のタッグとなるスティーヴン・スピルバーグ監督とトム・ハンクス。どちらも人間味を作品に投影することに長けた映画人だけに、今回も相性は抜群であります。正しいことをしようとする男の信念のドラマを、スピルバーグは丁寧に撮っている。
注:アベルの弁護とパワーズとの交換交渉で政府と繋がりのできたドノヴァンは、1963年には当時の大統領ジョン・F・ケネディーぼ要請で、キューバで囚われの身となっていた1113人もの囚人の釈放をキューバ政府と交渉するため全権公使として送り込まれ、釈放に尽力した男でもある。
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