杉浦日向子の代表作の一つ「百日紅」を、『河童のクゥと夏休み』『映画クレヨンしんちゃん』シリーズなどで知られる原恵一監督がアニメ映画化した群像劇。江戸の浮世絵師として数多くの作品を発表し、世界中のさまざまな分野に多大な影響をもたらした葛飾北斎と、その制作をサポートし続けた娘・お栄(後の葛飾応為)を取り巻く人間模様を、江戸情緒たっぷりに描く。アニメーション制作は、『攻殻機動隊』『東のエデン』シリーズなどのProduction I.Gが担当する。
あらすじ:さまざまな風俗を描いた浮世絵が庶民に愛された江戸時代、浮世絵師・葛飾北斎は大胆な作風で一世を風靡(ふうび)する。頑固で偏屈な天才絵師である父・北斎の浮世絵制作を、陰で支える娘のお栄(後の葛飾応為)も優れた才能を発揮していた。そんな北斎親子と絵師の交流や、江戸に生きる町人たちの人間模様がつづられていく。
<感想>百日紅の花の木は、家の庭にも夏になるとたわわに花を咲き、9月中旬頃まで咲きます。百日紅の花のしたたかさが、お栄さんに投影しているようですね。あの天才浮世絵師・葛飾北斎の娘お栄が、雑踏の中、木の橋を下駄を鳴らして歩いている。物売りの声、大八車の車輪などの音でざわめく両国橋を渡って行くところから始まる。その眼差しの凛とした顔が美しい。
今までこの映画を観るまでは、北斎に娘が2人もいたなんて知らなかった。主人公のお栄(葛飾応為)は葛飾北斎の三女で、父親と同じ浮世絵師の道を選び、美人画などで高く評価されたという。そんな彼女の視点から、奇行で知られた北斎の創作をめぐる逸話や、居候の絵師も交えたオンボロ長屋での風変わりな共同生活、お栄自身の絵師としての試練と不器用な恋が語られている。
筆一本あれば食べていけると考えていたことや、男勝りの性格であったこと、ここでのお栄のエピソードのいくつかは、実際に「葛飾北斎伝」に記述されているもの。それに、三女のお栄が父親の浮世絵師の仕事を手伝っていて、冒頭で龍の絵を仕上げる北斎の腕の見事なことと言ったら。
その絵にお栄が、煙管のタバコの灰を落としてしまうシーンがある。客に依頼されたもので、明日の朝には届けなければいけないのに、すると、お栄が徹夜をしてその父親北斎の龍の絵と同じような見事に描き上げるのだ。
お栄は、北斎の仕事の手伝いをしていて、北斎がペースを描いて、お栄が部分的に彩色するという。だから、北斎のサインがあるにもかかわらず、体の描き方が北斎らしくない美人画もあり、もしかしてお栄が代作をしていたと考えられます。
妹の盲目の末娘・お猶は、生まれつき目が見えない。病弱でお寺に預けられており、時おり姉のお栄がお猶を連れ出しては、渡し船に乗せたり、両国橋の下を舟がくぐり抜ける時に聞こえる色んな音が、匂いも、目の見えないお猶に隅田川の水に妹の手を触れさせる。舟がこのまま行くと何処へと訊ねる妹に、「海だ、でっかいぞ海は。父親がよく絵に描くよ、打ち寄せる波がいいんだ。でっかい波だとこんな舟は、ひと飲みだ」北斎の代表作の「冨獄三十六景」のような映像で見せられるのに驚く。
大雪の日には、庭に出て雪合戦みたいに、初めての雪の重さ、冷たさを体験させ、視覚を奪われた少女は、聴覚と触覚で世界を認識していく。
そんな末娘が病に伏せているところへ、父親の北斎が見まう場面では、お猶が父親の顔に触れてその髭ずらを撫でまわして、父親を愛おしむのだ。そんなお猶のために、北斎が鍾馗の絵を描き、それをお栄に託す。その絵に北斎のどんな想いが込められているのか。まるで自分自身を描いているかのようにも。目の見えない妹にお栄が話して聞かせる。
そんな妹の亡くなる時を、お栄が察して駆け付けるシーン。それに、居候の絵師・善次郎が後ろを振り返りながら、「おかしいな、おかっぱ頭の女の子が付いてきたのに」と言うや、突風が長屋の表から戸を突き破り裏まで吹き抜けるのだ。それが、お栄の予感だったのでしょうね。妹のお猶が亡くなることを。
その一方では、父親の北斎には、庭に咲く百日紅のピンク色した花を見て「一人で来れたじゃねえか」と微笑むシーンが。
主人公のお栄は、喧嘩とならぶ江戸の華、「火事」に魅せられ、枕絵の色気を学ぼうと当時の陰間と呼ばれる男娼館へと行く。女装をしているが、男も女も相手にするいい男。そしてその男娼と寝ようとする。しかし、疲れ果ててお栄の傍で寝てしまう男。
父親の北斎が亡くなるまで一緒に暮らして、その後お栄さんはいつ亡くなったかも不明な上に、亡くなった場所も記されていない。
この時代では、男と違って、いくら絵が上手いからといって、女絵師で食べてはいけないと思う。ですので、お栄、後の葛飾応為の作品もあまり紹介されていないが、夜の吉原遊郭を描いた作品「吉原格子先之図」は、部屋の行燈のまばゆい光によって、格子のそばにいる遊女や外にいる男客たちの、真っ黒なシルエットとなり、地面には格子の影がくっきりと映り幻想的な雰囲気になっている。光と影のコントラスを強調して描いたものでしょう。
そして、スクリーンに映し出される、百日紅の花が地面に落ちて、そこには美しい着物を着た少女が。これも、葛飾応為の作品に違いありませんね。
2015年劇場鑑賞作品・・・116映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング
あらすじ:さまざまな風俗を描いた浮世絵が庶民に愛された江戸時代、浮世絵師・葛飾北斎は大胆な作風で一世を風靡(ふうび)する。頑固で偏屈な天才絵師である父・北斎の浮世絵制作を、陰で支える娘のお栄(後の葛飾応為)も優れた才能を発揮していた。そんな北斎親子と絵師の交流や、江戸に生きる町人たちの人間模様がつづられていく。
<感想>百日紅の花の木は、家の庭にも夏になるとたわわに花を咲き、9月中旬頃まで咲きます。百日紅の花のしたたかさが、お栄さんに投影しているようですね。あの天才浮世絵師・葛飾北斎の娘お栄が、雑踏の中、木の橋を下駄を鳴らして歩いている。物売りの声、大八車の車輪などの音でざわめく両国橋を渡って行くところから始まる。その眼差しの凛とした顔が美しい。
今までこの映画を観るまでは、北斎に娘が2人もいたなんて知らなかった。主人公のお栄(葛飾応為)は葛飾北斎の三女で、父親と同じ浮世絵師の道を選び、美人画などで高く評価されたという。そんな彼女の視点から、奇行で知られた北斎の創作をめぐる逸話や、居候の絵師も交えたオンボロ長屋での風変わりな共同生活、お栄自身の絵師としての試練と不器用な恋が語られている。
筆一本あれば食べていけると考えていたことや、男勝りの性格であったこと、ここでのお栄のエピソードのいくつかは、実際に「葛飾北斎伝」に記述されているもの。それに、三女のお栄が父親の浮世絵師の仕事を手伝っていて、冒頭で龍の絵を仕上げる北斎の腕の見事なことと言ったら。
その絵にお栄が、煙管のタバコの灰を落としてしまうシーンがある。客に依頼されたもので、明日の朝には届けなければいけないのに、すると、お栄が徹夜をしてその父親北斎の龍の絵と同じような見事に描き上げるのだ。
お栄は、北斎の仕事の手伝いをしていて、北斎がペースを描いて、お栄が部分的に彩色するという。だから、北斎のサインがあるにもかかわらず、体の描き方が北斎らしくない美人画もあり、もしかしてお栄が代作をしていたと考えられます。
妹の盲目の末娘・お猶は、生まれつき目が見えない。病弱でお寺に預けられており、時おり姉のお栄がお猶を連れ出しては、渡し船に乗せたり、両国橋の下を舟がくぐり抜ける時に聞こえる色んな音が、匂いも、目の見えないお猶に隅田川の水に妹の手を触れさせる。舟がこのまま行くと何処へと訊ねる妹に、「海だ、でっかいぞ海は。父親がよく絵に描くよ、打ち寄せる波がいいんだ。でっかい波だとこんな舟は、ひと飲みだ」北斎の代表作の「冨獄三十六景」のような映像で見せられるのに驚く。
大雪の日には、庭に出て雪合戦みたいに、初めての雪の重さ、冷たさを体験させ、視覚を奪われた少女は、聴覚と触覚で世界を認識していく。
そんな末娘が病に伏せているところへ、父親の北斎が見まう場面では、お猶が父親の顔に触れてその髭ずらを撫でまわして、父親を愛おしむのだ。そんなお猶のために、北斎が鍾馗の絵を描き、それをお栄に託す。その絵に北斎のどんな想いが込められているのか。まるで自分自身を描いているかのようにも。目の見えない妹にお栄が話して聞かせる。
そんな妹の亡くなる時を、お栄が察して駆け付けるシーン。それに、居候の絵師・善次郎が後ろを振り返りながら、「おかしいな、おかっぱ頭の女の子が付いてきたのに」と言うや、突風が長屋の表から戸を突き破り裏まで吹き抜けるのだ。それが、お栄の予感だったのでしょうね。妹のお猶が亡くなることを。
その一方では、父親の北斎には、庭に咲く百日紅のピンク色した花を見て「一人で来れたじゃねえか」と微笑むシーンが。
主人公のお栄は、喧嘩とならぶ江戸の華、「火事」に魅せられ、枕絵の色気を学ぼうと当時の陰間と呼ばれる男娼館へと行く。女装をしているが、男も女も相手にするいい男。そしてその男娼と寝ようとする。しかし、疲れ果ててお栄の傍で寝てしまう男。
父親の北斎が亡くなるまで一緒に暮らして、その後お栄さんはいつ亡くなったかも不明な上に、亡くなった場所も記されていない。
この時代では、男と違って、いくら絵が上手いからといって、女絵師で食べてはいけないと思う。ですので、お栄、後の葛飾応為の作品もあまり紹介されていないが、夜の吉原遊郭を描いた作品「吉原格子先之図」は、部屋の行燈のまばゆい光によって、格子のそばにいる遊女や外にいる男客たちの、真っ黒なシルエットとなり、地面には格子の影がくっきりと映り幻想的な雰囲気になっている。光と影のコントラスを強調して描いたものでしょう。
そして、スクリーンに映し出される、百日紅の花が地面に落ちて、そこには美しい着物を着た少女が。これも、葛飾応為の作品に違いありませんね。
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