イラン出身の女性監督マルジャン・サトラピの最新作、題名は鶏肉のプラム煮を指しているが、イランの名物料理でこの映画の主人公のバイオリニストの大好物という。そのイランといえば前作の「ペルセポリス」で注目を集めたマルジャン・サトラビ監督の故国。今度も自身のコミック「鶏のプラム煮」を原作に、前作と同じフランスのコミック作家ヴァンサン・パロノーとの共同監督で、ファンタスティックなメロドラマ仕立てのラブストーリーを創出した。
だいぶ前に鑑賞した作品なので、忘れてしまった部分もあるがだいたいの内容は覚えている。まるで墨絵のようなタイトルが、観客を物語の世界へと誘い入れる冒頭。「えっ、主人公は死ぬんだ」と、でもきっと途中でなにか事情が変わって最後はハッピーエンドになるに違いない。なんて勝手な想像をしてしまった。
ナセル・アリは演奏旅行で世界を回る高名なヴァイオリニストだ。この男が大切にしていたバイオリンを妻に壊され、あちらに名器ありと聞けば訪ねていき、こちらに逸品がありの噂に足を運ぶが、大事だったヴァイオリンと同じ音色を奏でる楽器はどうしても見つからなかった。
妻のファランギースはというと、夫が何もかも妻である自分に任せっぱなしで、数学教師の仕事をしながら、育児、家事と目の回るような毎日を過ごしていた。しかし、結婚を熱望していたのは妻であるファランギースの方である。
アリの母親、横暴ともいえる親だったが、気が進まないまま母親に脅されてアリは彼女と結婚をする。気が進まなかったのは理由があったから。アリの胸の奥に今でも遠い過去に引き裂かれた、ある女性の面影が宿っていたのだ。
彼女の名前はイラーヌ、街で見かけたイラーヌに、アリは一目で恋に落ちた。イラーヌと過ごした夢のような日々、そしてやがて来る別れ。ヴァイオリニストとしての「技術はあるが心がない」と師に言われたが、イラーヌとの別れを経験して変化が現れ、師をうならせるほどの音色を奏でることができたのは、幸せな日々が遠く去ってからのこと。
部屋に閉じこもったアリの脳裏をよぎる、それまでの人生の道のり。楽器は演奏家の体の一部であるだろうけれど、しかし、楽器が壊れただけで、同じ音色を奏でる難しいいということだけで、何故アリは死ぬことにしたのだろうか。
理解のない妻、二人の子供たちも、夫にしてみれば鬱陶しいだけ。親として子供たちに何かを遺したい。大事なことを伝えたい。とは思ってはいるものの、子供たちの方にその気はないらしい。
まぁ、それも当然のことで、父親が死ぬ決意をしたことをまだ誰も知らないのだから。苦しいのも嫌、見苦しいのも嫌、どうやって死んだらいいのだろう。と考えて、とりあえずベッドに横になったまま、日常生活を放棄した。なんて身勝手な自己中男なんだろう。
絶望のあげく死ぬことを決意する。なぜ彼は死のうとしたのか、死ぬまでの最期の8日間を追いつつ、物語は過去へと遡る。
回りくどい展開なので退屈するかもしれないが、要するに末期の彼が見た夢は、引き裂かれた愛の記憶。「かなわなかった愛こそ一番美しい」という心理に沿った愛の物語なのだが、これは平凡なストーリーよりその独創的な表現を楽しむ映画といっていい。絶望から死を選択することは決してよいことだとは思わないけれど、こういう「死」なら、アリが選んで喜んで迎えた「死」ならそれはアリでいいのだろうと、納得できた。
サトラならではのイメージの流れ、盟友のパロノーが醸し出すポップな絵作り、観終わった時、柔らかな色調で描かれた絵巻物を見ていた気分になるのが不思議だ。
演じる俳優も個性派ぞろいで、主人公のマチュー・アマルリックのほか、イザベラ・ロッセッリーニ、キアラ・マストロヤンなどキラ星のごとし。中でも主人公が恋に落ちるマドンナ役のイラン人女優ゴルシフテ・ファラハニの美しさったらない。「僕を覚えていますか」と問いかける演奏家に、「お知り合いでしたっけ」と出会いの時にいわれたのに、次に出会った時には「正直、全然」と二重否定で答える初恋の女性イラーヌ。これだけでも見る価値があるのでは、と思いますね。
2013年劇場鑑賞作品・・・20 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ
だいぶ前に鑑賞した作品なので、忘れてしまった部分もあるがだいたいの内容は覚えている。まるで墨絵のようなタイトルが、観客を物語の世界へと誘い入れる冒頭。「えっ、主人公は死ぬんだ」と、でもきっと途中でなにか事情が変わって最後はハッピーエンドになるに違いない。なんて勝手な想像をしてしまった。
ナセル・アリは演奏旅行で世界を回る高名なヴァイオリニストだ。この男が大切にしていたバイオリンを妻に壊され、あちらに名器ありと聞けば訪ねていき、こちらに逸品がありの噂に足を運ぶが、大事だったヴァイオリンと同じ音色を奏でる楽器はどうしても見つからなかった。
妻のファランギースはというと、夫が何もかも妻である自分に任せっぱなしで、数学教師の仕事をしながら、育児、家事と目の回るような毎日を過ごしていた。しかし、結婚を熱望していたのは妻であるファランギースの方である。
アリの母親、横暴ともいえる親だったが、気が進まないまま母親に脅されてアリは彼女と結婚をする。気が進まなかったのは理由があったから。アリの胸の奥に今でも遠い過去に引き裂かれた、ある女性の面影が宿っていたのだ。
彼女の名前はイラーヌ、街で見かけたイラーヌに、アリは一目で恋に落ちた。イラーヌと過ごした夢のような日々、そしてやがて来る別れ。ヴァイオリニストとしての「技術はあるが心がない」と師に言われたが、イラーヌとの別れを経験して変化が現れ、師をうならせるほどの音色を奏でることができたのは、幸せな日々が遠く去ってからのこと。
部屋に閉じこもったアリの脳裏をよぎる、それまでの人生の道のり。楽器は演奏家の体の一部であるだろうけれど、しかし、楽器が壊れただけで、同じ音色を奏でる難しいいということだけで、何故アリは死ぬことにしたのだろうか。
理解のない妻、二人の子供たちも、夫にしてみれば鬱陶しいだけ。親として子供たちに何かを遺したい。大事なことを伝えたい。とは思ってはいるものの、子供たちの方にその気はないらしい。
まぁ、それも当然のことで、父親が死ぬ決意をしたことをまだ誰も知らないのだから。苦しいのも嫌、見苦しいのも嫌、どうやって死んだらいいのだろう。と考えて、とりあえずベッドに横になったまま、日常生活を放棄した。なんて身勝手な自己中男なんだろう。
絶望のあげく死ぬことを決意する。なぜ彼は死のうとしたのか、死ぬまでの最期の8日間を追いつつ、物語は過去へと遡る。
回りくどい展開なので退屈するかもしれないが、要するに末期の彼が見た夢は、引き裂かれた愛の記憶。「かなわなかった愛こそ一番美しい」という心理に沿った愛の物語なのだが、これは平凡なストーリーよりその独創的な表現を楽しむ映画といっていい。絶望から死を選択することは決してよいことだとは思わないけれど、こういう「死」なら、アリが選んで喜んで迎えた「死」ならそれはアリでいいのだろうと、納得できた。
サトラならではのイメージの流れ、盟友のパロノーが醸し出すポップな絵作り、観終わった時、柔らかな色調で描かれた絵巻物を見ていた気分になるのが不思議だ。
演じる俳優も個性派ぞろいで、主人公のマチュー・アマルリックのほか、イザベラ・ロッセッリーニ、キアラ・マストロヤンなどキラ星のごとし。中でも主人公が恋に落ちるマドンナ役のイラン人女優ゴルシフテ・ファラハニの美しさったらない。「僕を覚えていますか」と問いかける演奏家に、「お知り合いでしたっけ」と出会いの時にいわれたのに、次に出会った時には「正直、全然」と二重否定で答える初恋の女性イラーヌ。これだけでも見る価値があるのでは、と思いますね。
2013年劇場鑑賞作品・・・20 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ