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小さいおうち ★★★★

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第143回直木賞を受賞した中島京子の小説を、名匠・山田洋次が実写化したラブストーリー。とある屋敷でお手伝いさんだった親類が残した大学ノートを手にした青年が、そこにつづられていた恋愛模様とその裏に秘められた意外な真実を知る姿をハートウオーミングかつノスタルジックに描き出す。松たか子、黒木華、吉岡秀隆、妻夫木聡、倍賞千恵子ら、実力派やベテランが結集。昭和モダンの建築様式を徹底再現した、舞台となる「小さいおうち」のセットにも目を見張る。
あらすじ:健史(妻夫木聡)の親類であった、タキ(倍賞千恵子)が残した大学ノート。それは晩年の彼女がつづっていた自叙伝であった。昭和11年、田舎から出てきた若き日のタキ(黒木華)は、東京の外れに赤い三角屋根の小さくてモダンな屋敷を構える平井家のお手伝いさんとして働く。そこには、主人である雅樹(片岡孝太郎)と美しい年下の妻・時子(松たか子)、二人の間に生まれた男の子が暮らしていた。穏やかな彼らの生活を見つめていたタキだが、板倉(吉岡秀隆)という青年に時子の心が揺れていることに気付く。

<感想>昭和の始め頃の東京の小さな家で働く女中さんと、その時代の描き方がとても良く出ているので、人物のデッサンがきちんとしているし、ドラマの骨格もしっかりとしていて、安心して観ることができました。
冒頭でのおばあちゃんの葬式から、彼女の部屋を片付けることで日記を発見して、おばあちゃんの歴史を孫たちが辿るという設定が「永遠の0」と良く似ているようですね。タキの古い手紙を見つけて、親類であった妻夫木聡がタキが奉公をしていた家の息子を訪ねるという物語。
そこには、若いころに女中をしていた「小さなおうち」の出来事で、何か秘密があるような、年老いたタキの部屋を訪ねた時に、健史に何やら話したい素振りを見せながら泣き崩れる姿に、そんな悲痛な感銘が込み上げてきます。

戦前の中流家庭の女中奉公の話であるが、タキという中心人物の女中さんが、本当に素直で献身的に働く女性であり、雇い主の夫婦がまた、それに感謝をして、よく言う「家族同様」の人間関係と雇用関係がそこでは成り立っているから、そこにはドラマらしい矛盾や対立などは、何もないように思われる。

ところが、矛盾は意外なところから現れるのですね。タキは主人夫婦に、特に奥様の美しさや人柄の良さに心酔して、あくまでも忠実だが、その忠実さには普通の主従関係のそれを超えたところがあるようだ。
田舎ものの自分と比べて、奥様の立ち居振る舞いや装いなど、本当に憧れの存在であり、その息子が小児麻痺で歩けなくなり、リハビリに励むタキの様子は、奥様に対してのいたわりであり、夫から奥様にそんな子供を産んだという負い目を庇うような頑張りでした。
というか、もうレズビアンのような、憧れが奥様を愛してやまない存在になり、だから奥様が不倫に走ろうとしていることを知った時も、自分の判断でそれを妨害したのである。それが忠義のつもりなのか、いや敬愛する奥様に過ちを犯させたくなかった。
その奥様が、召集令状が届いた不倫相手の板倉の元へと、会いにいくところを玄関先で止め、無理やり手紙を書かせて自分が届けるという役目を果たさなかったのである。
奥様の板倉への想いを知っていながら、手紙の封をしたまま死ぬまで開けなかったタキさんの痛恨の心がこの映画の神髄となっています。

戦時中の日本では、封建社会の道徳が色濃く残っていた時代で、ましてや不義密通なんてことになると本人は重罪となり、夫も息子も、親戚さえも社会からはじき出されてしまいます。ですから、この場合、女中であるタキさんがとった行動は、どうみても懸命な行動で良かったのではないかしら。
だが、この主人夫婦は、それからまもなく空襲の時に入った防空壕で、二人とも死んだと知ってから、タキは深い悔根に捉われる。どうしてかというと、奥様がそんな死に方をするくらいなら、不倫を成就させてあげた方がむしろ良かったのではないか。気の毒なことをしたと。

あの時、奥様が自分に託した愛人、板倉宛への手紙を、相手に渡さなかったという事実が想像されるだけなのであるが、そういうタキの思いを通じて回想された戦時下の恋人たちの悲劇が、この作品に苦い思い出だけでは終わらない悲痛な味わいを残すことになります。
タキが、ちょっと出過ぎた行動は、彼女がこの家に来る前に、やはり女中として働いていた小説家の家の主人から教わった、模範的な召使の有り方についての話の影響であるかのような伏線が、実は張ってあるのだが。この小説家の主人には「東京物語」の橋爪功、吉行和子が夫婦が演じている。

この女中としての若き日のタキには、黒木華が演じており、その行動を、今でも悩んでいる年老いた彼女を演じているのが、倍賞千恵子である。奥様には松たか子さんと3人の女優さんたちの圧巻の演技に、最後までじっくりと見せる作品になっています。
最後に見せた、タキのいつもの優しく温かい表情とは違う深刻な顔、悩んでいるようなせつなく悔やんでいるような、泣き崩れる顔。善も悪もまったく微妙で、タキが善意でやったつもりが、じつは酷いことだったかもしれないという悩みである。
タキの行動は、果たして戦前の封建的な主従関係を超えたものだったのか。身分関係を超えた人間関係が描けているところに、この作品の良さがあるといっていいでしょう。
2014年劇場鑑賞作品・・・25  映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング

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