ウィリアム・ラスティグ監督による1980年の同名映画を、「ピラニア3D」のアレクサンドル・アジャ&「アーティスト」のトマ・ラングマン製作、「ロード・オブ・ザ・リング」のイライジャ・ウッド主演でリメイクしたサスペンススリラー。
ロサンゼルスで両親が経営していたマネキン店を継いだ青年フランクは、淫乱で残忍な母親に育てられたトラウマから、生身の女性を愛することができず、自分が修復したマネキンたちに愛情を注いでいく。やがてフランクは夜な夜な若い女性を殺害し、その毛髪を頭皮ごとはいで自分のマネキンにかぶせるという異常な行動に出始める。そんなある日、フランクの前にマネキンを作品のモチーフに使わせてほしいという女性カメラマンのアンナが現れ……。
<感想>1980年版の猟奇的サイコサスペンスのリメイクで、主人公の名前や猟奇性はほとんどオリジナル版のままだが、サイコホラーの恐怖度も時代と共に進化している。その痛さやサスペンスの密度は、この現代版の方が段違いに上だと感じた。
それは主人公役を「ロード・オブ・ザ・リング」3部作で全世界の老若男女のヒーローとなり、「ホビットの思いがけない冒険」でも、その品行方正な優等生的存在感を見せつけてくれるイライジャ・ウッド。
しかし、「シンシティ」で見せた怪演を確実に覚えているファンにとっては、彼がただの“いい子“なんかじゃないことは百も承知のはず。それもそのはず、彼はホラー映画専門の制作会社を設立するくらいの本格的なホラー・マニアなのである。
このところ、お行儀のよい芝居が続いた反動か、ついに自らの暗黒面を前面に押し出した狂気の演技で決めている。
イライジャが演じるのは、オリジナルではジョー・スピネリが小汚く演じたマネキンしか愛せない頭皮剥ぎ殺人マニア。KNBエフェクツの特殊メイクで描かれる強烈なバイオレンスの中で、イライジャは繊細かつ優雅なまでの圧倒的演技で、殺戮でしか愛を表現できない主人公の心情を表現。それは見る者に殺人鬼へのシンパシーを感じさせる域まで到達していると思った。
だが、何度も出て来る主観映像(鏡に映るイライジャ)が、観ているこちらの感情を殺人者側に同化させるような効果をもたらす。けれど、その変質的殺人は確かにおぞましいが、主人公のキャラクターにどこか哀れさを誘うものがあり、というか、まだ未熟なときに魂を傷つけられ、でも何がしか無垢なるものも残っているとでもいうような。
贔屓目は抜きにしても、主人公の人格形成を大きく左右した母親の存在が決定的で、そういう意味ではこの主人公は犠牲者でもあるのだ。男好きで薬中毒、溺愛と放置の繰り返しで、息子を育てたシングルマザー。よくある話だが、そういえば笑うしかないほどおぞましい快作中の「ムカデ人間2」の主人公も、息子を口汚く罵倒する母親と暮らしていた。予告編でしか見てないが。
そして、マネキン修復師という主人公の仕事。無機質な物体であるマネキンを、より完璧に仕上げるために、殺した女たちから剥ぎ取った毛髪を、頭皮ごとマネキンの頭にかぶせるというのだが、終盤で、何体ものそんなマネキンが置かれた彼のベッドルームの醜悪、不気味さはまさに悪夢そのまんまで、臭気すら漂う気分である。
「人間の身体の部分で唯一永遠なのは髪の毛だ」と、マネキン修復師のフランクが、一方的に妄想を募らせている女性カメラマンに言う。命が消えた肉体は、直ちに腐敗していくが、毛髪だけはそのままだということ。女性カメラマンを通して、美術界の俗悪ぶりを皮肉っているのも印象的。
そういえば、日本の「リング」シリーズの貞子の長い黒髪も、呪いと恐怖の重要な一部を担っていた。毒を飲まされた「四谷怪談」のお岩の髪の毛が、ゾロリと抜け落ちるのも、髪は女の命と言われているから、何故か恐怖映画には、女の髪の毛が付き物である。
2013年劇場鑑賞作品・・・252 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング
ロサンゼルスで両親が経営していたマネキン店を継いだ青年フランクは、淫乱で残忍な母親に育てられたトラウマから、生身の女性を愛することができず、自分が修復したマネキンたちに愛情を注いでいく。やがてフランクは夜な夜な若い女性を殺害し、その毛髪を頭皮ごとはいで自分のマネキンにかぶせるという異常な行動に出始める。そんなある日、フランクの前にマネキンを作品のモチーフに使わせてほしいという女性カメラマンのアンナが現れ……。
<感想>1980年版の猟奇的サイコサスペンスのリメイクで、主人公の名前や猟奇性はほとんどオリジナル版のままだが、サイコホラーの恐怖度も時代と共に進化している。その痛さやサスペンスの密度は、この現代版の方が段違いに上だと感じた。
それは主人公役を「ロード・オブ・ザ・リング」3部作で全世界の老若男女のヒーローとなり、「ホビットの思いがけない冒険」でも、その品行方正な優等生的存在感を見せつけてくれるイライジャ・ウッド。
しかし、「シンシティ」で見せた怪演を確実に覚えているファンにとっては、彼がただの“いい子“なんかじゃないことは百も承知のはず。それもそのはず、彼はホラー映画専門の制作会社を設立するくらいの本格的なホラー・マニアなのである。
このところ、お行儀のよい芝居が続いた反動か、ついに自らの暗黒面を前面に押し出した狂気の演技で決めている。
イライジャが演じるのは、オリジナルではジョー・スピネリが小汚く演じたマネキンしか愛せない頭皮剥ぎ殺人マニア。KNBエフェクツの特殊メイクで描かれる強烈なバイオレンスの中で、イライジャは繊細かつ優雅なまでの圧倒的演技で、殺戮でしか愛を表現できない主人公の心情を表現。それは見る者に殺人鬼へのシンパシーを感じさせる域まで到達していると思った。
だが、何度も出て来る主観映像(鏡に映るイライジャ)が、観ているこちらの感情を殺人者側に同化させるような効果をもたらす。けれど、その変質的殺人は確かにおぞましいが、主人公のキャラクターにどこか哀れさを誘うものがあり、というか、まだ未熟なときに魂を傷つけられ、でも何がしか無垢なるものも残っているとでもいうような。
贔屓目は抜きにしても、主人公の人格形成を大きく左右した母親の存在が決定的で、そういう意味ではこの主人公は犠牲者でもあるのだ。男好きで薬中毒、溺愛と放置の繰り返しで、息子を育てたシングルマザー。よくある話だが、そういえば笑うしかないほどおぞましい快作中の「ムカデ人間2」の主人公も、息子を口汚く罵倒する母親と暮らしていた。予告編でしか見てないが。
そして、マネキン修復師という主人公の仕事。無機質な物体であるマネキンを、より完璧に仕上げるために、殺した女たちから剥ぎ取った毛髪を、頭皮ごとマネキンの頭にかぶせるというのだが、終盤で、何体ものそんなマネキンが置かれた彼のベッドルームの醜悪、不気味さはまさに悪夢そのまんまで、臭気すら漂う気分である。
「人間の身体の部分で唯一永遠なのは髪の毛だ」と、マネキン修復師のフランクが、一方的に妄想を募らせている女性カメラマンに言う。命が消えた肉体は、直ちに腐敗していくが、毛髪だけはそのままだということ。女性カメラマンを通して、美術界の俗悪ぶりを皮肉っているのも印象的。
そういえば、日本の「リング」シリーズの貞子の長い黒髪も、呪いと恐怖の重要な一部を担っていた。毒を飲まされた「四谷怪談」のお岩の髪の毛が、ゾロリと抜け落ちるのも、髪は女の命と言われているから、何故か恐怖映画には、女の髪の毛が付き物である。
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