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フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊

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「グランド・ブダペスト・ホテル」「犬ヶ島」のウェス・アンダーソン監督が、フランスの架空の街にある米国新聞社の支局で働く個性豊かな編集者たちの活躍を描いた長編第10作。国際問題からアート、ファッション、グルメに至るまで深く切り込んだ記事で人気を集めるフレンチ・ディスパッチ誌。編集長アーサー・ハウイッツァー・Jr.のもとには、向こう見ずな自転車レポーターのサゼラック、批評家で編年史家のベレンセン、孤高のエッセイストのクレメンツら、ひと癖もふた癖もある才能豊かなジャーナリストたちがそろう。ところがある日、編集長が仕事中に急死し、遺言によって廃刊が決定してしまう。キャストにはオーウェン・ウィルソン、ビル・マーレイ、フランシス・マクドーマンドらウェス・アンダーソン作品の常連組に加え、ベニチオ・デル・トロ、ティモシー・シャラメ、ジェフリー・ライトらが初参加。

<感想>

 

ウェス・アンダーソン監督の記念すべき10作目となる本作。物語の舞台は、20世紀フランスの架空の街にある「フレンチ・ディスパッチ」誌の編集部。
どんな映画なのか全く想像できないまま鑑賞していたが、フランスらしい色使いの建物や風景、足下まで気になる緻密な衣装、ユーモア溢れる考え尽くされたストーリーに驚かされた。
冒頭で表れる、編集部ごと一軒家をシェアしながら働いているような表面的な画角の描写は、本作を高級料理店コースに例えると食前酒を詳しく説明しているような場面。序盤から感覚がポッと温かくなり、この先何が出てくるのかワクワクさせるような前振り。その後は、編集部員が追う3人の登場で一気に視野が広がっていき、3つのストーリーが同時進行。食前酒の後、3枚のメインディッシュが目の前に出てきてたような状態で、各々の皿を一枚一枚一口ずつ吸収しないと貴重な食事の味(ストーリーの醍醐味)がわからなくなるのでそれは避けたいところ。
その3人とは「服役中の天才画家(ベニチオ・デル・トロ)」「学生運動のリーダー(ティモシー・シャラメ)」「警察署長の美食家(マチュー・アマルリック)」。彼らの奇想天外な状況と言動が1つの記事にまとまるように思えないところがまた面白いので、キーとなる3人は顔と肩書きだけでも押さえておくのがいいのかもしれない。

本作そのものが、一冊の(架空の)雑誌「フレンチ・ディスパッチ」であり、ここには個性豊かなプロが集まる編集部と、各々の記事の要となる様々な人物の背景が詰まっており、最後は見事な最終ページで完成されている。

どこか懐かしいホッとするような画像が終始表れ、耳ではスピード感がありながらも淡々と聴こえる語り。この視覚と聴覚の響きは、豪華なキャストに引けを取らない監督のセンスが感じられる。

もしも、衣装や背景にこだわりの強い本作のカットを集めた画集があるのなら、見て堪能するだけでなく、あえて切り抜いて絵葉書にしたり、切り貼りして手紙の封筒にしたくなるくらい「人に見せたくなるセンスに溢れた色使い」なので、映画ファンに限らず、建物やインテリア、ファッション、色彩に興味がある方にもチェックしていただきたい作品。

 

 

ストーリーは、雑誌「フレンチ・ディスパッチ」の名物編集長率いるスタッフたちの物語と、彼らが掲載するエッセイの内容が、ランダムに描かれる。著名な美術批評家が筆を振るうのは、刑務所に拘留されている天才画家と彼の密かなミューズ、そしてその絵を狙う画商の、美術界を風刺したエピソード。社会派ライターが手がけるのは、(1968年五月危機がモデルの)若い情熱に満ちた学生たちのムーブメント。さらに美食家の警部の息子が誘拐され、身代金を要求される話も。こうしたエピソードがウェス流のアップテンポで描かれ、そのたびにスタイルが鮮やかに変化する。こだわりが詰めこまれたその万華鏡のような世界に、幸福のため息が漏れるのを禁じ得ない。

フランス語がわかる方なら、ウェスのネーミングのセンス、たとえば「アンニュイ・シュル・ブラゼ(無関心なんて退屈)」という村や、「ル・サン・ブラーグ(冗談抜き)」というカフェの名前に、いちいちニヤリとさせられるだろう。映画愛好家なら、リナ・クードリのヘルメット姿にジャック・リヴェットの「北の橋」のパスカル・オジェを彷彿したり、囚人服を着たベニチオ・デル・トロのどっしりとした佇まいに、「素晴らしき放浪者」のミシェル・シモンを思い起こすかもしれない。

だが、この監督が持っている最高の切り札、それは個人的な嗜好やオマージュを超越して、観る者を類まれな詩的世界に誘う圧倒的な創造の力とバランス感覚だろう。だからこそ、彼の作品はきらきらと普遍の輝きを放つのだ。

        『グランド・ブタペスト・ホテル』でアカデミー監督賞他計10部門のノミネートを獲得し、名実共に現代アメリカ映画界を代表する監督の1人となったウェス・アンダーソン。その後、気負うことなく偏愛のストップモーションアニメ『犬ヶ島』で“ハズし”、待望の実写長編新作が本作『フレンチ・ディスパッチ』だ。20世紀フランスを舞台に架空の出版社フレンチ・ディスパッチを描く本作は、旧き良き雑誌カルチャーに愛が捧げられ、わずか108分という尺の中でその“誌面”が再現される唯一無二のウェス・アンダーソン映画になっている。“誌面”はモノクロとカラーを自由闊達に往復し、アンダーソン印の美術はもとより、仏はアングレームの街で敢行されたロケ撮影がセット以上の密度を獲得している事に驚かされた。そしてアンダーソンが敬愛する著述家達へのリスペクトは3つのエピソードを形取り、いったいどこへ向かうのか全く予想のできないスリルを生み出している。こんなエキサイティングなアンダーソン映画がかつてあっただろうか!    中でも第1話『確固たる名作』には目を見張った。アンダーソン映画初登場のベニチオ・デル・トロ扮する囚人にして天才画家が、レア・セドゥ演じる看守にしてミューズを描き続け、それは刑務所の壁を超えて画壇を揺るがしていく。一糸まとわぬセドゥと彼女の下腹部に筆を這わすデル・トロの色気は映画を乗っ取らんばかりで、アンダーソンはこれまでになかったエロティシズムを獲得している。セドゥはジェームズ・ボンドを骨抜きにした『007/ ノー・タイム・トゥ・ダイ』といい、キャリアの高みに到達しつつあるのではないか。    常連俳優を総集合させながら、新規参入組に主役を任せている事からもアンダーソンの成熟と余裕が見て取れる。第2話『宣言書の改訂』では満を持してティモシー・シャラメを迎え、ゴダールはじめフレンチカルチャーへのあふれんばかりのオマージュが炸裂だ。新鋭リサ・クードリのキュートさに若手女優を撮れるようになったのかと感慨深く(出番は短いものの、シアーシャ・ローナンの青い瞳を完璧なタイミングで見せている)、しかしながら彼の女優に対する審美眼とは初期作『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』のアンジェリカ・ヒューストンから一転して演技派熟練女優であり、常連ティルダ・スウィントンに初合流のエリザベス・モス、そしてシャラメの相手役がフランシス・マクドーマンドであることは重要だろう。    アンダーソンの過剰なまでのフレンチコンプレックスの正体は第3話『警察署長の食事室』で明らかとなる。思いがけない人物の口から出る“異邦人”という言葉。ヨーロッパを追われた流浪の作家シュテファン・ツヴァイクへのオマージュであった前作『グランド・ブタペスト・ホテル』同様、『フレンチ・ディスパッチ』もまた決して見ることのない、旧き良きヨーロッパに対する“異邦人”としての憧憬なのだ。その想いが立ち上がる瞬間、僕たちはどうにも無性に切なくてたまらなくなるのである。  

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