中国で生まれアメリカで育ったルル・ワン監督が自身の体験に基づき描いた物語で、祖国を離れて海外で暮らしていた親戚一同が、余命わずかな祖母のために帰郷し、それぞれが祖母のためを思い、時にぶつかり、励まし合うながら過ごす日々を描いたハートウォーミングドラマ。「オーシャンズ8」「クレイジー・リッチ!」のオークワフィナが祖母思いの孫娘ビリーを演じる。
あらすじ:ニューヨークに暮らすビリーは、中国にいる祖母が末期がんで余命数週間と知らされる。この事態に、アメリカや日本など世界各国で暮らしていた家族が帰郷し、親戚一同が久しぶりに顔をそろえる。アメリカ育ちのビリーは、大好きなおばあちゃんが残り少ない人生を後悔なく過ごせるよう、病状を本人に打ち明けるべきだと主張するが、中国に住む大叔母がビリーの意見に反対する。中国では助からない病は本人に告げないという伝統があり、ほかの親戚も大叔母に賛同。ビリーと意見が分かれてしまうが……。
<感想>中国生まれ、アメリカ育ちの女性監督ルル・ワンが、自らの体験をもとに描いたファミリードラマ。監督の分身と言える主人公を演じたのは、中国系・韓国系アメリカ人の両親を持つ人気コメディ女優であるのオークワフィナ。
今年のゴールデングローブ賞の、ミュージカル/コメディ映画部門の主演女優に輝いたのが、オークワフィナというアジア系アメリカ人女優だった。えっ、その女優って誰なの?といぶかし気な顔する人がいるかもしれないが、ハリウッドでは「オーシャンズ8」や「クレージー・リッチ」ですでに知られていた存在なのだ。
この新作でもスクリーンで生き生きと素晴らしい演技を見せて、一段と評価を高めている。この作品でのCG賞では、主演女優賞の他に、外国語映画賞にもノミネートされたが、それもそのはず映画の舞台は主人公の住むニューヨークから、生まれ故郷の中国、長春へと移り変わり、英語と中国語が飛び交う賑やかな大家族の物語が始まるのだ。
一言でいえば、余命3か月という末期がんで、祖母の見舞いに中国の実家に駆け付けた孫娘のオークワフィナが、親戚一同の意向で、まだ医者の余命宣告を知らされていない祖母のために、悪戦苦闘するわけ。挙句の果てに従兄弟の結婚式があるという。
孫娘の突然の帰郷が、祖母の病気と関係があることを本人に悟られないために、何とも古典的な設定であり、さほど新鮮味はないのだが、孫娘のビリー、オークワフィナが登場すると俄然スクリーンに緊張感が走り、生き生きとした家族の物語が動き出すのだから、主演女優の面目は立派に成し遂げたわけ。感情を表に出しすぎという理由で、結婚式には出席NG。
もちろん祖母役のチャオ・シュウチェンら、中国や香港出身の実力派俳優たちが脇を固めていることもあってか、殆どウェルメイドの芝居を観ている気分になる。
脚本・監督はルル・ワン。北京生まれのアメリカ育ちの37歳の新人というが、なんとこの脚本は自分の体験にもとづく実話というのだから、驚かされる。
それにしても才気あふれる演出に独特の皮肉を絡ませたコメディーセンスは、新人の域を超えていると思う。ハリウッドの映画人に絶賛されたのも当然だろう。
重病患者に本当のことを教えないというのは、アメリカでは大問題になるところだが、中国では「優しい嘘」として黙認されるのだ。日本にも似たようなケースは少なくないだろう。思いもよらないカルチャーギャップに直面するビリーの視点からは、近代化しても混沌や矛盾から抜け出せない中国社会、そしてドライな西洋社会にはない、家族の頑固な関係性といった陰陽が、鮮やかに映し出されている。
そして、結末で明らかになる「嘘から出た真」という人生の真実。二転三転した後の、ハッピーエンドにはほっと胸をなでおろすのであります。つまりは、祖母の病気は、初期の癌であり、入院して治療をして長生きをしたという最後なんですからね。
それにしても、孫息子の結婚式での花嫁は日本人の女優で、みずはらあおいさんの中国語堪能な演技には、驚かされました。
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