「クィーン」でアカデミー主演女優賞を受賞したヘレン・ミレンと、2度のオスカーノミネートを誇る「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのイアン・マッケランという、ともにイギリスを代表する2人の名優が共演したクライムミステリー。ニコラス・サールの小説「老いたる詐欺師」を原作に、夫を亡くした資産家と冷酷な詐欺師が繰り広げるだまし合いを、「美女と野獣」「ドリームガールズ」のビル・コンドン監督のメガホンで描く。
あらすじ:インターネットの出会い系サイトを通じて知り合った老紳士のロイと未亡人のベティ。実はベテラン詐欺師のロイは、夫を亡くしてまもない資産家ベティから全財産をだまし取ろうと策略をめぐらせていた。世間知らずのベティは徐々にロイのことを信頼するようになるのだが、単純な詐欺のはずだった計画は徐々に思いがけない方向へと進んでいき……。
<感想>この物語は、ヘレン・ミレンとイアン・マッケラン、芸達者な二人の、巧妙な騙し合いに、まんまと乗せられてしまう。それも78歳のベティと80歳のロイのような歴史があるから成り立つのであって、他の設定だったら成立しない。2人の年齢が物語のキーポイントであり、それがまた面白いところなのである。ラストのどんでん返しが、また爽快でありました。ロイの終焉を見事に作り上げてしまう、ベティの復讐が見事でしたね。
夫を亡くしてまもない資産家ベティ(ミレン)に狙いを定めたベテラン詐欺師のロイ(マッケラン)は、出会い系サイトを通じてベティに近づく。紳士然とふるまうロイと何度か会ううちに、ベティは彼をたやすく信用したかのようだが、実はすべてベティの仕掛けた恐ろしい罠だったのだ。
実に面白い「タイトルどおり嘘と偽りが交錯するの」とヘレン・ミレン。マッケランが「臨場感あふれるスリラーで、パズルさ」と、それぞれ予測不能の展開を示唆する。そのほか、本作を盛り上げるロケーションの数々が映し出されるほか、紳士然とふるまうロイが見せる詐欺師の悪い顔、そして最後に「嘘が上手になった」と冷徹な表情を浮かべるベティも収められている。
ベティの孫のスティーブン(トベイ)が不信感をあらわに質問をぶつけるシーンが面白い。ベティの家で、3人で食事をしていると、スティーブンは突然ロイに軍への入隊経験を尋ね、さらにロイの首の傷跡についても追い込むかのように言葉を重ねる。ロイは一瞬うろたえるが、陸軍に入隊していたことは認め、傷については「私は何よりも不誠実なことが嫌いだ。だから作り話をするより、なぜ傷を負ったかということについて話さずにいたい」と落ち着いた口調で答える。
ベティは傷跡を見て少し驚くが、表情を読み取るかのようにロイをじっと見つめている。そして、攻撃的な態度のスティーブンに決して怒らず紳士然とふるまうロイを信用したかのように、スティーブンに対してたしなめるかのような表情を見せる。
スティーブンを演じたトベイは、3人の関係について「スティーブンは、彼女を守る役を買って出るが、過剰反応し過ぎだろう。彼はベティの生活に入り込んできたこの男を不審に思い、ベティとロイがあまりにも急に親密になったことに苛立っている。自分の感情を抑えることはスティーブンにとって難しく、ロイにとって目の上のこぶになるからだ。
キッチンでロイの髪の毛を切ってあげるという甘い行為など、ちょっとした違和感もすべて計算ずくだったとはね。能面のようなヘレンの顔を思い出すと、改めて身震いをし、すっかり騙されて、面白かったと最後まで終わらないところが、「大人のライアー・ゲーム」たるところなのかも。
刻々と変わるロイの表情、穏やかで何も言わないが目線や仕草で何かをほのめかすベティ、そして緊張感を生み出す孫のスティーブン。ロイに騙されているベティだが、そのまま騙されるだけの展開ではないことを予感させていた。
二人のレジェンド俳優による、観客を高みへ連れてゆく演技バトルをご覧ください。極上のライアーゲーム、極上のサプライズ、極上の製作陣、極上の映画的体験など、映画ファン&サスペンスファンが絶対に見逃してはならない、驚嘆必至の一作であります。
前半はハートフルだが、後半は怒涛のだまし合い。信じていたものがひっくり返され、「そうくるか!」とカタルシスが襲う筋書きが非常に面白い。
世間知らずのベティは、徐々にロイのことを信頼するようになるはずが、物語はそう簡単には進まない。ベティは気品あふれる純朴なマダムでもなんでもなく、実は“最強の悪女”だった! 詐欺師・ロイを逆に陥れようと、罠を張り巡らせ続けていた。
このお二人さん、意外にも初共演だそうで、イギリスが誇る名優の演技に圧倒されること間違いないです。本作のミレンの魅力を例えるなら、“危険な香りがする大輪の花”ですね。それは、上記の映像を見てもらえればよくわかるだろうし、気品あふれる華やかな笑みを浮かべながらも、常に何かを企んでいるように眼が怪しく光る。
特にベティが「ライアーゲームを始めましょう」と低い声で宣言し、薄明りに顔が照らし出されるシーンは、その表情を見るや身震いするほどの戦慄が襲ってくる。ベルリンで、彼女がまだ幼い頃、英語の先生としてロイがやってくる。ベティ、本当の名前はリリー。家は資産家であり、豪邸に住んでいた。そこで事件が起きるのだ。それは、3人姉妹の末っ子であるリリーが、その英語の家庭教師に来ていた彼に、突然レイプされてしまう。まだ、世間知らずの幼い娘であり、男のことなど何も知らず、まさか自分の家の中でそんな凶暴なことが起こるとは思っていなかったのだ。リリーは、悔し涙にくれ、誰にも話さず心の中にしまって置き、何時の日にか、彼に復讐をしてやると心に誓うのである。家の壁に掛けてある「リリー」の花が、最後の伏線なんですね。
一方でマッケランは、“雄大な氷河”を思わせる。ベティを慈しむおおらかさと、財産をかすめ取ろうとする冷徹さが、シーンごとに流れるようにスイッチされていくさまは見ものです。注目はラストでの地下鉄ホームでのひと幕。見ていて「えっ!?」と思わず声を出してしまうほど、衝撃的な映像が網膜に焼き付いてくる。やはり、歳には勝てないものだ。二人で作った銀行口座。二人の全財産を入金して、二人はそのまま別れるのだ。ロイはすぐにでも銀行から全額を引き出し、何処かの銀行へ移そうと考えていたに違いない。しかし、衰えてきた頭脳もひらめきが直ぐには浮かばないし、大事な銀行口座の「パスワード」を忘れてしまい、その上、それを書いてある書類を全部ベティの家に忘れて来てしまったのだった。歳は取りたくないものだ。
ラストが実に愚かな自分に気づいているのかは、定かではないが、老人ホームの中にいる姿は、それは余りにものショックであり、頭が混乱してしまい殆ど認知症状態に陥ったのであります。ロイが昔、自分が取った行動を、まさか老人になって復讐されるとは、微塵にも思ってなかっただろう。
ほかの出演者には、ロイの詐欺師仲間役を担ったジム・カーター(「ダウントン・アビー」シリーズ)や、ベティの身を案じる孫役のラッセル・トベイら、脇を固めるキャストも印象深い。予測はできるが最後までスリリングなのは、やはり2人の裏の裏まで、計算され尽くした巧妙な演技テクニックと、そのアプローチの違う組み合わせの妙だろう。前半のユーモラスなやり取りの、ほのぼの感に騙され、ラストは心底ゾッとしました。
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