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百年の時計 ★★★★

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『20世紀少年』シリーズの木南晴夏と『ロボジー』のミッキー・カーチスが共演を果たした人間ドラマ。回顧展を前に創作意欲を失ってしまった芸術家が、自らの過去と向き合うことにより成長する姿や、家族との固い結束を再確認するさまを描く。共演の螢雪次朗、木下ほうか、井上順ら実力派のキャスト陣が、物語に厚みを持たせている。物語を彩る、2011年に路線開業100周年を迎えた「ことでん」こと高松琴平電気鉄道特有のクラシカルな雰囲気も見逃せない。

<感想>本作もまさに、四国は香川の「ご当地映画」として企画され、創業百年を迎える地元の「ことでん」こと高松琴平電気鉄道を舞台にして撮影された。個性的な映画を生み出すことがいよいよ困難になっている昨今、地方の町おこしに映画製作の端緒を見つけるケースは珍しくはないが、その多くは「ご当地PR映画」の枠に縮小化されてしまう。
しかし、この作品の中には、「ご当地映画」としての使命を果たしながら、琴電開業と同じ年に、大阪の職人によって作られた精巧な懐中時計の数奇な運命。物語の中に100年前に作られた懐中時計という、ノスタルジックな主人公の安藤行人の青春の恋愛事情をタイムトラベルしているのにも魅せられた。

物語の初めに、高松の美術館学芸員の金高涼香が、心酔する地元出身のアーティスト。安藤行人を海外から招待して回顧展を催す企画が通り、張り切っていた。だが、故郷に戻って来た奇行の老人、行人はやる気を喪失して投げやりで、涼香を落胆させてしまう。
行人は古い懐中時計を涼香に渡して、それを半世紀前に自分に手渡してくれた女性を探し出してくれたら、自分の創作意欲が奮い立つかもしれないというのだ。果たして無茶な宿題を授かった涼香は、その謎の女性の身許と行方を探り出すのだが、やがて琴平電鉄と沿線の町を舞台にした悲恋が蘇る。

これらの過程を実に自然なかたちで地元の風光を活かしながら、優しく綴っていく。それは、まだ若かった安藤行人(近江陽一郎)と人妻である由紀乃(中村ゆり)との許されぬ恋。電車の中での短い逢瀬、手作りの弁当、ピカソの画集、古い懐中時計、そして時代による二人の身分の違いによる恋と情熱。人妻役を演じた「ばかもの」(10)に出ていた中村ゆりの、静かなファム・ファタルぶりは圧巻であった。
今でも精巧に時を刻んでいる懐中時計に纏わる、悲恋物語。それにも増して、電車を使ったインスタレーション。琴電のレトロ電車による30年代の日本の情景が映し出され、実際に琴電に乗った気持ちになるから不思議である。

それに、何気ない場面でも惹かれるものがある。それは涼香が「ことでん」の車両工場を訪ねて、恋人の運転手や工場の職員(岩田さゆり)との微妙な三角関係を匂わせながら近所のうどんを食べに行くところ。ご存じ、香川県はうどん県なので、いつでもうどんを食べる習慣があるのだ。ごく何気ないシークエンスであるが、こうした箇所の工場やうどん屋の雰囲気が、映画の中でリアリティを伴って妙に心に残るんですね。
涼香を演じた木南晴夏、「20世紀少年」シリーズでは、カンナの同級生役で出ていたそうで、昔の山田五十鈴に似ているような古風な顔立ちで美人顔である。冒頭であの、自転車を漕いで“ケンちゃん待って〜”と叫んで、琴電の運転手の恋人、鈴木祐樹に声をかけるシーンでは、彼は本当に電車を走らせないで待っているのだ。

そして、なんといっても安藤行人という非凡なアーティストのミッキー・カーチスは、実に軽々と、飄々とその高いハードルを飛び越えての演技であった。確かに、「ロボジー」での存在感ぶりには驚いたが、本作ではふらりと現れただけでもオーロラがある。もはや天然記念物である。涼香の家に来て、父親の井上順と酒を飲み、意気投合してのギターのセッションもあるのだから。

この映画のラストは、まるでタイムトラベルしたかのような、車両をペイントして、時代の流れに合わせた衣装を着た役者が入れ替わり乗車して来て、100年間の歴史を人物と写真で見せていくのだが、まるで時空を超えて現れたかのような錯覚を覚えてしまう。
ラストでの、安藤行人が若き頃に出会い悲恋に終わった彼女との再会。その女性には水野久美さんが水色の和服姿で現れ、それは何十年もの間を遡る男と女の情愛で、いまでもお互いに思い焦がれて仲睦まじく連れ添う姿が印象的ですね。これは、監督の粋な計らいでしょうか、気に入りました。
2013年劇場鑑賞作品・・・233   映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング

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