いわゆるアメコミが原作の作品としては史上初となるヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞の快挙を果たした衝撃のサスペンス・ドラマ。DCコミックスのバットマンに登場する最強最悪の悪役“ジョーカー”に焦点を当て、コメディアンを夢みる心優しい男アーサー・フレックが、いかにして社会から切り捨てられ、狂気の怪物へと変貌を遂げていったのか、その哀しくも恐ろしい心の軌跡を重厚な筆致で描き出す。主演は本作の演技が各方面から絶賛された「ザ・マスター」「her/世界でひとつの彼女」のホアキン・フェニックス。共演にロバート・デ・ニーロ、ザジー・ビーツ。監督は「ハングオーバー」シリーズのトッド・フィリップス。
あらすじ:大都会の片隅で、体の弱い母と2人でつつましく暮らしている心優しいアーサー・フレック。コメディアンとしての成功を夢みながら、ピエロのメイクで大道芸人をして日銭を稼ぐ彼だったが、行政の支援を打ち切られたり、メンタルの病が原因でたびたびトラブルを招いてしまうなど、どん底の生活から抜け出せずに辛い日々を送っていた。そんな中、同じアパートに住むシングルマザーのソフィーに心惹かれていくアーサーだったが…。
<感想>笑い声と共に、悪のカリスマがやって来る。第76回ヴェネチア国際映画祭で堂々の金獅子賞受賞。最大級の評価を受けた要因は、作品としての完成度のほかに、アーサー役を担ったフェニックスの演技も挙げられるだろう。苦悩や問題を抱えた内面だけでなく、彼が20キロの減量に成功し、痩せさらばえた肉体などを徹底的に表現したその姿は、鬼気迫るものがあった。
映画オリジナルの解釈で、悲しい宿命を背負ったとあるピエロが、ジョーカーへと変貌していく過程を描き出していた。極限の役作りをしたホアキン・フェニックスが、世の中に虐げられていた道化が、絶対的な悪となるまでを圧巻の演技で体現していた。
映画版での歴代ジョーカーでは、「バットマン」でのジャック・ニコルソン、「ダークナイト」でのヒース・レジャー。特にヒースのは最高だった。入魂の役づくりでジョーカーのこの上なく不気味で生々しい佇まいや、喋り方体得して、史上まれに見る悪役映画を遺してこの世を去った。
治安の悪化と腐敗が進むゴッサム・シティの片隅の汚いアパートで、病身の母親と暮らしている低所得者のアーサー。2人の楽しみは人気コメディアン、マーレイのTVショーを見ること。母親からは、「どんなときも笑顔で人々を楽しませなさい」と言う母の言葉を胸にして、アーサーもコメディアンとして大成することを夢見ているが、生活は苦しく不運続き。
母親は、かつて町の大富豪で市長選への出馬が噂されているトーマス・ウェインの下で家政婦として働いていた。母親は、その縁を頼って資金援助を求める手紙を送る続けるが、返事が来ることはなかった。母親が言うには、「貴方はトーマスの子供よ」と言うのだ。
それを信じて、トーマスの屋敷に行くアーサーは、門の前で屋敷の主人トーマスに、母親の妄想癖があることと、精神状態がおかしいと言われて、アーサーが自分の息子だとは絶対に言わない。それに、アーサーが子供のころに母親からの虐待を受け、食事も食べさせられなくて、母親が子供の虐待で捕まり精神病院へ入っていたこと。自分は母親の養子で実の子ではないことと、児童施設へ入ったことなども聞かされる。
アーサーは今までに母親からの虐待などを、覚えてないのか、思い出したくもないのか知らないが、ピエロの扮装をしてサンドイッチマンをして働き、食事もあまり食べずに、母親の食事を買って食べさせているのだ。どう見てもアーサーは、親孝行な息子だと見えるのだが。
アーサーの精神状態も、子供のころから虐められて卑屈な性格になり、いつも笑った顔してにやけているのだ。だから、他人には、バカにしているようにしか見えない。性格的に問題もあり、情緒不安定のせいか、いつも落ち着かない。でも、ピエロの恰好をしてダンスを踊る姿は、とても楽しそうに見えた。
弱者を切り捨てる市政憤慨するアーサー、自分の精神の病で通っているカウンセラーの施設が、市の予算削減で閉鎖されるなど、ピエロの仕事でも、病院で子供にピエロの扮装をして、手品を見せたり踊ったりして人気があったのに、友達から自衛のためだとピストルを貰い、その病院でポケットに入れていたピストルが飛び出してしまい、子供たちが怯えてしまい、仕事もクビになってしまう。
それに、帰りの地下鉄でも、スーツ姿の会社員たちに、ピエロのメイクを笑わられてしまうアーサー。ついに、怒りが爆発してキレてしまい、その若い男たちをピストルで撃ち殺してしまうのだった。
そんな時に、同じアパートのシングルマザーのソフィーに心を惹かれ仲良くなる。彼女は彼にとって唯一の心を許せる存在となったのに。
その殺人事件のニュースは、狂気のピエロが現れたとゴッサム・シティを駆け巡る。しかし、現状に不満を抱く一般市民たちは、突然現れたこの怪人は、体制や富裕層に挑むシンボルとして高い支持を集めてしまう。
すると、町中にピエロの仮面をかぶった群衆が現れて、デモ活動を繰り広げて盛り上がるのだった。アーサーは自分の想像しないところで、ピエロ顔のアーサーが英雄となっていたことを知る。喜んでいいのやら、よく考えれば分るのにね。だが、警察の捜査網は着実に、アーサーが犯人であることに、迫りつつあった。
それで、アーサーは追い詰められ、再びピエロの姿となってある行動を起こすのだ。警察官も拳銃で撃ち殺すし、そんなアーサーに、TV局から電話でマーレイのショーに出演しないかと誘われる。嬉しいよね、念願のTV出演だもの。TVに出たはいいが、アーサーは、とんでもないことを口走り、そこでも怒りを爆発させてマーレイをピストルで撃ち殺してしまう。
母親が心臓発作で救急車で運ばれて入院し、そこには、愛する恋人ソフィーが母親の傍に付いていたのに、罪もない彼女さえ怒りの矛先を向けるし、母親にも、幼いころの虐待を思い出したのか、クビを絞めて殺してしまう。
バットマンの幼いころの姿として、トーマス・ウェイン夫妻と息子の姿も描かれ、両親がアーサーに銃殺されるところが描かれる。茫然として、両親の亡骸の前に立っている子供の頃のバットマンの姿があった。トーマス・ウェインが辿る悲惨な末路も原作にリンクする。ちなみに、本作では、幼いころのブルースも登場し、アーサーのジョーカーとの接点も描いていた。
そして、役づくりの鬼として知られる名優ロバート・デ・ニーロの共演も忘れられない。アーサーが憧れるテレビ司会者、マーレイ・フランクリンに扮し、さすがに偉大な存在感でアピールしていた。
この映画は、ホアキン・フェニックスの演技を見るための映画だといっても過言ではない。肩の骨が浮き出るほどに痛々しく痩せて、暗い瞳には小さな光も見いだせないようにすら見える、この映画の彼のすべてをじっと見守りたい。限りなく繊細で卓越した彼の表現方法と、存在の仕方をこの目でしっかりと見届けようではないか。
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