前作「万引き家族」がカンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた是枝裕和監督が、フランスを代表する女優カトリーヌ・ドヌーヴを主演に迎え、日仏合作で撮り上げた家族ドラマ。国民的大女優とその娘が、母の自伝本出版をきっかけに、改めて自分たちの過去と向き合っていく愛憎の行方を繊細かつ軽妙な筆致で綴る。共演はジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホーク、リュディヴィーヌ・サニエ。
あらすじ:フランスの国民的大女優ファビエンヌが、『真実』という名の自伝本を出版することに。海外で脚本家として活躍している娘のリュミールは、人気テレビ俳優の夫ハンクと娘のシャルロットを伴い、パリ郊外のファビエンヌの屋敷を訪ねる。お祝いの名目でやって来たリュミールだったが、気がかりなのは本の中身。事前に原稿チェックができなかった彼女は、さっそく出来上がったばかりの『真実』に目を通す。翌朝、リュミールが苛立ち紛れに内容のデタラメぶりを非難すると、“真実なんて退屈なだけ”と平然と言い放つファビエンヌだったが…。
<感想>「ママ、あなたの人生 嘘だらけね」国民的大女優が発表した自伝本。そこに綴られなかった母と娘の物語とは――。カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた是枝裕和監督が、フランスの大女優であるカトリーヌ・ドヌーヴを主演に迎え、そして、娘役にはジュリエット・ビノシュと、素晴らしく豪華なキャスティングであり、これはすぐに観に行かねばと思った。あいにくと、恐るべき大型台風19号が上陸し、千葉、東京、長野、そして私が住んでいる仙台も甚大な被害にあった。12,13日と交通機関が全面ストップ状態で、映画館も休館になったのだ。
14日にやっと鑑賞したのだが、映画館は何処も満員状態。字幕で鑑賞でしたが、大御所のカトリーヌ・ドヌーヴの圧巻の演技と、控えめなジュリエット・ビノシュの娘の演技に見とれてしまった。それに、マノン役のマノン・クラベルに見惚れてしまったくらい魅力的でした。
母親が書いた自伝の「真実」の内容は、娘のことも詳しく描かれていたようで、娘は一番の被害者のようでしたね。結婚相手のTV俳優の役のイーサン・ホークのことを、「あなたたち上手くいっているの」なんて冷たくいうし、早朝に2人が抱き合って裸で寝ている寝室に、ノックのなしに平気で入って来る母。庭でイーサンが娘のシャーロットと楽しく遊んでいるのをみて、羨ましくもあり眉をひそめるのも、自分は夫と上手くいかなかったので。娘には幸せな家庭を作って欲しいと思ったようですね。
それに、父親は死んだことになっていたし、40年間も務めていた秘書のリュックのことが、一行も描いていないと文句を言う娘。後で、その秘書のリュックが辞めることになるとは。そのことを、母にもっとリュックを大事にしなさいと、戻って来るようにと助言する娘。
本音を描いてないと突っ込む娘に、本というものは、「あからさまに日常のことを、本当に描かなくてもいいのよ」と、母親があっさりと逃げ切るところ。
ところが、自伝の中では、死んだはずの父親が、別れてしばらくになっているのに、元妻が自伝を書いたと言うので、自分のことも書いているはず、だから幾らか金を貰いたいと来たのだ。まるで無視をして、言葉もかけずに知らんふりをしている母。
さらに、劇中劇での母親が出演しているSF映画「母の記憶に」のことで、不治の病にかかった母親が、娘を見守るために宇宙船に乗って不老の身となり、歳を取っていく娘(ファビエンヌ)を見守る下り。母親はいつまでも歳を取らずに、娘は母よりも老いて母と会い続けると言う設定なのだ。
「真実」が映画の主題であるが、「母と娘」というのも大きな主題だったことに気づく。結局は老女優の母親ファビエンヌと、その娘リュミールの物語になっていた。だが、二人が仲のいいシーンもある。母が「ヒッチコックの映画に出ることになってたのよ」というファビエンヌの言葉に、娘と母が「サイコ」のあの名シーン、シャワーでのシーンを真似する大女優のお二人さん。
娘リュミールは長年の間、母を超える名女優とされた、今は亡きサラという女優を思慕していたのだ。後から聞かされる話で、母が卑劣な方法でサラの役を奪ったことを、今でも許していない娘。
それに並行して描かれるSF映画「母の記憶に」での、ファビエンヌの母親に扮する女優のマノンと、ファビエンヌの母と娘の物語でもある。女優マノンは、サラの再来と言われる新進の女優さん。この母娘関係は、サラとファビエンヌをめぐる隠れた主題でもあるのだ。母が忙しくて構ってくれなかった時に、いつもサラが優しく遊んでくれたことも、リュミールにとっては忘れられないのだった。
劇中映画の「母の記憶に」を撮影している間、ファビエンヌは、サラへの嫉妬と自負と負い目、それが、マノンへの意地悪として噴き出てしまう。とにかく、大女優ファビエンヌは、わがままで気位の高いのが玉にキズです。この絡み合ったそれぞれの物語を、とにかくも見事に集結に持っていく構成。
SF映画「母の記憶に」の、母と娘の和解のシーンは、お互いに最高の演技のシーンとなって、マノンはファビエンヌに礼を言いに来るのだ。マノンもまたサラの亡霊に悩まされていたのだった。
マノンが帰った後に、母と娘のリュミールも和解の時を迎える。父が子供の頃に作ってくれた段ボールの家、「オズの魔法使い」の舞台を再現している。リュミールが、いつも学校の行事にはパパだけで、ママは忙しくて来てくれなかったと言う。そのことに対して、実はこっそりと観に行っていたという母親。
それに、「ヴァンセンヌの森の魔女」の魔女役を引き受けたのは、リュミールがいつも寝る時に、サラにその絵本を読んでもらっていたことに嫉妬をして、魔女役を引き受けたことを告白する母だった。
ラスト近くでのこのシーン、母娘がしっかりと抱き合って、今までのわだかまりが消えてゆくシーン。すると母が言うのだ「どうしてマノンとはこのように出来なかったのか」と、いきなり取り直しをすると言い出すのだ。
それに、孫のシャルロットが祖母に言う言葉が「お婆ちゃんに宇宙船に乗って欲しいの。私が女優になったのを観て欲しいから」と。その孫の言葉に嬉しそうに微笑むヴァンセンヌ。娘が脚本家になり、孫が自分のDNAを引き継いで女優になってくれることを、嬉しくて微笑んだのですね。
だが、裏ではシャルロットが戻って来て、母のリュミールが「どうだった」と母の反応を聞く。娘のシャルロットが、「お婆ちゃん、とても喜んでいたわ」と。実は娘に頼んで、母親に喜んでもらおうと脚本したことなのだ。これって「真実」なのと、シャルロットが母のリュミールに聞く。嘘が本当になり、本当が嘘になる。でも、家族ですもの、嘘も真実も許してくれるはず。女優の物語を劇化すれば、これは当然の成り行きでしょうね。
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