「オスロ、8月31日」「母の残像」のヨアキム・トリアー監督が、敬虔な家庭に育った少女のイノセントで危険な能力が戦慄の悪夢を引き起こしていくさまを詩的かつ幻想的に描いたサイコ・ダーク・ファンタジー。主演は一躍ノルウェー期待の若手女優となったアイリ・ハーボー。共演にカヤ・ウィルキンズ、ヘンリク・ラファエルソン、エレン・ドリト・ピーターセン。
あらすじ:信心深く厳格な両親のもとで育ったテルマは大学生になったのを機に、地元の田舎町を出てオスロでひとり暮らしを始める。ある日、大学で勉強していたテルマは、突然激しい発作に襲われる。その時、外では鳥たちがガラスに激突する異変が起きていた。病院で検査したものの、原因は分からず不安が募るテルマ。そんな中、同級生のアンニャと親しくなり、生まれて初めての刺激的な体験を重ねていくテルマだったが…。
<感想>ノルウェーからの本作は、北欧の新たなる才能、監督のヨアキム・トリアーは、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」「メランコリア」の世界的な鬼才ラース・フオン・トリアーの甥っ子であります。15年の家族劇「母の残像」に続いて取り組んだ本作では、SFホラー的な新境地に挑み、確かな演出力を印象づけていた。アカデミー賞外国語映画賞のノルウェー代表作品に選出され、今後の国際的な活躍が期待される北欧の俊英でもある。
都会の大学に通うために田舎の実家を離れて、一人暮らしを始めた少女テルマを主人公にした、ミステリアスなドラマ。生活環境の変化や、同級生の女の子への恋を経験し、内に秘められた超自然的なパワーに目覚めていく、テルマの不安や混乱を描いている。
幼少期のテルマと父親が凍った湖の上を歩き、雪に覆われた森の中で鹿と出くわすオープニングから始まり、美しい映像に引き込まれる。さらには、大学キャンパスの上空を飛ぶ鳥の群が、突然荒れ狂うように落下して、窓ガラスに突撃する。図書館で勉強中のテルマが発作を起こす場面など、超常現象の描写もじつにユニークかつスリリングであります。
テルマと同級生のラブシーンも含め、始終、観る者の胸を“ざわめかせる“作品でもある。というこの映画を、ドキドキハラハラしながら、つまり完全に巻き込まれた状態で最後まで目が離せませんでした。
少女から大人へと変わりゆく微妙な年頃を生きるヒロインの成長物語に、超能力というモチーフを絡めた映像の世界は、不穏な緊迫感が張り詰める一方で、繊細にして瑞々しい情緒が息づいている。
あれっと気が付いた。ストーリーを形成する要素を描きだすと、「思春期」「恋愛」「宗教」「背徳」「家族」「遺伝」「幼少時」「常人ならざる力」と、こんなあんばいになるのだ。
そして、それらを描くにあたって、「水」「鳥」「風」、、、もっとあるけれども、そのようなモチーフが多々使われている。これはちょっと、定番すぎるでしょうに。いくらなんでも、ホラーでさんざん使われてきた要素をギュと集めたような、もはや「ホラーあるある」みたいな感じがした。
それがどこまで伝えてどこから伝えないのか」という押し引きのセンスが微妙なせいだと思います。
やがて、本当の自分を探し求めるテルマが、信心深い両親と向き合うクライマックスでは、衝撃的な展開が見られます。つまり自己に備わっているSF的な超常現象が現れるのも。つまり「X-MEN」的な超能力者ということも。
幼い頃に、弟が生まれて、両親はその赤ん坊を可愛がるのを見て嫉妬を覚え、家の前の湖の中へ沈めてしまう。その前にも、泣きやまない弟をソファの下に潜り込ませたり、いらないもの扱いをする姉のテルマ。それはまるで魔女か悪魔のようでもある。
青春、SF,ホラーといったジャンルの要素が入り混じりながらも、独創的な神秘と戦慄に満ちる映画体験は是非劇場でご覧ください。
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