「8人の女たち」「スイミング・プール」の鬼才フランソワ・オゾン監督が、「17歳」のマリーヌ・ヴァクトを再び主演に起用して贈るエロティック心理サスペンス。優しい精神分析医の男と恋に落ちたヒロインが、対照的な性格の双子の兄弟と出会い、嫌悪を抱きながらも肉体的な欲望に溺れていくさまを、官能的かつミステリアスなタッチでスリリングに描き出す。共演はジェレミー・レニエ、ジャクリーン・ビセット。
あらすじ:原因不明の腹痛に悩む25歳のクロエは、婦人科医から身体に問題はないと言われ、紹介された精神分析医ポールのカウンセリングを受けることに。温厚で誠実なポールに話を聞いてもらううち、不思議と痛みが和らいでいくクロエ。いつしかポールと恋に落ち、同棲生活を始める。そんなある日、街でポールそっくりの男を見かけ、やがてその男がポールの双子の兄弟ルイと知る。しかもポールと同じ精神分析医だった。ポールがルイの存在を隠していたことを不審に思い、偽名を使ってルイの診察を受けるクロエ。ポールとは正反対の傲慢で支配的な態度に嫌悪感を抱くクロエだったが…。
<感想>冒頭、クロエが美しい長髪をバッサリ切り落とす衝撃シーンから始まる本作。服装も無造作で少年のようだった彼女は、ポールとルイの診察室に通ううちに、におい立つように美しく、そして力強く変貌していく。この“変化”は何に起因するのか?
最近の映画では「婚約者の友人」2017年10月21日「危険なプロット」などが上げられるが、本作では精神科医と恋に落ちた女性の前に現れた「もう1人の彼」。「双子の兄」だと名乗る同じ顔、同じ職業のその男性は、本当は何者なのか!? 果たして、愛してしまったのはどちらなのか?私が愛した男は、何者なのか。容姿は同じで中身は正反対の、双子の男。
2人は職業も同じ、精神分析医だった。クロエが長年悩まされ続けているのが「原因不明の腹痛」。それがポールとの出会いにつながるのだが、肉体的な異常はまったく見られず、婦人科の女性医師に「精神的なものでは?」とカウンセリングを提案されるのだ。普通だったら、女性のカウンセリングをお願いするのに、男性にしてと紹介してもらう。
精神分析医カウンセリングと恋に陥るケースはわりと良くあるそうだ。じぶんの心の中に隠している悩みとか、秘めたる想いを話て相談にのってもらうのだから。自分の思った通りの穏やかな優しい答えに、つい自分をこんなにも愛してくれているのならなんて勘違いをしてしまうのだろう。
ところが、街でポールとそっくりの男が女と立ち話をしているのを見かける。気になって、その男の接触するも、双子の兄のルイだったとは。何故にポールは双子の兄がいることを自分に話をしてくれないのだろう。
そのそっくりなルイは、ポールとは正反対の性格で、すぐにセックスを求める男。すぐに相手のいいなりに身体の関係を持つクロエも変な女性だ。ポールとの刺激のないセックスとは、真逆な激しいセックスに没頭して、ついルイのところへ通ってしまう。もちろん診察料としてお金は取られる。
クロエは、自分がポールを愛しているのか、夜に一人になるとつい双子の兄ルイのことを思い浮かべてしまう。本当はどちらを愛しているのか、両方を愛することで満たされるのか、自分でも分からなりインモラルな性癖に悩まされるのだ。夜にベッドの中まで襲って来るルイの過激なセックスの妄想に取り憑かれる。
そして、妊娠が発覚する。果たしてどちらの子供なのかが分からないクロエは悩む。口ではポールの子供よ、なんて強い口調で言ってはみても、ルイのところへ通い、セックスを何度もしているうちに快感となって関係を続けていることが、ポールにも知れることになる。
ルイは、「お腹の子供は俺の子供だ」といい、きっと双子の子供が生まれる可能性があると。「俺の子供なら奇形児が生まれる可能性がある」なんてことも言う。
それに、クロエには姉がいて、子供の頃に亡くなっていたらしい。産婦人科で診察してもらうも、医師は首をかしげてお腹の子供のことをはっきりとは言わない。
クロエが突然のお腹の痛みで救急病院へ運ばれて、出産ということになるも、お腹の子供は人間の形をしておらずに奇形な物質だった。母親がクロエの妊娠を聞き駆けつけるが、クロエには姉がいたのだが、何故か亡くなっているのだ。もしかして、クロエも双子の片割れなのかもしれない。
それに、ポールの前の妻に会いに行くも、彼女は自分と同じように、兄のルイとも付き合い関係を持ち、神経的に病んでしまいそのまま床に臥せってしまう。その女の母親が、ポールとルイの双子に娘が神経を病んでしまったことを話すも、ベッドの中の彼女はまるで幽霊のような、魂の抜け殻のようだった。
ここでは2カ所で登場する螺旋階段にも、何らかの秘密が隠されているようだ。ポールの働く診療所に、ルイの診察室へ向かうのも同じのように螺旋階段である。その意図とは? 官能的な映像が“螺旋”の世界へと観る者を引きずりこんでいくかのようだ。対照的な性格を持つ双子に惹かれたクロエの困惑を入り口に、潜在意識のさらに奥へと分け入っていくような、心理スリラーだ。
そして、ルイからプレゼントされる「猫のブローチ」にも注目。クロエの住んでいるアパートの隣のおばさんも、同じ猫のブローチをつけていたのだ。
そして、彼女が働いている美術館の展示物を見つめているクロエ。 そこには物語を理解する大きなカギが、クロエは美術館員として働いているが、彼女が見つめる展示物は、現れる度に徐々にグロテスクさも持ち合わせている世界観へと変貌していく。つまり人間の内臓をモチーフとして表しているような、オブジェ。まるでクロエの心の中を反映しているような視覚の変化は、見ているこちら側にもじわじわと暗い不安を投げかけて来る。
それに鏡を象徴的に使い、現実と妄想の境界線が曖昧な世界を生み出していた。これは本作の謎めいたストーリーを象徴するかのようでもある。現実と妄想が交じり合っているクロエの世界。彼女は現実世界に不満を抱いているので、想像の世界で自分の謎の答えを探しているようだ。
女性の本質を描いて来たオゾン監督だが、今作ではエレメントに凝り過ぎて本質が見えにくくなっているのが惜しい。
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