「フランシス・ハ」「ミストレス・アメリカ」のグレタ・ガーウィグが、自身の生まれ故郷カリフォルニア州サクラメントを舞台に記念すべき単独監督デビューを飾った思春期ドラマ。静かな地元の町に閉塞感を抱き、都会に憧れる活発で反抗的なヒロインの恋や友情、母親との確執など悩める高校最後の1年を瑞々しいタッチで綴る。主演は本作の演技で「つぐない」「ブルックリン」に続いて3度目のアカデミー賞ノミネートとなったシアーシャ・ローナン。共演も同じくアカデミー賞にノミネートされたローリー・メトカーフ。
あらすじ:2002年、カリフォルニア州サクラメント。閉塞感漂うこの町で窮屈な日々を送るクリスティン。堅苦しいカトリック系高校に通う彼女は、自分のことをレディ・バードと称し、何かと反発しては苛立ちを募らせていた。とくに口うるさい母親とはことあるごとに衝突してしまう。大学進学を巡っても、大都会ニューヨークに行きたい彼女は地元に残ってほしい母親と喧嘩して大騒動に。そんな中、ダニーという好青年のボーイフレンドができるクリスティンだったが…。
<感想>17歳、高校生生活最後の年。人はどうして自分の外見が嫌いで、生まれ育った土地を離れ都会に憧れ、母親の小言に反発して、スクールスカートの上ばかりを見つめる。それに、髪型や服装で個性が出せると信じ、早く初体験を済ませたいと願い、夜歩きやバンドやマリファナがクールだと思い込むのか。この物語におけるどの要素も、小説や映画で描き尽くされたものなのに。ティーンの痛みと煌めきを、瑞々しく描き出した青春映画である。女優としても活躍するグレタ・ガーウィグが監督を務めた。
将来への不安や現状への不満ではち切れそうになっている主人公のクリスティンを、07年の「つぐない」で初めてアカデミー賞にノミネートされて以来、24歳にして、今作で3度目のノミネートを受けた実力派のシアーシャ・ローナンが好演。しかも「ブルックリン」からアカデミー賞にノミネートが2作連続という快挙ですよ。ナイーブさと大胆さを併せ持つ主人公の魅力が、この映画を引っ張っていく。
そして共演に顔をそろえるメンバーも、今をときめく要注目の若手俳優たち(目の付けどころが出色!)。主人公が心ひかれる相手は、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のルーカス・ヘッジズや、初体験の相手となるのティモシー・シャラメ、前作の「君の名前で僕を呼んで」とでは、まったく違うタイプの男の子を演じていることも、見逃せないポイントです。共に若くしてアカデミー賞にノミネートされている2人なのだ。
また、主人公を見守る家族に、今作でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた、「ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則」のローリー・メトカーフが母親に扮して、看護師として家計を支え、娘が地元の大学へ進学することを希望しているのだが、生意気盛りの娘を心配して衝突することもある。
父親ラリーには「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」のトレイシー・レッツが扮しており、失業してしまい、就職活動中だが、年齢のこともあり中々見つからない。娘が東部の大学へ入学するための助成金申請書を、妻に内緒で提出するなど、娘の良き理解者でもある。ラストで父親が、娘の母へのわだかまりを解く、くしゃくしゃにした手紙を見せる展開はお見事でした。
17歳の女の子が模索する、友人や恋人との微妙な距離感や、反撥し合いながらも実は似た者同士である母親との関係も。クリスティンの親友ジュリーを演じるビーニー・フェルドスタイン(右)は、ジョナ・ヒルの妹であり、兄にそっくりの体型。ジュリーの家は、母親の再婚相手が金持ちで、私立の大学を希望。それが、後半では母親がその再婚相手と喧嘩をして話がまとまらず、ジュリーの父親の元へ引き取られることになる。
そしてクリスティンが、サクラメントという閉塞感溢れる場所から新しい一歩を踏み出して、新しい世界へ羽ばたきたいという想い。誰もが体験したであろう通過儀礼が瑞々しく描き出されている。
舞台となっている街は、監督の出身地でもあるカリフォルニア州のサクラメント。同じカリフォルニアでもLAなどの都会とは違って、保守的な雰囲気の片田舎の街。退屈な街の日常的な風景や、厳しいカトリック系高校の様子をリアルに描写しているからこそ、「文化のあるNYやニューハンプシャーの大学に進学したい」と言うヒロインの鬱屈が説得力と共に伝わってくる。
青春期特有の、自意識をこじらせまくっている彼女は、御多分に洩れず欲求が強く、「ここではない何処か」を求めてもがく毎日。残り時間は少ない。大学受験をどうやってクリアするか、しかし、最終学年を勉強だけで染め上げるつもりは毛頭ない。恋もしたい、好奇心のまま、やりたい放題で我が道を行く。
でも、カンニングに成績改ざん、トイレで親友ジュリーとミサ用の御聖体を、ポテチみたいにぽりぽり食べるところとか、下品な言葉を吐くカトリック系高校の、パンクな女子高生を演じるシアーシャ・ローナンは、顔が整っていてしっくりとこないのが惜しいですね。
この映画が素晴らしいのは、観る側が共感しながら自分の記憶を投影して、物語の半分以上を補っているからこそ、こうも素晴らしいのだろう。
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