『オールド・ボーイ』『渇き』などで知られる韓国の鬼才、パク・チャヌク初のハリウッド作となるサスペンス・スリラー。広大な屋敷で暮らす母娘のもとへ、長期間にわたって消息を絶っていた叔父が現れたのを機に、次々と起こる不気味な出来事と、その裏に隠された驚がくの真相を息詰まるタッチで追い掛けていく。主演のオスカー女優ニコール・キッドマンや、『アリス・イン・ワンダーランド』のミア・ワシコウスカを筆頭に、実力派が結集。謎が謎を呼ぶ展開に加え、静謐(せいひつ)な美しさにあふれた映像も必見だ。
あらすじ:外の世界を遮断するように建てられた、大きな屋敷に暮らしている少女インディア・ストーカー(ミア・ワシコウスカ)。自身の誕生日に、愛していた父親が交通事故で帰らぬ人となってしまう。彼女は、母(ニコール・キッドマン)と葬儀に参列すると、そこへ行方がわからなくなっていた叔父のチャーリー(マシュー・グード)が突如として姿を現わす。彼と屋敷で暮らすことになるが、それを発端にしてインディアの周囲で不可解な現象が頻発するようになる。
<感想>この映画は少しひねりの加わったラブ・ストーリーにも見える。チャーリー叔父の兄への愛情、インディアに対する愛、その愛が変化する対象。インディアが抱く父への愛、母への愛、叔父チャーリーへの愛、要するに本作に登場する3人の主要キャラクターと4人目のキャラクターである父リチャードは互いに愛憎を抱き、とても複雑で歪んだ関係を築いている。
その一部は近親相姦のようなものでもあり、単なる見せかけの部分もある。愛が憎しみに変わるところもあり、ひどく複雑に入り組んでいるが、でも基本的にはラブストーリーとも言えるようだ。
美しすぎて震えおののく。イノセントな美しさと、目を背けたくなる、でも絶対に目を逸らせない。残忍な暴力性を対立させ描き出すことで、人間の聖と俗を暴きだしてきたパク・チャヌク監督。これはなんて贅沢な官能なのだろう。その美意識と哲学のすべてをヒロインであるミア・ワシコウスカの肉体に、しかも少女から大人へと移り行くその一瞬の隙を逃さずに映し出し魅せている。
彼女、ミア・ワシコウスカは、今の若手女優陣のなかで、ダントツで毒のある透明感を持っている。これまでの主演作「ジェーン・エア」とか「永遠の僕たち」では透明感ばかりが強調されがちだったように思う。もちろんそれはそれで素敵だったのだけど、本作のミアは違う。これまでずっと封印してきた毒の部分がついに花開いたといっていいと思う。
本作での物語は、表面的にはミステリー・サスペンス風に進行する。出て来る小道具や街の風景からすると、時代設定は現代のアメリカのはずだけど、画面から伝わってくるムードは、どこか古風にも感じる。主人公は鋭すぎる感覚を持っている18歳の少女インディア。父親を事故で亡くしたばかりの彼女は、仲の悪い母親と一緒に暮らしているが、お葬式の日に、行方不明だった叔父チャーリーが訪ねてきて、勝手に住み着いてしまう。彼の目的は何なのか?・・・そして、その日を境に、インディアの周りでは不可解な事件が次々に起こって、・・・。
古くから居る家政婦のおばさんが消えて、地下室のある冷凍庫の中に入っているではないか、それにインディアへ近づく男子生徒も、叔父さんが父親のベルトで首を絞め殺し、庭に穴を掘り埋める。その上に丸い大きな石を置く。次の殺人の標的は叔母さんに母親である。叔父のチャーリーは精神病院から出てきて、幼いころに3番目の弟を砂場に埋めて殺した。それから精神病院へ入っていたわけ。兄の父親が18歳になるインディアの誕生日に精神病院から退院をさせたのがまずかったようだ。
だが、これはパク・チャヌク監督の映画なので、当然のことながら、それだけでは終わらない。ヒッチコック監督へのオマージュと崩壊した家庭をめぐるメロドラマの地下で、煮えたぎるマグマのように渦巻いているのは、18歳のインディアの「めざめ」という、もう一つの主題ですね。
やはり特筆すべきは、ミア・ワシコウスカの圧倒的な演技力であり、凛とした少女の高潔さを演じてきた彼女が、本作ではその枠から大きく一歩踏み出し、女としての自我を表現している。母親のブラウスを着て、父の皮ベルトをつけたインディアが、自分が何者であるかを知ったという冒頭のモノローグはとても印象的に映った。
インディアの太腿を這い上がっていくエキゾチックな紋様のクモ。ピアノの上で無造作にリズムを刻むメトロノームの針。そして、極限までに尖がった鉛筆の芯と、滴り落ちる血、・・・それらのイメージの残像は、映画館を出た後も脳裏に潜み、ずっと居座り続ける。18歳の少女の「覚醒」は、ミステリー劇の真犯人なんかより、ずっとずっと怖いものなのだから。母親のニコールと一緒に絹のスリップを着てピアノを演奏する二人。親子で競っているような、若さにはかなわないのに、母親にしてみれば娘はまだまだ子供だと思っている。
ちなみに本作の設定は、ヒッチコック監督の43年の映画「疑惑の影」にとてもよく似ているというので、後で比較してみようと思う。大人への入り口に立つヒロインと、その分身である魅力的な叔父チャーリーとの愛と葛藤の物語を、ヒッチコックならもっと違った展開にしていたのではないか。この映画はまるでその夢想を盛大に実現してくれたかのようにもとれる。
2013年劇場鑑賞・・・119 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング
あらすじ:外の世界を遮断するように建てられた、大きな屋敷に暮らしている少女インディア・ストーカー(ミア・ワシコウスカ)。自身の誕生日に、愛していた父親が交通事故で帰らぬ人となってしまう。彼女は、母(ニコール・キッドマン)と葬儀に参列すると、そこへ行方がわからなくなっていた叔父のチャーリー(マシュー・グード)が突如として姿を現わす。彼と屋敷で暮らすことになるが、それを発端にしてインディアの周囲で不可解な現象が頻発するようになる。
<感想>この映画は少しひねりの加わったラブ・ストーリーにも見える。チャーリー叔父の兄への愛情、インディアに対する愛、その愛が変化する対象。インディアが抱く父への愛、母への愛、叔父チャーリーへの愛、要するに本作に登場する3人の主要キャラクターと4人目のキャラクターである父リチャードは互いに愛憎を抱き、とても複雑で歪んだ関係を築いている。
その一部は近親相姦のようなものでもあり、単なる見せかけの部分もある。愛が憎しみに変わるところもあり、ひどく複雑に入り組んでいるが、でも基本的にはラブストーリーとも言えるようだ。
美しすぎて震えおののく。イノセントな美しさと、目を背けたくなる、でも絶対に目を逸らせない。残忍な暴力性を対立させ描き出すことで、人間の聖と俗を暴きだしてきたパク・チャヌク監督。これはなんて贅沢な官能なのだろう。その美意識と哲学のすべてをヒロインであるミア・ワシコウスカの肉体に、しかも少女から大人へと移り行くその一瞬の隙を逃さずに映し出し魅せている。
彼女、ミア・ワシコウスカは、今の若手女優陣のなかで、ダントツで毒のある透明感を持っている。これまでの主演作「ジェーン・エア」とか「永遠の僕たち」では透明感ばかりが強調されがちだったように思う。もちろんそれはそれで素敵だったのだけど、本作のミアは違う。これまでずっと封印してきた毒の部分がついに花開いたといっていいと思う。
本作での物語は、表面的にはミステリー・サスペンス風に進行する。出て来る小道具や街の風景からすると、時代設定は現代のアメリカのはずだけど、画面から伝わってくるムードは、どこか古風にも感じる。主人公は鋭すぎる感覚を持っている18歳の少女インディア。父親を事故で亡くしたばかりの彼女は、仲の悪い母親と一緒に暮らしているが、お葬式の日に、行方不明だった叔父チャーリーが訪ねてきて、勝手に住み着いてしまう。彼の目的は何なのか?・・・そして、その日を境に、インディアの周りでは不可解な事件が次々に起こって、・・・。
古くから居る家政婦のおばさんが消えて、地下室のある冷凍庫の中に入っているではないか、それにインディアへ近づく男子生徒も、叔父さんが父親のベルトで首を絞め殺し、庭に穴を掘り埋める。その上に丸い大きな石を置く。次の殺人の標的は叔母さんに母親である。叔父のチャーリーは精神病院から出てきて、幼いころに3番目の弟を砂場に埋めて殺した。それから精神病院へ入っていたわけ。兄の父親が18歳になるインディアの誕生日に精神病院から退院をさせたのがまずかったようだ。
だが、これはパク・チャヌク監督の映画なので、当然のことながら、それだけでは終わらない。ヒッチコック監督へのオマージュと崩壊した家庭をめぐるメロドラマの地下で、煮えたぎるマグマのように渦巻いているのは、18歳のインディアの「めざめ」という、もう一つの主題ですね。
やはり特筆すべきは、ミア・ワシコウスカの圧倒的な演技力であり、凛とした少女の高潔さを演じてきた彼女が、本作ではその枠から大きく一歩踏み出し、女としての自我を表現している。母親のブラウスを着て、父の皮ベルトをつけたインディアが、自分が何者であるかを知ったという冒頭のモノローグはとても印象的に映った。
インディアの太腿を這い上がっていくエキゾチックな紋様のクモ。ピアノの上で無造作にリズムを刻むメトロノームの針。そして、極限までに尖がった鉛筆の芯と、滴り落ちる血、・・・それらのイメージの残像は、映画館を出た後も脳裏に潜み、ずっと居座り続ける。18歳の少女の「覚醒」は、ミステリー劇の真犯人なんかより、ずっとずっと怖いものなのだから。母親のニコールと一緒に絹のスリップを着てピアノを演奏する二人。親子で競っているような、若さにはかなわないのに、母親にしてみれば娘はまだまだ子供だと思っている。
ちなみに本作の設定は、ヒッチコック監督の43年の映画「疑惑の影」にとてもよく似ているというので、後で比較してみようと思う。大人への入り口に立つヒロインと、その分身である魅力的な叔父チャーリーとの愛と葛藤の物語を、ヒッチコックならもっと違った展開にしていたのではないか。この映画はまるでその夢想を盛大に実現してくれたかのようにもとれる。
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