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ありがとう、トニ・エルドマン★★★★

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アカデミー賞外国語映画賞ノミネートをはじめ2016年度の映画賞レースを席巻した異色のコメディ・ドラマ。仕事一筋のキャリアウーマンが、悪ふざけが好きな父の突然の訪問に当惑し、神出鬼没な父の奇っ怪なイタズラの数々にイライラさせられながらも、いつしか忘れていた心の潤いを取り戻していくさまを個性あふれる筆致で描き出していく。主演はペーター・ジモニシェックとザンドラ・ヒュラー。監督は「恋愛社会学のススメ」のマーレン・アデ。

あらすじ:ドイツに暮らす悪ふざけが大好きな初老の男性ヴィンフリートは、ルーマニアのブカレストでコンサルタント会社に勤める娘イネスのもとをサプライズ訪問する。大きな仕事を任され、忙しく働くイネスは、連絡もなくいきなり現われた父を持て余し、ぎくしゃくしたまま数日間をどうにかやり過ごす。ようやく帰国してくれたとホッとしたのも束の間、父は変なカツラを被って“トニ・エルドマン”という別人を名乗って再登場。そして、イネスの行く先々に神出鬼没に現われては、バカバカしい悪ふざけを繰り返して彼女の神経を逆なでしてしまうのだったが…。

<感想>変装、オナラ…こんなパパはいやだ! 笑いと涙溢れる父娘の物語。ダサくて不格好な父親というものは、娘にとっては迷惑この上ない。友人や仕事関係者には絶対に見せたくない。ひた隠しにしてきた自分の恥部を匂わせてしまう。「あのお父さんだから貴方はこうなったのね」という不本意な想像を掻き立てるに違いないのだから。恐ろしいことだ。
だから、本作品で描かれた世界はホラーであり、最高に面白いコメディでもあるのだから。元音楽教師のヴィンフリートは、メタボな身体に無精ヒゲ。ボサボサな白髪頭の上に、イタい級の悪ふざけが大好きな父親。

娘は世界を股にかけ活躍する、経営コンサルタントの美人キャリアウーマン。こういう組み合わせの父と娘は無数に存在していると思う。実は、我が父親もそうだった。ヴィンフリートほどではないが、職場にはきていないが、仕事で出張だと聞けば、会社の支店長へ電話をして「若い娘にそんなキツイ仕事をさせるな」と苦言を申し立て、結局私は会社を辞めざるを得なかった。それに、結婚すれば、1週間に1度は新婚のアパートへ泊まりに来て、自分の家みたいにくつろいでいる。これには、夫が私に迷惑だといい、喧嘩になってしまった。
さて、こちらは娘が帰省したさいに和やかな数時間を共に過ごすくらいが、害のない範囲だろう。ですがこの父は、キリキリとビジネスに邁進する娘が心配で、彼女が働く異国の地にまで赴いてしまうのである。

ラフな格好で大使館のレセプションに同行する父に、娘の仕事はよく分からないが、取引が難航して気落ちしている様子は敏感に感じる。ぎくしゃくした関係は始終変わらないが、父親の滞在期間が終わり帰路に着く朝に、娘は涙するのだ。この何とも言えない感情は、近親増悪と揺るぎない愛情のせめぎあい、と言うべきか。

人間は美しいものだ、と思ったら騙された。なんと父ヴィンフリートはその後、別人格トニ・エルドマンとして娘に付き纏い始めるわけ。不気味な入れ歯と変なカツラを付けて、神石のコーチングだとか、ドイツ大使だとか適当なことを言って、彼女の女子会やビジネスの場に乱入する。まさに神出鬼没で、トニが登場するたびに「また出た!」と笑っていいものか、怖がるべきなのか、微妙な緊張が走るのだ。

ドイツ的なユーモアと言っていいのかどうかわからないが、これって笑うところなの、といちいち脳内で納得してからやっと、笑え感じに慣れてきた。
けれども、同時に眼光鋭い娘の殻が少しずつ砕けてゆく様子が面白いのだ。父のオルガン伴奏で無理やり歌わされる時も、最後は吹っ切れたような熱唱に変わって、感動すら与えるのだ。

自分の誕生パーティで、ドレスのファスナーが上がらずに、全裸パーティに変えてしまうところなど、可愛くて爆笑してしまった。その直後に怪しいぬいぐるみの登場には、爆笑と感涙が待ち構えている。やはりこれがクライマックスだろう。

抱擁しあう二人の姿には、意味とか理性を超えてひたすら泣けてしまった。ユーモアで観る者を煙に巻きながら「大切なことは、その瞬間には分からない」と言う、誰でも思い当たるような痛みを誘うのだから。子供時代の純粋さを、ふと思い出してしまった。上映時間が162分が全然長く感じなかった。

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