フランスの鬼才レオス・カラックス監督が、『ポーラX』以来およそ13年ぶりに単独でメガホンを取った異色作。変装してリッチな銀行家や物乞いの女性、ごく平凡な父親から殺人者まで11人それぞれの人生をリアルに演じる主人公の長い一日を映し出す。主演をカラックス監督の常連ドニ・ラヴァンが怪演し、歌手のカイリー・ミノーグや、『バッド・ルーテナント』などのエヴァ・メンデスらが共演。幻惑的な映像美に彩られた夢と現実の間をたゆたう感覚の物語に驚嘆する。
あらすじ:夜もふけた頃に、ホテルの部屋で目を覚ました男レオス・カラックス(レオス・カラックス)が、隠し扉を発見し下りていくと顔のない観客たちであふれた映画館へと続いていた。一方、オスカー(ドニ・ラヴァン)は豪邸から子どもたちに見送られて真っ白なストレッチリムジンに揺られて出勤。美しい女性ドライバーのセリーヌ(エディット・スコブ)が車のそばで彼を待っており……。
<感想>『ポーラX』もレンタルビデオで観たのでレオス・カラックスという監督にはあまり思入れがない。だが予告で観た、何かの建物に入っていく、リンカーン・コンチネンタルが何台も。それこそ映画でしかみないような、面白いくらい長い高級車だけが、集まって入っていく。そのワンカットで心を射抜かれて、なんだこの集まりは、その前や、その後を見たいとこの映画を観るきっかけになった。
パリを舞台に、カメラはリンカーンに乗った男の謎の一日を追う。様々な場所に出向いて演技をしては、また車に戻る。何やってんだか分からない。分からないけど、大変さが車に戻ることの繰り返しで表される。不可思議な場面の連続だけど、労働として大変そうだなぁ、と思わせる。
この作品の主人公であるドニ・ラヴァンが、次々にかつらを付け替えて、ゴムマスクを取り換えて、金満銀行家から女乞食へと、モーションキャプチャーのモデル役から怪人糞男へと変身を繰り返し、その場かぎりの一幕を手当たり次第演じていくという、本当にバカバカしいほど単純な趣向である。
CG自体よりも、その制作現場で身体芸を繰り広げるモーションアクターの方にカメラを向ける監督は、デジタルとの境界線でこそ輝きでる「生身」の魅惑に賭けているのだろう。もちろんそれができるのは、主人公のドニ・ラヴァンがいてくれるからなのだ。
本作でのドニ・ラヴァンの風貌は、さすがに年齢を感じさせる。
だが、それが彼の佇まいに魅力を加えているのだろう。類人猿的な顔立ち、少年のように小柄なのに強靭な筋肉の張りつめた体。そしてざらりとした渋い声、グロテスクなものと美との合体は、ロマンティストのカラックスの世界観なのでしょう。
舞台となるセーヌ川岸の老舗百貨店、サマリテーヌでの夜間ロケの素晴らしさに言葉を失う。屋上から捉えられたポンヌフの眩い情景、一世紀半近くに及ぶ歴史を閉じたサマリテーヌは、現在高級ホテルに生まれ変わるべく全面改装中とのことだが、そのほとんど廃墟のような内部から、昔の女との二十年ぶりの再会を演じる一場面。その思わず胸を突くエモーションの驚きが詩的と言っていいのか戸惑いを感じる。
「ゴジラ」のテーマ曲を背に、ドニ・ラヴァンが墓地で暴れまわる一幕などは、どう解釈していいのやら。しかし、誘拐してきた妖艶なエヴァ・メンデスと二人きりになると、子どもに帰ったような怪人糞男が、意外に清純で可愛らしく見えた。これはひょっとして「美女と野獣」を表しているのか?・・・。
主人公ラヴァンが次々と相手に迎える様々な年齢の女優たち、その中でも巨大リムジンの運転手役を演じたエディト・スコプの存在感である。白いパンツスーツ姿が見事に決まるエレガンスさが、作品に高貴な風格を加えて魅力的でした。
場面場面を楽しみ、映像の綺麗さにみとれて、筋書の展開に驚いているうちにラストは、真の主役(リムジン)たちの漫画のごとき会話のシーンにも心うたれる。
レオス・カラックス監督が、「いろんな人物に成りきる主人公はまるでSF世界の人物のようだが、一人の人間が『今日を精一杯生きる』とはどういうことなのかを描きたかった」と強調しているのだが、この作品ほど観る人に感銘を得るか、どうかが問われるでしょう。
2013年劇場鑑賞作品・・・98 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング
あらすじ:夜もふけた頃に、ホテルの部屋で目を覚ました男レオス・カラックス(レオス・カラックス)が、隠し扉を発見し下りていくと顔のない観客たちであふれた映画館へと続いていた。一方、オスカー(ドニ・ラヴァン)は豪邸から子どもたちに見送られて真っ白なストレッチリムジンに揺られて出勤。美しい女性ドライバーのセリーヌ(エディット・スコブ)が車のそばで彼を待っており……。
<感想>『ポーラX』もレンタルビデオで観たのでレオス・カラックスという監督にはあまり思入れがない。だが予告で観た、何かの建物に入っていく、リンカーン・コンチネンタルが何台も。それこそ映画でしかみないような、面白いくらい長い高級車だけが、集まって入っていく。そのワンカットで心を射抜かれて、なんだこの集まりは、その前や、その後を見たいとこの映画を観るきっかけになった。
パリを舞台に、カメラはリンカーンに乗った男の謎の一日を追う。様々な場所に出向いて演技をしては、また車に戻る。何やってんだか分からない。分からないけど、大変さが車に戻ることの繰り返しで表される。不可思議な場面の連続だけど、労働として大変そうだなぁ、と思わせる。
この作品の主人公であるドニ・ラヴァンが、次々にかつらを付け替えて、ゴムマスクを取り換えて、金満銀行家から女乞食へと、モーションキャプチャーのモデル役から怪人糞男へと変身を繰り返し、その場かぎりの一幕を手当たり次第演じていくという、本当にバカバカしいほど単純な趣向である。
CG自体よりも、その制作現場で身体芸を繰り広げるモーションアクターの方にカメラを向ける監督は、デジタルとの境界線でこそ輝きでる「生身」の魅惑に賭けているのだろう。もちろんそれができるのは、主人公のドニ・ラヴァンがいてくれるからなのだ。
本作でのドニ・ラヴァンの風貌は、さすがに年齢を感じさせる。
だが、それが彼の佇まいに魅力を加えているのだろう。類人猿的な顔立ち、少年のように小柄なのに強靭な筋肉の張りつめた体。そしてざらりとした渋い声、グロテスクなものと美との合体は、ロマンティストのカラックスの世界観なのでしょう。
舞台となるセーヌ川岸の老舗百貨店、サマリテーヌでの夜間ロケの素晴らしさに言葉を失う。屋上から捉えられたポンヌフの眩い情景、一世紀半近くに及ぶ歴史を閉じたサマリテーヌは、現在高級ホテルに生まれ変わるべく全面改装中とのことだが、そのほとんど廃墟のような内部から、昔の女との二十年ぶりの再会を演じる一場面。その思わず胸を突くエモーションの驚きが詩的と言っていいのか戸惑いを感じる。
「ゴジラ」のテーマ曲を背に、ドニ・ラヴァンが墓地で暴れまわる一幕などは、どう解釈していいのやら。しかし、誘拐してきた妖艶なエヴァ・メンデスと二人きりになると、子どもに帰ったような怪人糞男が、意外に清純で可愛らしく見えた。これはひょっとして「美女と野獣」を表しているのか?・・・。
主人公ラヴァンが次々と相手に迎える様々な年齢の女優たち、その中でも巨大リムジンの運転手役を演じたエディト・スコプの存在感である。白いパンツスーツ姿が見事に決まるエレガンスさが、作品に高貴な風格を加えて魅力的でした。
場面場面を楽しみ、映像の綺麗さにみとれて、筋書の展開に驚いているうちにラストは、真の主役(リムジン)たちの漫画のごとき会話のシーンにも心うたれる。
レオス・カラックス監督が、「いろんな人物に成りきる主人公はまるでSF世界の人物のようだが、一人の人間が『今日を精一杯生きる』とはどういうことなのかを描きたかった」と強調しているのだが、この作品ほど観る人に感銘を得るか、どうかが問われるでしょう。
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