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奪命金 ★★★

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香港ノワールの名手として人気のジョニー・トー監督が、マネーゲームに翻弄(ほんろう)される人々の欲望を描く群像サスペンス
ギリシャ債務危機をきっかけに世界中に広がった金融危機をバックに、ある事件に巻き込まれた3人の男女の運命が交差する。ジョニー・トー監督作品常連のラウ・チンワンやリッチー・レンに加え、人気歌手デニス・ホーが出演。時間軸を複雑に交錯させた巧みな演出が光るドラマは、第68回ベネチア国際映画祭をはじめ世界中で高く評価された。
<感想>ジョニー・トー監督、待望の新作です。しかし今回は「エグザイル/絆」(06)や「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」(09)のような、ガンアクションによるフィルム・ノワールとは違い、市井の人々が錯綜する群像劇。それも株や投資信託などの金融を巡るお話ですが、しょっぱなから小汚いアパートで老人同士が殴り合っているようなチンケな展開で始まります。貯金と縁がない私でも信託にはリスクがつきものなんだな〜、くらいの理解で話についていけたので、安心してください。香港は日本より株の売買が一般に根付いたお国柄。香港映画人は金融とアクションを絡めて描ける素質があるようです。

本作品はジョニー・トーがノワールだけじゃなくて、あらゆる出来事があやをなし、自分も知らずに他人への影響を与えて、それがまた別の人の運命へ及んでいく、複雑な群像劇の操り師としても優秀であることを証明する映画でもあります。
物語は、チョン刑事の妻が、新しいマンションを購入しようと手付金を払うために株を売るのだが、そこで例の金融危機に直面する。はたまた一向に営業成績が上がらない銀行員のテレサが、顧客のおばさんにリスクの高いファンドを売りつける。この投資信託のネーミングは「一獲千金」。結果、金融資金は暴落。とはいえ、ケアなどする術はない。そもそも銀行は何かと手数料を取り契約交渉のやり口にも品がなく、その描き方の一つ一つにジョニー・トーのシニカルな目線を感じ取ることが出来る。
主要な登場人物3人は、妻からマンション購入をせっつかれているチョン警部補(リッチー・レン)。素のリッチーは最近、ステージに真っ赤なラメスーツで登場したりと美川憲一化が著しいですが、ここでは渋く正義感の強い刑事役。

そして銀行で金融セールスを扱いながら、販売成績が最下位でクビになりそうなテレサ(デニス・ホー)。そしてジョニー・トー映画の顔であるラウ・チンワンは、一応マフィアながら、単純でちょっと山下清的なパンサー役です。ラウさんが着ているチンピラ・ガラシャツと相変わらずの丈の半端に短いズボン、そしてグラディエーターサンダルが可愛いです。
もちろん彼が車や駆け足で移動する、香港の美しく雑然とした街並みも主人公のひとつです。パンサーは親分の還暦誕生日パーティを切り盛りし、集まった大金を一銭もちょろまかしたりしない性格の良さで、仲間から人望も厚い男。彼が逮捕された兄貴分の保釈金を集めるため、仲間のドラゴン(パトリック・クン)を訪ねたところ、思いがけない事件に遭遇し、棚からボタモチな大金(500万ウオン)が転がり込みます。
しかし、そこでギリシャ債務危機が勃発。ドラゴンが損失した大陸マフィアのスン(テレンス・イン)の資金を巡って、パンサーはもっと高額の金を用意しなければいけない羽目になるのです。

もっとも顔面破壊力を誇るラウさんの瞬き多めなキャラ作りは、何気ないけれど素晴らしい器用さです。劇中で重要な役割を果たすスダレハゲの高利貸しロー・ホイパン、テレサの銀行に1000万ウオン金を引き出しに来て、ケータイ電話でドラゴンと話をして、権利書一通につき500万ウオンを貸し付けるといい、後の500万ウオンをテレサに戻しておけと言い残し、この時急いでいたと見えて500万ウオンの入金証書を受け取らずに帰った。ケータイ電話を置き忘れて追いかけるテレサ、駐車場ではスダレハゲの高利貸しが暴漢に襲われ頭から血を流し、それでもその暴漢を後ろからメッタ殴りつけて殺してしまう。自分は車に戻るも、暴漢の頭の一撃が堪えたと見え倒れ死んでしまう。それを見たテレサは、急いで銀行に帰りあの500万ウオンを引出に入れていたことを思いだし、そのまま着服しようと考えるわけ。
それにラウさんは、兄貴の保釈金集めや、ドラゴンの金の工面にそのスダレハゲに借金を頼もうと車の後部座席で、一部始終を見てびっくりし、スダレハゲが暴漢を殺して戻ってきた車の後部座席でブルブルと震えて、倒れ込む高利貸しの黒い鞄を持って逃げるわけ。

物語のフックとなるのは、2010年に表面化した“ギリシャ債務危機”です。「広くあまねく使用できる」と信託しあった貨幣価値が揺らいで、国際的に契約関係がもつれ、挙句の果てこれに、香港の市井の人たちも巻き込まれてしまうという展開。
従来のノワールでハードボイルドな作風からは離れた題材だが、実にジョニー・トー的な「契約」に関する映画になっている。そう、契約とは固い約束によって強い結びつきが生まれることだが、一種の賭けでもあり、裏切りと紙一重。貨幣にも似て、下手をすれば単なる鋳造物や紙切れと化す、そんな非情の世界をジョニー・トーは描いているのである。
この映画の中で、貨幣やら交換についていろいろと考えさせてくれるが映画自体はかように回りくどい印象を与えることのない、実にスキッとした彼らしい作品になっている。今回の時間軸が細やかに前後し交錯する細工は、これまでのジョニー・トーにはなかった話法です。この逸話を繋ぎ、小気味よく進んでいく群像劇になっていて、美しいスキャットの音楽もいいですね。
最後に、ジョニー・トー監督は葉巻愛好家でもある。この映画のラストを飾るラウさんも、奇しくも株で大儲けをして葉巻を吸っているシーンが、あれは彼の分身キャラであることは間違いないと思いますね。
2013年劇場鑑賞作品・・・90  映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング


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