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天使の分け前 ★★★★

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『大地と自由』『麦の穂をゆらす風』などのイギリスの名匠、ケン・ローチ監督によるヒューマン・コメディー。

スコッチ・ウイスキーの故郷スコットランドを舞台に、もめ事ばかり起こしてきた若者がウイスキー作りを通じて師や仲間と出会い、自らの手で人生を再生していくさまを描く。社会奉仕活動で出会った行き場のない者たちが繰り広げる痛快な人生賛歌は、第65回カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した。
あらすじ:いつもケンカばかりしている青年ロビー(ポール・ブラニガン)は、トラブルを起こして警察ざたに。しかし、恋人との間にできた子どもがそろそろ出産時期を迎えることに免じ、刑務所送りの代わりに社会奉仕活動をすることになる。まともな生活を送ろうと改心した過程で指導者のハリー(ジョン・ヘンショウ)に出会い、ウイスキーの奥深さを教えてもらったロビーはその魅力に目覚めていき……。

<感想>ケン・ローチ監督と言えば、自他ともに認める筋金入りの社会主義者。もともと、社会の底辺で生きる弱者を優しい眼差しと温かなユーモアで描く監督として敬愛されている人。だから、この映画はとても、ケン・ローチらしい作品なのである。
この作品の主人公ロビーは、ろくでなしの父親と兄を持ち、父の代からの宿敵一家といさかいが絶えない。少年刑務所から出たばかりで、仕事も家もない。真っ当な生活を送りたいと思っているが、暴力的な環境と社会がそれを許してくれない。環境に失業、暴力、刑務所・・・、いくつものキーワードが、ローチの最も好むキャラクターであることを示している。

いつもなら不幸な結末を迎えるのに、今回のロビーは幸運にも、彼を愛してくれる恋人と赤ん坊がいて、“尊敬できる大人”ハリーと出会う。そして人生大逆転のチャンスを掴むのだ。ハリーは、宿敵に絡まれて喧嘩沙汰を起こしたロビーが、裁判所から命じられた社会奉仕活動を行っている現場の指導者である。
仕事は壁にペンキ塗りとか、ゴミ拾いとか、お金にはならない。ウィスキーが大好きなハリーは、規則違反を犯して、休日にロビーや3人の作業仲間を蒸留所見学に連れて行く。それがきっかけで、ロビーはテイスティングの才能に目覚める。もちろん勉強もした。そして蒸留所で聞いた「天使の分け前」=樽で熟成中のウイスキーは、1年で2%ほど蒸発して失われるーーという言葉から、ある計画を思いつくんです。
実はこの計画、100万ポンドの高値で落札される樽入りの最高級ウィスキーを、樽の中から数本分だけ盗んで“コレクター”に売るという、れっきとした犯罪なんですから。しかし、その犯罪がコメディと言っても差支えのない面白さ。

仲間の3人とは、酩酊しておバカな迷惑行為で捕まったオトボケ男2人と、つい目の前にある者を失敬する万引き女。3人ともやはり失業中の身なので、彼らのズレたやりとりは、ローチにしては珍しい類のおかしさなんです。
4人はオークションが行われる蒸留所に入るために、架空のモルトクラブを作って申し込み、怪しい者だと思われないようにキルトを着て、つまりタータンチェックのスカート。ハイランドへとヒッチハイクを続ける。その道のりは、美しい風景と軽やかに流れる音楽、まるで明るい青春ロードムービーのよう。
やがて蒸留所に着くと、ロビーは「孫に自慢できるから」と言って、オーナー夫婦を感動させ、オークションに立ち会うことを許してもらう。
ところが、その夜、大きな錠前と監視カメラが1台だけ取り付けられ「バイキング襲来以降、窃盗は皆無」という倉庫から、実にシンプルな方法でウイスキーを盗みだそうとする。それは、オークションに立ち会う前の日に、ロビーがウイスキーの蒸留樽の影に隠れて夜まで潜んでいたんですね。夜中にロビーが、最高級ウィスキーの樽を木槌でたたいて開け、初めは小さなウイスキー瓶に詰め、次はビニールホースでジュース瓶に1本詰めて、3人の友達が蒸留所の外にスタンバイしており、穴からビニールホースを伸ばして、彼らにも1本づつ最高級ウイスキーを詰めさせる。

その後、もっとたくさん瓶詰しようとするも、密かにコレクターに売るには少量の方が高値が付くと考える。
ロビーたちの犯罪には、罪悪感など微塵も感じられない。誰も傷つかないし、気付かない。金を払う“コレクター”は、マフィアと関係している胡散臭いヤツだし、ロビーはハリーにも恩返しをするのだから。
それと、ウイスキーを4本分せっかく搾取したのに、次の日コレクターに売る前に警察に怪しい者だと見つかり、でもキルト着ているし、スカートをめくれと言われ素直に「はい」と見せる3人。手荷物検査もすんなりとOK!・・・これに気をよくしたおバカな男が瓶を女の瓶にぶっつけて壊してしまう。

ジュース瓶に詰めたウイスキーは、1本10万ポンドはする品物なのに。なんてことだ。でも、ロビーはコレクターに1本だけ10万ポンドで売りつける。そして残りの1本は、恩人のハリーにプレゼントしたわけ。
4人で2万五千ポンドづつ分けて、再出発するロビーの嬉しそうな顔がいい。
貧しさや悲しみ、絶望は、時として人の良心さえ奪ってしまう。悲惨な状況にいる労働者は、ある程度の犯罪行為をしなければ生きていけない。だからというわけではないが、彼らを安易に裁こうとはせず、犯罪の背景にあるものを提示する。ロビーたちのしたことは確かに犯罪だが、可愛いものだと思う。愛すべき悪党と、愛すべき犯罪、そんなケン・ローチの映画を愛さずにはいられない。
2013年劇場鑑賞作品・・・78    映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ


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