アルゼンチン・タンゴに革命を起こした伝説のタンゴ・ペア、マリア・ニエベスとフアン・カルロス・コペス。14歳と17歳で出会ってから50年近くも踊り続けてきた2人は、1997年についにコンビを解消する。本作はヴィム・ヴェンダースが製作総指揮を務め、そんな2人の50年に及ぶ愛憎の軌跡と、変わることのないタンゴへの情熱を、本人たちの証言に、一流ダンサーによる踊りと再現ドラマを織り交ぜ描き出すドキュメンタリー。監督は「ミュージック・クバーナ」のヘルマン・クラル。
<感想>1980年代までは映画界の次代のエースと目されたヴィム・ヴェンダースも、長いスランプに悩まされてきた。そんなキャリア上の危惧を再三にわたり救ったのが、芸術をめぐるドキュメンタリー・ドラマというジャンルだった。
今作では、アルゼンチンの伝説的ダンスペアの記録を、ブエノスアイレスという都市の現代史を、一組のカップルの別離を通して描かれる。
彼らの出会いから、引退した現在までが描かれており、当人たちの証言はともかくとして、再現パートの役者たちのコメントは余り面白くはない。その現在の画面が無遠慮にカットインされており、せっかくの過去の踊りの映像が中断されるのが残念でした。
アルゼンチンタンゴはその性質上、女性ダンサーは女であることを、ことさら強いられるダンスではないかと感じさせられた。男に対しての女。決してそこからは逃れられない。それは相当に疲れるように思うのだが、こうした緊張感こそが情熱的な官能の芸術を生むのだろう。
マリアとファンの、半世紀に及ぶタンゴを通しての葛藤が、当人と若いダンサーとの再現によって紐解かれていく。壮年期のエピソードをアルゼンチンを代表する人気ダンサーたちがダンス・パフォーマンスで表現。タンゴの名曲が彩るマリアとフアンの愛と人生の軌跡を堪能しつつ、タンゴの神髄に触れていく。
しかし、焦点は完全にマリア・ニエベスに当てられている。若い二人は最高のダンス・パートナーとして頂点に上り詰め、二人の恋愛もハリウッドで結婚まですることに。アメリカでテーブルの上で2人で激しく踊るシーン、高い机の上から落ちないかとハラハラした。
その後、相手のファン・カルロス・コペスが、ハリウッドでの結婚は無効だといい、別人と結婚をして家庭を作り娘が生まれ、最後の方でその娘とタンゴを踊っているのが映し出される。
マリアにとっては、ファンは初めて愛する男性だったのだろう。まさか、結婚までして、別れが来るとは思ってもみないし、それが2人のペアを解消する原因になるとは。男女の仲の心のいさかいは、踊っているダンスにも表れる。
マリアは、ファンとの別れからも二人でタンゴを踊ってはいるが、それは決して目を見つめ合い、抱き合って踊っているわけではない。だから、激しい男女の感情を表すタンゴでは、それが微妙にダンスに響くのだ。
日本における引退のダンスシーン他、じっくりと観たいところがたくさんあるのだが、タンゴの最盛期と衰退の歴史を、かの国の政治状況と重ねて描いて欲しかったという願いもあった。
現在80歳だが背筋がピンと伸びて、今でもタンゴを踊る時は、軽やかに足踏みをして培った年輪と共に見事である。
マリア・ニエベスの壮絶で美しい生きざま。ブエノスアイレスの夜景に映し出されるマリアがタバコを吸っているところ、20世紀的かもしれないが、女性芸術家のすべてがあると感じられる映画でした。
2016年劇場鑑賞作品・・・173映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング<
<感想>1980年代までは映画界の次代のエースと目されたヴィム・ヴェンダースも、長いスランプに悩まされてきた。そんなキャリア上の危惧を再三にわたり救ったのが、芸術をめぐるドキュメンタリー・ドラマというジャンルだった。
今作では、アルゼンチンの伝説的ダンスペアの記録を、ブエノスアイレスという都市の現代史を、一組のカップルの別離を通して描かれる。
彼らの出会いから、引退した現在までが描かれており、当人たちの証言はともかくとして、再現パートの役者たちのコメントは余り面白くはない。その現在の画面が無遠慮にカットインされており、せっかくの過去の踊りの映像が中断されるのが残念でした。
アルゼンチンタンゴはその性質上、女性ダンサーは女であることを、ことさら強いられるダンスではないかと感じさせられた。男に対しての女。決してそこからは逃れられない。それは相当に疲れるように思うのだが、こうした緊張感こそが情熱的な官能の芸術を生むのだろう。
マリアとファンの、半世紀に及ぶタンゴを通しての葛藤が、当人と若いダンサーとの再現によって紐解かれていく。壮年期のエピソードをアルゼンチンを代表する人気ダンサーたちがダンス・パフォーマンスで表現。タンゴの名曲が彩るマリアとフアンの愛と人生の軌跡を堪能しつつ、タンゴの神髄に触れていく。
しかし、焦点は完全にマリア・ニエベスに当てられている。若い二人は最高のダンス・パートナーとして頂点に上り詰め、二人の恋愛もハリウッドで結婚まですることに。アメリカでテーブルの上で2人で激しく踊るシーン、高い机の上から落ちないかとハラハラした。
その後、相手のファン・カルロス・コペスが、ハリウッドでの結婚は無効だといい、別人と結婚をして家庭を作り娘が生まれ、最後の方でその娘とタンゴを踊っているのが映し出される。
マリアにとっては、ファンは初めて愛する男性だったのだろう。まさか、結婚までして、別れが来るとは思ってもみないし、それが2人のペアを解消する原因になるとは。男女の仲の心のいさかいは、踊っているダンスにも表れる。
マリアは、ファンとの別れからも二人でタンゴを踊ってはいるが、それは決して目を見つめ合い、抱き合って踊っているわけではない。だから、激しい男女の感情を表すタンゴでは、それが微妙にダンスに響くのだ。
日本における引退のダンスシーン他、じっくりと観たいところがたくさんあるのだが、タンゴの最盛期と衰退の歴史を、かの国の政治状況と重ねて描いて欲しかったという願いもあった。
現在80歳だが背筋がピンと伸びて、今でもタンゴを踊る時は、軽やかに足踏みをして培った年輪と共に見事である。
マリア・ニエベスの壮絶で美しい生きざま。ブエノスアイレスの夜景に映し出されるマリアがタバコを吸っているところ、20世紀的かもしれないが、女性芸術家のすべてがあると感じられる映画でした。
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