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舟を編む ★★★★

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2012年本屋大賞で大賞を獲得し、2012年文芸・小説部門で最も販売された三浦しをんの『舟を編む』(光文社・刊)。

言葉の海を渡る舟ともいうべき存在の辞書を編集する人々の、言葉と人に対する愛情や挑戦を描いた感動作を、「剥き出しにっぽん」で第29回ぴあフィルムフェスティバルグランプリを受賞、「川の底からこんにちは」が第60回ベルリン国際映画祭フォーラム部門に招待されるなど国内外から評価される石井裕也監督が映画化。言葉に対する抜群のセンスを持ちながら好きな人へ思いを告げる言葉が見つからない若き編集者を「まほろ駅前多田便利軒」の松田龍平が、若き編集者が一目惚れする女性を「ツレがうつになりまして。」の宮崎あおいが演じる。(作品資料より)

<感想>一冊の辞書を完成させるのに、どれだけの時間を要するのか?・・・直木賞作家三浦しをんの本作に登場する中型辞書、今を生きる辞書を目指している『大渡海(だいとかい)』は見出し語が24万語という大規模なもの。それは企画から出版までに何と15年の歳月が流れる。
出版社の中で“変人”として持て余される存在だった主人公の馬締光也が、言葉を独自の視点でとらえるその才能が買われて辞書編集部に起用され、言葉集め、語釈執筆、組版、校正に次ぐ校正、・・・と気が遠くなるような作業を地道に進めていく姿が描かれる。口下手な主人公が編集作業の傍ら、下宿先の大家の孫・香具矢に惚れて、「恋」という言葉の語釈に悶々としながら取り組む様子が笑いを誘う。「川の底からこんにちは」で注目を集めた新鋭・石井裕也監督が、派手さのない物語の中に仕事に打ち込む人々の熱い想いを織り込み、手堅いドラマにまとめ上げている。
辞書編集部の面々には、編集主任の荒木に小林薫、地味な作業を苦手とするチャラ男・西岡にはオダギリジョーが、パートのおばさんに伊佐山ひろ子、監修の松本には加藤剛という大御所が演じて盛り上げる。それに、女性誌から異動してきた黒木華演じるみどりに、荒木が原稿の間違いを指摘するシーン。後もう少しというところだったのに、また初めの「あ」行から校正のやり直しチェックなのだ。

辞書作りの大半は、机に向かう座業。それを動く絵にするのは難しかったと思う。面白さの一つは、辞書作りの過程を丁寧に見せてゆくプロジェクトX的な展開だろう。「右」という言葉の語釈をスタッフが検討してゆくところなど、なるほどここまで考えるのかと驚く。普通の人間が考えるのは「多くの日本人が箸を持つほう」だと思うのだが、編集部監修の先生(加藤剛)が言うには「10という数字の0の方」と語釈して見せる。なるほどと思えるのだが、それでは「10」の語釈はどうなるのかと心配になる。
中でも新米の馬締が恋をして、その「恋」をどう説明するか議論している。しかし、「10」や「恋」を辞書で引いてみる人間がどれだけいるかは疑問だが、現代の辞書はあらゆる言葉を載せようとする。この作品でも、編集方針は流行語まで拾おうとするから大変な作業になり、完成まで15年かかっている。だから、旧社屋の倉庫だと思われる狭い部屋で、黙々とたくさんの資料を前に新しい辞書を作るのに精を出しているうちに、熟練編集者は退職し、新米編集者はベテランになっていくのだ。
それと辞書編集部ならではの、「国語辞典」「英和・和英辞典」はもちろん「草原昆虫百科事典」とか「源氏物語事典」「ファッション事典」に「調味料事典」などあらゆる辞書・辞典が書棚にあるのが面白い。物語が進むにつれ、編集部のセットもパソコンの導入などで様変わりはするのだが、これら紙の山はいつの時代も変わらないのだろう。ラスト近くになると、撮影はそのセット内に5名の編集者と、エキストラを含めた校正作業のアルバイト役10名ほどが入り、すし詰め状態で本当にごった返しで大変なのだ。
お堅い難しい映画だと思ってしまうが、松田龍平演じる主人公の風変わりぶりが結構笑える。本の虫で、下宿家の1階は本棚に本がびっしりと並べられ、まるで古本屋さん。人と付き合うのは得意でない。大家の孫娘に恋をして、ラブレターを古文書のような巻紙に毛筆で、それも達筆なので読めない。だから「こんなの読めない」と返されてしまう。実際に、松田龍平もこの映画の中では物静かで、あまり自己主張を感じさせない風体で演じている。
中でも監修の松本を演じた加藤剛さん、若い人たちの俗語や略語、“マジ、ダサイ”とかもっとたくさんあるが出てこない。その若者ことばも羅列した今を生きる辞書を目指し、若者の合コンにも参加したり、居酒屋へ行き隣や後ろの座席で若者が話ている言葉を熱心にメモする姿勢に感服する馬締くん。

主人公の名前も馬締光也と、まさに名は体を表す名前の付け方は、現代の小説では珍しい。それと宮崎あおい演じる妻の名前も林薫具矢という、かぐや姫に例えたのかと思った。仕事は板前でいつも煮物の味見をさせられるが、ただ美味しいとしか言わない。
しかし、この映画を見ていると、馬締は浮世離れした変人どころか、自分の欲望に対して極めてストレートであり、その裏付けとなる信念を武器に周囲の人を巻き込んで、夢を形にしていく。かなりタフな精神力としたたかさを持った男なのである。
せっかく辞書作りが軌道にのってきたのに、上層部の判断で「大渡海」が発行中止の危機に。それを西岡が異動ということで、やっと来年の3月に発売が決定と、馬締がみんなに報告をするが、12月の31日、お正月も返上して徹夜作業で校正を仕上げる大変さ。みんなで力を合わせて成し遂げるというチームワークの力。言葉というものに取り付かれ、それに人生をかけて取り組んだ人々の苦悩やドラマが描かれている。最近はケータイやPCで調べてしまい辞書離れしているようだが、この映画を見て改めて辞書の有難さを痛感した。
2013年劇場鑑賞作品・・・73   映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ

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