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遺体〜明日への十日間〜★★★★

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報道されなかった被災地の記録として、大反響を呼んだ石井光太のノンフィクションを基にした人間ドラマ。

東日本大震災直後、元葬祭関連の仕事をしていた相葉は、遺体安置所でのボランティアを市長に直訴。故人の尊厳を守りながら日夜奔走することに。
この映画は、2年経っているとはいえ直ぐにでも大震災の恐怖が甦えってきて、とてもまだ地元では観るに堪えない感じがした。それでどうしようか迷った挙句、劇場で上映している間に勇気を持って鑑賞しようと決めた。

<感想>大震災の岩手県釜石市で、遺体の捜索や身元確認作業に関わった人たちの体験を、ドキュメンタリーのように生々しく再現している。原作が多くの証言を集めたルポルタージュなので、現場に立ち会っているような臨場感に圧倒されました。自分が肉親や知人の遺体に直面したら、呆然と立ち尽くし何もできないだろう。
そんな時、西田敏行が演じる民生委員の相葉のような人物と出会えば、少しでも救われるに違いない。死体と遺体は違うという言葉が胸に突き刺さり、死生観を揺さぶられた。
津波の被害の全貌が分からない中で、次々と運ばれてくる遺体。“作りもの”とわかって観てはいても、その光景に言葉を失う。そして、次第にただ数字としてしか認識していなかった犠牲者の数が「丁寧に弔われるべき一人一人の人間」として思えてくる。もちろんセットだし、キャストもスタッフも、ご遺体だって人形なんだから“嘘”なんだけど、被災者の人たちに失礼でないようにと気配りをして撮影している。
再現された泥まみれの遺体安置所が印象深い。きびきびとした説話、メロウに歌い上げない悲劇的状況の描写と抑えた映像。だが、震災後という不安定な状況の中、まだ記憶がすぐに引き戻されこの題材にを扱うにはまだ早すぎるのではないか、と言う懸念もないではない。

しかし、映像は地震の瞬間や引き続く余震、津波の恐怖、遺体発見の瞬間などはそっと端折り、ショッキングな映像はもちろん皆無である。安置所で働く若い女性、志田未来さんが出てくる。釜石市の職員で困難な仕事をすることになった。初めは呆然として何をしたらいいか分からずにいる。無理もない。その彼女が、以前葬儀社で働いていたという西田敏行の姿に励まされ、次第に力を取り戻してゆく。

誰に言われるでもなく、泥だらけの床をモップで拭き始める。それと深く感銘を受けたのが、一番若い彼女が、遺体の並ぶ殺風景な安置所に祭壇を作る事を思いつく。粗末な机を見つけてきて祭壇に見立て、ビーカーか何かに土を入れ、線香を立てる。その祭壇で彼女は手を合わせる。安置所で働く人々が、それに倣っていく。生き残った者が死んでいった者にできることは、手を合わせ静かに祈ることしかない。
この映画では安置所で働く人たちの誰もが遺体を火葬場に送る時、帽子を取り、手を合わせる。小さな儀式でしかないかもしれない。しかし儀式こそが観ている我々の心を掴むのである。
それと、遺体の運搬作業に携わる市の職員、搬送で目がすわっていく沢村一樹と、逆にメンタル面で挫折する者の荷台の姿が印象に残る。遺体を丁寧に弔う民間人の相葉を演じる西田敏行、泣き節に込められた西やんのリアクションに拍手です。辛い話の中、西田さんの存在は救いでもあり、他の方が演じていたら作品全体の印象も違ったものになったことでしょう。
2013年劇場鑑賞作品・・・72 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ



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