「Love Letter」「花とアリス」の岩井俊二監督が「小さいおうち」「母と暮せば」の黒木華を主演に迎え、一人の若い女性の心の彷徨と成長を見つめたドラマ。現代の日本を舞台に、ふとしたことから“普通の人生”を踏み外してしまった世間知らずのヒロインが、周囲に流されるまま様々な出会いと経験を重ねながら、過酷な現実社会をしなやかに生き抜いていく姿を、瑞々しい透明感あふれる映像で綴っていく。共演は「そこのみにて光輝く」の綾野剛、「KOTOKO」のCocco。
あらすじ:2016年の東京。派遣教員として働く平凡な女性、皆川七海。ある日、SNSで鶴岡鉄也という男性と知り合い、そのままトントン拍子で結婚へと至る。結婚式に呼べる友人・親族が少ない七海は、代理出席の手配を“なんでも屋”の安室に依頼する。しかし新婚早々、夫の浮気疑惑が持ち上がると、反対に義母から七海が浮気を疑われ、家を追い出されてしまう。行き場もなく途方に暮れた七海は安室に助けを求め、彼が斡旋する怪しげなバイトを請け負うようになる。やがて、豪邸で住み込みのメイドとして働き始めた七海は、謎めいたメイド仲間、里中真白と意気投合、互いに心を通わせていくのだったが…。
<感想>人並みに生きてきたひとりの女性が経験する転落と再生の物語なんだと、簡単には片付けられない何かがある。主人公の七海を責めるわけではないが、今時の女性で、ネットの世界に身を投じてフワフワと流されているようでもあるし、でもちょっと残酷でどうしようもなく切なかったりして、取る行動がいちいち大胆とも言えるのだ。私にはSNSで結婚相手を見つけることなんて、考えられないのでね。
仕事の中学校の代用教員にしても、声が小さくてボソボソと話す声に、生徒がマイクを使って授業をしてくれと頼むのだが、七海に対して、少し虐めがあるような生徒たち。この辺で七海という女性の内気な性格には、教員という仕事は向いていないのだ。仕事もクビになりどうしようか悩んでいる矢先に、SNSで知り合った男と結婚話が持ち上がるのだ。
早速、マザコン夫の鉄也の浮気を知り、安室に相談してホテルで探偵のような男と出会う。ここからして、七海の浅はかさが仇となり、転落していくのが見え見えでした。浮気相手の女の男だという、その男から脅されセックスを強要される。そこでトイレで安室に相談するも、すぐに助けにいくというのだ。
七海は世間知らずというか、男性を信用してしまうところがダメですね。この親切な「なんでも屋」の安室は、実は結婚の壊し屋もやっていて、夫の姑から依頼されてこの結婚を壊してくれと頼まれたのだ。ホテルの部屋には、監視カメラに盗聴器が仕掛けられていることも気づかない七海。まんまと騙されて、夫には今すぐ荷物をまとめて出て行けと言われ、行く当てもなく自分が今、何処にいるのかも分からず、世界から取り残されたかのような孤独にさいなまれる。七海が独り路頭に迷いホテルに泊まるも、お金がないのでそのホテルでメイドで働く。
そこに、安室が出て来て、七海の現状をしり仕事を紹介してくれるのだが、それが豪邸のメイド。100万円報酬だというが、何かきなくさい感じがする。
しかし、世間知らずの七海には、住み込みで100万円なんて話に疑いも無くOKする。まぁ、世の中捨てたもんじゃない。そこの住人がアダルト女優の真白で、2人は共通するところもあり仲良く暮らすことになる。それが長く続くわけもないのに。
真白が末期がんだということが解り、この豪邸も真白がアダルト映画の仕事で家賃を支払っているということも知り、寝室の水槽にはクラゲ、タコ、エイ、サソリや毒貝という、猛毒のある生き物を飼っている。そのことも真白の最期に関係があると観客にも理解できるから。
主人公の七海を演じているのが黒木華で、彼女がSNSを介して様々な人間関係を体験するのですが、中心となるのは、綾野剛演じる「なんでも屋」の安室や、奔放な女性でアダルト女優を演じているCoccoの真白との出会い。自分で生きようとする女ではない七海は、現実の理不尽さに翻弄されながらも、荒波を泳いでいく。
中でも、ウェディングドレスが象徴的に使われているのが印象的でした。七海が前半、自分の結婚式にウェディングドレスを着て臨むシーンは、彼女はやや緊張感がありそうな“しつらえ”もので、七海のおかれている息苦しい状況が出ているシーンでは、結婚式なので華やかには見えるんですが、何故だか不幸に見える。
一方、別のシチュエーションで、真白とウェディングドレスを選び、写真を撮り、笑いながら楽しそうに身に着けている七海は、幸せそうに満ち満ちていて、この両者のコントラスが印象的でひときわ心に残っています。しかしながら、男っぽい真白がウェディングドレスを死に装束に選んだことは、やはり本当の結婚をしたかったのでは、真白の女ごころが見えて哀しくなる。
音楽がピアノ演奏でメンデルスゾーンの「歌の翼に」とか「G線上のアリア」が流れていると、何とも言えない気分になります。
ラストの真白の遺骨を母親のリリーさんの家に届けに行くシーン。娘とは縁を切ったのだから、骨は受け取らないというのに、安室がずかずかと上がり込み仏壇の前に遺骨を置く。そして、母親が焼酎の一升瓶を持って来て、2人に飲めと強要する。みんなで焼酎をあおって、泣きながら人が悲しみのどん底に突き落とされるシーンなのだ。
特に真白役のCoccoさんの印象は、普段の素のままで自然に演技していて上手かった。彼女はシンガーソングライターでもあるので、カラオケで「何もなかったように」を歌うシーンがあるのですが、真白になりきったように酔っぱらって歌うのも自然でいい。
それからの七海は、自分の住む部屋を見つけて、窓辺に赤い金魚と黒い金魚を並べて飾り、安室から貰った家具を並べた部屋では、3つの椅子が印象的に映し出され、これから七海が自分の力で目標を立てて生きていくという感じが良かったですね。
注:「リップ・ヴァン・ウィンクル」とは、19世紀に発表されたアメリカの小説であり、その主人公の名前。森の奥に誘われて酒盛りを始めた主人公が眠り込み、目が覚めたら20年たって世界はすっかり変わっていたという物語。この映画では20年は経たないが、しかし最後に主人公がガラッと変わる。それまで眠り込みまどろみの中にいた主人公が、最後になって目覚める物語と言ったらいいか。3時間の長丁場。そのほとんどがまどろみの中である。
ちなみに真白のネットのハンドルネームが、リックヴァンウィンクルだった。
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あらすじ:2016年の東京。派遣教員として働く平凡な女性、皆川七海。ある日、SNSで鶴岡鉄也という男性と知り合い、そのままトントン拍子で結婚へと至る。結婚式に呼べる友人・親族が少ない七海は、代理出席の手配を“なんでも屋”の安室に依頼する。しかし新婚早々、夫の浮気疑惑が持ち上がると、反対に義母から七海が浮気を疑われ、家を追い出されてしまう。行き場もなく途方に暮れた七海は安室に助けを求め、彼が斡旋する怪しげなバイトを請け負うようになる。やがて、豪邸で住み込みのメイドとして働き始めた七海は、謎めいたメイド仲間、里中真白と意気投合、互いに心を通わせていくのだったが…。
<感想>人並みに生きてきたひとりの女性が経験する転落と再生の物語なんだと、簡単には片付けられない何かがある。主人公の七海を責めるわけではないが、今時の女性で、ネットの世界に身を投じてフワフワと流されているようでもあるし、でもちょっと残酷でどうしようもなく切なかったりして、取る行動がいちいち大胆とも言えるのだ。私にはSNSで結婚相手を見つけることなんて、考えられないのでね。
仕事の中学校の代用教員にしても、声が小さくてボソボソと話す声に、生徒がマイクを使って授業をしてくれと頼むのだが、七海に対して、少し虐めがあるような生徒たち。この辺で七海という女性の内気な性格には、教員という仕事は向いていないのだ。仕事もクビになりどうしようか悩んでいる矢先に、SNSで知り合った男と結婚話が持ち上がるのだ。
早速、マザコン夫の鉄也の浮気を知り、安室に相談してホテルで探偵のような男と出会う。ここからして、七海の浅はかさが仇となり、転落していくのが見え見えでした。浮気相手の女の男だという、その男から脅されセックスを強要される。そこでトイレで安室に相談するも、すぐに助けにいくというのだ。
七海は世間知らずというか、男性を信用してしまうところがダメですね。この親切な「なんでも屋」の安室は、実は結婚の壊し屋もやっていて、夫の姑から依頼されてこの結婚を壊してくれと頼まれたのだ。ホテルの部屋には、監視カメラに盗聴器が仕掛けられていることも気づかない七海。まんまと騙されて、夫には今すぐ荷物をまとめて出て行けと言われ、行く当てもなく自分が今、何処にいるのかも分からず、世界から取り残されたかのような孤独にさいなまれる。七海が独り路頭に迷いホテルに泊まるも、お金がないのでそのホテルでメイドで働く。
そこに、安室が出て来て、七海の現状をしり仕事を紹介してくれるのだが、それが豪邸のメイド。100万円報酬だというが、何かきなくさい感じがする。
しかし、世間知らずの七海には、住み込みで100万円なんて話に疑いも無くOKする。まぁ、世の中捨てたもんじゃない。そこの住人がアダルト女優の真白で、2人は共通するところもあり仲良く暮らすことになる。それが長く続くわけもないのに。
真白が末期がんだということが解り、この豪邸も真白がアダルト映画の仕事で家賃を支払っているということも知り、寝室の水槽にはクラゲ、タコ、エイ、サソリや毒貝という、猛毒のある生き物を飼っている。そのことも真白の最期に関係があると観客にも理解できるから。
主人公の七海を演じているのが黒木華で、彼女がSNSを介して様々な人間関係を体験するのですが、中心となるのは、綾野剛演じる「なんでも屋」の安室や、奔放な女性でアダルト女優を演じているCoccoの真白との出会い。自分で生きようとする女ではない七海は、現実の理不尽さに翻弄されながらも、荒波を泳いでいく。
中でも、ウェディングドレスが象徴的に使われているのが印象的でした。七海が前半、自分の結婚式にウェディングドレスを着て臨むシーンは、彼女はやや緊張感がありそうな“しつらえ”もので、七海のおかれている息苦しい状況が出ているシーンでは、結婚式なので華やかには見えるんですが、何故だか不幸に見える。
一方、別のシチュエーションで、真白とウェディングドレスを選び、写真を撮り、笑いながら楽しそうに身に着けている七海は、幸せそうに満ち満ちていて、この両者のコントラスが印象的でひときわ心に残っています。しかしながら、男っぽい真白がウェディングドレスを死に装束に選んだことは、やはり本当の結婚をしたかったのでは、真白の女ごころが見えて哀しくなる。
音楽がピアノ演奏でメンデルスゾーンの「歌の翼に」とか「G線上のアリア」が流れていると、何とも言えない気分になります。
ラストの真白の遺骨を母親のリリーさんの家に届けに行くシーン。娘とは縁を切ったのだから、骨は受け取らないというのに、安室がずかずかと上がり込み仏壇の前に遺骨を置く。そして、母親が焼酎の一升瓶を持って来て、2人に飲めと強要する。みんなで焼酎をあおって、泣きながら人が悲しみのどん底に突き落とされるシーンなのだ。
特に真白役のCoccoさんの印象は、普段の素のままで自然に演技していて上手かった。彼女はシンガーソングライターでもあるので、カラオケで「何もなかったように」を歌うシーンがあるのですが、真白になりきったように酔っぱらって歌うのも自然でいい。
それからの七海は、自分の住む部屋を見つけて、窓辺に赤い金魚と黒い金魚を並べて飾り、安室から貰った家具を並べた部屋では、3つの椅子が印象的に映し出され、これから七海が自分の力で目標を立てて生きていくという感じが良かったですね。
注:「リップ・ヴァン・ウィンクル」とは、19世紀に発表されたアメリカの小説であり、その主人公の名前。森の奥に誘われて酒盛りを始めた主人公が眠り込み、目が覚めたら20年たって世界はすっかり変わっていたという物語。この映画では20年は経たないが、しかし最後に主人公がガラッと変わる。それまで眠り込みまどろみの中にいた主人公が、最後になって目覚める物語と言ったらいいか。3時間の長丁場。そのほとんどがまどろみの中である。
ちなみに真白のネットのハンドルネームが、リックヴァンウィンクルだった。
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