Quantcast
Channel: パピとママ映画のblog
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2328

ルビー・スパークス ★★★

$
0
0
「リトル・ミス・サンシャイン」のジョナサン・デイトン&バレリー・ファリスが同作以来6年ぶりに手がけた監督作。

スランプ中の若手作家と現実世界に出現した小説のヒロインが繰り広げる恋を描いたラブストーリー。脚本を執筆し、タイトルロールを演じたのは、映画監督エリア・カザンの孫娘ゾーイ・カザン。19歳で天才作家として華々しくデビューしたものの、その後10年間にわたりスランプに陥っているカルヴィンは、夢で見た理想の女の子ルビー・スパークスを主人公に小説を書き始める。するとある日、目の前にルビーが現れ、カルヴィンと一緒に生活を始める。しかし、ルビーが自分の想像の産物であることを隠そうと、カルヴィンは周囲と距離を置き、そのことに寂しさを覚えたルビーは、新しい仲間たちと交流を広げていく。そうして次第に関係がぎこちなっていく2人だったが……。
2012年(アメリカ)原題:Ruby Sparks 監督:ジョナサン・デイトン/バレリー・ファリス
出演:ポール・ダノ、ゾーイ・カザン、クリス・メッシーナ、アントニオ・バンデラス、アネット・ベニング、スティーブ・クーガン 、エリオット・グールド (映画comより)

<感想>物語の、実際の着想は、まさに「理想の恋人を自ら製造する」話の祖形である、ギリシャ神話のピュグマリオンとのことだが、いずれにせよ自分が夢に見た女子をヒロインにして小説を書いていくと、彼女が実体化して出現する、・・・という少し不思議なSF的な、妄想を設定し、やがて自己中心的な欲望が暴走するという内容です。
そして、しっぺい返しに転じるという教訓劇の構造が、私たちには昔から親しんでいる藤子F的なものに思えるのだが。おまけに主人公の青年カルヴィンを演じるポール・ダノのルックスが、いかにものび太っぽいメガネ君であることも大きな要因の一つに思えた。

しかしだ、そうカルヴィン青年は29歳でいい歳なのである。今時こだわりという面倒くさい自我を示すアイテム、その年代物のタイプライターを使い、「オハイオ州出身、初恋の相手はハンフリー・ボガードとジョン・レノン」と、二次元の嫁的な“俺の萌えキャラ”を鼻息荒く創造するのだから。例えて言うなら今どきの草食系男子みたいな。まぁ、カス扱いされても仕方がないのだ。ボロクソに言ってすみません。
日本の「モテキ」がアラサー男子への、共感を軸に恋愛ものを描いたものだとしたら、ヒロインのルビー役のゾーイ・カザンが脚本も務めているこの映画は、同種男子のコミュニケーション不全に向けた、女子目線からの直截的な説教なので、カルヴィンには欠点が濃厚に凝縮されていると思う。それゆえに甘酸っぱいのではなく、奥まで噛んだら苦いのである。
ちなみに私生活でもカップルのポールとゾーイは、撮影中も超熱愛ぶりを見せつけていたそうですよ。ただし、「のび太」「カス」と散々な言われようのカルヴィン君だが、この作品の前置きとして彼が“天才作家”ということなのだ。それは、劇中でも引き合いに出されるJ・D・サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」のようなティーン文学を書いて、19歳で華々しくデビュー。そこから10年間の長いスランプに陥っているという設定なのだが、それは彼が思春期性から抜け出せないことと、作家的脱却が果たせないことを示しているようだ。
このように知能は高いけど社会的に不器用なキャラウターが、「リトル・ミス・サンシャイン」の監督、ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス夫妻の好みなのだろう。「リトル・ミス〜」では、ハミ出し者ばかりの“負け組一家”を描くロードムービーだが、実は全員個性的な規格外のインテリぞろいで、天才ファミリーの物語でもあった。
本作でも、ヒッピー的な生活を送っているカルヴィンの両親が紹介されるシーンは、解放感あふれる魅力的な描写が映されており、ここだけ「リトル・ミス〜」の再演のように感じた。両親にはアネット・ベニングとアントニオ・バンデラスが演じており、ベテラン同士の絶妙な演技で面白おかしく熱演しているのもすこぶるいい。ここだけ前作の再演のような、ポール・ダノが自閉的な長男役を演じた「リトル・ミス〜」は日本でも人気が高い。
しかし、本作に関してはあくまでも、ゾーイ・カザンの脚本がクリエイションの柱であり、83年生まれというゾーイの世代感覚に支配されていると思う。中でもカルヴィンがルビーの出現に驚いて口にする「ハーヴェイ」、映画版では巨大ウサギの幻覚上の友人を持つ無垢な中年男をジェームズ・スチュワートが演じている。

その現代版とも評された「ドニー・ダーコ」の中の、情緒不安定な男子高校生のもとに、世界の終りを告げる銀色の巨大ウサギが姿を現すあの異色作。そして「ドニー・ダーコ」に感動した子供たちは、思春期の幼さを残したまま、大人と呼ばれる年齢になってしまったに違いない。妄想が現実となるというファンタジーなロマコメと思いきや、カルヴィンがタイプライターで書き上げる、ルビーを自分の思い通りにコントロールしようとするあたりから、かなり支離滅裂な展開になるんですね。
自分の思い浮かべた理想の恋人に、強要されては女もたまったもんじゃないし、それは彼女の目線からも男性に言えることで、お互いに分かりあい思いやる優しさがあれば関係は維持できると思う。理想のガールフレンドの夢を見るより、目の前の彼女を認めることが次のステージ、“大人の階段の入り口になるのよ”と、作者は同世代に論じているのだろう。
2013年劇場鑑賞作品・・・63 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ

Viewing all articles
Browse latest Browse all 2328

Trending Articles