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塀の中のジュリアス・シーザー★★★★.5

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ローマ郊外の刑務所を舞台に、実在の受刑者たちが演劇「ジュリアス・シーザー」を演じる中、次第に役の登場人物たちと同化していく様子を描く異色作。監督・脚本は「グッドモーニング・バビロン!」のパオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ。2012年第62回ベルリン国際映画祭金熊賞グランプリ受賞作。

あらすじ:舞台上で、シェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」が演じられている。終幕に近いクライマックス、第5幕第5場。そして終演。舞台上に全キャストが集まり挨拶する。観客はスタンディング・オベイションで大きな拍手を送る。観客席がはけて、照明も消され、俳優たちが引き上げていく……。
6か月前。イタリア、ローマ郊外にあるレビッビア刑務所。ここでは囚人たちによる演劇実習が定期的に行われている。毎年様々な演目を囚人たちが演じ、所内劇場で一般の観客相手にお披露目するのだ。指導している演出家ファビオ・カヴァッリが今年の演目を「ジュリアス・シーザー」と発表。早速、俳優のオーディションが始まる。
各々に、氏名、誕生日、出生地、父親の名前を二通りの言い方で言わせる。一つ目は、国境で、奥さんに泣いて別れを惜しみながら。二つ目は、強制的に言わせられているように。最初は哀しみを、次は怒りを表現する。そして配役が決定。シーザーに、麻薬売買で刑期17年のアルクーリ。キャシアスに、累犯及び殺人で終身刑、所内のヴェテラン俳優であるレーガ。ブルータスに、組織犯罪で刑期14年6ヶ月のストリアーノ。
次々と、主要キャストが発表され、本公演に向けて所内の様々な場所で稽古が始まる。ほどなく囚人たちは稽古に夢中になり、日常生活が「ジュリアス・シーザー」一色へと塗りつぶされていく。各々の監房で、廊下で、遊戯場で、一所懸命に台詞を繰り返す俳優たち=囚人たち。それぞれの過去や性格などが次第にオーバーラップして演じる役柄と同化、やがて、刑務所自体がローマ帝国へと変貌し、現実と虚構の境を越えていく……。

<感想>映画の舞台となったのは、ローマにあるレビッビア刑務所。イタリアの中でも特に重罪人を収容することで知られる。ここでは実習の一つとして囚人たちが演劇のワークショップを行っている。たまたまそれを聞きつけたパオロ&ヴィットリオ兄弟が、彼らの芝居を観に行ったことが今回の企画の発端となったそうです。その時上演されたのは、ダンテの「神曲」の地獄篇でした。地獄でもがくキャラクターに彼らが完全に一体化している様子に強く心を打たれ、泣けてきたそうです。それで彼らと共に映画を撮りたいと思ったそうです。でも一緒に映画を撮るなら彼らを理解し、友達にならなければいけません。彼らはとても苦しんでいた。二人はいかにそのリアリティを裏切ることなく見せられるかと考え、その結果、シェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」を選んだそうです。この戯曲には、彼らが実生活で知り尽くしている裏切りや陰謀などの要素があるし、暴君となったシーザーをブルータスが殺すことは、自由を求める彼らの姿とも重なるからだというのだ。
しかし、重罪受刑者たちによる刑務所内での演劇パフォーマンスとは、実に興味深い試みである。イタリアの刑務所の本物の囚人たちを起用するという趣向。上演されるシェイクスピア劇の中への囚われと、刑務所の中への囚われが重ねられというアイディアなわけだが、それで実際に1本の映画を作ってしまったことが何よりも素晴らしい。
カメラに収めるというアイディは面白いが、それを1本の映画に仕立てるにはかなりのリスクが伴うだろう。彼らがどれだけの演技ができるのか、手を入れることが許されない刑務所内での史劇の雰囲気をどう出すのか、囚人たちをまとめるにはどういう手段があるのか、だが観てみると映画はその舞台を冒頭で見せ、それからこの舞台が完成する過程を追うという構成になっていた。この刑務所にはプロの演出家による演劇実習というものがあり、1年に1度、刑務所内の劇場に一般客を招き、囚人たちの演劇を披露している。
その手法は限りなくドキュメンタリーなのだが、観ている間にそう感じることは一瞬たりともなかった。囚人たちは明らかに自分を演じており、その自分が役を演じているという、二重の演技を要求されているのだ。
こんなことが素人に可能なのだろうかと何度も目をこすったが、鍛え上げた俳優の熟練の演技だとしか認めることはできなかった。その名演は、本物の俳優が紛れ込んでいるのではと疑うほどだが、暴力性を感じさせる風貌や肉体が、やっぱりホンモノの重犯罪者だろうかと思ったりして、・・・。
劇場が修理中で使えないという設定で、稽古の風景は刑務所のあちこちで行われるのだが、これまたカメラアングルや照明が完璧で、カメラはオーディションや稽古の風景、監房で囚人たちが思い思いに台詞を予習する様子を、明暗を強調する白黒の映像で映し出す。そして実際の上演のシーンだけをカラーにして、それ以外は白黒でシャープな映像美は、とても即興的な撮影とは思えない。
監獄自体が見事な演劇空間と化し、それにしても劇場や図書室まである刑務所とは。イタリアの文化的豊かさを大いにPRする映画にもなっている。
彼らの熱演に若干むせかえる思いもしたが、芝居が終わった後の拍手喝采と、囚人たちのその後の人生がどうなったかを告げる、エンディングの字幕には感動させられました。でも彼らのほとんどが終身刑で、外へ出られる可能性はない。舞台を終了し、個室に閉じ込められた囚人の一人が、カメラに向かって“芸術を知った時から、この監房は牢獄になった”と呟く。
ブルータスを演じた囚人は、撮影前に出所していたそうで、現在プロの俳優として活躍しているという。
2013年劇場鑑賞作品・・・59  映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ



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