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危険なメソッド ★★★

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「イースタン・プロミス」のデヴィッド・クローネンバーグ監督が、2人の精神分析学者、フロイトとユングの交流を、ユングの前に現れた魅力的な女性患者との関係を交えて描く。出演は「プロメテウス」のマイケル・ファスベンダー、「イースタン・プロミス」のヴィゴ・モーテンセン、「つぐない」のキーラ・ナイトレイ。

あらすじ:1904年。29歳のユング(マイケル・ファスベンダー)は、チューリッヒのブルクヘルツリ病院で精神科医として働いていた。精神分析学の大家フロイト(ヴィゴ・モーテンセン)が提唱する“談話療法”に刺激を受けた彼は、新たな患者ザビーナ(キーラ・ナイトレイ)にその斬新な治療法を実践。
間もなくユングは、ザビーナの幼少期の記憶を辿り、彼女が抱える性的トラウマの原因を突き止めることに成功する。しかし、医師と患者の一線を越えてしまった2人は、秘密の情事を重ねるようになり、ザビーナを巡るユングの葛藤はフロイトとの友情にも亀裂を生じさせてゆく。
貞淑な妻よりも遥かに魅惑的なザビーナとの“危険なメソッド”に囚われ、欲望と罪悪感の狭間で激しく揺れ動くユング。やがて彼は、自分自身も想像しなかった痛切な運命を辿ることになるのだった……。(作品資料より)

<感想>本作の原作は「The Talking Cure」という舞台劇だそうで、レイフ・ファインズ主演で、ウェスト・ロンドンで上演されたという。映画の冒頭で病院へ向かって早や駆けする馬車には、1人の若い女性が乗せられており、全身歪んだヒステリー患者のサビーナである。医師カール・ユングは会話療法でヒステリーの原因を探ろうとする。やがて彼女の知性と美しさに魅せられていくのだが。
この映画の興味深い点は、ユングと患者であり愛人であり、後に精神分析医となったサビーナという女性の存在に光を当てたことだろう。当時インテリ層における精神分析への関心は非常に高かったのだ。精神分析は彼らにとって自分とは関係のない世界の抽象的なコンセプトではなく、個人的な関心ごとだったのでしょう。

そのユングの患者から愛人となるのがサビーナですが、彼女を演じたキーラ・ナイトレイのキチガイ演技が、見ていて引いてしまうくらい圧倒的でした。発作のせいで全身が歪んでしまい、精神によって肉体が変容するという意味では確かに熱演でした。ヒステリーで顎を突き出し、驚くべき姿に変容してみせるサビーナも、グロテスクではあっても機械的な感じがして色気を感じない。
それに、マゾヒストであるサビーナとユングとのSMプレイですら、まるで機械仕掛けのような動きでまったくエロチックではないのだ。これだけエロチックな要素に満ちた映画でありながら、エロスの欠片も感じさせないのである。

それよりも、ユングの妻役のサラ・ガドンの気品のある美しさに圧倒される。夫のユングが他の女性と浮気をしていることを知りつつも、男の子を出産することを誓い、夫に愛情を注ぐ貞淑さはこの時代ならではなのか。
一方で、危険な自由主義者グロスを演じたヴァンサン・カッセルは、「快楽を拒むな」とユングを誘惑する。精神科医であるのに、セックス・カウンセリングをするのだが、彼らはみなが医師でありつつ、同時に患者でもあったのだ。ユングの前に現れ、それぞれがユングの精神的世界を構成する要素を担っている。

サビーナは理想の女性であるアニマ、フロイトは父親像であり、グロスはトリックスターとしてユングを攪乱する。すなわち、この映画はユングの精神世界そのものなのであり、物語の中で葛藤、分裂、倒錯は、ユングの精神の中でも同時に起こっていることで、だから、彼は最後にすべてが崩壊する幻影を見るのである。
映画の中で一番魅力的に描かれているのは、実はフロイトを演じたヴィゴ・モーテンセンで、実際にはとてもユーモア溢れる心の温かい情熱的な人間だったという演技を表している。フロイトはもちろんユングにとっての父親像であるわけだが、でもとても人間的であったわけで、フロイトは自分の敵に対する武器としてもユーモアを使ったわけですね。
残念ながらこの映画は、ユングとサビーナを中心に描いており、ヴィゴの演じるフロイトは、あくまでチャーミングに優しくて、ユングにとっての怖い父親像からはほど遠い。むしろやんちゃで危なっかしいユングのファスベンダーを見守る慈悲深き存在に描いているのだ。
2012年劇場鑑賞作品・・・135  映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ 


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