宮崎県の中央動物保護管理所で起こった実話をもとに、犬の親子と管理所職員の絆を描いたドラマ。山下由美の「奇跡の母子犬」(PHP研究所刊)を原案に、平松恵美子監督が脚本を執筆。
主演は堺雅人、ヒロインに中谷美紀。他にでんでん、若林正恭(オードリー)、小林稔侍、夏八木勲、草村礼子、左時枝らが共演している。
あらすじ:宮崎県の保健所に勤める神崎彰司は、妻に先立たれ、小学生の娘と息子、母親の4人で暮らしている。彼の仕事は、動物保護管理所に収容された犬の世話をしている。期間内に引き取り手がない犬を殺処分する役目を担っている。
神崎は一匹でも多くの犬を助けようと、日々里親探しに奔走しているが、助けられない結果も少なくない。その事実を知った娘は、父親に反発をするのだ。そんなある日、神崎は母犬と3匹の子犬を保護する。子犬を守ろうとする母犬は、ひどく狂暴化しており、このままでは里親を見つけても引き渡すことができない。神崎は母犬の気持ちを安定させて、母子犬の命を守ろうとするのだが、・・・。(作品資料より)
<感想>本作で監督デビューを果たした平松恵美子さんは、山田洋次監督との共同脚本を多く手掛けてきただけに、雰囲気だけでなく人間ドラマがしっかりしている。実話を基にした愛犬映画は珍しくないが、飼育放棄された野良犬の殺処分というリアルな問題に、きちんと向き合っているところがいいですね。セットと思われる保健所の中、打ちっぱなしコンクリートで造られた部屋の中で、迷い犬や野良犬を保護するための檻が10.そこかしこにバケツや棚、モップなどが置いてあり、床は水で流したあとがあり、清掃のあとの設定なのだろう。檻の中からは長年しみ込んだ犬の臭いまで漂ってきそうだ。
物語の中心となる母子犬、神崎が優しく餌やりのため檻の中へ入っていくも犬に腕を噛まれる。だが母犬を刺激したと思い耐えながら犬との交流を図ろうとする。この母犬を演じているのが、イチという「マリと子犬の物語」にも出ていた名優犬なのだ。神崎が懸命に子犬を守ろうとする母犬が、頑なに人間を拒絶する。そうこうしている内に季節は冬になり、保健所の中は凍えるような寒さに。そして子犬が?匹死んでしまう。神崎は家から毛布を持ってきて、寒さ対策として母子犬に掛けてやる。
神崎が期日を密かに延ばして、母犬の心を開こうとするが状況は一向に改善されず、処分決行の期限が迫ってくる。この母子犬のためにだけ温情をかけるということは、本当はやってはならないことなのだろう。しかし、「奇跡の母子犬」という原案が、この映画の核となっていることなので仕方がないと思う。
人間を威嚇していた母犬と保健所の職員の心が通じ合うシーンには、何故か自然に涙が出た。動物は人間が優しく愛情をかけてあげれば、きっと応えてくれるはず。それと、堺雅人さん、いつ見ても演技が上手いのに感心です。ともすれば暗くなる物語も、若林さんやでんでんさん、それに小林稔侍さんのユーモア交える演技に和まされ、一人でも多くの人たちが捨て犬に理解を示してくれることを願ってやみません。
野良犬を保健所で預かる期間は7日間で、その後はガス室で殺処分される。このシーンも可愛い子犬がその預かり期間が来て、神崎が涙を浮かべながらワンコの好きな魚肉ソーセージ、最後のおやつとして食べさせる優しさ。檻の中へ入れられると暗くなり、犬の悲しい声が聞こえる。これには涙が出て止まりませんでした。確かに野良犬を野放しにしておくと、人間が噛まれた時に狂犬病という恐ろしい病気にかかるわけで。だからと言って、野良犬の里親がない場合、保健所で飼うわけにはいかないのである。
一見、収容犬を殺し処分する保健所職員の父親と、娘の無垢な慈悲心の矛盾を軸とした人間の劇と見紛うのだが、クライマックスに、保健所員の堺雅人と母犬ひまわり、つまりは人間と犬との眼差しを交互に映す切り替えしショットに痺れました。
それは、堺雅人演じる保健所職員が野良犬を捕獲するのだが、父親の職業を知ってショックを受けた娘が、その母子犬を見たことから、父親が殺処分しないように母子犬を手なづけるのである。その地域だけで1年に4千頭も殺処分される犬の中で、思春期の気難しい娘と父親の溝を解消するため、たまたまワケありの母子犬だけを保護するのは主人公の都合にすぎず、いくら犬好きでも家で飼うにも限度があるだろうにと。
母犬が堺の魚肉ソーセージを見て、それをくれた元の飼い主を咄嗟に回想するシーンも、堺が想像した犬の過去が母犬自身の記憶で再現されるのも良かった。
最後は、宮崎県の保健所が実施した里親探しを公にして、寄付金を募り野良犬を保護する施設も開設され、老人ホームや保育園とか犬との交流も盛んに行われるという。日本では年間30万匹以上の犬猫が殺処分されているというから、現在ペットを飼っている方たちも、これからペットを飼う人にぜひ親子で見て欲しい映画ですね。
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