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裏切りの戦場 葬られた誓い ★★★

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フランスの歴史の汚点ともいわれる1988年のウベア島事件を「クリムゾン・リバー」のマチュー・カソヴィッツが自ら製作、監督、脚本、編集、主演を務め映画化。

フランス領ニューカレドニアのウベア島で起きた独立運動の交渉役として派遣された国家憲兵治安部隊大尉の苦悩を描く。共演は「クララ・シューマン 愛の協奏曲」のマリク・ジディ。
あらすじ:1988年4月22日、フランス。大統領選挙と地方選挙が間近となり、現職で社会党のミッテラン大統領と国民運動連合のシラク首相が国民に向けての最後のアピールを繰り広げる中、遠く離れたフランス領ニューカレドニアの小さな島ウベアで、カナック族の独立派によってフランス憲兵隊宿舎が襲撃、警官が4名死亡、30名が誘拐される事件が起こる。
ヴェルサイユにある国家憲兵隊治安部隊(GIGN)のリーダー、フィリップ・ルゴルジュ大尉(マチュー・カソヴィッツ)は、事件解決のための交渉人として部下50名を連れて現地へ飛ぶ。ウベア島に到着早々、300名を引き連れた陸軍のヴィダル将軍から本島に戻るか指揮下に入るか選択を迫られたルゴルジュは、将軍の指揮下に入ってことをうまく運ぼうと考える。人質は北と南に分けられていたが、南の人質は族長たちの尽力で無条件解放され、人質になっていた現地住民の憲兵サミーから情報を聞く。
一方、北のゴサナに連れ去られた人質たちは、カヤック族出身のリーダー、アルフォンス・ディアヌ(イアベ・ラパカ)たちによって洞窟に囚われていた。ルゴルジュはGIGNの部下、サミー、そして検事代理のビアンコーニとともに独立派たちがいる場所までたどり着くが、相手をよく知っているというビアンコーニの交渉は失敗、ルゴルジュとサミーも独立派たちに捕まってしまう。

ルゴルジュは敵のアジトとなっている洞窟でディアヌと接触、人質たちの安否を確認したルゴルジュは、サミーの協力も得て事件を解決するための対話を始める。ディアヌたちは解放戦線政治局の指示で詰め所を占拠して、島の開発を促す法律の廃止と地方選挙を中止させ、自分たちの風習や伝統を守ろうとしていた。最初は交渉を拒否する相手だったが次第に話し合いに乗じるようになり、4人の殺害は偶発的で、交渉成立後にはその犯人も自首させるという。
もともと、カヤック族は平和を愛する温厚な人々であり、ルゴルジュも話の通じる男だった。が、時折しも、フランス国内では大統領選挙が間近に迫り、人質事件への対応が両候補の格好の対立材料となっていた。選挙前になんらかの結果を出したいと焦った政府は、平和的解決のために奔走するルゴルジュの訴えを退け、テロリストへの総攻撃を決定。事態は最悪の結末へと突き進んでいく・・・。(作品資料より)

<感想>ミニシアターにて鑑賞。たまたま、テーマが人質救出で監督が主演を兼ねているので、「アルゴ」と比較する向きもあるが、少なくとも主人公を演じたマチュー・カソヴィッツは、ベン・アフレックのように口をポカンとあけたアホ面は見せていない。
リゾート地として知られるニューカレドニアで、1988年に実際に起きた事件をもとにした社会派戦争ドラマである。穏便な解決に向けて交渉が進められながら、最終的には武力行使によって過激派メンバー19名が死亡。5人は制圧後に殺害された。そして事件は闇に葬られた。
その惨劇に至るまでの過程を、本作では交渉にあたった大尉の視点を通してサスペンスフルに描いている。

原作者でもある主人公ルゴルジュを演じたマチュー・カソヴィッツは、監督・共同脚本・編集も兼任。一見平和で美しい南国を舞台にしながら、全編にわたって緊張感を保ち続け、10日間のドラマを一気に見せる演出が見事である。
ステディカムやドリーを多用した流れるようなカメラワーク、リズミカルな編集、綿密な音響デザインも特筆もの。最近は、もう俳優一本に絞ったら?・・・という声も多かったと思うのだが、今回は久々に監督としての実力をフルに発揮しているようだ。
「次の日曜日は選挙だから、それまでに解決よろしく」という政府のムチャ振りに翻弄される大尉のジレンマは、クライマックスの総攻撃シーンで頂点に達する。

一歩先すら見えないジャングルの戦場に、大量の銃弾が飛び交う中、伏せながら一歩ずつじわりじわりと、特攻をかける長回しの戦闘シーンは、ド緊迫すぎて胃が痛くなるような感じがした。凄まじい臨場感と共に、交渉人としてあるまじき裏切りを行った大尉の重苦しい苦悩にも満ち満ちている。
マチュー・カソヴィッツがラストに突きつけるのは、政治的判断によって多くの人命が奪われる愚かな選挙への怒り、どんな非人道的な命令にも従わざるを得ないシステムの道理。たとえば先日の米大統領選の裏側でも、世界のどこかでこんな事態が起こっていたのかもしれない。
カナック族にとっては、裏切り者でしかない大尉を主人公にしているため、カソヴィッツは殺された過激派メンバーの遺族をひとりひとり訪ね、映画製作の了解をとったというのだ。まさに入魂の力作に仕上がっている。
2013年劇場鑑賞作品・・・46    映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ


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