『嫌われ松子の一生』などの演技派女優中谷美紀を主演に迎え、池辺葵のコミックを映画化した心に染みる人間ドラマ。クラシカルなミシンで洋服を作る職人肌の主人公と、彼女を取り巻く人々が織り成す物語を紡ぐ。『永遠の0』などの三浦貴大や『小さいおうち』で第64回ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞した黒木華ら実力派俳優たちが共演。『しあわせのパン』などの三島有紀子監督による、服を通して結び付く人々を描く心温まる物語に魅了される。
あらすじ:市江(中谷美紀)は祖母が始めた洋裁店を継ぎ、町の仕立て屋の2代目店主として日々年季の入ったミシンの前に座っている。彼女が職人技を駆使して丁寧に仕立てる洋服は、依頼人たちを喜ばせていた。職人気質の市江はブランド化の依頼にも目もくれず、その服に袖を通すたった一人のためだけのオーダーメイド服を縫うだけで幸せだったが……。
<感想>「しあわせのパン」は良かったが、「ぶどうのなみだ」はいただけなかった。この作品は、まだいい方でしょう。祖母の顧客を受け継いだ、小さな洋裁店主の、祖母の仕事への敬意、そしてそれと裏腹な、主人公・市江自身のささやかな野心と、それらが丹念な細部描写と共に描かれている。
主人公市江のつんと澄ました一分の隙もない洋裁と、だらけたパジャマ姿のコントラストも楽しい。母親の余貴美子の、娘の世話をやく甲斐甲斐しさとか、毎日のおやつに三色団子を出すシーンも、見守っているようで母親らしいです。
ですが、この映画の中では、良質の仕立物を大事に長く着るということで、確かに正しい教えには違いないが、安物を着ている人たちにとっては、どうすればいいのだろう。
高価なブランドものを買っても、着ていくところと言えば結婚式くらいで、それもたまにしかありゃしない。これでは箪笥のこやしというもの。
むろん、それが消費社会への一定の批判にはなるのだが、金持ちの道楽と、揶揄したくもなる。確かに、その人にあった型紙で仕立てる一点ものの洋服は、魅力があるのだが、年々身体の体型が変わり、幅出しも出来なくなる。
それで仕立て直しをして、まだまだ着れるという、大事に着て、昔はそういった物を大事にする習慣もあり、お金持ちはたくさんの衣装持ちだけれど、貧乏人は1枚の洋服をツギハギだらけで着ているという時代もあったのだ。
生き方は器用じゃないけれど、プロフェッショナルに自分のスタイルの仕事を続けるヒロインが素敵に映っている。彼女の頑固さと優しさと、ほんの少しの滑稽さを見事に体現してみせる中谷美紀は、まさにハマリ役といっていい。仕立て屋の祖母の仕事を継いだ二代目は、変わらないことを信念としながら、毎日足踏みの古いミシンを器用に使いこなして、まるでリズムを持続的に弾いているかのようにも取れる。仕事が終われば、近所の喫茶店でチーズケーキに舌づつみをうちながら、にんまりとした笑顔で1日を終える。もちろん、徹夜で仕立物を縫い上げることもあるのだ。
それに、1年に1度だけある、祖母が縫い上げたドレスや背広を着た、老夫婦たちの夜会の素敵なことといったら、夜空には満天の星が、天井から吊るした草花の素晴らしさ、ワルツやブルースのレコードに合わせて踊る人々。それは、昔の舞踏会のようでもあり、素敵な想いでの一夜に違いありません。
それを覗いていた、小学生か中学生の女の子たち3人が、自分たちも混ざりたいと申し出るが、これは大人だけの夜会で子供はダメだと断る。ですが、市江や片桐はいりは、黒服で主催者側の人となり給仕をするだけ。折角の1年に1回の夜会だもの、最後の方にでもドレスを着た市江さんを見たかった。
大手デパートの服飾担当に見込まれブランド化をもちかけられるのだが。一点ものとして、誰ももってない自分だけのデザインの洋服がモットーであり、量産化すれば、確かに儲かるのだが、お金を稼ぐ気などさらさらない。
ですが、彼女にもデッサンした自分のオリジナルがあり、いつかは自分のデザインのドレスを仕立ててみたいという希望もある。それが手始めとして、三浦青年の、車いすの妹の結婚式に着る、ウェディングドレスの仕立てを引き受けるのです。
三浦が、諦めて東京へ転勤して家具売り場へ、妹の結婚式に出るために帰って来て、妹のウェディングドレス姿を見て、それが市江が仕立てたものと分かり感激してしまうシーンも感動です。
そんな彼女の腕に惚れこんだ大丸百貨店の、三浦青年の強引な「営業マン」スピリットが、主人公の市江を結果的には次のステップへと進ませる。というコンセプトで、ほのかなラブストーリー的展開もないのですが、市江の心を動かしたことには違いありませんね。
2015年劇場鑑賞作品・・・48 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング
あらすじ:市江(中谷美紀)は祖母が始めた洋裁店を継ぎ、町の仕立て屋の2代目店主として日々年季の入ったミシンの前に座っている。彼女が職人技を駆使して丁寧に仕立てる洋服は、依頼人たちを喜ばせていた。職人気質の市江はブランド化の依頼にも目もくれず、その服に袖を通すたった一人のためだけのオーダーメイド服を縫うだけで幸せだったが……。
<感想>「しあわせのパン」は良かったが、「ぶどうのなみだ」はいただけなかった。この作品は、まだいい方でしょう。祖母の顧客を受け継いだ、小さな洋裁店主の、祖母の仕事への敬意、そしてそれと裏腹な、主人公・市江自身のささやかな野心と、それらが丹念な細部描写と共に描かれている。
主人公市江のつんと澄ました一分の隙もない洋裁と、だらけたパジャマ姿のコントラストも楽しい。母親の余貴美子の、娘の世話をやく甲斐甲斐しさとか、毎日のおやつに三色団子を出すシーンも、見守っているようで母親らしいです。
ですが、この映画の中では、良質の仕立物を大事に長く着るということで、確かに正しい教えには違いないが、安物を着ている人たちにとっては、どうすればいいのだろう。
高価なブランドものを買っても、着ていくところと言えば結婚式くらいで、それもたまにしかありゃしない。これでは箪笥のこやしというもの。
むろん、それが消費社会への一定の批判にはなるのだが、金持ちの道楽と、揶揄したくもなる。確かに、その人にあった型紙で仕立てる一点ものの洋服は、魅力があるのだが、年々身体の体型が変わり、幅出しも出来なくなる。
それで仕立て直しをして、まだまだ着れるという、大事に着て、昔はそういった物を大事にする習慣もあり、お金持ちはたくさんの衣装持ちだけれど、貧乏人は1枚の洋服をツギハギだらけで着ているという時代もあったのだ。
生き方は器用じゃないけれど、プロフェッショナルに自分のスタイルの仕事を続けるヒロインが素敵に映っている。彼女の頑固さと優しさと、ほんの少しの滑稽さを見事に体現してみせる中谷美紀は、まさにハマリ役といっていい。仕立て屋の祖母の仕事を継いだ二代目は、変わらないことを信念としながら、毎日足踏みの古いミシンを器用に使いこなして、まるでリズムを持続的に弾いているかのようにも取れる。仕事が終われば、近所の喫茶店でチーズケーキに舌づつみをうちながら、にんまりとした笑顔で1日を終える。もちろん、徹夜で仕立物を縫い上げることもあるのだ。
それに、1年に1度だけある、祖母が縫い上げたドレスや背広を着た、老夫婦たちの夜会の素敵なことといったら、夜空には満天の星が、天井から吊るした草花の素晴らしさ、ワルツやブルースのレコードに合わせて踊る人々。それは、昔の舞踏会のようでもあり、素敵な想いでの一夜に違いありません。
それを覗いていた、小学生か中学生の女の子たち3人が、自分たちも混ざりたいと申し出るが、これは大人だけの夜会で子供はダメだと断る。ですが、市江や片桐はいりは、黒服で主催者側の人となり給仕をするだけ。折角の1年に1回の夜会だもの、最後の方にでもドレスを着た市江さんを見たかった。
大手デパートの服飾担当に見込まれブランド化をもちかけられるのだが。一点ものとして、誰ももってない自分だけのデザインの洋服がモットーであり、量産化すれば、確かに儲かるのだが、お金を稼ぐ気などさらさらない。
ですが、彼女にもデッサンした自分のオリジナルがあり、いつかは自分のデザインのドレスを仕立ててみたいという希望もある。それが手始めとして、三浦青年の、車いすの妹の結婚式に着る、ウェディングドレスの仕立てを引き受けるのです。
三浦が、諦めて東京へ転勤して家具売り場へ、妹の結婚式に出るために帰って来て、妹のウェディングドレス姿を見て、それが市江が仕立てたものと分かり感激してしまうシーンも感動です。
そんな彼女の腕に惚れこんだ大丸百貨店の、三浦青年の強引な「営業マン」スピリットが、主人公の市江を結果的には次のステップへと進ませる。というコンセプトで、ほのかなラブストーリー的展開もないのですが、市江の心を動かしたことには違いありませんね。
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