「キング・オブ・ロックンロール」と称されるエルビス・プレスリーの人生を、「ムーラン・ルージュ」「華麗なるギャツビー」のバズ・ラーマン監督のメガホンで映画化。スターとして人気絶頂のなか若くして謎の死を遂げたプレスリーの物語を、「監獄ロック」など誰もが一度は耳にしたことのある名曲の数々にのせて描いていく。
あらすじ:ザ・ビートルズやクイーンなど後に続く多くのアーティストたちに影響を与え、「世界で最も売れたソロアーティスト」としてギネス認定もされているエルビス・プレスリー。腰を小刻みに揺らし、つま先立ちする独特でセクシーなダンスを交えたパフォーマンスでロックを熱唱するエルビスの姿に、女性客を中心とした若者たちは興奮し、小さなライブハウスから始まった熱狂はたちまち全米に広がっていった。
しかし、瞬く間にスターとなった一方で、保守的な価値観しか受け入れられなかった時代に、ブラックカルチャーを取り入れたパフォーマンスは世間から非難を浴びてしまう。やがて故郷メンフィスのラスウッド・パークスタジアムでライブを行うことになったエルビスだったが、会場は警察に監視され、強欲なマネージャーのトム・パーカーは、逮捕を恐れてエルビスらしいパフォーマンスを阻止しようとする。それでも自分の心に素直に従ったエルビスのライブはさらなる熱狂を生み、語り継がれるライブのひとつとなるが……。「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」などに出演したオースティン・バトラーがエルビス・プレスリー役に抜てきされ、マネージャーのトム・パーカーを名優トム・ハンクスが演じる。
<感想>懐かしい昔のエルヴィス・プレスリーファンにとっては、歌声はもちろん、衣装でも振り付けでも魅せまくるエルヴィス。彼を目にした観客は興奮で絶叫し、次々に卒倒していく。“時代が変わる瞬間”のライブパフォーマンスを観て、蘇ってくるエルビスの歌声が耳に残る。
主演した注目俳優オースティン・バトラーが、主役の座をつかんだとのことによる、エルビスの完コピぶりは、もはや神がかり的と言っていいくらいに素晴らしかった。バトラーがほぼ全編にわたり、実際に歌唱とダンスを披露しているというから驚いた。なお、エルヴィスの動きの振り付けは、「ボヘミアン・ラプソディ」で、ラミ・マレックにフレディ・マーキュリーを完コピさせた、ポリー・ベネットが担当している。
本作「エルヴィス」は、彼がいかにしてトップ・オブ・ザ・トップに上り詰めていったのかを、エンタメ感全開で描き出していた。幼少期の“音楽の神様との出会い”、世間が「エルヴィス・プレスリー」を知った伝説のライブ、熱狂の中に放り込まれ、最愛の母との関係に亀裂が生じていく哀しみ、没落と再起、その果ての突然の死……波瀾万丈のドラマが丸ごと詰まっている。
家族を何より大切にするエルヴィスの“弱み”に付け込み自分に有利な契約を結ばせたり、彼のライブ中に裏で勝手に契約をまとめていたりと、興行収入の50%を搾取した、マネージャーのトム・パーカーの恐ろしさ。それは究極の二面性。容赦も見境もなく、平気でウソをつく心底ヤバい奴なのだ。
しかも、ここまで紹介したパーカーの悪事は、ほんの一部。映画ではまだまだ、とんでもない事態がこれでもかと起こるのだった。エンタメ史に残る名優トム・ハンクスの極悪人の暴れっぷりと、名演技にエルヴィスの苦悩と死が理解できる。
そして本作の最大級の核となる、エルヴィスの死の真相。度重なるピンチを切り抜け、不死鳥のように復活を繰り返してきた彼は、次第に体重が増え今までのスタイリッシュなエルヴィスとは段違い。甘党でドーナッツが大好きで、それに世間の噂に鬱病のような倦怠感に悩まされ、薬物による乱用にて42歳の若さで急死した。しかし本作では、「エルヴィスの死には理由があり、原因をつくったのは誰なのか?」というサスペンスも描き出している。
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