様々なシチュエーションでコスプレして撮影するユニークな家族写真で注目を集めた写真家・浅田政志の実話をもとに、二宮和也と妻夫木聡の共演、「湯を沸かすほどの熱い愛」の中野量太監督のメガホンで描いた人間ドラマ。本作で中野監督の下には、二宮をはじめ、黒木華、菅田将暉、風吹、平田、妻夫木ら日本アカデミー賞の受賞経験がある実力派キャストが結集。さらに渡辺真紀子、北村有起哉、池谷のぶえ、駿河太郎、篠原ゆき子ら中野組常連とも言える俳優陣も顔をそろえた。
あらすじ:4人家族の次男坊として育ち写真家になった主人公・政志を二宮、やんちゃな弟をあたたかく見守る兄・幸宏を妻夫木が演じ、家族の“愛の絆”や“過去と今”をオリジナル要素を加えつつ描き出す。浅田家の次男・政志は、父の影響で幼い頃から写真に興味を持ち、やがて写真専門学校に進学。卒業制作の被写体に家族を選び、浅田家の思い出のシーンを再現した写真で学校長賞を受賞する。卒業後しばらくはくすぶっていたものの、再び写真と向き合うことを決意した政志が被写体に選んだのは、やはり家族だった。様々なシチュエーションを設定しては家族でコスプレして撮影した写真で個展を開催し、写真集も出版され、権威ある賞も受賞する。プロの写真家として歩み始めた政志は、全国の家族写真の撮影を引き受けるようになる。しかし、2011年3月11日、東日本大震災が発生。かつて撮影した東北に住む家族のことが心配になった政志は被災地に足を運ぶが、そこで家や家族を失った人々の姿を目の当たりにする。
<感想>一家全員でさまざまな職業や場面になりきるユニークな家族写真が大きな話題を呼び、写真界の芥川賞と呼ばれる木村伊兵衛写真賞を受賞し、ついには映画化までされることになった写真集『浅田家』。成りきりコスプレの撮影が一番大変だったという浅田一家の面々。
父、母、兄、そして写真家本人の4人家族が、ラーメン屋や消防士や極道など様々なシーンに扮するシリーズ、『浅田家』。すべて、地元の三重県でいろいろな方の協力を得ながら撮影した写真は、「演出」の見事さ以上に、家族のかかわりがもたらす「記念写真」の力にあらためて驚かされる。
その中でも「あまちゃん」ふうのコスプレを撮影した日が、寒くて一番辛かったという妻夫木さん。最初の「消防士」はすごくいいクオリティーで撮れたそうで、その後の「選挙」からが大変だったそうです。
1日で最大5カットの撮りで、遊園地での「疲れたヒーロー」だけは別の日に撮ったそうです。遊園地と、ライブハウスにラーメン屋は現存していなかった。
平田さんが父親のお父さんに似せようと苦労したらしい。見た目も骨格も全然違うので、でも本当にみなさんよく似てらっしゃると思いましたね。ラストでの父親が危篤という知らせを受けて、故郷へ帰る政志。だが、それは嘘で、父親が家族全員が揃うにはこれしかないと、葬式のシーンを撮影するシーンには、驚きました。
監督は、写真撮影を通じて絶対に家族になれるというのが、監督の狙いだったようだ。真似をするってことは楽しいもので、すべてが本当に面白い。
母親役の風吹ジュンさんは、極道の妻、看護婦、など、そこにどれだけ寄せていけるだろうかと苦労したそうです。本物の母親は、プロの看護婦だったのでね。
中野監督作品は、家族がそろって囲む食卓のシーンが印象的だ。本作でも、主夫である父・章(平田)が作る皿うどんやたこ焼き、政志が好きな辛いカレーなどが登場し、家族の時間をあたたかく彩る。
「家族って決まりはない、それぞれの価値観や形があって。家族の定義はないんだけど、象徴という意味では『食卓を囲む人たち』だと思っています。だからこの映画では、食卓を一緒に囲むシーンが多い。“食べる”というのは“生きる”ことの基本だから、食事をともにするのは、とても尊い行為だなと思っています。今回、実際の浅田家の大皿から取り分けるという食べ方を取り入れて、食卓シーンを作りましたと言う監督の思いが伝わってきます。
後半では、劇中で政志は、何度も涙を流す。二宮がそれぞれ異なる思いを宿らせているからこそ、全てが違う涙に見え、そして全てが本物の感情として観客を揺さぶってくる。
ある日、東日本大震災という未曾有の天災が発生する。東日本大震災での、泥の中から出て来る遺族たちの写真。それを丁寧に何度も水で洗って、乾かす仕事には本当に観ていて頭が下がりました。そして、遺族の写真の中から、家族の方たちが見つけて嬉しそうに、思い出しながら涙を流すシーン、観ている方も涙、涙でした。
その中でも、始めに地元で写真を水で丁寧に洗って乾かしている青年を見つける。彼は、菅田将暉君で、始めは誰だか判らないような地元の青年ふうで、自分のオーラを隠して演じてましたね。さすがに演技の巧い菅田将暉くん、主人公の二宮さんを立てており、地元青年の役にハマっていましたよ。
震災に遭う前に、政志が出会った病気と戦う子どもを持つ佐伯家の写真を撮り、ファインダー越しに政志が涙するシーン。被災地の掲示板で知り合いの家族の安否を確認するシーンでは、政志は涙までは流していませんが、目を潤ませて、とても感情が伝わってきましたね。『たった1枚の写真に救われる』という話をたくさん聞きましたが、やっぱり人間は、生きる歴史の土台がないとふらふらしてしまう気がしていて。1枚でも『自分がこうやって生きてきた』という証があるだけで、人間は今を生きられる。
近年、いろんな自然災害が毎年のように起きているし、困難な時代が来ることは分かっているからこそ、今、そういう困難に立ち向かう力になる映画が必要だなと思いました。
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