直木賞作家の島本理生による、センセーショナルな内容が話題を呼んだ小説「Red」を、夏帆と妻夫木聡の共演、「幼な子われらに生まれ」「繕い裁つ人」の三島有紀子監督のメガホンで映画化。主人公の塔子を夏帆、塔子がかつて愛した男・鞍田を妻夫木が演じるほか、塔子に好意を抱く職場の同僚・小鷹淳役で柄本佑、塔子の夫・村主真役で間宮祥太朗が共演する。
あらすじ:誰もがうらやむ夫とかわいい娘を持ち、恵まれた日々を送っているはずの村主塔子だったが、どこか行き場のない思いも抱えていた。そんなある日、塔子は10年ぶりにかつて愛した男・鞍田秋彦と再会。塔子の気持ちを少しずつほどいていく鞍田だったが、彼にはある秘密があった。
<感想>原作は、2017年に行定勲監督が映画化した「ナラタージュ」や、第159回直木賞を獲得した「ファーストラブ」などで知られる島本氏の小説。直木賞作家の島本理生が紡いだ、社会的には許されざる__しかし、当人たちにとっては宿命的な恋を選択していく女と男の物語である。
物語は、豪雪の新潟から鞍田と東京へと帰る、車中の塔子の視点による回想形式がとられているが、冒頭からは、あたかも二人だけの逃避行、〈死〉の気配を濃厚に漂わせる沈鬱なトーンが支配する。
劇中では、大雪の中で立ち寄った食堂で2人が蕎麦を食べる印象的な場面がある。「食べることは生きること」という言葉の通り、数々の食事シーンが挿入されていることは、命を燃やすように愛し合うことで自らの「生」を見つめ直す塔子の思いを伝えているかのようだ。
表向きはラブストーリーながら、生き方と幸せのカタチを問いかける意欲作に挑んだ三島有紀子監督。妻夫木は迷うことなく、妥協を許すことのないストイシズムだった。奇しくも「悪人」の撮影から10年。なんとも不思議な縁である。夏帆が演じる塔子と鞍田が停めた車から降りて、雪の中を食堂へと歩いていくシーンでは、何度も何度も撮り直したそうです。
鞍田は迷うことなく塔子を愛せたというか、塔子と鞍田は、社会的に不徳とされている関係をずっと続けているんですけど、観ていて不思議とあんまりそういう感じがしないんですね。背徳感がないというか、それって何でなのだろうと考えていたが、2人は”宿命の恋”なんだったんですよ。
「ああなるほど」と思う感じがした。だからそうするしかなかった。この2人はそうあるべきだったのだと。いろんなものに縛られているけど、宿命を探っている感じというのが、観る者に納得させる。登場人物のだれだれが悪いわけじゃないけれど、そう思わせるのは監督の手腕だなと。
間宮君の演じた塔子の夫真も、女々しい感じがしたのだが、塔子が鞍田に走るのって、この旦那のせいじゃないかと思ったもの。間宮君の純粋さと真っすぐさがそれを浄化していて、何というか真の言い分も分かるというか、彼も悪くないんだと思えてくる。
鞍田にしてもおなじで、塔子の何が好きで、なんでそこまでして愛するのか__だとか。そういう理由みたいなものはいらないなと思える説得力が最初からあったのだから。
それってなんでなんだろうと考えていたのだが、それは”宿命の恋”「僕はとにかく塔子を愛すだけだった。塔子が全てだったので」と確信に満ちた口調で語る。とにかくこの人と一緒にいたい。ずっと最後まで。
物語が現在と過去が交錯する構成となっているため、妻夫木は、最初は前半と後半で印象を変えるために演じ分けを考えていたそうだが、役づくりを進めるにつれて、アプローチも変化していった。
一貫して塔子を愛す、ということに尽きるんだろうなと。自分の生きる意味を見つけた鞍田の強さは、何にも代えがたいですよね。『もう塔子しかいらない』と気付いてしまったから。
映画の冒頭では、塔子が抱える日々の様々な抑圧や生きづらさが描かれる。経済的には恵まれているが、家族で暮らす瀟洒な一軒家は檻のようで、塔子は自分の意志や考えを押し殺し、空っぽな人形のように日々を過ごしている。そんな塔子は、本当の自分を気付かせ、そして受け入れてくれる鞍田の存在によって、心も身体も解放し、どんどん美しく、そして自由になっていく――。
塔子にとっては、我慢して家を守ってきたことが、実は(本当の自分自身からの)『逃げ』だった。世間から見たら、鞍田と一緒にいることが『逃げ』なのかもしれないけど……。本当の『生』につながることとは、自分に正直になることだと思います。それは幸せの価値観の違いなのかもしれない。自分の心のままに生きた鞍田や、そんな鞍田と出会った塔子は、不幸に見えるかもしれないけど、他の人よりも人生の経験値を得て幸せな人生を送っているような気がするんです。『生きるとは何か』を考えさせる、生命力あふれた映画になったと思います。
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