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ソハの地下水道 ★★★★

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第二次世界大戦中、ドイツ占領下のポーランドで貧しい労働者がユダヤ人を地下に匿った実話を映画化。監督はポーランド出身のアグニエシュカ・ホランド(「太陽と月に背いて」)。出演は「国家の女リトルローズ」のロベルト・ヴィエツキーヴィッチ。極限状態の人間模様をスリリングに描き、アカデミー賞外国語映画賞にノミネート。

あらすじ:1943年のポーランド。下水修理と空き巣稼業で妻子を養っている貧しい労働者のソハ(ロベルト・ヴィエツキーヴィッチ)は、盗品を隠すために地下水道に降りていくと、そこにはホロコーストから逃げるユダヤ人の一段が穴を掘っていた。
ドイツ軍に売り渡して報奨金を手にするチャンスだったが、迷路のような地下水道の構造を誰よりも知り尽くしたソハは、彼らを地下に匿い、見返りに金銭を得ることを思い立つ。

ところが、子供を含むユダヤ人のグループは彼の手に負えるような規模ではなかった。面倒を見きれないほどその人数は多く、隠れ場所の移動や食料の調達さえ容易ではない。その上、執拗にユダヤ人狩りを行う将校が目を光らせ、ソハの妻子や若い相棒は処刑の恐怖に怯えるようになる。
自らも極度の精神的重圧に押し潰されそうになり、手を引くことを決意するソハだったが、時既に遅し。同じ生身の人間であるユダヤ人たちに寄り添い、その悲惨な窮状を目の当たりにしてきたソハは、自分でも信じ難い、彼らを“守る”という茨の道を選択するのだった……。 (作品資料より)

<感想>歴史に埋もれた実話を映画化し世界各国で絶賛された、第84回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品である。ナチス占領下のポーランドで、金欲しさにユダヤ人を匿った悪賢い中年男が、良心に目覚めていく姿を丁寧に描いている。
第二次大戦中、ポーランドのワルシャワではなく南東部、現在もウクライナの都市ルヴフを舞台にした実話だという。それも、地下水道に隠れたのは対独レジスタンスではなく11人のユダヤ人で、彼らを匿ったのはポーランド人の下水修理工であるソハだった。
この映画は、何よりもポーランド出身のアグニエシュカ・ホランド監督の力強い演出に引き込まれた。彼女の過去の作品「太陽と月に背いて」に比べて、これは抜群の力強さを持った作品になっていると思う。とても素晴らしい演出力に感服した。

映画にとって、戦後は永遠に終わらないのだろう。ナチスのユダヤ人迫害の映画は今までたくさん観てきた。豪雨によって地下水道に水があふれ出し、全身ずぶ濡れのソハの行き着いた先に、突然現れる分厚い鉄格子に思わず心を奪われる。だから見るたびに胸を強く打たれ涙が止まらなくなる。もう一つは、子供に外の空気を吸わせてやるシーン、最後にマンホールから一本の手が伸び光り輝く屋外に引き上げられるシーンなどが挙げたらきりがないほど胸を打つシーンでいっぱい。

主人公ソハがケチな悪党から変化していく設定が秀逸で、地下から、地上の様々な権力関係を通過していく展開。主人公のレオポルド・ソハを演じるロベルト・ヴィェンツキェヴィチの普通さを表現した演技も見事でした。
ユダヤ人をナチスドイツの魔の手から救ったのは、スピルバーグの「シンドラーのリスト」が有名ですが、シンドラーばかりではなかったのですね。この地下水道のような救出の実話は他にも例があるが、下手をすると美談に陥りかねないのだ。
が、そこはホランド女史、この地獄からの救出劇を、単に歴史上の一つのヒューマンな事件としてとらえるのではなく、それを人類普遍の生の問題へと昇華させている。つまり11人のユダヤ人と彼らを支えるポーランド人を、一つの社会として捉え、その中に生の営みを真面目な眼差しで見つめている。生の欲望と死の恐怖をまるごと描き出している。
それに、美術、撮影の見事さは言うまでもないが、つまり被写体のみを見せることに徹して、観客の疑似体験を誘うからなのだ。地下水道という極めて光の当たらない「画」になりにくい場所で、見事な「画」を作り上げた撮影も称賛すべきである。地下水道での息を潜めるユダヤ人が、相手の気配を察知したり、あるいは自分たちの気配を殺したり、ぐっと彼らの体験が身近に感じるのが印象的である。
映画の魅力とはどんなに苦痛な体験を描いても、映画としての甘美さが入り混じることなのだが、とはいえ、強制収容所への潜入とか複雑な状況下での見どころは多い。
2012年劇場鑑賞作品・・・142   映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ
 

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