「アンチクライスト」「ニンフォマニアック」の鬼才ラース・フォン・トリアー監督が、強迫観念に駆られた連続殺人鬼を主人公にした戦慄の問題作。殺人に魅入られた男が語る12年に及ぶ殺人の記録を、6章仕立ての構成で衝撃的に描いた問題作。主演は「ドラッグストア・カウボーイ」「クラッシュ」のマット・ディロン。共演にブルーノ・ガンツ、ユマ・サーマン、ライリー・キーオ。
あらすじ:1970年代の米ワシントン州。建築家を夢みる潔癖症の技師ジャックは、車が故障して立ち往生している高慢な女性に遭遇し、車の修理に手を貸すが、衝動的に彼女を殺してしまう。以来、芸術を創作するかのように殺人に取り憑かれていくジャックだったが…。
<感想>ゾッとするほど、魅力的で自己中心的な殺人鬼の、ジャック。12年間の告白。[異常な《設定》] 建築家志望のシリアルキラー、その12年に及ぶ“殺人の記録”に戦慄── 本作は、美にとらわれた殺人鬼の“5大殺人エピソード”が、彼が「思い出した順」で描かれる。時系列も殺害方法もメチャクチャ、唯一共通するのは主人公ジャックのぶっ飛んだ狂気……。この斬新な構成&設定が、センセーショナルな内容と絡み合っていくのだ。
潔癖症かつ強迫性障害を患う主人公ジャックは、見知らぬ女から恋人まで多くの人間を、次々と殺していくのだ。その間、彼は殺人をアートとみなし手、死体をカメラで撮影するようになり、さらには、“理想の家”と称して湖畔のほとりに家を建築し始める。
マット・ディロンのダークなカリスマ性と不気味な無表情が際立つジャックの凶行は、猟奇的な殺人鬼ではあるが時にシュールに見える。[狂気の《演出》]では、 行くとこまで行っちゃって、殺害シーンは、ありのまま“全部”見せている。 ぼかし、モザイク、あるいは見せない、なんてことは全くありません。
殺人鬼ジャックがターゲットを刺し、切り取り、撃って命を奪うさまが、あっけらかんと当たり前のように描かれるから、見てるこちらは「冗談だろう」な状態。その後は、赤いバンの後ろに乗せて、とある冷凍庫へと保存するのだ。 惨い、残虐シーンも一切隠さずに、全部見せちゃうなんて怖ろしい映画なんだ、と思うかもしれないが、冷凍庫の中の遺体はまるで人形のようだった。
一番酷い殺し方の5番目は、かつてナチスが試そうとしていたという「一発の銃弾で何人殺せるか」という実験の再現。このシーンは、冷凍庫の中で5人の男たちを後ろでに縛り、1本の鉄パイプに首を乗せて、男たちの頭部が見える位置にカメラを装置して、射撃が上手いと自負しているのか、ライフルを固定して、一発で5人の頭部を狙い貫通させる殺し方である。フルメタルジャケットへのこだわり。
このシーンで、ブルーノ・ガンツが登場する。ジャックを導く地獄への案内人を演じている。彼が死に神だと思ってしまった。初めは声だけで、神父に懺悔をしているかのようにもとれたのだが、彼の登場で、なぜかここからは地獄への旅かと思ってしまうからだ。ブルーノ・ガンツの扮するヴァージという名は、実はウェルギリウスのことらしい。天使ではなく、ダンテ「神曲」の中の地獄への案内人とのこと。
ラストで警察が大勢押し寄せて来て、ジャックは射殺されて死んでしまうからだ。地獄へいき、彼は奈落の底を見て、自分はまだ天国へいける望みはあると勘違いをして、絶壁を上り向こう岸の天国への道らしいところを目指すのだが、足を滑らして溶鉱炉の中へと落ちてゆくのだった。
2番目の強迫神経症の描き方。血が残っているイメージが浮かび、何度も家の中に戻る部分は、ちょっとやり過ぎ。3番目が一番惨いシーンかも知れない。沢山のカラスと母子の遺体を見せるカット。よくやるよね。4番目はライリー・キーオで、胸(乳房)を切り取るイメージ。これが、もっと怖い演出かと思っていたが、その切り取った乳房をサイフ代わりにして使用するのだ。乳房はマザコンのけがあるのかもしれない。
[秀逸な《音楽》] デビッド・ボウイの名曲と凄惨シーンの“ギャップ”が強烈である。トリアー監督らしい“いたずら心”が随所に見え隠れし、エグいのにオシャレな世界観を構築。ボブ・ディランのPVのパロディも登場する。
新しいところではグレン・グルードが登場するが、彼もまた変人であり天才として知られている。ピアノ演奏でバッハを披露しているシーンが合間に多く出て来るのだ。
なかでも抜群に効いているのが、デビッド・ボウイの楽曲! 目を覆いたくなるようなシーンとボウイの「フェイム」のコントラストが、強く印象に残る。本編と絶妙にリンクしたエンディングテーマにも注目して欲しい。
[孤高の《監督》] “押さえておくべき名匠”トリアー監督、今回もとてつもなくマッド・ディロンの圧巻のシリアル・キラーぶりが目覚ましいのだった。「ドッグヴィル」「メランコリア」「ニンフォマニアック」……物議を醸す作品を次々に世に放ってきたトリアー監督は、5年経ってもやっぱりスゴかった! 過激度には拍車がかかり、ビジュアルセンスはより磨かれ、終盤には、監督のファンならグッとくるサプライズまでも用意されているのだから。
[衝撃の《演技》] 映画史に残るレベル。名優マット・ディロンの“怪演”はトラウマものですね。 アカデミー賞受賞作「クラッシュ」のマット・ディロンが、これまでのイメージを完全に覆す圧倒的な怪演で、見る者を狂気の淵に引きずり込む!彼の凍り付いたような笑顔と、ゴロゴロと無造作に置かれた死体の山。そのおぞましいほどの存在感は、鑑賞後も脳裏から消えないだろう。
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